ミルク世紀すちゃらかエヴァンゲリオン

著者 踊りマンボウ   

第九話「春と冬」

「・・大丈夫なの?」

「仕方ないでしょ、碇支部長の方針よ。ところで、アナタの子供・・彼はどうなの?」

 土曜日の午後、生徒達の下校を見ている二人の女性。

 赤木ナオコ、赤木リツコ親子である。

「ああ・・彼ね。一週間後には来るって言ってたわ・・」

「そう・・仕事をしているのね・・」

 生徒から視線を外してナオコは悲しい目でリツコを見る。

「そうよ・・」

 リツコの声は、冷たさを強く帯びていた。

 ナオコの視線をものともしない、強い意志の表われとも言える。

「彼には・・その生き方が合っているのよ・・」

「・・私はそうは思わないわ・・」

「母さんには・・解らないでしょうね・・」

 リツコの瞳が遠い空を捉える。

「・・そうね・・」

 母親としての瞳が曇る。

「それより・・警護は、付いているの?」

「ええ、碇支部長の話だと、青葉君と日向君がその役目に当たっているみたいよ」

「ああ、あの二人ね・・」

 リツコの頭に、二人の顔が浮かぶ。

 一人は、黒ぶち眼鏡ときちっと固めた髪が印象的な日向マコト。

 もう一人は、肩まで伸びた髪が印象的な青葉シゲル。

「大丈夫かしら・・」

「大丈夫よ。彼らだって、素人じゃないんだから・・」

「そうね・・」

「本当にリッちゃんは、心配性なんだから」

「!・・か、母さん、学校ではその呼び方はやめてって言っているでしょ・・」

 リツコの顔に動揺の色が濃く見られた。

 冷静を常とする、理科教師リツコにしては珍しく砕けた表情だ。

「そうだったわね。ごめんなさい」

「ところで、あの娘の状態はどうだったの、母さん・・」

「今の所・・正常みたいだったわ・・。リョクをかなり使ったみたいだけれど・・それによる影響は軽い診断では発見できず・・といったところかしら・・」

「そう・・」

 リツコの目が、校門近くの女学生に向けられる。

「あくまで・・今の所だけどね・・」

 ナオコの瞳が不安で曇る。

「また、月曜日に来るように言っておいたわ・・。その時にまたゆっくり診ておくわ」

「・・そうね・・」

 リツコは感情を込めないで頷いて、これ以上話をしたくないとばかりに理科準備室に引きこもった。

「リッちゃん・・」

 ナオコは、そのリツコを引き止めることは出来なかった。

 

「・・」

 アスカは不機嫌そのものといった感じで、前を歩いている二人を見ている。

「・・でね・・」

「まあ、そうですの?・・おかしいですわね・・」

 その不機嫌の原因は、もちろん教室からずっといい雰囲気を醸し出している二人、雪風ナギサと碇シンジである。

「・・面白くない・・」

 だからといって、強引に二人の間に割り込んだ所で、シンジにきつく言われるだけである。

 普段のアスカならば、そんなことを気にするなんてことはない。

 が、今朝、登校時に見せた強気な姿勢・・今日のシンジは少し違う。

『幼馴染み・・っていう枠で甘えていたのかもしれない。・・ううん、何を弱気になっているのアスカ・・』

 どうしても、シンジの今朝の態度を心の中で引きずっている。

『今日初めて会った女に・・』

「また月曜日にでも、学校を案内するよ」

「はい、ありがとうございます」

 そうやってアスカが考えている間にも、二人の会話は弾んでいる。

「・・やっぱり面白くない・・」

 だんだんアスカに怒りが込み上げてくる。

「・・アスカぁ・・」

「・・っと、と。・・あれ?ヒカリどうしたの?しょんぼりしちゃって・・」

 思いっきりシンジを蹴りつけてやろうかと思っていた所に、ヒカリに話し掛けられて、アスカは怒りの刃をひとまず収めた。

「・・うん・・鈴原が・・綾波さんと仲良さそうに帰って・・」

 ヒカリは力なくうなだれている。

 だが、視線は後ろを歩いている二人に時々向けられている。

「何や?話せん事情って?」

「だから、それは・・とにかく話せないの!解った!」

 落ち込むヒカリに、言い争いながら歩いている二人の声が聞こえてくる。

「解らへん!何で話せんのや!」

「だから!何度も言っているじゃない!」

 どうやらトウジとレイは、本気で言い争っているようである。

 少なくとも、仲が良いとは言えないと、アスカは思う。

「・・ねえヒカリ・・。あれって仲良いの?」

「だ、だって・・綾波さん・・鈴原と並んで・・」

「・・ヒカリ・・小学生じゃないんだから・・」

 呆れるアスカ。

 だが、自分もナギサに嫉妬している。シンジと、楽しく語らい、並んでいる彼女に。

 さっきは、怒りに任せてシンジを蹴ってやろうと思ったくらいである。

 そういう意味で、ヒカリを非難した自分も同レベルである。

「だって・・」

 ヒカリは、すねた声を上げる。

「だってじゃないわよ。もっとヒカリの方から積極的にならなきゃ」

 アスカはそう言いつつも、それが自分に向けられた言葉であることを強く意識した。

 もっと、大胆に、積極的に・・。

「・・うん」

 ヒカリは、頷いて何やら考え始めた。

「裏切り者・・」

 ナギサとシンジ、トウジとレイのカップル?を見つめて、寂しそうに呟く少年が一人。

 トウジとシンジの悪友、相田ケンスケである。

「アイツらだけ・・何でだよ・・」

 そういいつつも、手にしたDVDカメラで今日転校してきた転校生二人をしっかりと撮影している。

 特に、雪風ナギサはシンジと楽しく話しているせいか、非常に良い表情が撮れている。

「・・一人で・・販売かなぁ・・」

 この調子だと、トウジも写真の販売の手伝いはしてくれないだろう。

「はぁ・・」

 溜め息一つ。

「いいなぁ・・春な奴等は・・」

 ケンスケの気分はまさしく冬だった。

「シンジ!」

 アスカはナギサとは反対側の右側でシンジの顔をまじまじと見た。

「・・でね、・・あれアスカ?」

「あのさぁ、明日どうせ暇でしょう?何処か行かない?」

「え?・・と、突然どうしたの?アスカ・・」

 シンジは急にアスカが現れて、少し驚く。

 だが、それ以上にアスカからの積極的な誘いに更に驚く。

 今までも、無かったわけではないが、誕生日プレゼントやホワイトデーのお返しなどとか、物に絡んだものしかシンジの記憶にはない。

「あら、アスカさん。シンジさんをデートのお誘いですか?」

「な、ナギサちゃん、からかわないでよ・・」

 にこやかな笑顔のナギサの質問に、シンジが顔を赤くする。

「そうよ、アンタには関係ないんだからね!」

「・・アスカさん・・ナギサですぅ・・」

 ナギサは、拗ねている。どうやら、まだ今朝のことにこだわっているようである。

「あー、もう、解ったわよ!ナギサには関係ないことでしょう!・・これでいい?」

 こっちが意地を張っていても仕方が無いとばかりに、早々に折れてみせるアスカ。

 今朝のように、またシンジとの喧嘩に発展しないとも言えない。

「はい、アスカさん。ありがとうございます」

 ナギサは、自分の意見が受け入れられて満足そうだ。

「ホント、アンタ・・じゃなかったナギサと話すと疲れるわね・・」

 名前のことでお礼を言われても、アスカは困るだけだった。

「あの・・アスカ、明日なんだけど・・」

「何?嫌だっていうの?」

「そうじゃないけど、ちょっと父さん達と買い物があって・・その一日潰れそうだから・・」

「・・本当?・・みたいね。なら仕方ないわね・・」

 シンジの顔をじっと見詰めた後、アスカはあっさりと納得をした。

「本当に・・ごめん・・」

「・・」

「あ、わたくし、そこのマンションですの。それでは、また月曜日にお会い致しましょう」

 気まずい沈黙に割り込む明るい声。シンジの意識がアスカからナギサに引き戻される。

「あ、うん。さようならナギサちゃん」

 慌ててシンジが挨拶をする。

「はい、シンジさん、アスカさん、それでは、ご機嫌よろしゅう・・」

 ぺこりと、可愛く頭を下げてナギサはすぐ先に見えているマンションへと歩いていく。

「・・意外と近いのね・・彼女の家・・」

 アスカは、自分の家と数百メートルと離れていないマンションを睨み付けた。

「なんか、やな予感・・」

 アスカの不安が少しづつ大きくなり始めていた。

「だから!もういいでしょう・・その話は無し!」

「そういう訳にはいかんちゅうとるやろ・・」

「あー、もうこんな所だ!アンタと言い争ってる場合じゃないんだ。引越しの荷物があるのよね、それじゃあね、ジャージメーン!」

「あ、待たんかい!それに何や、ジャージメーンやて・・こら・・あ、痛っ!」

 ナギサの行ったマンションと同じマンションに、レイは走っていった。

 執拗なトウジの追求に、彼女は逃げ出した。

 記憶を消すという訳にもいかないし、しばらくはここに居座ることになるのだから、

「・・でも・・何、訊いてたんだっけ?」

 だが、記憶を消すまでもなくトウジは、自分が何を質問していたか忘れていた。

「ま、ええか・・」

 頭をぽりぽりと掻いてトウジは自分を納得させた。

「さて・・帰るかな」

 シンジ達とは逆の方向にトウジは歩いていった。

「ナギサちゃんか・・」

「さ、シンジ、帰るわよ!」

 転校生が帰って、ようやくひとときの平安を手にしたアスカは、意外と素直に自分の気持ちを口にした。

「あ、うん・・」

「じゃ、行くわよ」

 これまでのように、二人の下校なのだが、今日はそれがとても貴重に思える。

「さてっと、後は編集だけかな?」

 DVDカメラをバックに収めてケンスケは一人帰宅の途についた。

「結構いい絵が取れたから・・高く売れるな、きっと」

「・・鈴原・・」

 ヒカリはアスカがシンジと仲良く帰ったので、一人寂しく帰宅の途についた

 

「さてっと・・レイさん派手にしましたのね・・」

 ナギサはマンションに帰ってから、ぐちゃぐちゃになった引越し荷物とにらめこしていた。

「ですから、きちっとしておくように、言っておりましたのに・・」

 昨日、引越ししてきて、自分の分の荷物はきちんとしておいたのだが、レイの分まではきちっと片付けられなかったのだ。

「もう、しょうがないですわね・・」

 ナギサは、掃除用のエプロンを身に着けて、三角巾を頭につけてお掃除体勢に入った。

「ただいまぁー、ナギサぁ、ごめーん、荷物ぐちゃぐちゃにしちゃった」

「あ、レイさん、お帰りなさいませ」

「おう、ナギサ!ごめんねぇー・・。ちょっと散らかしちゃったかな?てへ」

 レイは、部屋に入って笑ってみせる。

「もう、レイさんてば、こんなに散らかして・・」

 ナギサは手際よく片づけを始めていた。

「だから、謝っているでしょ・・あ、その下着、そこの棚に入れといて」

「はい、はい・・」

 ナギサはレイの言葉に従っててきぱきとタンスに下着衣類を入れていく。

「私も、片付けるかなっ!」

 レイもナギサとは別の所から片付けにかかる。

「今日、明日とかかりそうですね・・」

「色々・・引っくり返したから・・ね・・」

 レイとナギサは、仲良く引越しの片付けを開始した。

 

「・・長い一日だった気がするなぁ」

 シンジは家に帰ってから、ベッドにぽふっと転がって呟く。

 転校生がくるということは珍しい事では無いが、今日の転校生は・・何というか・・強力だった。

 それが、シンジの呟きに表れている。

「でも・・ナギサちゃん・・不思議な娘だなぁ・・」

 不思議な瞳、雰囲気・・今までシンジは会ったことのないタイプの女の子だった。

「それに・・あの力・・なんで父さんは黙っていろって・・。確かにあの力・・は・・人に言えるものじゃなさそうだけど・・」

『解らないこと・・ばかり・・』

 日が落ちつつある。

 長い一日は、ようやく終りを告げている。

 作者にとっても・・長い一日であった。

  

第九話「春と冬」   
終わり   
第十話「大人達の戦い」へと続く   


踊りマンボウさんへの感想はこ・ち・ら♪   


すちゃらか裏話

 

 

作者 「こんにちは!なかなか更新が進まないへっぽこ作家踊りマンボウです」

ナギサ「皆様、いかがお過ごしでしょうか、アシスタントの雪風ナギサです」

作者 「しかし、ようやく一日が終わったね」

ナギサ「はい、ようやく終わりましたわね。ところでこの後の展開とか考えてらっしゃるのでしょうか?」

作者 「ぐっ・・ナギサちゃん、痛い所突くね・・それは、もちろん」

アスカ「何も考えてない・・よね」

作者 「・・・・」

ナギサ「まあ、アスカさん、いつの間にいらしゃっていたのですか。わたくしまったく気付きませんでしたわ」

アスカ「・・ナギサ。一体何回このコンビで裏話をしたと思うの?いい加減そのボケ止めなさい」

作者 「ボケじゃないと思うけど・・。どちらかというとほえほえとか・・」

ナギサ「・・・・」

 ナギサ、おもむろに作者の頬をつねる。

作者 「あ、痛たっ痛いよ、ナギサちゃん・・」

ナギサ「・・はっ、あの・・その・・申し訳ありません・・」

作者 「どうしたの?ナギサちゃん・・」

ナギサ「・・だってマンボウさんが意地悪するのですもの・・その『ほえほえぷ〜』だなんて酷すぎます・・くすん」

作者 「えっ・・あ、ナギサちゃん」

 ナギサ、舞台の袖へと消えて行く。

作者 「ナギサちゃん・・どうしたんだろう・・」

ヒカリ「・・マンボウさん!追いかけて」

アスカ「のぇ〜。ヒカリ、いつの間に!」

ヒカリ「・・こんなこともあろうかと、ひそかに開発しておいたナギサちゃん発見装置をアゲルから、ほら!」

作者 「は、はい!」

 作者、舞台より消える。

ヒカリ「ふう・・。あらアスカどうしたの?」

アスカ「・・それはこっちの台詞よ。ホント、突然現れるんだもん・・グリーン・ヒカリかと思っちゃったわよ」

ヒカリ「・・・・」

アスカ「あれ、ヒカリ?どうしたのヒカリ?」

ヒカリ「アスカ・・二人きりよね・・」

アスカ「・・!ヒカリはヒカリでも・・山村ひかるの所のヒカリ?」

 ヒカリ、少し目を潤ませてアスカに寄っていく。

アスカ「お、おのれ覚えてらっしゃい!山村ひかる!」

 アスカ、ヒカリから逃れて舞台より姿を消す。

ヒカリ「待ってよ、アスカ!責任とってよ!」

 ヒカリ、アスカを追いかけて舞台より消える。

作者 「そうだったんだ・・ごめんねナギサちゃん」

ナギサ「いえ、わたくしこそマンボウさんの頬をつねったりして申し訳ありませんでした」

 そこへ入れ替わるように二人が帰ってくる。

作者 「あれ?アスカが居ない」

ナギサ「あらまあ・・どうしたのでしょうか?」

作者 「まあいいや、『ほえほえぷ〜』についても解ったし、そろそろ帰ろうか」

ナギサ「・・・・」

作者 「あ、ナギサちゃん、ゴメン。『ほえほえぷ〜』は秘密だったよね」

ナギサ「はい、そうですの。もう、マンボウさんは意地悪なんですから」

作者 「それじゃあ・・またお会いする時までではでは!」

ナギサ「皆様、お元気でまたお会い致しましょう。失礼致します」

 二人、頭を下げて退場する。

 


 

管理人(その他)のコメント

カヲル「いやぁ、長い一日だったね」

シンジ「たしかに」

カヲル「シンジ君が朝アスカ君のぱんつ見たのがもう半年くらい前のように思えるよ」

 どかばきぐしゃっ!!

アスカ「それをいうなああっ!!」

シンジ「でも、ナギサちゃん・・・・あいかわらずのボケぶり・・・・」

アスカ「で、そのほえほえぷ〜って・・・・なに?」

カヲル「ぼくはしらないね」

シンジ「ぼくもしらないよ」

アスカ「そう。ならしかたないわ・・・・ってそんなこと言うと思う? さっさとしらべてきなさいっ!!

カヲル「ひえええええっ!!」

シンジ「あ、カヲル君いっちゃった・・・・」

アスカ「・・・・」

シンジ「あれ、アスカどうしたの?」

アスカ「シンジ・・・・いま、ふたりっきりよね・・・・」

シンジ「はううっ!! ま、まさかアスカはアスカでも、黄昏歌舞伎町のアスカ!?

アスカ「シンジぃ・・・・」

シンジ「に、にげたさくしゃの、ばかやろーっ!!」

アスカ「ああ、ま、まってシンジ〜!」

カヲル「・・・・ふう、あれ、シンジ君とアスカ君は?」

レイ 「・・・・知らない」

カヲル「うどぉっ!! い、いたのか・・・・」

レイ 「わたしは、いつもここにいるもの・・・・。ところで、ほえほえぷ〜って、なに?」

カヲル「結局、わからなかった(どきっぱり)」

レイ 「・・・・そう・・・・作者と同じね・・・・ネタがなくて。上のと同じネタを使うなんて・・・・」

カヲル「う、その冷たい視線は、やめて・・・・汗(^^;


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