ミルク世紀すちゃらかエヴァンゲリオン

著者 踊りマンボウ   

第七話「理科室の教師」

  

「もー、えーわ!後は自分で勝手にせい。知らんわ!」

 しばらくは、レイの言葉に黙っていたトウジであったが、理科室を案内したところでついに堪忍袋の尾が切れた。

 不機嫌を顔、態度、声すべてで表わして、彼はすたすた廊下を立ち去っていった。

「・・ちょ、ちょっと」

「・・」

 慌ててレイは声を掛けたが。トウジは振り返らなかった。

 その態度に、少し悪かったかなという思いと、あれくらいで怒るなんて短気な奴だという思いが交錯する。

「ちょっと、・・悪かったかな」

 ばつが悪そうに頭を掻く。

 ナギサとのことについては、彼の弁明から誤解は解けていたのだが、つい意地を張って言い争ってしまった。

 本当に、ナギサのことになると、ムキになってしまう。

 とてもとても、大切な友達・・だから。

「・・それにしても・・あれだけ言い合うなんて・・」

 転校初日、初対面の相手との会話ではない。

 本当に久々に、怒鳴ったという気がする。今までは、ずっと逃げて、避けているばかりだったから。

『何だか・・今までとは違う』

 レイの心に、そう感じる予感めいたものが芽生える。

「あら・・?アナタは・・レイ?」

「えっ?」

 その時、理科室の扉が開いて、白衣を身に纏った女性が出てきた。

 女性の名は、赤木リツコ。

 この第三新東京中学校において、理科の教師をしている。

 けれど、その染め上げた金色の髪が、教師らしからぬ印象を与える。

 常に平静を保ち、やや冷たい視線で生徒達を見下ろして教壇に立つ姿に、惚れ込む生徒は少なくない。絶大的な人気は無いが、一部の生徒に強烈に支持されている。

 彼女をよく思わないものは、その金髪を揶揄して、「染めの助、染め太郎」と言っているが、さすがに面と向かって言うものは居ない。

「・・リツコ博士・・」

 レイは、その紅い瞳を見開いて、相手の女性を見た。

「・・博士じゃなくて、ここでは教師よ。先生と呼んで、レイ・・さん」

 わずかに眉をひそめて、リツコは冷たく言い放つ。

「あ、はい。すみません・・でもこんな所で・・何を・・」

「・・何って、教師といったでしょう。それ以外の何者でもないわ」

「・・解りました・・」

 初めて会った時から、レイはリツコが苦手だった。

 自分を見下すような視線。冷たい言葉。そっけない態度。

 すべてが、自分への敵意を内包しているようにしか思えないものだ。

「それで、レイさん。アナタ何故こんな所に居るの。確かに今日転校とは聞いていたけれど、今は授業中よ。それに、ナギサさんも居ないじゃない」

「いえ・・その、今はちょっとこの学校を案内してもらっていたのですが・・。あの、ナギサは保健室で眠っています・・その連絡があったかもしれないですが・・その」

「リョクを使ったのね。碇支部長から聞いているわ」

「はい・・申し訳ありません」

 レイは、しゅんとなってうなだれる。

 先程までの明るい調子はどこかに消えてしまったかのように縮こまっている。

「勘違いしないで。これはアナタが謝る問題じゃないわ。問題があるのはナギサの方でしょう」

「いえ・・それは、私が」

「力を使ったのは、ナギサでしょう。アナタじゃないわ」

「でも・・」

「・・」

 なおも引かないレイをリツコは睨みつけた。

「はい・・」

 その迫力に、レイは頷くしかなかった。

 どうも、リツコはナギサのことが嫌いなようだ。秘密の保守ということに関して、ナギサはその意識が皆無に近い。

 その秘密の保守で、苦労させられているリツコには、ナギサの軽率さが面白くないようだ。

 散々苦労させられて、その上、その苦労をあっというまに水泡に帰されては怒るのも無理はないのだが・・。

「じゃ、さっそくナギサに注意してきて欲しいわね。あの娘、目を離すと何するか解らないから・・。それに・・発作の方も・・」

 リツコの顔が曇る。

 レイも、リツコの言葉に顔を曇らせる。急に、保健室に残してきたナギサのことが心配になる。

「私・・ナギサのところに戻ります」

「お願いね。もし発作が起こった時はここへ来て。私か、母さんが居ると思うから」

「はい!」

 いつもの快活さを取り戻して、レイは駆けていった。

「ちょっと、レイさん。廊下は・・あら?」

「・・あの・・」

 と、走って行ったレイが急に引き返してきた。

「保健室って、何処でしたっけ?」

 

「しかし・・ほんまに・・惣流の奴、乱暴やなぁ・・。まだ顔がひりひりする・・」

 トウジは、再び保健室に向かっていた。

 転校生、綾波レイの付き添いを早々に切り上げたのも、半分はこれに原因がある。

 喋るたびに、口の端々がまるで針で刺されたようにちくちくと鋭く痛むのだ。

「・・けど、先生おらへんかったしなぁ・・」

 とぼとぼと、肩を落とし保健室の戸を開けるトウジ。

「あら・・誰かしら?」

「?誰か・・お怪我でもされたのでしょうか?」

 そのトウジに、声を掛けるものが二人。ナギサと、この保健室付きの保健医の女性である。

「あれ・・ナオコ先生。おったんですか・・」

 保健医の姿に、トウジは声を上げた。

 保健医の名は、赤木ナオコ。理科教師をしている赤木リツコは彼女の娘である。

 娘と違って、染め上げていない赤みがかった黒髪は、やや無頓着なのか端々が荒れている。

 その辺をもっとしっかりすればファンももっと増えるのに、とは彼女を支持する者の共通の意見である。

 けれど、ファンとしては逆にこれ以上競争相手が増えるのを嫌う者もあり、これでいいのだという思いもあるようだ。

「え、ええ。さっき戻ってきたのよ・・。それで、どうしたの?」

 ナオコは、少し動揺しているようだった。

「あらまあ、これはいけませんわ。このように酷いお怪我ですの・・」

 ベッドから起き上がったナギサは、すたすたとトウジの方に近づいて、その怪我を丹念に見た。

「いっ、痛い。触らんといてや・・ひりひりするんや」

「あ、す、すみません・・。ちょっと待って下さいまし、すぐにお手当てを・・」

 ナギサは、しばらく考えた後、その傷口に手をかざした。

「ちょ、ちょっと待ってナギサ・・ちゃん。手当てはあたしがするから・・ナギサちゃんは・・そのいいから」

 ナギサの挙動に、ナオコは慌てた。

 いつもそうなのだが、ナギサは自分の力の特異さをまったく気にしていない。

 相手が誰であろうと、構わず力を行使する。

 そのおかげで、周りがどれだけ振り回されたことか。娘のリツコと共に苦労した日々が思い出される。

 故に、冷静沈着が信条のナオコが、動揺を隠せないのも無理はなかった。

「はい?・・はい、そうですね。レイさんに注意されましたのに・・わたくし、迂闊でしたわ。では、ナオコさんお願い致します」

 ナギサは、ナオコの言葉に、力を込めようとしていた手を下ろした。

「?・・何なんや?まあええか。ほなせんせ、お願いします」

「え、ええ。・・それにしても酷い怪我ね。どうしたの?」

「・・ちょっと、色々あって・・あ、痛っ!」

 トウジは、ナオコから視線を逸らして言いよどんだ。

 まずは、レイに一撃も交わすことなく、一方的に倒されて、その後、アスカに靴底でぐりぐりと踏みつけられたなどとは言えるはずもない。

「あ、ゴメンナサイ」

 トウジの悲鳴に、消毒液を塗る手を止めるナオコ。

「い、いえせんせ。ちょっとしみただけやし・・大丈夫やから」

「そう?でも、これからもっとしみると思うけど・・覚悟はいい?」

「・・は、はいっ・・」

「じゃ、まずは、そこの洗面器の水で顔を洗って。まだ、土とか付いているみたいだし、それを洗い落としてからにしましょう」

「・・顔、洗うんかいな・・」

 トウジは息を呑んだ。

 どれほどの痛みが来るか・・想像はしたくはない。

 洗面器を前にしばらく考え迷うトウジ。

「・・ええい。ままよ!」

 思い切りよく、顔をばしゃばしゃと洗う。

『いつぅ〜〜〜』

 酷い痛みが、顔全体を覆う。じんじんと鋭い痛みが襲ってくる。

 針どころではない、まるで剣山である。

「・・」

 けれど、実はこっそりとナギサが力を使ってトウジの痛みを緩和していた。

 ナオコが止める間もなく、ナギサは激痛に苦しむトウジの後頭部からリョクを注いで、僅かながらの力添えをしていた。

『ナギサ!アナタ・・』

 だが、そんな青ざめるナオコに、ナギサは笑顔を見せた。

『ナギサ、貴方は・・その力は・・』

 笑顔のナギサを、悲しみの目で見るナオコ。

「ほら、せんせ、顔は洗ったで。手当ての方、頼むわ」

 そんな二人の様子を知るはずもなく顔を何とか洗い終えたトウジは明るい声でそう言った。

「あ、ナギサ。起きてたの?」

 そこへ、レイが戻ってきた。

「あ、レイさん。おはようございます」

 ナギサは、レイの方に向き直りぺこりと頭を下げた。

「・・おはよう・・ナギサ」

 ナギサののんびりした調子に、しぶしぶ挨拶を返すレイ。

「こんにちわ・・レイさん。久しぶりね・・」

 そのレイに、トウジの治療を施しながらナオコは挨拶をした。

「あ、痛!。せんせ、しみる!もっと優しゅうして・・」

「ナオコさん・・」

「・・話は後でね」

 ナオコは合図するようにウインクをレイに送った。

 レイもその合図に頷いた。部外者の鈴原トウジが居る以上、あまり深い話をするわけにもいかない。

 ナギサは、よく解らないようでにこにことしている。

「せ、せんせ。そこは鼻や・・ふが」

「あら、ごめんなさい。ちょっと気を取られてね」

 ピンセットで摘まんだ脱脂綿をちょいちょいとトウジの顔を撫でるように動かすナオコ。

「あ、痛!いたたたた、あが・・」

 叫んだことにより、傷口が開いて余計痛みが増す。

『いたぃー!』

 トウジは、心の中でしかその叫びを表わすことが出来なかった。

「さて、取りあえず消毒は済んだとして・・次は薬ね。今度はそれほどしみることは無いと思うけど・・ただ、塗ったところが痒くなるかもしれないけれど触っちゃ駄目よ」

 ナオコは、泣きそうな表情のトウジをまったく気に止めないで続ける。

「そらないで・・なんでワイだけこんな目に・・」

「ほら、しっかりなさい。男の子でしょう!」

「はい・・」

 トウジは、覚悟を決めるしかなかった。

「さて、ナギサ。・・ナギサも起きたことだし、またミサト先生の所へ行きましょう」

「はい、レイさん」

 ナギサは、出せない叫びを手で表わしているトウジから視線を外して、レイに付き従った。また力を使おうかとも思ったのだが、ナオコが首を横に振って反対しているので仕方が無かった。

「それでは、失礼します」

「ナオコさん、失礼いたします」

「ええ・・」

 ナオコは、レイがナギサを連れて出て行ったのを見届けてからトウジの治療に専念した。

「さて・・覚悟を決めたようね。・・そう、いい子ね」

「・・」

『ぎょえー!』

 涙を流せば、またしみる。泣くに泣けず、叫ぶに叫べないトウジであった。

 だが、ナオコはにこやかな笑顔で、塗り薬を塗っていた。

 

「ナギサ・・何度も言うようだけど、あまり力を人前で使わないでよね・・。リツコさんとかナオコさんとか碇のおじさまに迷惑が掛かるんだから・・」

「・・でも・・レイさん・・」

「ナギサ・・お願いだから・・ね」

「はい・・」

 ナギサは、しぶしぶ頷いた。

 それに、今日は何度も力を使っている。かなりの負担が掛かっていることも確かである。

 軽い眠りだけでは、疲れが完全には取れない。

「あら、アナタ達何処に行くの?」

「あ、ミサト先生」

「あらまあ、ミサト先生・・どうかされたのですか?」

「どうか・・じゃなくて、今日、アナタ達はこの中学校の私のクラスに転校してきたんでしょうが!まだ、みんなに紹介すらしてないのよ」

 ナギサのおとぼけに馴れてないのか、ミサトは軽くずっこけるリアクションをとった。

「あ、そういえば・・そうだった」

「えーっと・・、言われてみれば確かにそうですわね」

「言われてみれば、じゃないでしょう!」

「まあまあ、落ち着いて下さい。ミサト先生」

 いつものように、レイがなだめ役に入る。

「・・まあいいわ。授業途中だけど・・ちょっち邪魔して、紹介するようにしましょう・・」

「はいですの」

 ナギサは嬉しげに返事をした。

「はい」

 レイは、そんなナギサの様子を横目でちらりと見てから返事をした。

「じゃ、行くわよ」

 二人はミサトに付いて行った。

  

第七話「理科室の教師」   
終わり   
第八話「気が付けば、もう昼でした」へと続く   


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すちゃらか裏話

 

作者 「どうも!まだまだ一日が終わらないで困っている作者の踊りマンボウです」

ナギサ「皆様、いかがお過ごしでしたでしょうか。アシスタントの雪風ナギサです」

作者 「さて、今日のネタですが・・。何がいいでしょう?」

ナギサ「・・そうですわね、何故このコーナーにレイさんが出て来ないか?っていうのはいかがでしょうか?」

作者 「ぎくっ・・。それはちょっと・・不味いので・・」

レイ 「あら、ナギサ、ここに居たの」

ナギサ「あ、レイさん。こんにちわですの」

レイ 「時々居なくなると思ったら、こんな所に来てたんだ」

作者 「・・」

ナギサ「でも、ここへレイさんが来てしまいましたので、そのネタは出来ませんわね、マンボウさん」

レイ 「マンボウ?・・誰だよ。このおっさん」

作者 「お、おっさん?それはまあ、二十歳は超えているけど、まだ三十にはなってないぞ(1997年現在)」

レイ 「私達、中学生から見たら十分おっさんじゃない」

ナギサ「レイさん。仮にもこの物語の総責任者ですのに、そういう言い方はありませんわ。せめて、おじさまとかにしていただかないと」

作者 「・・うう、なんだかルパン三世なネタ・・」

レイ 「ま、いいわ。それより聞きたいことがあるんだけど」

作者 「?・・何?」

レイ 「山村ひかるって・・誰」

作者 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さあ?」

ナギサ「レイさん、誰ですの?ひかるさんとおっしゃる方?」

レイ 「・・まあいいわ、知らないって言っている以上追求はしないけどね」

作者 「・・」

ナギサ「あ!マンボウさん、もうこんな時間ですわ。そろそろ参りましょう」

作者 「えっ、あっ、そ、そうだね。じゃあ、行こうか」

ナギサ「はいですの」

レイ 「あ、ちょっとナギサ・・もう、しょうがないわね・・」

アスカ「さて、腐れ作者でも殴りにって・・誰も居ないじゃない・・ちっ逃げたわね・・。今度こそ仕留めてやろうと思ったのに・・しょうがない・・ワタシも帰ろう」

 


管理人(その他)のコメント

カヲル「やあ、ひさしぶりの「すちゃエヴァ」だね。さいきんずっと踊りマンボウさん関係は「遥かなる〜」だったから、ここでのコメントができてうれしいよ」

アスカ「はん、あんた、別のところで気づかずコメントさせられてるのよ。それも気づかないなんて、結構お馬鹿ね」

カヲル「それはもしかして山村・・・・むぐむぐ。おっと、これは禁句禁句。ナギサちゃんにはばらさないという暗黙の協定があるからね・・・・」

アスカ「だれとだれのよ」

カヲル「・・・・機密区分パープル。それは秘・密・で・す」

アスカ「ゼロスかおのれはああっ!!」

カヲル「そんなわけのわからないせりふをいって・・・・読者様を混乱させるんじゃないよ。それにバレるよ、趣味が」

アスカ「あたしがおたくなわけないでしょうが!!」

カヲル「じいいっ・・・・(疑惑)」

アスカ「ち、ちがうっていってるでしょ!! これはすべて、逃げた作者の陰謀よ〜!!」

カヲル「まあそんなことはどーでもいいけど」

アスカ「・・・・どーでもいいならほっといてよ・・・・」

カヲル「とにかく、「すちゃエヴァ」のことについてはなそうじゃないか」

アスカ「・・・・この話も、展開がゆっくりよね〜」

カヲル「確かにそれはいえるね。7話で、まだ一日目だからね。まあ踊りマンボウさんもそのへんを少しは気にしているみたいだけどね」

アスカ「ほんとにそうなのかしらね(疑惑)」

カヲル「まあまあ、そういう発言はつつしんで・・・・」

アスカ「まあ、この話はそこそこアタシとシンジがいい雰囲気だから許すけどね」

カヲル「・・・・御都合主義だね、君は」


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