著者 踊りマンボウ
「ナギサ・・」
レイは治療をしている親友をじっと見ている。
「はい、これでいいですわ」
「うん・・ありがとう・・」
すっかり痛みがとれてシンジはナギサにお礼を言った。
「何なのよ・・」
「ごめん・・今は・・話せない・・」
そうアスカに答えつつも、レイはきっとその時が来ないと思っている。
きっと、話せば迷惑が掛かってしまう。
今までそうしてきた。きっとこれからも・・。
ナギサと二人きり。
「・・じゃ、今は聞かないでおくわ」
アスカはレイにそう応えた。
『あんな顔されたら、質問なんて出来ないわよ』
「そうだ・・葛城先生に連絡しとか無きゃ！」
レイは、借りていた携帯電話を取り出した。
「短縮登録されているっていってたけど・・」
レイは短縮のリストを次々、表示させた。しかし、リストに出るのは[１]とか[２]とかの数字だけである。
[学校]と登録されているものはない。
「たぶん・・[１]ね」
レイはそう判断して、短縮[１]に電話を掛けた。
ブツ、ブツっと何度かの接続音の後、コール音がレイの耳に届いた。
「はいもしもし・・ミサトか？今、ちょっと忙しいんだ。どうしても女が離してくれなくてな・・そいつにてこずっている」
「え？」
落ち着いた男の声とは裏腹に、バックには盛大な戦場のＢＧＭが流れていた。
そう、ピストルや、手榴弾や、バズーカの音だ。
さらにはガラスの割れる音、人の悲鳴、壁の壊れる音、色々な音が電話の向こうの方でしている。
「仕事が終わったら連絡する、じゃ、また」
何が何だか解らないうちに電話は相手の方から切られた。
「・・間違えたかな？」
レイは気を取り直して次の短縮を掛けた。
「・・」
しばらくコール音が続いた後、ようやく電話か繋がった。
「わたしだ。・・葛城君、何のようだ。用件を話したまえ」
低く凄みのある声が電話機から聞こえてくる。
「あの・・もしかしておじさまですか？」
「・・？レイ君か？」
しばらくの沈黙の後、急に電話の相手の声が柔和になった。どうやら、レイとは知り合いのようである。
「あ、やっぱり、碇のおじさまですね」
「ああ、よくこの電話番号が分かったね。この電話番号は葛城君しか知らないはずなんだがね」
「いえ、その葛城先生が・・貸してくれた電話の短縮に登録されていたんです」
「・・そうかね。ところで、新しい学校はどうかね？といっても今日来たばかりだったね」
「それが・・、ナギサのリョクを・・見られました」
レイの声が暗く沈んだ。せっかくあれこれと手を尽くしてもらったのに、それらがすべてふいになってしまう。
「何だと・・そうか・・」
一瞬、ゲンドウの声がこわばった。
「こらバカシンジ！いつまでその女と見詰め合っているのよ」
丁度、その時アスカがシンジとナギサに嫉妬して怒りの声を上げた。
「すみません・・ご迷惑ばかり掛けて」
「いや・・それはいいんだが、今シンジと言わなかったかね？」
「どうしてもこうしてもない！ほら離れなさい、バカシンジ」
どうしてアスカが怒るのかと質問するシンジに、アスカがキれた。
「後ろの・・そのリョクを見た少女の方が言っていますが・・」
レイは後ろの様子を見て電話の相手に伝える。
「そのどちらかと替わってもらえないだろうか？レイ君」
「はい。分かりました」
レイは喧嘩している二人に近づいていった。
「な、何でそんなに怒っているんだよアスカ」
「うるっさいわね」
今にもアスカの拳がシンジに向かって振り下ろされようとしている。
「ちょっと、おじさまが電話替わってていってるから、替わって」
だが、レイはまったく臆することなくアスカに電話を渡す。
「？何よ・・はいもしもし？」
何故レイと話していた相手が、自分と替わって欲しいといったのか分からないが、電話機を渡されたので取りあえず電話に出る。
「アスカ君かね？」
「え？・・碇のおじさま！」
「ああ・・そうだ。ナギサ君とレイ君に会ったんだね」
「え、ええ。おじさま、あのおかしな二人と知り合いなんですか？」
「ああ。アスカ君、君はリョクを見たのかね」
「リョクって、あの不思議な力ですか？あれって一体何なのです」
「・・見たんだね」
ゲンドウの声に脅しのような凄みが加わった。
「はい・・けど・・」
「解った・・。そのナギサ君には色々あって・・今は言えないが訳があってね。すまないが、見たことに関して他言無用でいて欲しいんだ。シンジにもそう伝えて欲しい」
「おじさま・・どうして」
「すまない・・頼むよ。アスカ君」
「はい」
アスカはゲンドウの真剣な声に頷くしかなかった。
『かなりの訳ありみたいね。特にあのナギサって娘が』
「では、またレイ君に替わってもらえるかな」
「はい、解りました。ほら、おじさまがアンタに替われって」
「はいもしもし・・レイです」
「ああ、取りあえずそのままアスカ君と共に学校に通いたまえ」
「し、しかし、リョクを・・」
「心配はない、シンジは私の息子だ。アスカ君も問題ない。だが、なるべくリョクを見られないように注意したまえ」
「はい、わかりました」
「では、また連絡する」
「はい」
レイは電話を切った。
アスカは、レイの顔をじっと見ている。
レイもアスカの視線を感じて彼女の方を見る。
「へえー、ナギサちゃんて、言うんだ」
「はい、シンジさん。ナギサと呼んで下さいまし」
緊迫した二人をよそに、シンジとナギサは仲良く学校へ行こうとしていた。
「ちょ、ちょっとシンジ！」
アスカの気が逸れた。
レイも、シンジと仲良くしているナギサを見て緊張を解いた。
「あれが・・おじさまの御子息か・・」
シンジはアスカの跳び蹴りをくらっていた。
「無様ね・・｣
レイは冷たく呟いた。
「とても、あの碇のおじさまの息子とは思えないわ」
軽蔑の眼差し。
「ほら、さっさと行くわよ。バカシンジ！」
「い、痛い、痛いよアスカ！」
シンジは右耳をアスカに引っ張られている。
「あらあら、仲のよろしいことで・・」
そう言いつつも、ナギサはシンジの左手をしっかりと握っていた。
「あー！ちょっとアンタ」
それをアスカが見つけて大声を上げた。
『誰の許可とってそんなことをしているのよ』
幼馴染み、友達といった感が強かったせいか、アスカはシンジとは手を繋ぐということすらほとんどしていない。
記憶にあるのは、手を引っ張って学校に行く（これも一応手を繋いではいるが）、蹴り倒す、殴り倒す、張り倒すとかだけだ。
それなのに、この娘は、何の躊躇いもなく手を繋いでいる。
さっきは、膝枕をしてた。
自分もシンジに膝枕したけど・・それはこの娘に嫉妬したから・・。自分からシンジから、したいしてほしいの関係じゃない。
「私の名前はナギサです、アスカさん。アンタではありません」
アスカに強くアンタ呼ばわりされて、ナギサは少しむっとした。
今、ようやく転校してきて普通に話せる殿方に出会えたというのに。
「アンタなんか、アンタで十分よ」
「ナギサです・・くすん」
アスカの迫力に脅えて、ナギサの目に涙が溜まる。
「あ、アスカ！何でそうナギサちゃんに意地悪するんだよ！」
「！」
アスカはシンジの言葉に驚いた。
『シンジが私に怒ってきた。・・真剣に、しかも今日あったばかりの女のために』
ショックだった。
「シンジさん、ナギサで構いません・・くすん」
「アンタ、アンタ、アンタ！」
アスカはむきになってナギサに怒鳴りつける。
シンジ以外には比較的温厚なアスカにしては珍しいことである。
「えっぐ・・ナギサ・・」
すっかりナギサは涙目だ｡
「アンタ！」
それでも、アスカは容赦をしない。
自分で、自分に苛立っているようでもある。
「アスカ！」
「何よ！」
シンジの言葉に、アスカは噛みつく先を変えた。
『もとはといえばアンタが悪いのよ！』
「ほら、ナギサ・・いこう」
シンジとアスカが睨み合いに入ったところでレイがナギサの手を引いた。
「はい・・くすん・・。ナギサですぅ・・」
ナギサは握っていた手を放してレイと一緒に歩き出した。
「うぅー！」
「アスカ！」
「がぅ！」
アスカがシンジに先に仕掛けた。口先でも、腕っ節でも、アスカの方が一枚上手だ。
『ごきっ！』
鈍い音がした。
「・・くすん・・。また怪我をされているのですね・・」
「ナギサ・・治さなくていいから・・。碇のおじさまから人前で使っちゃ駄目って言われてたでしょう」
「はい・・レイさん。いつもすみません・・ありがとうございます・・」
レイに守られて、ナギサは学校へと急いだ。
「・・」
『だ、誰でもいい・・。わいに気付いてくれ・・』
ジャージマン・トウジの存在はすっかり忘れ去られていた。
「碇・・ずいぶんと電話で話し込んでいたようだが、誰からだ？」
とあるビルの最上階、極東本部長室には二人の男がいた。
一人は冬月コウゾウ。
彼は一応、もう一人の男、碇ゲンドウの上司ということになっている。
本ビル生物研究課に勤める頑固な教授上がりの科学者である。
そして碇ゲンドウ及びユイは、彼を補佐する助手ということなのだが、それはあくまで表向きの話である。
「冬月先生ですか・・」
「皮肉か。・・ここではお前の方が上だ。先生などと言われるとかえって気持ちが悪い」
「ふっ・・」
「私にも話せないことかね？」
「いや・・、ナギサがまたリョクを使ったそうだ・・」
「・・！」
冬月の顔色が驚くほど変化した。彼のところにはまだそんな報告は入っていない。まったく寝耳に水の話である。
「レイから連絡があった・・。葛城君のコールを使ってだ」
「・・またあの子達を逃がすのか？私は別に構わんが・・」
「いや、それはない。・・もう鬼ごっこも飽きただろう」
そういってゲンドウは引き出しから書類を取り出した。
書類には幾つかの研究所の報告書が混じっていた。そのさらに半数には赤で×が描いてある。
「私の居るところでは好きにはさせんさ」
「・・つぶしたのか？」
「挑戦状は向こうから叩きつけてきたのだ・・相手も覚悟の上さ」
「そうか・・止めても無駄だな・・」
「ああ・・」
ゲンドウの目が怪しく光った。
彼を知る者にとってそれは、悪魔の瞳だった。
第五話「力を持つ者」
終わり
第六話「おねむの時間です」へと続く
踊りマンボウさんへの感想はこ・ち・ら♪
すちゃらか裏話
作者 「どうも、毎度お世話になってます。踊りマンボウです」
ナギサ「皆様、お元気でしょうか？アシスタントの雪風ナギサです」
アスカ「・・ふん、付き合ってられないわね・・」
作者 「さて、今回の裏話は、雪風ナギサちゃんの誕生秘話です」
ナギサ「え、ええっ〜！わ、わたくしの誕生秘話ですか・・」
アスカ「・・あ〜あ、白々しい・・」
作者 「えっと、そのナギサちゃんですが、このすちゃエヴァ、すなわち二十六話の学園ものの設定で物語を書いてみようと思ったときに、生まれたキャラクターなのです」
ナギサ「えっと・・確か、アスカさんとかレイさんの主要なキャラクターは元気印なので、大人しいキャラクターが書きたいということでわたくしが生まれたのでしたわね」
作者 「そうです。ちょっと今は、当初の狙いとは変化しておとぼけキャラとなってしまいましたが・・」
ナギサ「え、ええっ？わたくし、おとぼけなキャラクターさんなのですか？」
作者 「ま、それはナギサちゃんの気にすることじゃないですよ。ナギサちゃんはナギサちゃんでいいので」
アスカ「・・この腐れ作者・・ナギサにばかり力入れてるし・・、いっぺん絞めてやろうかしら・・」
作者 「ただ・・その関係上、オリジナルキャラが予定よりかなり増えるかも・・」
ナギサ「そうなのですか？」
作者 「ま、じきに解りますから」
アスカ「・・そこまで続けば・・ね。ま、無理でしょうけど」
作者 「そういうことで」
ナギサ「皆様、また次回お会い致しましょう。・・ごきげんよろしゅう」
アスカ「・・今回、完全に無視したわね・・殺す！」
管理人（その他）のコメント
カヲル「お掃除お掃除♪」
アスカ「・・・・アンタ、何やってるの？」
カヲル「いや、前回君が血塗れにしたこのコーナーを掃除しているだけだよ」
アスカ「ああ、あのぐちゃぐちゃのジャージ男ね」
カヲル「まったく。僕は血をみるのが一番キライだって言うのに」
アスカ「ウソつくんじゃないわよ！！ アタシがタコなぐりにする度に自分の血ぃみてへらへら笑ってるくせに！！」
カヲル「それは君がヘブンズドアーの向こうの世界を見せてくれるからだよ。・・・・まあ、それはともかく、ナギサくんか・・・・また、僕たちの敵が増えてきたようだね・・・・」
アスカ「はぁ？」
カヲル「シンジ君に急接近する女の子はみんな敵なんだよ。僕にとってはね」
アスカ「・・・・それが何で、「僕たち」になるわけ？」
カヲル「おや、君もシンジ君をつけねらう一人だろう。言うなれば戦友、というわけさ」
ばきいいっ！！！
アスカ「アタシをアンタなんかと一緒にしないでよ！！ けったくそわるい！！」
カヲル「ぐふっ、男と女は、好意に値する対象としては僕にとって同価値なのさ・・・・」
アスカ「アタシにとってアンタはナギサ以上の敵よ！！」
カヲル「・・・・・ふっ、シンジ君・・・・君もこんな幼なじみを持って・・・・大変だね・・・・」
アスカ「ぬぁんですってえええええええ！！」
どごっ！！ べきっ！！ ぐしゃぁあああ！！
カヲル「ぐはぁっ・・・・・うふふふふっ・・・・（ばたっ）」
アスカ「ほら、また自分の血をみてにやにやと笑ってる・・・・」