3

「彼女からはまだ何も言ってこないのか」
「ああ」
「しかし、呉へ行ったのは事実なのだろう?」
「ああ」
「そして、その後高知沖で「やまと」に乗ったのも」
「ああ」
「ふむ・・・まあ、友人が死んだのだからな。それに出張申請もきちんと出ているし、こちらが掴んでいる内容とも整合している。わざわざお前の所に来る必要も無いと思ったのか」
「・・・」
「どうする、防諜部の連中はかなり怪しいと言っているが」
「・・・今のところ、全てはシナリオ通りだ。問題はない。放置して構わん」
「そうか。お前がそう言うのならそれでいいが」
「何が言いたい、冬月」
「・・・変わってはいたが、いい男だった。惜しい人間を亡くした」
「・・・」



 国連安全保障委員会は、いくつかの下部組織を持っている。有名なところでは国連軍事参謀委員会があるが、これなどは既に安全保障委員会自体よりも強大な権限を持っているといわれる。セカンドインパクトの後、再編された国連ではますますその傾向がひどくなっている。
 そうした「下部組織」の一つに、国連軍事情報局(UNMID)がある。その存在はあまり知られていないが、その実力を知る者にはそれがいかに危険で恐るべき機関であるかよく理解されている類の機関だ。
 その日、一人の男がその本部を訪れていた。大抵の者は、この場所がある意味でかのプリンツ=アルブレヒト=シュトラッセと同義であると考えているから、自発的に尋ねたりはしない。

「よく来ましたね。まずはご苦労様と言っておきましょう」
 その声は氷の冷たさと剃刀の鋭さで彼の聴覚を撫でた。男は背筋に冷たいものを感じながら、この建物の主人を見つめ返す。
 マリア=ロフスカヤ=エッケナー。UNMID長官。国籍はドイツ、人種的にはロシア系。経歴その他は不明な点が多い。ただし。
 ただし、組織の管理者として、そして諜報・情報戦指揮官としての能力は当代随一とも比類無しとも言われ、その能力と冷徹さから「氷の女王」「アイスドール」との異名(もちろん、本人の前で言われるようなそれではない)を持つ。「女性版ラインハルト=ハイドリヒ」と呼ぶ獅烽「るという。
・・・確かに異名通りだな。あと10歳若ければ口説きたくなったかも知れない。いや、今でも十分魅力的だが・・・俺は、この人の恐ろしさをよく知っている。とてもそんな気にはなれんね。
「こちらこそ、命を助けて頂いた礼を言わねばならないでしょう」
 彼がそう言うと、マリアはその氷の刃のような視線を一瞬煌めかせた。
「別にあなたを助けたつもりはありません。利用価値があると判断したから手を下しただけのことです。勘違いしない方がいいですよ、加持リョウジ」
「・・・」
 そりゃま、そうだろう。加持は思った。
 あの時防諜部の連中は、俺を撃とうとした刹那、飛び出してきたUNMIDの工作員に取り押さえられ、気絶させられた。俺は工作員に連れられ、ここまで来た。
「あなたを押さえるのには色々と苦労しました。第三東京市に新しい工作員を入れるのはあなたも承知しているように簡単なことではありません」
「そうでしょうな」
「その後も面倒でした。分かっているとは思いますが、あなたは死んだ事になっています。NERVの工作員には模造記憶を刷り込ませておきました。あなたは撃たれ、身につけていた爆弾を使って自爆した、と」
・・・やれやれ。俺は絶対にそんなことはしないぞ。
「今のところ、誰も疑ってはいません。あなたの恋人も含めて、誰も」
「・・・恋人」
「別に隠すことでも無いでしょう。NERV作戦部長、葛城ミサト。性格には若干の問題があるとしても、水準以上の戦術的センスと判断力を持っている・・・と、我々のファイルには書いてある」
 マリアは全く表情を変えず、手元のファイルを閉じた。再び加持に視線を向ける。
「・・・そこまでして私を助け出し、何をさせようと言うんです?」
 マリアは何も言わない。
「私が知っている程度の事は、既にあなたたちも掴んでいるはずだ」
「・・・そうかも知れないし、そうでないかも知れない。まず、知っている事は全て話して貰います」
「・・・」
「その後は・・・しばらくは自由にしているといい。もちろん監視と制限付きですけどね」
「・・・駒として使う状況になるまで、ですか」
「そう。さすがに察しがいい」
 氷の女王と呼ばれるUNMIDの魔女は、とりあえず話は終わりだ、というふうに手元の書類を揃えた。眼鏡を取ると、デスクのキャビネットからグラスと瓶を取り出す。
「堅苦しい話はここでおしまいにしましょう。私は飲むけれど、あなたは?」
「・・・中身によります」
「それは保証します。『ホワイト=アンド=マッカイ』の36年もの・・・今では手に入れるのに苦労する」
 そう言いながら、彼女は無造作にその液体をグラスに流し込んだ。人によっては同じ重さの黄金よりも価値がある、と断言する酒の琥珀色に目を細めると、そのまま形の良い唇をつける。極めて優雅かつ自然に、彼女はそれを一息に飲み下した。
「わざわざここまで連れてきて、その上で毒殺するほど、我々は暇では無い」
「でしょうな」
 マリアは再びグラスに酒を注いだ。今度は二人分。
「水は」
「いえ、酒と何かを混ぜて飲む習慣は持っていませんから」
「いい事です。美酒に混ぜものをするなど、精神に対する冒涜に等しい」
 乾杯などしない。マリアは今度はゆっくりと楽しむように杯を傾ける。加持もグラスに口をつけた。確かに言いようもないほどうまい、が。
「酒は、共に飲む者によって味が変わる。知っていますか?」
 突然マリアはそう言った。加持が黙っていると、彼女はそのまま続けた。
「今のあなたには何を飲ませても同じでしょう。しかし・・・いずれ時が来れば、酒の味も分かるようになる。そういう相手と向き合うこともできるようになる。その時が来たら、同じものを一本あなたに進呈しましょう」
「それは・・・つまり」
「そういう事です。あなたには、その為に働いてもらう」
 やはりこのひとは氷の魔女だ、と加持は思う。
 マリアは眉一つ動かさず、グラスにまたウィスキーを注いだ。

「護衛隊群司令が乗艦される。総員、敬礼!」
 号令が静まり返った空気を切り裂き、続いてラッパの音が響く。
 何度経験しても、この瞬間はいいものだ。白服を来た乗員達が一斉に敬礼を向け、自分を迎えてくれる。人に言えば笑われるだろうが、この程度のケレン味も無いような奴はそもそも幹部になろうなどとは思わないはずだ。
 第一護衛隊群司令、鳥海アキラ海将は悠然と答礼し、軽やかな動作でランチから舷門に飛び移った。ネイヴィたるもの、この程度は当然だ。
 彼が舷門に立つのに合わせて、打撃護衛艦「やまと」のヤードに将旗が掲げられた。昔流に言うなら、海軍中将が座乗する艦隊旗艦を示すものだ。本日付で第一護衛隊群第一護衛隊に配備された「やまと」に、第一護衛隊群の将旗が移った瞬間だ。
「司令、「やまと」へようこそ」
「おう、ご苦労」
 甲板で彼を迎えた大淀艦長とは、もう長いつきあいになる。「やまと」が就役するまで第一護衛隊群旗艦だった指揮護衛艦「くらま」の先代艦長でもある。改装につぐ改装ですっかり操艦が面倒になってしまったかつてのヘリコプター護衛艦を、この男はモーターボートのように楽≠ニ操って見せたものだ。
「色々と大変だったようだが」
 大淀は白い歯を見せて笑った。
「いえ、大山君は全てを片づけてから逝ってくれましたから。自分は楽なものでした」
「惜しい男を亡くした。こんな事になるなら、誘わなければ良かったんだ」
 鳥海は瞑目する。そう、九州大学の研究室で昼行灯を決め込んでいた大山に惚れ込み、引きずり出して「戦艦」をつくらせたのは誰あろう彼だった。一般大あがりとしては異数の昇進を重ねている彼が、たまたま母校に立ち寄り、大山と出会ったのだった。運命的と言えば運命的だaA結果として命を縮めたのだとすれば・・・。
「彼は満足して死んだと思います。良い死顔でした。感謝している、司令にそう伝えてくれと、いまわのきわに」
「そうか・・・」
 彼は視線を上げると、「やまと」の上部構造を見渡した。鋭利な刃物で削ぎ落としたようなシャープなライン。翻る艦旗と将旗。
「あの男が心血を注いだんだ。いいフネなんだろうな」
 鳥海が言うと、間髪入れずに大淀は断言した。
「当然です。間違いなく本艦は人類史上最強の戦闘艦です」
「奴、とは戦えるか」
 甲板上を歩きながら、鳥海は言った。大淀は短く頷いた。
「以前の大停電の話、詳細は?」
「俺を誰だと思っている」
「失礼しました。統幕にいる同期から聞いたのですが、あれはやはり戦自が開発していた荷電粒子砲だったそうです」
「それを徴用したのか」
 NERVは戦略自衛隊が試作していた自走式荷電粒子砲を徴用し、改装してエヴァンゲリオン用の狙撃銃に仕立てた上で使徒撃滅に使用した。その時、全国の電力が徴発され、日本中が停電状態となった。
 二人は、その事を話している。
「ええ。一発で仕留めたそうです」
「・・・ならば、やれるかな」
「一五式特徹を使えば、あるいは」
「T弾はどうなんだ」
「何とも言えません。例の何とか言う障壁が作用していなければ簡単なんですが」
「・・・このフネが想定している敵はあの化け物どもではないからなぁ」
 艦橋下まで来た所で、二人はその前に鎮座している二番主砲塔に目をやった。砲弾の積み込みをやっているらしく、砲塔後部の装甲ハッチが開いている。その横で、砲術長が積み込みの指揮を執っていた。
 二人に気付いた砲術長、睦月リョウ二佐はさっと振り向き、敬礼を向ける。
「睦月二佐であります、司令」
「鳥海だ、よろしく頼む・・・ところであれは?」
「新しい徹甲弾、一五式改です。群馬の工場で製作していたものです」
「一五式・・・改?」
「ええ。主砲公試の時に使った一五式を作りなおしたもので、一五式はフルスケールの305ミリでしたが一五式改は減径弾でして」
「ほう」
「径を小さくして弾速を上げた方が、こういう鉄砲では威力が増しますので。戦車砲で使う徹甲弾と同じ理屈です」
「では、徹甲弾は全て入れ替えるのか」
「その予定です。技本も最初からそのつもりだったようです」
「なるほど。他のタマはどうなってるんだ」
「現在の所、一五式特制弾、一五式特徹弾は積み込み待ちです。・・・艦長?」
「おい、この方は司令だぞ、構わん」
「はっ。例のT弾、こいつは二種類あるのですが、これも積み込み待ちです。一五式対空榴弾は既に搭載済みです」
「なるほど、参考になった。ご苦労」
 二人は「やまと」の巨大な前櫓に入った。エレベータで艦橋まで上る。
 現用艦としては例外的に高い位置にある艦橋の窓からは、新横須賀港一帯の光景が一望できた。どうも好きになれない港だ。やはり俺は、呉の方がいい。佐世保はセカンドインパクトの影響でだいぶ雰囲気が変わってしまっているし、横須賀は海の底になってしまった。この新横須奄ヘ半ば国連艦隊の占拠状態にある。
 しかし瀬戸内海に抱かれた呉は、ほとんどかつてと変わらぬ景色をとどめている。鳥海や大淀が青春の一年間を過ごした江田内の穏やかな海、そして江田島。今もかつてと変わらず、海自の若き幹部候補生が学ぶ幹部学校の古びた建物も、すこし沖に出れば見える。かつて連合艦隊leいの場とした柱島も近い。
 しかしこの新横須賀はどうだ。沖合には「ロナルド=レーガン」以下の国連艦隊が錨泊している。恐らく、目を皿のようにしてこの「やまと」を監視しているはずだ。
・・・まあ見てろ。この「やまと」一隻で、貴様らなど全部海の藻屑にしてやれるんだ。
 その瞬間、轟音がした。 
 窓から頭を出して空を見上げると、雲一つない青空に白い雲を引いて、三機編隊のジェット機が頭上の低空をフライパスしている。
 大淀も空を見上げていた。苦い表情をしている。
「あいつら・・・」
「あれは?」
「はあ、「ひりゅう」の艦載機です。新型でして」
「ああ、三菱とスホーイが組んで作った奴か」
「そうです。馬鹿な真似はよせと言っておいたんですが・・・」
 緊密な編隊を組んだ三機は、ブルーインパルスもかくやと思わせるような見事な飛行振りを見せている。「やまと」の丁度真上で、様々な曲芸飛行を繰り返しているのだ。
「いいじゃないか」
 鳥海は微笑した。
 自分を歓迎してくれるのだ。悪い気がする訳がない。

 彼は、書類の束を机の上に置くとため息をついた。
 その後、冷めたコーヒーをまずそうに飲み干した。空になったマグをどうしてくれようかとしばらく思案していると、半ば予想していた通り彼女が入ってきた。
「師団長」
 彼女、第一教導師団司令部付作戦幕僚、笠置カスミ一尉は伺うような視線を彼に向けた。いつもながら、経歴と地位からは考えにくいほどに儚げな、言い換えればまるで自衛官には見えない表情をしている。
 これで一般幹部候補あがりのホープと言われているのだから、世の中分からない。どう見ても窓辺で花に水でもやっていれば絵になるタイプの娘にしか見えないじゃないか。
「あのぉ・・・」
「ああ、目は通したよ」
 妙高は立ち上がると、コーヒーポットに手を伸ばした。昔と違い、たとえ師団長でもこういう事は自分でやらなければまわりがうるさい。まあ、目の前にいるこの子は違うのだが。
 笠置は慌てたように手を伸ばした。
「あ、私が入れます」
「いいよ」
 どう考えても胃の毒としか思えないようなコーヒーをマグに満たすと、妙高はまたため息をついた。まずいんだろうな。入れただけでコーヒーがうまくなる魔法のマグでも、そのへんに転がっていないだろうか。いや、置いておけば状況が良くなる魔法の護符とか。
 そうなのだ。状況は極めてよろしくない。
「どのみち状況がつまらん事には変わりはないさ。一杯やらんか」
「い・・・いえ。ご遠慮します」
「それが賢明だな。胃に穴があきかねない」
 座るように促すと、笠置はソファの端にちょこんと腰を下ろした。
「で、だ」
 コーヒーをすする。当然、うまくない。
「シミュレーションの設定その他に問題はない事はよく分かった。つまり結果は妥当だという事だな」
「恐れ入ります」
「恐れ入られても困る」
 彼がさっきから目を通していたのは、昨晩笠置が提出した戦闘想定シミュレーションの状況設定書だった。シミュレーションそのものは、一昨日第一教導師団の幕僚全員を集めた席で見ている。その内容が余りにつまらないので、わざわざ設定書の提出を命じたのだった。ほとんどcPースで師団壊滅か敗走という結果しか出ないシミュレーションなど、見て面白い訳がない。正確に言うと、想定甲、つまり通常戦闘の場合しか、第一教導師団はまともに戦えないというのだ。
 ちなみに、この戦闘想定では次のような想定が考えられた。
 想定甲は通常戦闘。更に甲1号(通常戦闘・対国連軍)、甲2号(通常戦闘・対NERV単独)に細分される。これを見ても分かるように、この戦闘想定は外部に見せられるような代物ではない。続けて想定乙は、特殊戦闘を考えている。乙1号は対使徒戦、乙2号は対エヴァンゲャIン戦を意味する。
 これが提出された当初、師団司令部は大騒ぎになった。いくら何でもヤバ過ぎる、というのだが、それは当然の懸念だったろう。しかし、作成担当の笠置は言った。
「ですけれどぉ・・・想定される、あらゆる状況に対応できるようにしておくのが、参謀の・・・いや、幕僚の任務だと・・・教わりましたし・・・」
 正論である。そして、途切れ途切れに呟く彼女の可憐としか言いようのない仕草が、師団司令部全員のそれ以上の追求を封じた。彼らは思った、どうしてこんな娘が作戦幕僚なのだ、と。これが第一教導師団における彼女の初仕事だったから、一層その思いは強かった。
 そして、その内容は更に衝撃的だった。
「栗林将軍を知っているかね」
 妙高が言うと、笠置は小さく頷いた。
「帝国陸軍中将の栗林忠道将軍ですか」
「ああ」
「小笠原兵団長として硫黄島で玉砕したと聞いています」
「さすが、詳しいな」
 彼はコーヒーの残りを飲んでしまおうと思ったが、あまりのまずさにそれを断念した。それを気の毒そうに見ていた笠置は、半分位残った妙高のマグを手に取った。
「・・・紅茶でよろしければ、いれて来ますが」
「ああ・・・済まんが頼もうかな」
「それでは、これも捨ててきます」
 妙高が反応する間も無く、彼女はコーヒーポットまで手に取る。
「あまり体に悪いものを飲まないで下さい」
「好きで飲んでいるんじゃないぞ」
「私に言って下されば、ちゃんとしたものをいれますのに」
 どういう意味だろう、と彼が思案している間に、彼女は自室からティーセットを持ってくると、意外なほど手早くお茶の準備を整えてしまった。恐らく自分で焼いたものと思われる焼き菓子まで添えてある。気が付いたときには、今まで妙高がすすっていた液体とは比較にならない枕≠漂わせながら、ティーカップとポット、銀の皿を乗せたトレイが師団長室の机の上に載っていた。
「どうぞ」
「あ、ああ」
 それだけで、殺風景な師団長室が華やいだように見える。妙高はティーカップに手を伸ばしながら言いようのない間の悪さを感じている。
 それを振り払おうとして、彼は話題を戻した。
「こんな事を言うのはおこがましい限りだが、俺は栗林将軍になった気分だよ」
 笠置は無言でカップを手に取った。妙高が何を言いたいのか、察したようだった。
「言い訳にもならんのは承知で言わせて貰うがね、敵がまともな奴なら、俺はいい喧嘩をしてみせる自信がある。君が言う所の想定甲だな」
「私のシミュレーションは、数字で換算できるデータソースを扱っただけですから・・・」
「いや、君を責めているのではないよ。もしも敵が、国連軍だろうとなんだろうと構わないが、とにかくそういう連中なら、俺が生きている限り一教師(第一教導師団)の守備範囲は抜かせない自信はある、という事だ」
 逆に言うと、もしも防御線を抜かれるようなことになれば、その時は自分の死ぬ時である。笠置は理解したようだった。
「しかし、想定乙の場合は・・・確かに君の言う通りだ。我々には何もできない」
「はい」
「恐らく、上もそれは望んでいないのだろうさ。今になって我々がここに展開した理由は、想定乙を考えてのことではない。分かるな」
「・・・つまり・・・」
「聞いているのは俺だけだ」
「はい。つまり、第一教導師団の任務は、NERV及び第三東京市、そして国連軍への牽制」
 笠置がそう言うと、妙高は表情を歪めた。
「それだけじゃない。陸幕は恐らく、戦自への抑えのつもりで我々を出したんだろう」
「・・・それは・・・!」
 目で見ても明らかなほどに、笠置の表情が青ざめる。
 しかし彼女の明晰な頭脳は、次の瞬間にはその意味を悟っていた。
「・・・つまり、そこまで・・・」
「いや、俺にはそこまでは分からん。ただ、戦自は統幕の指揮下というよりは国連軍の丁稚みたいな扱いである事は確かだ。それが危険なのではないかと考えている者も多い、そのあたりで止めておいた方がいいんだろう」
「・・・」
 もしそうだとすればどうなるのだ。
 最悪の場合、関東一円に配置された自衛隊各部隊は、NERV、国連軍、そして戦自、全てを敵に回して戦わねばならない事になる。
 政府はどうする?
 そうした状況になれば、出来るだけ「強い方」・・・素人が考えても国連に、貸しを作ろうとするだろう。政治的取引・・・そのために。日本国そのものを売る、そうも言える。
 そして政府、自衛隊最高司令官たる内閣総理大臣は、自衛隊に出動命令を出すだろう。国連軍の指揮下に入れ、と。その敵は何かはともかくとして・・・NERVを問題視する勢力も数多いのだし。いずれにしても、日本という国家は取引材料か脇役でしかない。
 そこまで見越して、自衛隊首脳(もちろん戦自は別)は第一教導師団以下の主力部隊を投入するというのだろうか。その真意は?
「笠置一尉」
 あのまずいコーヒーと比べればまるで天上の飲み物のような紅茶を一口飲み下すと、不意に妙高は口を開いた。口調は任務中の彼のそれに戻っている。
「はい」
「想定甲3号として、今のミーティングを基にした状況からシミュレーションを組み立ててくれ。上がったら、直接俺に提出するように。口外はするなよ」
「・・・諒解しました」
「それから」
 彼は机の引き出しから薄いファイルを一冊、そして封筒を取り出すと、ファイルの表紙を開いてティーセットの脇に置いた。
「紹介状を書いておいた。彼女と接触してみてくれ」
 ファイルを手に取り、素早く視線を走らせる。笠置は多少困惑したような表情を見せた。
「接触する・・・と言われましても」
「信頼出来そうな娘さんだ。握手できるならしておきたい」
「・・・師団長!」
「二正面作戦は軍人の忌むべき所、違うか?」
「・・・」
 ファイルの最初のページには、NERV作戦部の真紅の制服を着た女性、その写真が貼り付けてあった。名を葛城ミサトという。



龍牙さんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(以外)のコメント

ケンスケ「おろ、カヲル君はどうしたのかな?」

アスカ 「逃げたわよ。あんたの話はもういい、ってね」

ケンスケ「そんな馬鹿な! 彼は僕の話を真剣に聞いていてくれたんだ! それも楽しそうに! そんな彼がこの楽しい語らいのときをすっぽかしてにげるはずがあろうか! いやない!」

アスカ 「(をいをい、完全にイッちゃってるわ・・・・汗)」

ケンスケ「しかし、減径弾・・・・こ、こんな秘密兵器が開発されていたとは・・・・」

アスカ 「しかし、加持さんが生きていたなんて・・・・」

ケンスケ「でもって、T弾・・・・? いったいどういうものなんだろう・・・・僕のネット情報収集力をフル回転させても、まったく引っかからなかった名前だな・・・・」

アスカ 「あ、でも、なんで加持さんは姿を隠す必要があったのかしら・・・・生きていたなら、生きていたってアタシたちに連絡の一つもくれてもよさそうなのに・・・・」

ケンスケ「『ひりゅう』の艦載機・・・・何時新型に変わるか、って賭けてたんだけど、僕の勝ちだな。さっそく写真をゲットしにいかないと」

アスカ 「加持さん、はやく帰って来てよ〜」

シンジ 「・・・・あのー、二人とも、会話がぜんっぜんかみ合ってないんですけど・・・・汗」

アスカ 「アンタね〜あたしがこの軍事マニアにあわせた会話ができると思う?」

ケンスケ「シンジな、僕のこの高尚なレヴェルの談義に惣流がついてこれるとおもってるわけ?」

シンジ 「・・・・・・」

ケンスケ「だから」

アスカ 「自然と」

二人  「こういう形になるんじゃないの(か)」

シンジ 「あ、あは、あははは・・・・そういうとこだけ絶妙なコンビネーションだね・・・・汗」

アスカ 「あー疲れた。紅茶でも飲んでこよ〜」

ケンスケ「あー疲れた。新横須賀でもいってこよ」

シンジ 「あ・・・・はははは・・・汗」




続きを読む
前に戻る
上のぺえじへ