セカンドインパクト以前、海上自衛隊は護衛隊群(昔流に言うと艦隊)を4つ持っていた。
一個護衛隊は旗艦であるDDH(ヘリコプター護衛艦)と三個護衛隊から成り、兵力はDDH1、DDG(ミサイル護衛艦)2、DD(汎用護衛艦)5、計8隻。これに艦載機のヘリ8機(DDHが3機、DDが1機ずつ)が附属するので八八艦隊、という訳だ。
そして、第一護衛隊群が横須賀、第二護衛隊群が佐世保、第三護衛隊群が舞鶴、第四護衛隊群が呉を母港としていた。第一護衛隊群は「PRの一群」、第二護衛隊群は「訓練の二群」、第三護衛隊群は「書類の三群」、第四護衛隊群は「修理の四群」と呼ばれていたという。この四護衛隊群とその附属部隊を総称して護衛艦隊といった。海上自衛隊の機動戦力であり、昔の連合艦隊のようなものだ。
この他に横須賀、佐世保、呉、舞鶴、大湊の各地方隊、潜水艦隊、掃海部隊などを加えたものを自衛艦隊と呼んでいた。
そしてセカンドインパクト後、災害そのもので戦力を大きく失い、続く世界情勢と人口減少から量的兵力拡充も望めなくなった海上自衛隊は、その姿を大きく変貌させる事となった。
横須賀消滅に伴い、護衛艦隊司令部は呉に移転した。護衛隊群は三個態勢となり、第一護衛隊群が呉、第二護衛隊群が佐世保、第三護衛隊群が舞鶴に配備される事となった。横須賀地方隊は当面解隊とされ、かわりに浜松(浜松湖が完全に海と繋がってしまい、新しい基幹港湾として整備されていた)に地方隊が新設された。後に新横須賀軍港が小田原に整備されると横須賀地方隊は復活したが、半ば国連軍の管轄下にあるここには海自はあまり大きな兵力は置かない方針にしている。
セカンドインパクト以後しばらく、海自は残存艦艇の整備改装と装備のアップデートで戦力維持を図っていた。しかしそれにも限度がある、ということで第一次自衛隊再編計画において戦力の合理化が行われる事となり、久しぶりの艦艇新造がプロジェクトとして行われる事になった。
ここで計画されたのは、「きり」「あめ」級に替わる新型汎用護衛艦と海自初の空母だった。新型DD「ゆうなみ」級はまず5隻が建造された。航空護衛艦「ずいかく」級は排水量18000トンのいわゆる軽空母であり、2隻が建造され第一、第二護衛隊群に配備された。日本海を守備範囲とする第三護衛隊群は地上基地の支援を受けられる為空母は不要、という理由からだったが、これは予算不足と載せる航空隊の不足、そして第三護衛隊群そのものが半ば第二線兵力として認識されていた事が大きい。
これが一段落したところで立案された第二次再編計画では、オーシャンネイヴィとしての海上自衛隊、という方向性が強調される事となった。改「ゆうなみ」級である「あやなみ」級DDが5隻建造され、これで主力の第一、第二護衛隊群のDDは全てセカンドインパクト後に建造された新世代艦に代替される事となった。また、艦隊防空力の強化策として「こんごう」級イージスDDGのアップデート及び「かぜ」級DDGの代艦建造が行われ、いわゆるアーセナルシップの小型簡易化版と言える新型DDG「あまつかぜ」級三隻が就役した。そして最大の目玉は、新生海自の象徴としての「正規空母」、そして「戦艦」の建造だった。
「ひりゅう」級航空護衛艦は、フルガスタービン艦としては世界初の正規空母となった。排水量48000トン、艦載機は約50機だから合衆国海軍の正規空母群とは能力的にもサイズ的にも大体半分といった所だ。ただしステルス艦型の採用、高度な電子装備、電磁カタパルトの装備などさまざまな新機軸を組み込んだ新時代の空母であり、海自のドクトリンからすれば非常に有力な戦力と言えた。「ひりゅう」級はネームシップである「ひりゅう」が既に就役して第一護衛隊群に配備されており、二番艦「そうりゅう」は第二護衛隊群への配備が予定されている。
そしてもう一つの目玉が打撃護衛艦「やまと」だ。一隻のみ建造され、護衛艦隊旗艦として海自の全機動戦力を率いるべく建造された「やまと」は、まさに新時代の海自のシンボルと言えるだろう。
以上が、セカンドインパクト後の海上自衛隊の基本的認識と言っていい。
しかし、「やまと」就役直後より、この編成は大きく改変される事となった。
簡単に言えば、海自はその持てる戦力のほとんどを第一護衛隊群に集中させる事にしたのだった。「なみ」級DDはそのすべてが第一護衛隊群に移管されたし、「こんごう」級DDGも3隻とも配備された(二番艦「きりしま」はセカンドインパクト時の災害で大破し、解体されている)。「ずいかく」級CVLも、そして新鋭の「ひりゅう」級CVも配属され、その結果鳥海率いる第一護衛隊群は9個護衛隊、22隻を数える大所帯になっていた。
これほどの艦船が一カ所に集まるのは観艦式か総合演習の時だけであり、まして恒常的な編成として一堂に会するのは海自の歴史始まって以来だと言えるだろう。
潜水艦「うずしお」艦長、宗谷タダシゲ二佐は潜望鏡を一回転させると収納レバーを引いた。その間一秒に満たない。潜望鏡を長々と上げているような馬鹿にサブマリナーを名乗る資格など無い。まして、彼が預かっているのは世界最強の通常動力潜なのだ。
「どうでした」
副長の天城ミキ一尉が、プロットボードから目を離す事無く声だけ彼に向けた。女で潜水艦の副長をやっているのは海自でも彼女だけだ。この副長を押しつけられたとき最初は迷惑に思ったものだが、最近ではかえってありがたいことだと思うようになっている。それほど有能だし、何より彼女は潜水艦を愛している。これが大きい、と宗谷は思う。好きでなければやってられない、という面がこの兵器にはある。
「凄いよ。大した眺めだ」
宗谷はモニターのスイッチを入れた。潜望鏡に取り付けられている録画装置の再生が始まり、先ほど彼が覗いていた光景が映し出される。
天城ははじめてボードから目を離し、モニターを覗き込んだ。
「うわぁ・・・大艦隊ですね」
「ああ、大艦隊だな」
そこに映っていたのは、旗艦「やまと」を先頭に高速で驀進する第一護衛隊群の姿だった。古風に言うならば戦艦1、空母1、軽空母2、巡洋艦4、駆逐艦14。真珠湾を襲った南雲機動部隊とはいかないが、一個航空艦隊と言えるだけの戦力だ。
考えてみれば妙な話だよな、と宗谷は思った。
彼が幹部学校を卒業して三尉に任官した頃、海自は空母も戦艦も持っていなかった。それがセカンドインパクトでひどい目にあい、その後の再建でかえって強力な海軍・・・そう言ったらまずいのならネイヴィにしておくが・・・になってしまった。今や海上自衛隊は世界有数の規模と戦力を有するバランスの取れた海上戦力となっている。
もの想いにふけっている宗谷の意識を引き戻したのは、音探室からの連絡だった。
「ソナー室より艦橋」
一瞬で高声電話を掴む。
「艦長だ。どうした」
「右舷72度に潜水艦。688級、恐らく「サンフランシスコ」。深度300、速力12ノット、進路320度」
「諒解した」
彼は受話器をフックに掛けると、即座に指示を下した。
「戦闘配置」
「戦闘配置」
天城が復唱、その直後から彼女のもとに各部署の配置完了の連絡が流れ込む。42秒後、「うずしお」は臨戦態勢に入っていた。
素人が考えると妙な話かも知れない。合衆国は同盟国であり、その潜水艦が近くにいるからと言って戦闘配置とは何事か、と。しかし特に潜水艦乗りというものはそういうものだ。宗谷自身、かつて「なだしお」の副長だった頃、合衆国第7艦隊のフォーメーションの内側に潜り込んでひどい目に遭った事がある。実弾が飛んでこないだけで、フリゲートや駆逐艦や対潜ヘリのソノブイに追い回されさんざん狩り立てられた。水上艦の連中はたとえそれが味方だろうと自分たちの足下に潜水艦がいるのを好まないし、サブマリナーはそうした水上艦乗りの鼻をあかしてやろうとその足下に潜り込もうとする。もちろん音紋を取られたらまずいとか、そういう軍事的な意味合いもあるが、実際の所は意地のぶつかりあいといった所だろう。
そしてそれはサブマリナー同士にも言えることだ。このままあの688級に好き勝手やらせるのは、艦隊に随伴している潜水艦の失態になってしまう。
プロットボードには、第一護衛隊群とその懐に潜り込もうとしている688級原子力潜水艦・・・いわゆるロサンゼルス級攻撃型原潜・・・の軌跡が映し出されている。それに「うずしお」の航跡を重ねた宗谷は、素早く推論すると一つの結論に達した。
「副長、どう見る」
「気付いて無いですね」
やはりこいつも生粋のサブマリナーだ。日本海軍史上初の女潜水艦長は当確だな。宗谷がニヤリとすると、天城も同じような表情を見せた。
「当たりですか」
「それはこれからだ。少なくとも答案は同じだがな」
彼は腕組みすると、一歩後ろへ下がった。発令所は狭いので、必然的に替わって天城が潜望鏡の傍らに立つ事になる。言うまでもなく、艦長の指定席だ。
「副長、好きにやってみろ」
「・・・えっ?」
「そろそろ実地訓練をしてもいいだろう。操艦任せる」
「は、はい!」
さして美人ではないが、その快活な印象で見ている者の気持ちを明るくする類の天城の表情が今までに増して明るくなった。宗谷は小さく頷くと、唇を歪める。
「復唱どうした」
「は・・・はいっ」
ああ、俺と同じだ。彼は心中で微笑する。俺が初めて操艦を任されたときもそうだった。同じように喜び、同じように復唱を忘れてどやされたものだ。気持ちが分かるどころか、全く同じ事を経験してきたのだ。
「天城一尉、操艦指揮を執ります」
「よろしい」
発令所の壁際に備え付けられたコーヒーメーカーでコーヒーをいれると、宗谷は壁にもたれかかった。その視線を背に受けながら、天城はプロットボードを一睨みする。
彼女は一つ頷くと、最初の指示を下した。
「航海、面舵40。速力10ノット、隠密航走」
「面舵40、宣候」
「機関減速、隠密航走へ」
ふむ。
発令所内を飛び交う(と言っても小声で)声を聞きながら、宗谷は頷いた。
あの生意気な688級の背後を取るつもりだな。悪い判断ではない。ただ、それにしては進路の取り方が妙だが・・・いや待てよ。
さては。だとすりゃあ、こいつは面白い見物になるぞ。
刻々と二隻の潜水艦はその位置を替えていく。688級の背後に入りかけた所で、天城は次の指示を出した。
「両舷停止。ダウントリム10、進路そのまま、深度400」
宗谷は脳裏のプロットボードと実際のプロットボードを見比べ、適度に緊張した天城の表情を眺める。やる気だな、こいつ。うまくいったらお立ち会い、日誌に特筆ものだぞ。
「うずしお」は電動機を停止させ、惰性と重力で速度を保ちつつ深度を下げる。深度が設定の400メートルに達したあたりで、688級の進路と交差するはずだ。つまり、そこで688級の下に入り込む事になる。
艦内は静まり返っている。その中で、天城はじっと深度計とプロットボードを見比べている。
深度計が目標の数字に達した所で、彼女は指示を下した。
「アップトリム10、深度300。到達次第取舵一杯」
「宣候」
この「うずしお」は間違いなく世界一静かな潜水艦だ。そしてその静かな「うずしお」が機関を停止させて惰性で進めば、パッシヴソナーではまず探知出来ない。更に、この時期のこの海域には深度350メートル付近に変温層がある。この下に潜り込んだ措置は悪くない。
深度300。天城の指示通り、「うずしお」は舵を切り、左へ変針する。丁度あの688級の鼻面を抑える形になる。
そこで天城はようやく表情をゆるめた。それどころか、吹き出しそうになっている。そのまま、指示を下した。
「両舷始動、速力15ノット。進路45度、定針次第ピン打て」
宗谷は笑い出した。
あの688級のブリッジの様子が見えるようだ。突然鼻の先でエンジン音がして、更にピン(探信音波)まで打たれた日には、どれだけ狼狽するだろう。少なくともサブマリナーとしてのプライドはズタズタだ。
「お見事」
彼が言うと、天城は満面に笑みを浮かべて頷いた。
「アメリカさんが間抜けだっただけです」
「いや、いい操艦だった。ざまぁ見ろ、だな」
「688級、反転します」
とソナー室。
「負けを認めたな」
「そのようですね」
「いい見物だった。言うこと無し、満点だ」
「恐れ入ります」
この「うずしお」級は、値段が高すぎてなかなか予算が成立しない。現在3番艦までの予算が成立しているそうだが、この分だと3番艦か4番艦の初代艦長は案外こいつかも知れない、そう宗谷は思った。既にそれだけの能力は持っている。大したもんだ。
「よし、では一群に挨拶でもするか。浮上、浮上航走用意」
「浮上、浮上航走用意」
天城が復唱。その表情も明るい。
「右舷前方、潜水艦浮上します」
双眼鏡を向ける。その特徴あるシルエットは、最新鋭潜水艦「うずしお」のものだった。
「ははあ、あいつの仕業だったんだな」
鳥海は表情を崩した。第一護衛隊群の方でも、688級の接近は探知していた。その近くにもう一隻いるらしいことは掴んでいたが、しかしそちらはすぐに失探してしまったらしい。それがこいつだったのか。
「フォーメーションに入り込んできたら袋叩きにしてやろうと思っていたのですが」
対潜戦幕僚の浦波ユウキ三佐が肩をすくめる。彼は先ほどからその手筈を整え、手ぐすね引いて待っていたのだった。それが、突然688級は慌てたように反転し、その直後に護衛艦「あやなみ」のソナーが「うずしお」を探知したのだ。
「うちの部署にしてみれば恥さらし以外のなにものでもありません。全く面目次第も」
「あれは最新鋭なのだろう?世界一静かなSSと言うじゃないか」
鳥海はそののっぺりとした形の潜水艦を眺める。
「今回は勉強をさせて貰ったと思え。次はしてやられるなよ」
「はっ」
それでも苦々しい表情を隠せない浦波の肩を叩くと、鳥海は大淀を振り返った。
「艦長」
「は」
「俺の名で、彼らに信号をやってくれ」
「文面はどうしましょうか」
「そうだな、只今ノ作戦機動見事ナリ、とでもしておけばいいだろう」
浮上した「うずしお」のセイルトップには、見張り員と天城が出ていた。浮上した最初の空気を吸う栄誉を貰ったのだった。
彼女の視線の先には、海を圧して進む打撃護衛艦「やまと」の姿があった。その圧倒的な存在感と禍々しいまでの威圧感は、幼い頃祖父が話してくれた「戦艦」そのものだ。
双眼鏡を向けながら、彼女は思った。
彼女の祖父は帝国海軍の潜水艦乗り、いわゆる「ドン亀乗り」だった。兵学校を出て真っ先に潜水艦勤務を志願し、その長くない海軍生活のほとんどをその狭く油臭い空間で過ごした。彼女が父母が望むような普通のOL、普通の妻、普通の母となる道を選ばなかったのは、その祖父の影響が大きい。
祖父はよく話していた。
・・・戦艦はいいものだ。それも、乗るんじゃなくて眺めるのがいい。俺が「伊−17」の航海士だった頃、トラック泊地の沖で「大和」を見た事がある。浮上して、俺が見張り台に出ると、すぐ近くに「大和」が悠然と停泊していた。体が震えたなぁ。
彼は心底潜水艦を愛していたから、彼女もサブマリナーを志した。
・・・でももし、あたしが進路を選ぶ時に、あの「やまと」が就役していたらどうしたろう。あのフネに乗る道を選んだのかも知れないわね。
物思いを巡らす彼女の視界に、ある変化が生じた。「やまと」の旗甲板脇に備えつけられた信号灯が瞬いている。発光信号だ。
素早くそれを読みとる。受信諒解、の信号を返した時、彼女の表情ははっきりと紅潮していた。
彼女は高声電話を掴むと、早口にそれを報告した。
「副長より艦橋」
「艦長だ」
「一群旗艦より発光信号」
「読み上げろ」
「発、第一護衛隊群司令官。宛、潜水艦「うずしお」艦長。主文、只今ノ作戦機動見事ナリ、担当幹部誰ナルヤ」
レシーバー越しに、くぐもった声が聞こえた。宗谷は笑ったようだった。
「副長、一群旗艦に返信」
「一群旗艦に返信」
信号灯を手に取る。半ば自動的に、彼女の手は耳からはいる通信文を信号に変換しはじめようと構えた。
「発、潜水艦「うずしお」艦長。宛、第一護衛隊群司令官」
無言で、信号灯の開閉レバーを操作する。
「主文。只今ノ機動ノ指揮ヲ執リタルハ、本艦副長天城一尉ナリ」
信号を打ち終わってから、彼女はその意味に気付いた。
彼女にしたところで人並み以上の功名心もプライドもある。嬉しくて当然だ。
「天城一尉か。知っている者はいるか」
鳥海が艦橋内を見回すと、一人の幹部が頷いた。幕僚長、笠置ミユキ一佐だ。
「自分が幹校の生徒監の時、二号生でした。その頃から目立っていましたからよく覚えています」「どんな子だった」
「その頃から、自分は潜水艦に乗るんだと言っていました。明るくて機転が効く子でした」
「そうか」
「少なくともあの機動は見事でした。自分は完全にしてやられました」
と浦波。鳥海も頷いた。
「覚えておこう。しかし君といい、天城一尉といい、最近は女性の方が有能な者が多いんじゃないか?そう言えば幕僚長、君の妹さんは」
「ええ、陸自の一尉です。この間、第一教導師団の作戦幕僚を拝命したそうです」
「凄いな、幕僚長のような切れ者なんでしょうね」
「あたしとは大分感じが違うわよ。幹候を受けた時には驚いたんだから」
「それでは、一般大から」
「ええ」
笠置はある国立大学の名前を口にした。誰もが認める日本の最高学府、という例の大学だ。
「凄いじゃないですか」
「官僚にでもなるんだとおもったんだけどねぇ」
「それが、姉にならって自衛官、ですか」
「まあ自衛隊も男の職場という訳ではないって事だな。このご時世では」
鳥海は苦笑いした。
いずれ、女性提督も珍しくなくなるのかも知れない。
第一護衛隊群幕僚長笠置ミユキ一等海佐の妹、第一教導師団司令部付作戦幕僚笠置カスミ一等陸尉は、その頃小田原市のとある喫茶店にいた。私服を着ているから、制服姿の時よりも更に幼く見える。
彼女の向かいには、NERV作戦部長葛城ミサト三佐が座っている。綺麗な人だ、と笠置は思った。軍人をやっているよりもモデルか女優でも出来そうな、と自分の事は棚に上げて考えてみたりする。このひとが対使徒戦の戦術指揮を執っているというのが、どうも信じられない。
ミサトの方も、妙高が連絡将校役としてよこしたこの女性幹部に最初は危惧を覚えていた。あまりに自衛官らしくない、悪く言えば間の抜けた人物に見えたからだ。しかし話しているうちに、あの妙高が信頼を置くだけの人間なのだろうという事は理解できている。
話している事と言えば、とりとめのない世間話程度だ。いい信頼関係を作ればそれでいい、と妙高は言っていた。
店からは海が見えた。
「私の姉は、今頃ここの沖合にいるはずです。ご存じでしょうけれど」
そうだ。ミサトはそれを知っている。
「昔から自慢の姉でした。男勝りで、スポーツ万能で頭も良くて」
「それで、あなたも?」
「ずっと迷っていたんです。でも、今はこれで良かったんだと思っています。任務には誇りを持っていますし、部下にも上司にも恵まれていますから」
妙高は確かに良い上司なのだろう。職場の環境としては、私よりも数段マシなのかも知れない。
「あなたもそうなんですよね、葛城三佐」
不意にそう振られたミサトははっとした。慌てて視線を戻すと、笠置はその大きな瞳でじっと彼女を見つめていた。
「私はもちろん、我々の誰もあなたがたが何をしているのかよく知りません。時々腹立たしくなる事もあります、今の状況では国民を護っているのは我々ではなくてあなたがたですから。そして羨ましくもなります。それだけの力を持っているあなたがたが」
「・・・」
「でも」
彼女はにっこりと微笑んだ。
「いずれ、私たちも役に立てる時が来ると、妙高閣下もおっしゃっておいでです。私は、私たちの存在は無駄ではないと信じています。その時は」
「・・・その時は?」
「あなたがたと手を携えて戦いたいものだと、私は思います。妙高閣下も同じだと思います」
この、夢見がちな少女がそのまま女になったような女性自衛官の言葉を、ミサトは何となく聞き流し、ややあってその意味に気付いた。
共闘しようと言っているのだ。
いや、対使徒戦なら改めて言うまでもないだろう。では何のつもりで?
国連軍とでも戦うのか?馬鹿馬鹿しい。我々を敵視しているのは日本政府の方ではないか。加持くんだって、その日本政府の工作員として・・・あんな目に・・・。
ミサトの物思いに構わず、笠置は続ける。
「少なくとも我々の任務は、国土と国民を護る事ですから」
国土と国民。言うまでもない・・・えっ?
そうか。そういう事なのか。国土と国民と言ったまでで、日本国とは言っていない。
まさか、そこまで考えているの、妙高陸将?
「次にお会いする事があれば、その時は面白いものをお目に掛けられると思います」
笠置はそう言った。それが何かはともかく、事態は考えてもみなかった方向へ流れているのかも知れない。
使徒襲来の警報が防衛省及び内閣府、そしてNERVに伝達されたのはその一ヶ月後だった。
管理人(以外)のコメント
ケンスケ「くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
アスカ 「(・・・またどーせミリタリー関係のことで感動しているんだから、ほっとこほっとこ)」
ケンスケ「潜水艦〜」
アスカ 「(・・・・ほらみろ〜)」
ケンスケ「はうーっ 『やまと〜』♪」
アスカ 「(・・・・まったく、どうしてこんなやつをコメントに呼び出したりしたのかしら・・・・)」
ケンスケ「大艦隊〜すげぇぇぇ!!」
アスカ 「(はぁぁぁ・・・・それにつきあわなきゃいけないアタシって・・・・)」
ケンスケ「ひょ〜」
アスカ 「(・・・・ただの馬鹿ね。こいつは)」
カヲル 「・・・・一人で騒ぐ相田くんと、それを冷ややかに見つめるアスカくん・・・・なんか怖いな・・・・今日は逃げるか・・・・」
アスカ 「(確かにこの話、読んでいてすごくうまいんだけどね・・・・へっぽこ逃げた作者が書く戦闘シーンの千倍はすごいけど・・・・)」
ケンスケ「うどぁぁぁぁぁ!!」
アスカ 「この、コメンターを何とかして(涙)」
ケンスケ「すばらしい、本当にすばらしい!」
カヲル 「ああ、軍港第二工廠もアップされているからね〜すたこらさっさ〜」
アスカ 「こら、逃げるなぁ!!」
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