ミルク世紀すちゃらかエヴァンゲリオン

著者 踊りマンボウ   

第四話「ジャージメーン」

   

「さて、気も晴れたところで・・どうしよう、この娘」

 アスカは、街路樹にもたれかかり眠っているナギサを見た。

 彼女は、騒ぎの中まったく起きる気配が無かった。

 熟睡を通り過ぎて、仮死とも思えるほど深い眠りに就いているようだ。

 可愛い寝息が、アスカの耳に届いてくる。

「すぴー」

「う、うう・・」

 それと同時にシンジの苦しげなうめき声が聞こえる。

 容赦無いアスカの攻撃の前に、再び死地が見えているようである。

「・・そ、そこにいるのは・・父さん?・・やっぱり、僕はいらない人間なんだ・・」

「ちょっと、殴りすぎたかな?」

 少しだけ、後悔するアスカ。

「か、母さん・・何がもういいの?・・良くないよ!僕を置いていかないで・・」

 何やら深層的なシンジの不安が悪夢となって表に出てきているようだった。

 彼の顔は、苦痛と悪夢で痛ましい表情を見せていた。

「・・」

 ふと、アスカは自分も膝枕してみようかなと思った。

 シンジの今の苦しみ。それは自分が引き起こしたことだが、ちょっとやり過ぎの感があった。

 その罪滅ぼしと、さっきナギサが見せてくれた風景への憧憬。

『自分に似合わないかもしれないけれど、してみようか』

「誰も居ないわね」

 アスカは念のため左右を見て誰も何も来ていないことを確かめてそっと地面に正座した。

 コンクリートの冷たさに彼女は瞬間顔をしかめる。

 それでも、彼女はシンジを自分の膝の上にのせた。

「・・」

 かーっと、アスカの顔が真っ赤になる。

『わ、わたし・・何てことを・・』

 道の真ん中で、幼馴染みのシンジに膝枕して・・。なんて恥ずかしいことを自分はしているんだろう。

 けれど、決して嫌じゃない。こんなドキドキ、初めてだ。

「う、・・ボンレスハム・・」

 だが、シンジの呟いた言葉は・・アスカの逆鱗に触れた。

 わざとではない。ただの夢の上の寝言だ。

 頭では解っていたが、彼女は再びキれた。拳が高々と振りあげられる。

「お、あれは惣流やんか。おーい惣流、こんな所で何しとんや」

 そこへたまたま通りかかる男が一人。

 シンジ、及びアスカのクラスメートの鈴原トウジは、予定通り遅刻していた。

 実は、昨日妹の宿題の手伝いをさせられていて、寝坊したのだ。

 ちなみに、彼はいつもジャージで登校しているところから、ジャージメーンもしくはジャージマンと呼ばれている。

 今日も、愛用の黒のジャージを着て来ている。

 制服はいちおう仕立ててあるのだが、学校が服装を厳しくいってくる卒業式以外は、着たことが無い。

「げっ・・、こ、これはマズひ・・」

 シンジに一撃を加えようとしていたアスカは、まるで上から氷水を浴びせられたように顔を青ざめた。

『こ、こんなところ見られたら・・』

「ほう、膝枕か?朝からおのろけやなぁ」

 だが、トウジはいつの間にかすぐ側に来ていた。

『はぅ』

 時すでに遅し。

 合掌。

「ち、違うのよ、ジャージマン。こ、これはその、宇宙からの電波がシンジにボンレスハムで、緊急事態で、熱膨張なのよ」

 それでも、アスカは言い訳をした。が、動揺のあまり何を言っているのかまったく解らなかった。

「お前、なに言うとんや。どっか打ったんか?」

 本人すら分からないものが、他人に伝わるはずもない。トウジは、きょとんとしている。

「う、うるさいわねジャージマン」

「・・まあええけどな・・」

 普段のアスカなら、アンタと呼んでいるのに、今日はジャージマンを連呼している。

『かなり惣流の奴、動揺しとるなぁ』

 トウジは冷静に、アスカを観察していた。

「それよりも、あの娘・・誰や?えらいべっぴんさんやけど」

 アスカの動揺を面白げに見ていたトウジは、眠っているナギサを見つけた。

「え?あ、良く解らないけど・・学校への道を聞いてきたのよ」

 トウジの興味がそちらの少女に移ったのにアスカは安心したのか、冷静な口調に戻ってこたえた。

 それと同時に、もうこれ以上恥ずかしい姿を晒したくないのか、そっとシンジの頭を地面に置いて、正座を解いた。

「何処の学校や?」

「公立第三新東京中学校・・」

「ほお・・随分聞いたことあるような学校やなぁ」

「アンタバカ?私たちの通ってる学校よ!」

「おー、おー、ナルホドなぁ・・で?なんで寝てるんや」

「さあ・・」

 アスカは首を傾げる。

「まあええわ・・。一応、転校生なんやな」

「う、うん」

「だとしたら、こんなところで眠らしといたら風邪引いてしまうわ。学校の保健室に運んどいたらええやろ」

 そう言って、自分とナギサの鞄をアスカに押し付けてトウジは寝ているナギサを抱きかかえた。

「あ、ちょっとジャージマン・・もう、鞄を四つ、私一人で持てって言うの?・・こら!バカシンジ起きろ!」

 四つも鞄を持てるはずも無いので、無理矢理シンジを叩き起こした。

「きゅう・・」

 いや、叩いたが起きることなく、余計に状況が悪化した。。

「何しとんや。先行くで!」

 トウジは二人を置いてさっさと歩き始めた。

   

「あの・・ナギサまだ来てないんですか?」

 公立第三新東京中学校の職員室で、転校生綾波レイは、担任教師の葛城ミサトと向かい合っていた。

「そうなのよ・・。こっちとしても困ったことよ?何か心当たりは?」

「いえ、ナギサの行きそうな場所は・・まだ来たばかりですし・・道に迷ったのかも・・」

 レイの紅い瞳に不安の陰りが見える。

『ナギサ・・どうしたの?・・まさか発作が起きたんじゃあ・・』

 同居人のナギサのことを案ずると、嫌なことばかり思い浮かんでくる。

 しかも、目の前の、担任教師葛城ミサトを見ているとよけいに・・。

 日本では珍しくない、黒い髪、黒い瞳。ナギサが漆黒なのに対して、やや青みがかった髪と茶色の混じった瞳。

 それは確かにナギサを連想させたが、別に問題ではない。

 問題は、彼女の首につけている十字架のペンダントである。

『嫌なことを思い出すわ・・』

 シンジとぶつかった時とは別の痛みが頭に走る。と同時に、レイの心にも痛みが走った。

『あの頃は・・』

「先生!私・・ちょっとナギサを捜してきます!」

 過去を思い出して、レイは得もいわれぬ不安にとらわれた。それで言うなり、レイは走り出した。

「あ、ちょっと待ちなさい!綾波さん・・」

「・・」

 レイはくるりと振り返ってお辞儀をした。非礼を詫びるということだろうか。

「これを持っていきなさい」

 ミサトは、決してレイを止めるために呼んだのではなかった。振り返ったレイに、自分の携帯電話を投げつけた。

「見つかったら連絡して!番号は短縮登録してあるから」

「はい、ありがとうございます。葛城先生!」

 元気よくレイは職員室を出ていった。

「あ、それと廊下は・・」

 走ってはいけないと言うつもりだったが、すでにミサトの視界からレイの姿は消えていた。

「素早いわね・・」

 溜め息を吐いてから、ミサトはもう一つの携帯電話を取り出した。

「あー!」

 取り出してからミサトは重大なことに気付いた。

 レイに渡したのは、プライベートの私用電話だった。本当に渡すつもりだった、電話は今、手の内にある。

「ま、まずいわ・・」

 ミサトは、レイが不必要な電話を掛けないことを祈るしかなかった。

 電源は切って渡したはずだから・・こちらから掛けても多分・・繋がらないだろう。

「で、でも・・席はずすっつうわけにはいかないわね・・」

 ミサトは深い溜め息を吐いた。

   

「ナギサぁ!」

 レイはナギサを捜して走っていた。

 ちなみに、携帯の電源は入れている。渡された時、もしかして学校にナギサが来た時、この電話に連絡が入ると思って入れておいたのだ。

「ナギサぁ・・」

 声を出しながら、辺りを見回す。

 居ない。

 ただ、漠然と捜しても、見つかるはずも無いのだが・・。

「どこに居るの?」

「・・結構な仕事やなぁ・・」

 必死にナギサを探しまわるレイの前に、ジャージマン・トウジが現れた。

 両腕は、しっかりとナギサの体を抱いている。

 ナギサは、まったく目を覚ますことなく、すやすやと安眠状態である。

「あー!・・アンタ!」

 レイはナギサを見て叫び声を上げた。

「な、何や。わ、わい何もしとらへんで・・まだ」

「ナギサを離して!この変態ジャージ男!」

 確かにレイの言う通り、トウジの姿はどこから見ても怪しかった。

 黒いジャージの上下を来ていて、やや不良っぽい顔つき。

 彼の友人であれば『トウジらしいな』で済むのだが初めて会うレイにとって彼の格好は強烈すぎた。

「ご、誤解や!」

 それでも、ナギサを解放しないトウジ。

 突然、変態呼ばわりされて、かなり動揺していて気がまわらないようである。

「五階も六階もへったくれもない!ナギサを離しなさい!でないと・・」

「な、何や・・」

「実力行使!レイちゃんパーンチ!」

 瞬速の勢いで、レイはトウジに近づくと拳を上げた。

「へ・・」

 瞬きの間に、レイはすぐ目の前に来ていた。

 トウジがそれを理解した時には、すでに彼は倒れていた。

「な・・何があったんや」

 まったくレイの動きが見えなかった。それにさっきまで両腕に掛かっていた重さが失われている。

「ナギサ!大丈夫?」

「すぴー・・」

 ナギサはそれでも寝ていた。

 心配するレイをよそに、あいかわらず気持ち良さそうに眠っている。

「ま、負けた・・」

 トウジの視界には青空と街路樹が見えている。

「何が起こったかわからへんなんて・・」

 だが、しばらくして急に痛みが顔を襲ってきた。

『今ごろになって・・顔を殴られたんやな』

「あら・・アンタこんなとこで寝て何してんの?」

 そこへアスカが追いついてきた。

 気がついたシンジに無理矢理鞄を3つ持たせて、自分の鞄だけ彼女は持ってきているようだ。

「・・惣流・・水色」

 自分を見下すアスカに、ぼそりとトウジは告げた。

「!」

 言った瞬間、トウジは踏まれた。

「・・」

 顔面をアスカの靴が蹂躪する。ぐりぐりと苦しみを刷り込むように顔全体を靴で踏んでいる。

 トウジは、悲鳴すらあげられず、靴の下で痙攣した。手足が、苦しみから逃れようと必死に空(くう)を掴む。

 その激痛は、想像を絶するものだった。

「あら・・」

「あれ?」

 アスカはレイに気付いた。レイはアスカに気付いた。

「アンタ!」

「あなた!」

 妙なハモリが二人の間に成立した。

「ど、どうぞ」

「さ、さきに」

「アスカぁ・・待ってよぉ・・」

 朝からぼろぼろのシンジが、ようやくアスカ達に追いついてきた。

 彼は鞄3つを手に持って、ふらふらの足取りでとても辛そうだ。

「あれ・・どうしたの?トウジ」

 アスカの足の下で、トウジはぐったりとしていた。さっきまでもがいていた手足からも力は失われていた。

「アスカ?」

「・・」

 シンジの言葉に、アスカは黙って足を退けた。

 トウジは、泡を吹いて白目をむいていた。

「トウジ!」

「・・」

 トウジは気絶していて返事はない。

 シンジは取りあえず彼をアスカの近くから待避させた。

 レイとアスカの間のただならぬ空気を感じ取って、とばっちりがくるのを恐れて逃げたともいう。

 二人の間に、密度の高い緊迫した空気が流れる。

「・・確か、ナギサだったわよね。その娘・・」

「ええ・・どうして名前を?」

 レイは身を硬くした。

「どうしたもこうしたもないわ。本人がそう言ったんだもの」

「そう・・」

「で、その娘、何者?」

「え・・?」

 本人が言ったのなら名前は知っているのも不思議じゃないと思って警戒を解こうとしたレイは、アスカの質問にドキリとした。

 まさか、正体を知られてしまったのだろうか。

 互いに鋭い視線と視線がぶつかり合う。

「え、じゃないわよ・・。何だかおかしな光・・確かリョクとかリキとか言ってたっけ・・それを使ってシンジの怪我を治すなんて・・尋常じゃないわ」

「見たの・・?」

「見たくて見たんじゃないわ。そのナギサって娘が勝手にしたことよ」

「・・」

「ふわー、よく眠りましたわ。あらレイさん、おはようございます」

 消すか、それとも逃げるかと悩んでいるレイの腕の中にいるナギサが、ふと目を覚ました。

「あら、じゃないわよ。ナギサ!あんたあの力、使ったの?」

「ほえ・・。あ、ええ。ちょっと緊急の事態がございまして・・いけませんでしたか?」

 ナギサは邪気の無い笑顔を見せる。

「・・はあ・・」

 レイは深い溜め息を吐いた。

 また、逃げなければいけないのだろうか。

「また・・か」

「あらあら、せっかく治しましたのにこんなになってしまって・・まあまあいけませんわ」

 ナギサは、道の端の方で成り行きを見守っているシンジを見つけた。彼の顔には無数の引っ掻き傷やら打撲の痕が浮かんでいる。

 それを見て、ナギサは彼の方に歩いていった。

「・・」

 シンジは少女が近づいてくるのに恐怖を一瞬抱いた。

 だが、ナギサの優しい空気に包まれるやいなや、その警戒を解いた。

「ちょっと待って下さいまし・・」

 ぽう、と緑色の光が彼女の手から発せられる。

「え・・?」

 シンジは、少女の行為を初めて見たのだが不思議なことに恐怖を抱くことはなかった。

「動かないで下さいね・・」

「は、はい・・」

 ナギサは、アスカが見た時のような鋭い目つきにはならないまま、力を行使した。

「・・痛みが引いていく・・」

 少女の手から暖かい何かが出てきて、自分の頬を優しく撫でている。

 その後には、まるで嘘のように痛みが消えて行く。シンジは、信じられなかった。

 が、事実だった。

「君は・・」

 シンジが問い掛けると少女はにっこりと笑った。

『天使のような優しい笑顔だ』

 シンジは呆然と少女を見つめた。

 そう、さっき見た少女だ。

 闇の世界から戻ってきた直後に見た、笑顔。

「・・ナギサ・・」

 レイは、力を行使する親友を悲しい表情で見ている。

「・・」

 アスカは、そのレイの顔を見て言葉に詰まった。

 それ程までに、彼女の顔は悲しみに満ちていた。

『わ・・わいのほうも治して・・ほしいん・・やけど・・』

 トウジはすっかり忘れ去られていた。

   

第四話「ジャージメーン」   
終わり   
第五話「力を持つ者」へと続く   


   

すちゃらか裏話

   

作者 「毎度、こんにちわ。作者の踊りマンボウです」

ナギサ「皆様、こんにちわでございます。アシスタントの雪風ナギサです」

アスカ「どうも、ゲストのアスカです・・ってなにやらすのよ」

『どげしっ☆』

 作者、アスカに蹴りを見舞われる。

作者 「あいやぁ〜、いて〜でないの。・・いきなり、何をするかね、この人は」

ナギサ「あの・・喋り方・・おかしくありませんでしょうか?」

アスカ「いいのよ、こいつはいつもこれくらいなんだから」

作者 「ということで今回は、アスカの下着の色についてです」

『ばきゃ★』

 アスカ、再び作者を蹴る。

アスカ「・・はあ、はあ・・何考えてんのよ、この腐れ外道が!」

ナギサ「あらあら、血がこんなに・・。まあまあ大変ですわ」

 ナギサ、リョクを使い作者の傷を治癒する。

作者 「あうあう・・、ナギサちゃん、ありがとう」

ナギサ「いえいえ、これもアシスタントの勤めですわ」

アスカ「・・ちっ・・」

作者 「作者、復活!・・ということで、アスカの下着の色は、インターネットのとあるページのタイトルから採りました」

ナギサ「水色アスカ・・でしたでしょうか?」

アスカ「本当に単純ね。・・そんなこと、わざわざここで書かなくてもいいでしょ!」

作者 「ま、いいじゃないの」

アスカ「それよりも・・もっと派手なネタばらしないの?・・ここの資料なんかどう?」

作者 「・・ここのっていう程、資料作成してないけど・・」

アスカ「なになに・・すちゃエヴァは・・三ないし四部に分かれる予定?」

ナギサ「・・」

作者 「ま、まだ一日目も終わってないけど・・ね」

アスカ「・・無理よ。あんたのへっぽこ根性じゃね」

作者 「・・どうせ・・ぶつぶつ・・」

 作者、いじけて角の方で『の』の字を書き始める。

ナギサ「・・そ、それでは、皆様。またお会い致しましょう。ごきげんよろしゅう・・」


踊りマンボウさんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「はーっ、はーっ、はーっ・・・・」

カヲル「どうしたんだい、そんな荒い息をして」

シンジ「気のせいか、その辺に血痕がぽとぽとと・・・・って、ああ、トウジ!!」

カヲル「ほう、コイツはむごい。ぐちゃぐちゃのべっちゃべちゃだな」

アスカ「ふん、アタシの下着を見ようなんて不埒な奴はジゴク行きの超特急ね!! さあて、つぎは踊りマンボウとか言う奴を仕留めに行くわ!! まったく、この分譲住宅は青柳といい12式といい、悪党の巣ね」

カヲル「おや、下着を見た奴がジゴク行きなら、シンジ君も、碇ゲンドウもそうなんじゃないのかい?」

アスカ「う゛・・・・そ、それは・・・・」

カヲル「ほら、今ならシンジ君は鈴原トウジに注意を奪われていて背中がおろそかだよ。マサカリをさくっと振り下ろせば・・・・」

アスカ「し、シンジは特別なのよ!!」

カヲル「ほうほうほう(にやにや)」

アスカ「な、な、なによっ!!」

カヲル「べつに〜」

アスカ「・・・・やっぱりコイツ、かなり作者の電波に毒されてるわね・・・・」


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