裏Welcome外伝 |
ここがワシらの出発地点 |
「思えば、ここから始まったのだ」 |
「──の第一印象?」
そう聞かれて、私は間髪入れずに答えた。
「最初はイヤな奴、二回目は情けない奴、三回目は・・・」
ここで吸気。そして肺に溜め込んだ空気をすべて吐き出す。
「とびっきりイヤな奴だ!!」
私立第二新東京市第壱学園。
昭和初期、現在の第二新東京市の北側に位置する山を丸ごと買収して設立された。
以後「全国に第壱学園を!!」をモットーに次々と設立され、現在二十六の県に
第壱学園が存在する。
そしてゲンドウの通う私立第二新東京市第壱学園は、一番始めに建設された、つ
まり二十六の第壱学園の中でもっとも歴史のある学園であった。
歴史がある、と言ってしまえば聞こえは良いが、実の所校舎がだいぶ古くなって
いたりする。
この歴史ある私立第二新東京市第壱学園は、数ある第壱学園の一つの顔であるの
だが、いくら歴史が有ろうとも年月と雨風に勝てはしない。
特に設立時から使用している現在の高等部校舎は老朽化が激しく、追って建設さ
れた中等部校舎と大学校舎と比べれば、その差は目を覆わんばかりであった。
かくして学園側は、学園の顔となるにふさわしい新しい高等部校舎の建設を決定
した。
今から、半年前の出来事である。
大学校舎の一画、とある助教授室の中で一人の男が机につき、レポートに目を通
していた。
時折聞こえるレポートをめくる音だけが、外界から遮断されたこの部屋で唯一許
された音だった。
男はわき目も振らずにレポートを読み続ける。
ページをめくる仕種と、文字を読んでいるとは思えないほどの速さで動く目。こ
の二つが無ければ、まるで彫刻のようであった。
時間の流れさえも感じさせないほどに静かな、あまりも静かな空間だった。
男が不意に、すっと瞼を閉じる。次いで、ふぅと溜息をついた。
その瞬間に、男が発していた緊張感は霧消した。
時間の介入さえも許さないような厳格な雰囲気は消え去り、そこに残ったのは穏
やかささえ感じさせる、年若い
一人の助教授だけだった。
男は、親指と人差し指で眉間をマッサージする。
スピードを上げて読んだせいで、眼が疲れていたのだ。
何時の間にか机に乗り出してた身体を、椅子にもたれかける。安物のパイプ椅子
は、さび付いた音で微かに抗議の声を上げるが、男の興味をひくには至らなかっ
た。
男はレポートを机の上に置いて立ち上がると、奥の給湯室に入った。
ポットの蓋を開けて熱湯が有る事を確認すると、急須に茶葉を入れ熱湯を注ぐ。
湯気と共に香ばしい匂いが立ち上り、男の顔を優しく包みこんだ。
「失礼しまーす」
ドアのノックと声が同時に、次いでドアの開く音が聞こえた。
声の主である大学生が奥の給湯室の助教授の姿を見つけると、助教授の方もまた
大学生の姿を捕らえた。
助教授は湯呑みをもう一つ取り出し茶を注いだ。
「・・・君か。今し方レポートは読ませてもらったよ」
「で、どうでしたか?結構自信あったんですけど」
「なかなか良かったよ。目の付け所もなかなか良い・・・はい」
「ああ、どうもスミマセン。・・・あちち」
「頼むからこぼさないでくれよ。ここは大切な本やレポートが、
それこそ山積みなんだ」
助教授が苦笑しながら、茶の入って熱くなった湯呑みを学生に手渡す。
この学生が確か猫舌である事を、湯呑みを渡そうとして思い出したのだ。
猫舌の学生も自分の事は良く知っているので、すぐにお茶を飲もうとはしなかっ
た。
「・・・惜しむらくは、目の付け所・・・発想の転換と言った方がいいかな?
せっかく視点を変えているのに、
その先・・・考え方が、従来から抜けきっていないね。
これでは視点を変えても、
結局最後は普通の試験結果と変わらなくなってしまう。
従来どうりに考えるのが悪いとは言わない
・・・が、一度視点を変えてみたんだ。誰も思い付かないようなやり方で、
最後まで試したらどうだろうか?
・・・もちろん、常識から外れた考えばかりしているようでは駄目だけれどね。
そこらへんは難しいが、自分で判断して柔軟に対応して欲しい」
「はぁ・・・」
助教授の言葉に生返事を返しつつ、学生は手渡された自分のレポートを頭から読
み直している。
そんな様子を助教授は苦笑を浮かべて眺め、茶を啜った。
忙しいし、大変な仕事では有るが、彼は自分の職業に誇りと自信を持っていた。
こうやって提出されたレポートには、当たり障りの無いものから思わず読みふけ
ってしまうものまで千差万別、飽きる事が無い。
自分自身、いい刺激になっていると思うし、一人一人学生達の個性が良く見えて
もくる。
自分が教職についているのも、そのあたりが理由なのだろう、と時々思ったりも
する。
始めは深く考えずに学園に残り、研究を続けていたのだ。
教鞭を執るようになったのも、研究を続ける為の仕事の一環と割り切っていた。
それが、今はこう考える事が出来る。
彼は、自分の就いた仕事に喜びを見出せる事を、誰にでもなく心底感謝していた。
助教授がそんな風に和やかな気持ちに浸っていると、大学生がようやく冷めたお
茶を飲みながら話し掛けてきた。
「先生、またスピーカーの電源切っているでしょう?
さっきからこの部屋やたらと静かですモンね。
また連絡聞き逃して嫌み言われますよ」
「・・・ああ、そうだね。すっかり忘れていた」
助教授は学生に言われるまですっかり忘れていた事を思い出した。
彼は読み物をする時は静かな環境を好む。
以前この部屋で読み物をしていた時に、一番いい所で連絡放送が流れて一気に気
勢をそがれてしまった思い出が多々有る。
その後、彼はこの部屋で読み物をする時は必ずスピーカーの電源を切るようにな
った。
彼にとって読書中の時間と言うものは、何者にも侵す事を許さない聖域なのだ。
もっともそのせいで職員間の連絡放送を度々聞き逃がしてしまい、口うるさい教
授から会う度に小言を言われるハメになってしまった。
自業自得なのだが彼にしてみれば読書の邪魔はされたくはないし、どうしたもの
かな、と思案に暮れている所だ。
(まぁ、読み物をする訳ではないし、つけておいても大丈夫だろう)
そんな事を考えながらスピーカーのスイッチを入れ、自分の席に戻る。
学生はまだ自分のレポートを繰り返し繰り返し読み、うんうんと唸っていた。
こういう時、彼は敢えて学生に何も言わない様にしていた。
苦しいからと言ってすぐに手を差し伸べては、その生徒の底力は上がらない。
誰かに良いやり方を教えてもらうのも、効率から言えばいいのだろう。
けれども自分で悩み考えて身につけた物の方が、自らを支える意味での自信とな
る。
彼はそういった物を生徒達に身につけて欲しかった。
無論、手を差し伸べたりもするが、それはあくまで手伝いだけ。
だから彼は生徒の考えを聞き、問題点や疑問点を指摘していくやり方を取った。
一歩間違えば生徒の考えにケチつけるだけになってしまうのだが、彼はその指摘
の仕方にも細心の注意を払った。
なんとかうまく「誉めながらけなす」をやりきっていたのである。
彼自身の温和な人柄も手伝って、生徒達から大きな反感は出なかった。
せいぜいが、生徒達からのぼやきぐらいですんでいた。
まだ生徒に声を掛けるべきではないな、と判断した彼は、湯呑みに残ったさめた
お茶を一気にあおった。
と、同時に安っぽいメロディに重なって連絡放送が室内に流れた。
{冬月先生、冬月先生・・・至急学園長室までお越しください・・・}
「冬月先生、呼んでますけど・・・」
学生がレポートから離した視線の先で、彼ー冬月ーはお茶をあおった姿勢で固ま
っていた。
ただ、湯呑みで隠れてしまった口のあたりから、つーっと顎を伝いお茶が一筋こ
ぼれていた。
「・・・はぁ・・・」
肺の中味をすべて吐き出すような深い溜息を、冬月はゆっくりと吐きだした。
目の前にはシンプルながら、重厚感と存在感を見る者に与える扉が存在している。
そしてその扉には、「理事長室」と書かれた金のプレートが堂々とはりつけられ
ていた。
理事長室の扉を前にした冬月の心境は、十三階段を目前にした死刑囚のそれに近
い。
だがここで突っ立っている訳にもいかず、彼の本音にしたがって鉛の様に重い腕
で、ノックを行った。
「理事長・・・冬月です」
「どうぞ、入って」
冬月はその言葉に従い入室した。
大きな部屋ではなかった。おそらく十二畳ほどであろう。
窓に程近い場所に重厚な机が一つ、部屋の中央に応接用のソファーがテーブルを
挟んで向かい合って置かれていた。
壁際には棚が置かれ、いくつかのトロフィーが飾られている。
この私立第二新東京市第壱学園の規模からすれば、この理事長室の装飾は控えめ
と言えるだろう。
そして室内には六十歳ほど女性が机につき、ドアを開け入室する冬月を見ていた。
「待っていたわ、冬月君。
さっそくだけれど、幾つかお願いしたい事があるの」
にこやかな笑顔でそう言った彼女の名前は碇トキ。
私立第二新東京市第壱学園の理事長であり、碇ユイの祖母である。
小柄で、身長は長身痩躯の冬月の肩ほどまでしかない。
銀髪を後ろでまとめ、グレーのスーツをごく自然に着こなしている。
そのにこやかな笑顔には一点の曇りも無く、まるで春の太陽のような暖かさを見
る者に与える。
何もせず座っているだけでも、周囲にその存在を感じさせずにはいられない魅力
を、その小柄な身体に秘めている。
直に目に触れずとも、肌で彼女の存在を感じ取ってしまうのだ。
けれども強烈な存在感を与えるのではない。
むしろ穏やかな・・・例えるならば、緑したたる春の野山を歩いた時に感じられ
る木と土の匂い、そんな微かで、
穏やかなモノだ。
トキは四年前までは、教職についていた。
だが学園設立者、前理事長である夫が他界すると、教職を退き理事長職に就いた
のだ。
そしてそれが冬月にとって、災難の始まりであった。
教職を退いて理事長に納まったものの、実の所トキは暇を持て余していた。
細かい面倒事は夫の生前からユイの母親とその姉妹がほとんど取り仕切っていて、
仕事と呼べる物は全く無かった。
二十六の学園を持つ理事長といえど、ほとんど名誉職のようなモノだったのだ。
笑い話にもならないが、日に数枚の書類にサインをしてそれで業務終了、などと
いう事もあった。
それも、どうでもいいような書類しか回ってこなかったのである。
教職を退いたとは言えトキはまだ現役バリバリである。初対面の人間は大概彼女
の年齢を10は若く見積もってしまう。頭も呆けるには程遠かったし、体力もま
だ十分あった。
つまり、暇で仕方が無い。
さて、人間ヒマを持て余し始めるとロクな事を考えないモノである。
結果、トキは「面白そうだから」という理由で、数々の行動を起こした。
そのトキのとんでもない思いつきに付きあわされてお守りをさせられるのは、い
つも冬月の役目であった。
冬月はトキの教え子のなかで、ただ一人この学園に残った人物であったからだ。
他の人間は体よく他の学園に逃げ出していた。
結局貧乏くじは、冬月の手に残されたのだ。
(言わなくてはいかん、言わなくてはいかん、言わなくてはいかん!)
おまじないのように、何度も何度も心の中で呟き続ける冬月。
そうでもしないと、とても素面では面と向かってトキに物申す事など出来はしな
い。
「り、理事長!!」
「何かしら、冬月君?」
意を決した冬月の言葉に、背を向けていたトキはくるりと向き直り答えた。
その顔には菩薩のような笑顔が浮かんでいたのだが、冬月にはそこまで気にして
いる余裕は一切なかった。
(ここで断わらなくては、いつまでも手伝わされる!!)
(今言わなくては、今断わらなければ、二度とチャンスはないかも知れない!!)
恐らく冬月の推測は正しい。今ここで断わらなければ、トキはいつまでもいつま
でも冬月をこき使う事だろう。
今までにした所で、トキは何かしら理由をつけては冬月を呼び出して仕事をさせ
ていたのだ。
ここではっきりとイエスと言ってしまえば、それが血の契約書となって冬月を縛
り続けるだろう。
それだけは、何としても避けたかった。
「り、りりり理事長、わ、私は、も、申し上げたい事が有るのです!!」
いささかろれつの回らない裏声で、冬月は声を張り上げた。
身体はガチガチに硬直し、心臓は早鐘のように内側から胸を強打している。
「で、何?」
「も、申し訳ありませんが、
私を新校舎建設プロジェクトから外して欲しいのです!!」
(い、言えた!!)
根こそぎ体力を消耗した気がするが、とにかく冬月は言う事が出来た。
言ってしまえば、疲れてはいるが気は楽だ。反応は恐いが。
トキは黙って考えている。
そして形の良い眉をひそめて、口を開いた。
「困ったわねぇ。
冬月君、あなたがいてくれないと、私はとても困るのだけれど・・・。
ねぇ、冬月君。お願い、手伝ってもらえないかしら?」
「り、理事長・・・。も、申し上げたように、出来れば外して頂き・・・」
「そうだ!冬月君、ちょっとまっててね」
素晴らしい思いつきを閃いた顔で冬月の言葉を遮り、トキは机の引き出しを漁る。
暫くして目的の物を見つけたのか引き出しを閉め、冬月にある物を差し出した。
思わず受け取る冬月。
それは、一枚の写真だった。
「??理事長、なんですかコレは」
「何って、ユイの写真よ。あなただけ特別にこれをあげるわ。
他の人には内緒よ」
「あの、理事長・・・この様なモノを頂いても、
私にプロジェクトを手伝う気は・・・」
「ええっ!!!!」
まるで落雷に打たれたかのように硬直するトキ。ついで、よなよなと崩れ落ちる。
トキにとって、これは取って置きだった。
彼女の可愛い孫の写真をあげるのだ。普段なら誰にも一枚たりとも渡さない秘蔵
の写真を、冬月の重要度を考えて、身を切る思いであげると言ったのだ。
それなのに、ああそれなのに。
「そ、そんな・・・。ユイの写真をあげても手伝ってくれないなんて・・・」
冬月は、打ちのめされたトキを信じられない物を見る目で見ていた。
まさか自分が彼女をKOできるなんて考えてもみなかったのだ。
キツネに化かされた気分で、冬月は逃げるなら今のうちだな、と判断した。
「理事長。では私はこれで失礼させて・・・」
「ふ、ふふふ・・・。
わかったわ、冬月君。あなたの望み、聞いてあげるわ」
「ほ、本当ですか!?」
トキの言葉に、内心小躍りする冬月。
まさか本当に聞いてもらえるとは思っていなかったのだ。
「しょうがないわね、冬月君たらっ。
あなただけ、他の人には絶対内緒よ。
・・・ああ、こんな事になるとは思ってなかったから、
ダビングしたら返してね? ・・・はい」
「・・・はい?」
差し出されたトキの手には、一本のビデオテープ。
いぶかしむ冬月は、声に出した。
「・・・何ですか、コレ?」
「なにって、ユイのマル秘ビデオテープよ。
・・・これが欲しかったんでしょう?」
「ちがいますっ!!
私が欲しいのはこんな物では無く・・・はっ!?」
そこまで言って、ふと気付く。この部屋の温度が急激に下がった事に。
冷気の源は、トキだった。
「・・・こんなモノ、ですって?」
ぱっと見た目、トキの様子は変わっていない。
顔は笑顔のまま、口も穏やかに微笑んでいる。
ただ目が笑っておらず、身体の周りに冷気のオーラを纏っていた。
はっきり言おう、ムチャクチャ恐い。
感じるプレッシャーが並大抵の物では無いのだ。
冬月は思わず数歩退いてしまった。
「いや、その、これは・・・!
り、理事長、私は別に軽く見ている訳ではなく・・・!」
「軽く見てはいないのね。
ではどういう意味かしら?」
「そ、そのですね、写真が欲しくないと言っている訳では・・・!」
「では欲しいのね?」
「は、はい、ください!是非とも私に一枚ください!!」
「ええ、後であげるわ。
・・・で、もう少し詳しく教えてもらえるかしら?」
「そ、それはその・・・!」
逃げ道を片っ端からトキに潰されている冬月。
もはやパニックを起こした頭では他に逃げ道が思いつかず、みずからの命を救う
為に冬月はわらにすがってしまった。
「あ、あの、新校舎建設プロジェクト、是非とも手伝わさせて下さい!!
何でもします!最後までお付き合いさせて頂きます!」
その冬月の言葉を聞いたトキはそれまでの雰囲気を一転させ、いつものトキに戻
っていた。
(ハメられた!!)
はっと気付けばもう遅い。冬月は誓うまいと決めた契約書に、サインをしてしま
ったのだ。
「さあ、冬月君!たくさんのお仕事が、あなたを待っているわよぉ!」
「・・・はい、わかりました」
心で泣きながら、冬月は仕事に取り掛かった。
冬月コウゾウ、溜息の似合う三十五歳の春だった。
「・・・あら?」
理事長室から出て玄関に向かう間にも、数々の話し合いをしていた冬月とトキ。
そのさなか、トキが会話を遮りそんな声を上げた。
何事かと冬月もトキの視線を追う。
そこにいたのは生徒が二人いた。そのうちの片方の、女子生徒は冬月も知ってい
る生徒だった。
名を碇ユイ。現在高等部二年生で十六歳になる、トキの孫だ。
ユイと冬月は、それなりの面識と付き合いがある。
そう長い付き合いと言う訳ではないが、彼はユイを苦手としていた。
なぜならば、ユイは非常にトキと似通った性質を持っているのだ。
なのでユイと面する時、冬月はどこかしら腰の引けた態度をとってしまう。
特に最近、年を追う事にそれが顕著に表れているように思える。
自分の半分も生きていない女子高生に何を脅えているのか解らないが、どうもト
キとユイは冬月に取って天敵と言う以外に表現の仕様が無かった。
それほどまでに相性が悪く感じられるのだ。
そんなびくびくした気持ちでトキとユイと話していると、もう一人の同席者であ
る男子生徒にトキの興味は移った。
会話に入れなかった彼は、トキの問いかけに数瞬反応が遅れたものの見事に立ち
直り言葉を返した。
その立ち直りの速さ、堂々とした態度に冬月は少し感心する。
(ふむ、なかなか見所があるじゃないか)
そう感心したのも束の間、今度は自分に話が戻ってきた。
トキとユイの言葉に脅え、あまり関心を誘わないよう自分の言葉にも細心の注意
を払う。
だが、なかなか終わりそうに無い。
(なんとか、二人の関心を逸らさねば・・・!)
ふとそう思い、頭を巡らせる事一瞬。
・・・目の前にいた。自分を見ている、取りたて新鮮の新たな生け贄が。
そうと決めたら即実行。
「六分儀君と言ったね・・・どうして夏服のズボンなんかはいているんだい?」
ひきっ、とゲンドウの片眉と片頬が引きつったのが、冬月には解った。
内心で聞こうかどうか迷っていたのだが、冬月にはその答えよりゲンドウの表情
の変化の方が面白かった。
「・・・え、ええ、ちょっと冬服のズボンを破いてしまいまして・・・。
いま補修してもらっているんですよ」
「じきに五月とは言え、寒くはないのかい?
ここのところ肌寒い日が続いているし、大変だろう」
「・・・ええ、寒いですよ。
でもまぁ、しょうがないですから」
(ふむ、意外に間抜けなんだな)
内心で一人そうごちる冬月。
「あ、そうだ。六分儀君、こちら冬月先生。
大学の助教授をしていらっしゃるの」
「大学の助教授?
それがまたどうして、高等部にいるんですか?」
今度は穏やかな笑みを浮かべていた冬月の片頬が、くっ、と引きつった。
まさかカウンターが返ってくるとは思わなかった為に、ガードが遅れて顔に出て
しまった。
(こ、こいつ・・・!!)
「ちょ、ちょっと理事長に呼ばれたものでね。
こうしてお手伝いしている訳さ」
「そうですか・・・大変ですね。大学部と高等部の掛け持ちとは」
「そ、そうだねぇ」
冬月はゲンドウを睨む。
と、ゲンドウの目が笑っている事に気付いた。
(こ、こいつ、楽しんでいるな!?)
そう気付いた時、冬月は己の眉が引きつっているのを自覚したが、あえてそれを
隠そうとはしなかった。
ゲンドウと冬月の間で激しく火花が散った。
「・・・冬月君、そろそろ行きましょう。間に合わなくなってしまうわ。
ユイ、あなたもあまりのんびりとしていられないんでしょう?」
面白い事に飢えているトキは、そんな二人の睨み合いが楽しくてしょうがなかっ
た。特に、普段澄ました顔の冬月がここまで感情をあらわにする事は珍しいのだ。
本心はもっと眺めていたいのだが、あいにくと時間がそれを許してくれそうに無
い。
「面白い事」の為ならある程度の代償は払うが、さすがに理事長の責務を投げ出
す訳にはいかないのだ。
その点、トキは公人としてのけじめを持っていた。
トキにそう言われては冬月としてはさがるほか無く指示に従う。
腕時計に目を向けると、確かに新校舎工事現場の視察の待ち合わせに遅れてしま
いかねない時刻だった。
「ああ、もうこんな時間だ!理事長急ぎましょう。
・・・ユイ君、六分儀君、失礼」
「はい、冬月先生も気をつけて。
お祖母さまをよろしくお願いします」
「ユーイ、私を何だと思っているの?」
「お祖母さまが冬月先生にご迷惑ばかりお掛けするからです」
「・・・」
トキがユイにぴしゃりと抑えつけられた様子を、冬月は内心で苦笑する。
むろん、表情には出さない。トキに感づかれたら只では済まないだろうから。
呆然とするトキの背中を押しながら、冬月は玄関に続く階段まで歩く。
そして、角に差し掛かろうかという所で、デビルイヤーを凌駕する冬月の耳は捕
らえてしまった。
「・・・何と言うか、あれじゃほとんど、理事長の小間使いだな」
歯をむき出しにし、額に青筋を浮かべた冬月の心情、おしてはかるべし。
冬月の本能ははこの時、ゲンドウのことを不倶戴天の存在として察知した。
理性がそこに至るには、まだしばらくの時間を必要としたが。
「理事長、理事長!!」
「しっ!!冬月君、静かに!!」
たしなめようとする冬月の言葉を遮り、トキは建物の影から息を潜めてある一点
を見詰めていた。
その視線の先には、自分の孫娘のユイ、それからユイのクラスメイトのヒナとい
う女子生徒に、朝出会った六分儀ゲンドウという男子生徒が一人。
「天気がいいから、屋上でお昼にしましょう」
というトキの言葉に従い屋上に連れ出された冬月であったが、そこにはユイとゲ
ンドウとヒナがいたのだ。
そして野次馬根性を出したトキが、こうして建物の影から三人の様子を覗いてい
る訳である。
はっきり言って二十六の学園の総理事長のやる事ではない。
「理事長、やめましょうって。こんな事」
「いいえ、駄目よ冬月君!!私には祖母として、ユイの交友関係を知る権利
・・・じゃなかった義務が有るのよ!」
「義務って何ですか!?交友関係にまであまり口出ししちゃいけませんよ」
「さっき彼はもう一人の子からお弁当受け取っていたのよ!!
二股かけるような、ろくでなしなのよ!!
それとも冬月君はユイが悪い男にだまされても良いって言うの!?
知らなかったわ、冬月君がそんなろくでなしの穀潰しの冷血漢だなんて!!」
いささかオーバーアクションを交えながら、冬月の言葉に表情を凍らせ悲嘆に暮
れるトキ。
ヒナが強奪した弁当をゲンドウに返す場面が、トキには妄想も手伝ってゲンドウ
の人となりをそう見せたようである。
落ち着き払った普段からは想像も出来ない、どう贔屓目にみても極度の孫バカと
しか言いようがないトキの様子に冬月はただ呆然としていた。
それでもなんだかんだ言いながらも冬月がトキのそばを離れ無いのは、この孫バ
カを他の教師に知られたくない為である。
私立第二新東京市第壱学園の教師達の抱いている、教育者の鑑のようなトキに対
するイメージを打ち砕く訳にはいかなかった。
なにか自分一人が、とんでもない物ばかり背負わされている気が、もはや冬月は
何事も深く考えない様にしている。
きっと深く考えたらますます神経性胃炎が悪化するだけ、だろう。
「それに理事長、彼が悪い人物だと決まった訳では・・・」
まだ悲嘆に暮れるトキにそこまで話し掛け、冬月は今朝の事を思いだした。
あの全くもって不愉快な出逢いを。
決して触れられたくない話題を嬉々として口にするゲンドウの顔を。
無論、自分が先にゲンドウの痛い所をつっついたとはこれっぽっちも思ってはい
ない。
「・・・取り敢えず監視しておきますか」
「そうしましょうそうしましょう」
かくして二人はそれぞれの立場からは考えられないような行動を起こしている訳
である。
「あら、今度は何かしら?」
トキが声を上げたのは、ヒナとユイがゲンドウに詰め寄っている所であった。
遠くから眺めていた冬月の感想は羨ましい、ではなく情けないなぁである。
ゲンドウがヒナとユイに翻弄されているようにしか見えないのだ。
もっとも普段澄ました顔のゲンドウが慌てる様は、してやられた冬月にとって愉
快以外の何物でもないが。
ただ不幸な事に、ここにはそう思わない孫バカが約一名。
「何か、あったようですね。しかし・・・この距離だと良く分かりませんな」
「何かしら、気になる・・・
・・・はっ、まさか!?三角関係のもつれでも修羅場じゃないかしら!?
三人の愛憎入り混じったドロドロの泥沼での修羅場!!
・・・ああ、ユイ、騙されてる、騙されてるわ!!!」
(誰が!??)
ひややかな突っ込みを内心で入れる冬月。声には出さない。
・・・恐いから。
(今日はサキ君に水をやって、それから葉を切って形を整えよう・・・)
すでにこの頃から盆栽に名前を付けて愛でている冬月。
週刊誌やワイドショーのトップを飾りそうな文句を謳いつつ、思考が暴走しエス
カレートしていくトキ。
さすがにゲンドウにごく個人的な感情を持つ冬月も、そこまではついていけなか
った。
現実逃避から帰ってきた冬月は、腰の引けた体勢で控えめにトキに声を掛ける。
「り、りじちょーーー、いくらなんでもそこまでは・・・」
「ーーーええい、今、行くわユイ!!
その不届き者を、きゅっとこう締めて新校舎の人柱に・・・」
「わーわーわー!!理事長、落ち着いて下さい!!
何をやろうとしているんですか!!」
「何って不届き者に天誅をくらわしてやるのよ!!邪魔しないで!!
・・・はっ、まさか!?冬月君、あなた彼の味方なのね!?この裏切り者!!
こうなったらあなたが先よ!!覚悟なさい!!」
「りじちょぉぉぉぉぉぉ!!なんでそうなるんですか!?
少しは人の話をって・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
澄み渡った晴天のもと、冬月の悲鳴が半径五キロ範囲にこだましたという。
合掌。
「理事長、ここですか?」
「ユイ、ここで正解よね?」
「はい」
午後八時を幾分過ぎた頃。
冬月、トキ、ユイの三人は、ゲンドウの働く居酒屋の前に立っていた。
何故三人がここにいるのか。
始まりは、助教授室の内線電話にかかってきた一本の電話だった。
「もしもし、冬月君?ちょっと小耳に挟んだ事なんだけど・・・。
六分儀君・・・憶えてる?朝会った彼。
実は彼、アルバイトしているそうなんだけど、見に行ってみない?」
「何ですって!?」
そう聞いて冬月は思わず声を荒げ、柄にも無くニヤリ、と唇を歪めた。
もちろん冬月は、ゲンドウの事を忘れてなどいない。
私立第二新東京市第壱学園の学則ではアルバイトは禁止されてはいない。
しかし、目的地と時間を考えれば、充分学則の許す範囲を逸脱している可能性が
高い。
学則に触れている生徒を見に行く・・・すなわちそれは、ゲンドウに何かしらの
処罰を与えると言う事ではないのか!?
そう思い、知らず知らずのうちに唇が笑みを形作っていたのだ。
「・・・冬月君、冬月君・・・!!」
「え、あ、はい!」
「冬月君聞いてる?いくの、いかないの?」
「あ、はい、行きます!もちろんご一緒させていただきます!」
「じゃ、支度が済んだら理事長室まで来てね」
そう言って、トキは電話を切った。
受話器を戻すと、冬月は普段の彼からは想像もつかないようなハツラツとした動
作で、スキップをまじえつつ更衣室に向かった。
冬月は期待に胸膨らませていた。
自分をコケにした、あの虫の好かないゲンドウを処分する場に立ち会えるのだ。
ゲンドウは、一体どんな顔をするのだろう!?
そう思うと自然に緩む頬をおさえもせずに、冬月は更衣室までをスキップで急ぐ。
途中数人の生徒と教師に出会うのだが、冬月の目には彼らは入っていない。
この時「スキップする冬月」を目撃した者たちによって、後日さまざまな噂やデ
マが飛び交うのだが、冬月がそれを知るのは当分先の事である。
さて、文字どうり小躍りする心地で冬月は準備を整え、そこにトキとユイが加わ
りゲンドウの働く居酒屋の前で立っている、という経緯なのだ。
「結構にぎわってますね」
「ほんと、ずいぶんなお客の入りで・・・。
ま、ここで突っ立っていてもしょうがないし、入りましょう」
トキの言葉に従い、三人は暖簾をくぐり店内へと入る。
それと同時に、歓迎しているのか判断のしにくい大声が飛んでくる。
「ヘイ、らっしゃい!!」
「っらっしゃーい!!」
「何名様で!?」
「三人です」
「カウンターへどうぞー!!」
トキと店員の反応を聞き流しつつ、冬月はゲンドウを探す・・・いた。
板場に立ち、忙しそうに包丁を振るっていた。調理に集中しているようで、来客
があったにもかかわらずこちらを一瞥すらしていない。
(おのれ、店員のクセに客を歓迎しないとは。けしからん奴だ)
(・・・まぁいい)
(どうせあのすました顔が、すぐにでも絶望に彩られるのだからな)
ゲンドウの顔が絶望に染まるのを想像し、一人内心で気を取り直しカウンターに
つく冬月。
一方でトキは冬月に構わずさっさとカウンターに座っており、ゲンドウに話し掛
けていた。
「こんばんわ、六分儀君」
「り、理事長!?」
始めに驚き、そして時間の経過と共にゲンドウの混乱の度合いが進展するのが手
に取るように解る。
そのゲンドウの慌て驚く様は、冬月を大いに満足させるモノだった。
(ああ、これだ!私はこれを見たかったのだ!!)
だがこれはオードブルでしかない。まだメインディッシュが残っているのだ。
そんな幸福感を冬月は噛み締めていたのだが、彼の幸福は長くは続かなかった。
「六分儀君、この間ユイに作ってくれた料理をお願いできるかしら」
「「・・・へ???」」
この言葉に対して、ゲンドウと冬月の反応は見事なまでにシンクロしていた。
もっともその事を指摘すれば、ゲンドウはともかく冬月はむきになって全面的に
否定しただろうが。
(なにぃぃぃぃぃ!理事長は何を言っているんだ!!)
「り、理事長!!か、彼を処分しないのですか!?
(その為に来たのではないか!?)」
「あら?どうして?ウチの学則じゃ、アルバイトは禁止してないわよ」
「学園の認める健全な』という但し書きが付記されているはずです!
それをよりにもよって、水商売とは!!」
(だから、停学ないしは退学の処分を!!)
「まぁあ、水商売ってのも大袈裟ね。飲食店じゃない」
「ファーストフードやファミレスとは訳が違います!」
(そう、違う!全然違う!!だから、処分を!)
「別に構わないでしょう?彼が飲酒してるんでもないし・・」
(そんなモン分かったコトかぁ〜!!)
「もう、冬月君ったら。そんなんじゃ、モテないわよ〜」
「りじちょうおぉぉぉぉぉぉぉl!!」
(おおおおおぉぉぉぉ!!)
まず両腕で頭を抱える。
そして顎を突き上げる形で背中をエビぞらせる。
この時、視線は左斜め四十五度だ。
仕上げに絶叫。
これがその時冬月に出来る事の全てだった。
線画で書かれた絵の様に、冬月は真っ白に燃え尽きた。
あしたのジョーに匹敵する白さの中で、冬月はある事を思い出していた。
(・・・そうだ。理事長は、美味い物に目が無かったんだ・・・)
食いしん坊なトキは、ただゲンドウの料理を食べに来ただけなのだ。
この後、明くる日の朝まで冬月の記憶は完全に欠如する。
記憶が無くなるなどと言う経験の無い冬月は、不安でその事を聞き出す勇気がな
かなか持てなかった。
そして勇気を振り絞ってトキに聞いた結果、知っているのはゲンドウだけだとい
う。
またここで散々迷ったが、ついに冬月はゲンドウに対面した。
「や、やぁ六分儀君。昨日はすまなかったね」
「・・・これはこれは冬月先生。お元気そうでなによりです」
「は、は、それはどうも」
ゲンドウのいんぎんさが癇に障るが、ぐっとこらえる冬月。
そういう意味で彼は大人だった。
「そ、それでだね、六分儀君。昨日の事なんだが・・・」
「ああ!昨日の事ですか」
わざとらしく大きな声をあげるゲンドウ。
冬月は左の眉がぴくぴく引きつっているのだが、ここが肝心要、堪忍袋の尾を締
める。
「き、昨日はすっかり迷惑を掛けてしまったね」
「ええ、まったくもう驚きましたよ。
まさか冬月先生があんな事をするなんて、ホント想いもしませんでした」
「あ、あんな事!?」
「ええ。・・・おや、まさか憶えていらっしゃらないんですか?」
ゲンドウ、これまたわざとらしく溜息。
続きが気になる冬月は、青筋浮かべながら我慢している。
「・・・ふぅ。そうですね、憶えていない、知らない方が幸せな事って、
世の中にはありますからね。
私の胸の中に閉まっておきます。ご安心下さい、誰にも喋ったりしませんよ」
(イヤな奴だ!!)
わざとゲンドウは続きが気になる言い方をしながら、その一方で話を一方的に終
わらせた。
冬月としてはゲンドウが黙っていると言った為、改めて聞き直す訳にもいかない。
相手の鼻先にニンジンをぶら下げて、さんざん焦らしておきながらそのニンジン
を取り上げたような物だ。
実のところ、ゲンドウがもったいつけるような事はまったくなかった。
あると言えばあるが、せいぜい酔っ払った冬月が戻した挙げ句に生ゴミのバケツ
をひっくり返してゴミの山に頭から突っ込んだ程度である。
ならば何故、ゲンドウがこんな事をわざわざするのか。
答えは単純にして明快、「面白そうだから」である。
左眉の引きつり、右頬の痙攣と、我慢の限界が顔にまで出ている冬月。
楽しそうに浸っているゲンドウは冬月の顔を見ていない。見ていれば、さすがの
ゲンドウも迫力に一歩引いたかもしれない。
それほどの迫力があった。
「そ、れ、は、す、ま、な、い、ねぇ」
「いえいえ、お気になさらずに。
・・・でも、冬月先生が実はあんなだとは。
ホント、事実は小説より奇なり、ですな。
はーっはっはっはっ!!」
そのゲンドウのセリフは、冬月の中のプラスチックケースに覆われた赤いボタン
を押した。
ぶち。
「はて、なにか切れる音が聞こえたような・・・ゲッ!!」
逆切れして物理的手段で口を封じに来た冬月。
こんな事もあろうかとひそかに練習していた鉄砂掌が、ゲンドウの喉笛に炸裂し
た。
だが敵もさる者、とっさに身をひねり直撃は避けた。
「ちぃっ!!」
小さな声で舌打つ冬月。
けれどもその腕は既に第二撃の準備に移っている。
「ええいっ、この口か!?この口がふざけた事を抜かすんか!?
今すぐ何もほざけん様にしたる!!」
「ぐおっ、冬月先生何を!?血迷ったか!?」
「やかましいわっ!!おんどれさえおらなんだら事実は闇に葬られるんや!!
ワシの為に死ねい!!!」
「死んでたまるかぁぁぁぁぁぁ!!」
猫の喧嘩の様にもつれ合っていた二人は、離れて間合いを取る。
もはや二人に必要なのは、言葉ではなく拳だった。
「「いざ尋常に!!」」
「因果!!」
「螺旋!!」
十分後、もつれ合い絡まり、双方気絶した状態で二人は発見された。
このあと七十五日に渡って二人の怪しい関係がまことしやかに噂されるのだが、
それはまた別の話。
まだまだ、これはほんの序盤に過ぎない。
そう、ここが彼らの出発地点なのだから。
果てしなき泥沼の。
おまけ
「彼の事・・・気になる?」
「・・・はい」
その時のユイの穏やかで物静かな笑顔は、トキでさえ始めてみるモノだった。
その頬を染めたユイの笑顔を見て、トキは奈落の底に落ちるような喪失感を感じ
る。
丁度逆光になってトキの顔はユイに見えてないが、見えていたのならさすがのユ
イも驚いただろう。
(駄目だわ、いけないわ、騙されてるわ!!)
(あんなろくでなしにうちの可愛い孫娘をわたせるものですか!!)
ここでも一つの始まりがあるのだが・・・それを語るのは又の機会にさせて頂く。
月刊オヤヂニスト(ではない)
ヒナ「ゲンちゃんめ・・・・私の知らないところでユイと会ってるなんて・・・・しかも理事長にまでちゃっかり顔つなぎして・・・・・さすがしたたかな・・・・」
ユイ「あら、あの人はそんな器用じゃありませんよ」
ヒナ「そう思う? 私はゲンちゃんはうまく立ち回っているように見えるんだけどな〜」
ユイ「だいたいの人に対してはそうかもしれませんけどね。でもあの人のかわいいところは、一部の人間を相手にすると途端に不器用な生き方をするんですよ。それはもう、おもちゃにしてちくちくいぢめたいくらいに」
ヒナ「ああ、あの冬月先生とか言うヂジイ相手の時とかでしょ。わかるわかる。あのヂジイなんとなく相手しにくそうだし」」
ユイ「まあ、だれにでも天敵っていうのは存在するから(ぢいいい)」
ヒナ「ん? 私の顔に何か付いてる?」
ユイ「・・・いえ。なんでもないわ。知らないっていうのは良い事ね」
ヒナ「うーん・・・・・」
ユイ「それはそうと、うちのシンジがマナちゃんにずいぶんかわいがってもらっているみたいね」
ヒナ「そうそう、それそれ! なんかシンジ君って昔のゲンちゃんを見ているみたいで、かわいいのよね〜。マナもそのあたりを分かっているのか、ちょこまかちょこまかつきまとって・・・・」
ユイ「さすがにマナちゃんはシンちゃんをいぢめてはいないみたいだけどね」
ヒナ「ん? なんか言った?」
ユイ「いえ、なんでもありません(にこっ)」
ヒナ「そうそう、そろそろあっちでおもしろいことが始まるから、ちょっと行って来るわね〜(ぱたぱた)」
ユイ「・・・・おもしろいこと?」
ゲンドウ「があああああ! こうなったら実力行使あるのみ!」
冬月 「うどあぁぁだぁぁ! 貴、貴様何をする!」
ゲンドウ「うるさい! そのテープレコーダーを破壊しておのれを葬れば、私は高校に安泰でいられる!」
冬月 「教師一人消して安泰も何もあるか!」
ゲンドウ「うるさい、世界は私のために回っているからいいのだ!」
冬月 「そんな理由があるか〜!」
ユイ 「あらあらまあまあ、あの人ったらまた冬月先生と喧嘩なんか始めちゃって・・・・・なるほど、霧島さんの言っていたおもしろい事って、このことね。どれどれ・・・・」
彼女について向こうに行ってみよう。
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