シンジが夏休みの成果を試されるプールサイドに立ったのは、
他の補習組の生徒たちがテストを終了してしまった後だった。

「ようやくの登場だな、シンジ君」

いつもの男臭い笑みを浮かべる加持に謝ってから、シンジは準備運動を始めた。
緊張で心臓が爆発しそうだった。

(大丈夫、アレだけ特訓したんだから)
(ボクはアスカとレイの地獄の特訓に耐えたんだから)

そう自分に言い聞かせていると、あの封印された記憶までもが甦り、
シンジは気分が悪くなってしまった。
慌てて悪夢の記憶を振り捨て、気を取り直す。

(もう、ボクは泳げるんだ・・・・沈んだり・・しない・・ハズ・・・・)
(だから・・・・その、・・・・逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃ・・・・ )

シンジは顔を伏せ、大きく息を吸い込む。
それからゆっくり顔を上げ、キッと瞼を開く。

(そう、逃げちゃダメだ!)

そして、加持に促される前に自分からスタート台に上がる。
そこでもう一度深呼吸をすると、加持を振り返って宣言する。

「行きます」

そう言葉を残すと、シンジは大きな水飛沫を上げて飛び込んだ。





「わっちゃ〜!!」
「アレは痛い・・・・」
「失敗だったわね。スタートまで手が回らなかったワ」
「ゴメンね、シンちゃん」
「ほんでも、何とか進んどるで」
「必死に水と格闘する君の姿は・・・・好意に値するヨ」

シンジがスタートした後、いつもの面々が何処からともなく、
わらわらとプールサイドに現れた。

「おや? どうしたんだい、君たち」
「シンちゃんの応援です」

加持の質問にレイが即答した。
ソレを補足するようにアスカが続ける。

「でも、あのバカ。アタシ達が見てるって知ったら、
 緊張して実力の半分も出せないに決まったるんだモノ」
「だから、今まで隠れてたんです」

そんな場外での喧噪など知る由もなく、シンジは必死に泳ぎ続けていた。
必死に泳ぎながらも心の片隅で考える。

(ボクは・・・・変わったな)

依然だったら、諦めていた。

『人は浮くように出来てないんだ!』

そう言って、諦めていたハズ・・・・。
苦しいコトから逃げ出して。
逃げ出した自分がイヤで、苦しくて。

(でも・・・・今は違う)
(ああ、やっと半分・・・・。ガンバんなきゃ・・・・)


「テストに落ちたら、もう一回特訓よ!」

そんなアスカの声が聴こえたような気がする。

「シンちゃん、ファイト!」

そんなレイの声が聴こえたような気がする。

「シンジ君、あと10m!」

そんなマナの声が聴こえたような気がする。





(あ、あと10m・・・・なんで、まだそんなにあるの?)

プールのラインがチラリと視界に入った。
いい加減息が上がり掛けているシンジだった。
しかし、少女達の笑顔がシンジの脳裏に浮かんだ。
彼女たちの思いに応えなければ。

(あと10mじゃない。たった10mなんだ)
(あとたった5分の2じゃないか)
(夏中ボクを苦しめた水泳の補習から、もうすぐ解放されるんだ!)
(あと少し・・・・あと少し。ガンバれ・・・・ガンバれ・・・・)


固唾を飲んで見守っていたアスカ達は身を乗り出した。

「いい? シンジ」とアスカ。
「あと、5」とレイ。
「4」とマナ。
「3」とアスカ。
「2」とマナ。
「1」とレイ。

「「「ゼロォ!!」」」





「ぷはァ〜!!」

ゴールに手が届いた瞬間、シンジは水面から顔を上げ、大きく息を吐いた。

(やった! やった!! できた、泳ぎ抜いた! ボクはやったんだ!!)

嬉しさがこみ上げてくる。
顎の辺りで右のコブシを握り締める。
と、その時、一斉に拍手が沸き起こった。

シンジが驚いてプールサイドを見上げると、
ニコニコ笑っているアスカ達の顔があった。

「あ、アレェ〜? みんな、どうしたの?」
「決まってるじゃない! アンタがドジ踏まないか見物に来たのヨ」
「あぁ〜あ。アスカったらテレちゃって」
「シンちゃん、ホントはアスカ・・・・」
「キャー! キャー!! キャー!!」
「ちょ、アスカったら。超音波発するのやめてよネ」
「な、何よ。その言い方ァ。だ、だいたいアンタが・・・・」
「あぁ、何よソレェ〜。それ言うんだったら、マナだって・・・・」
「ちょっと、レイ。なんでアタシに振るの?」
「だって、そうじゃない」

突然降って沸いた様な喧噪に、シンジはポカ〜ンとしていたが、
やがてクスクスと笑い出した。

「何笑ってんのヨ? シンジ」
「シンちゃん?」
「大丈夫? シンジ君」

シンジは3人にそう声をかけられると、たまらずに吹き出してしまった。
シンジの笑い声は抜けるような青空の下、いつまでも響き続けた。。





[to be continued]




みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


聡い方々のコメント

ユイ 「あらあら、あの人と冬月先生、あんなところで騒いでるわね〜」

ヒナ 「ま、あっちはおいておいて、こっちはこっちで話進めましょ」

カヲル「あの二人にあちらへの招待状を送ったのは・・・・もしかして・・・・う゛」

ユイ 「あら、カヲル君何か言いまして?」

カヲル「い、いえ・・・・何も・・・・(その笑顔は怖すぎる・・・)」

ユイ 「しかしシンジったら、がんばればできるじゃないの〜さすがは私の子供よね〜」

ヒナ 「でもゲンちゃんの子供でもあるんですものね〜マナにからかわれるあたりが」

ユイ 「大丈夫、あなたの子供じゃありませんからね〜シンジは」

ヒナ 「あら、マナはああ見えてもスポーツ万能ですのよ」

ユイ 「ええそりゃもう。でもシンジだって」

ヒナ 「あらあら、そういうことおっしゃいます?」

ユイ 「ええ、なにか?(にっこり)」

ヒナ 「いえいえ、一度あなたとはじっっっっっくりとお話ししたいと思っていましたから」

ユイ 「それはちょうどいいですわね。あの人もあっちにいることだし」

ヒナ 「邪魔者の入らない今がチャンスですわね」

カヲル「・・・・・怖い・・・・怖すぎる・・・・」


もう一回進む先を選択しようかな〜
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