ミルク世紀すちゃらかエヴァンゲリオン

著者 踊りマンボウ

第弐話「転校生 壱」

   

 家を出た二人は走っていた。

 アスカは、シンジのペースに合わせてやや遅めの走りだ。

 陸上部からも勧誘のあったその足は、疲れを知らないように軽やかだった。

「アスカ・・そんなに急がなくったって」

 はあはあと息の上がるシンジ。朝食を詰め込んだ直後の運動だけに、余計に応えるようだ。

「もう、だらしないわねぇ。じゃ、ちょっと休むわよ」

 ペースを落として歩きになるアスカ。まったく息が乱れていない。

 彼女にとっては、授業前の軽い運動ということだろうか。

 それとは対照的に、シンジの方はかなり苦しそうだ。

 完全に立ち止まって、胸に手を当てて肩で息をしている。しかも汗が額に浮き上がっている。

「・・何でそんなにアスカはタフなの」

「私がタフなんじゃなくて、あんたがひ弱なの」

「そうかなぁ・・」

「そうなの!」

 歩いているにも関わらず、だんだんアスカの歩くペースが上がってきた。

 シンジの言葉に、また怒っているようだ。

『まるで、怒れる大魔神みたいだ』

 言葉には決して出せない感想をシンジは持った。

 確かに、肩をいからしてズシンズシンとしっかりと地面を捉えて歩く様はそう見えるかもしれないのだが・・。

「アスカ・・そんなに早く歩くんだったら、走っているのと変わりが無いよ」

「じゃ、走りなさい!」

 シンジの手を強く握り引っ張る。

「わ!ちょ、ちょっと」

「ほら、走りなさい!」

 まるで突き飛ばすように前にシンジを押しやって後ろから彼の走りの手助けする。

 後ろから、ぐいぐいとシンジの背中を押すアスカ。

「アスカ?駄目だって・・」

 押す力は次第に強さを増してくる。自然とシンジは走りださざるを得ない状況になってきた。

 たっ、たっと地面をシンジの足が蹴り始める。

「ほら、走る走る!」

「あ、アスカ」

 結局息を整えることも出来ずにシンジは再び走り始めた。

   

「あーもう、ちょーやばいって感じだよね。転校初日から遅刻だなんてカッコ悪すぎ」

 一人の少女が、シンジ達と同じように走っていた。

 青いショートの髪に紅い目。シンジ達の通っている学校とは違う制服。快活そうな印象を全体から受ける。

 少女の名は綾波レイといった。

「ホント、ナギサったら私を置いてさっさと先にいっちゃうんだから・・」

 たん、たん、たた。

 一気に道路を渡りジャンプ。どちらかというと力が目立つアスカとは違い、その走りやジャンプには優雅さがあった。

「でも、あの娘は仕方ないか。・・トロイもんね」

 レイは、うんうんと自分で納得しながら走る。

 どうやら、彼女には連れがいるようだ。本人の言うことが間違いでなければとろいそうだが・・。

「発作とかおきてなきゃいいけど・・」

 不意に、レイの顔が曇る。何やら連れのナギサについて心配があるようだ。

「やっぱり、朝御飯抜いてでも、ナギサと一緒に登校するべきだったかなぁ」

 レイは、ふと十数分前のことを思い出していた。

   

 その時レイは朝食を抜くか、それとも遅刻するかもしれないけどしっかりと朝食を食べるかの選択に迫られていた。

 横では、彼女の親友の雪風ナギサが食事を終えて片付けにかかっていた。

「あー、ナギサ!あんたもう食べ終わってんの」

「ええ、レイさん・・それが何か?」

 艶のある黒い髪と同じ色の瞳の少女、ナギサはレイの言葉に少し首を傾けて応えた。

 元気なレイに対して、とても大人しいのんびりした感じの少女ナギサ。

「何かって・・どうしてあんた起こしてくんなかったのよ」

 すました顔というより、どちらかというと天然のおとぼけ顔のナギサの自慢の長い髪を引っ張るレイ。

「きゃあ、何をなさいますのレイさん」

 ナギサは悲鳴を上げたが、どことなくおっとりとした印象のある悲鳴だった。

「何をじゃない。どうして起こしてくんなかったのよ」

「わたくし・・レイさんを何度も起こしましたわ。でも・・レイさんはちっとも起きなかったのですの」

「じゃあ聞くけど、あんたどんな方法であたしを起こしたの?」

「はい・・ちょっと待ってくださいまし」

 ナギサはそう言って何やら部屋の方に道具を取りに行った。

 帰ってきた時、彼女が手にしていたのは銅鑼だった。

「ちょ、ちょっとナギサ!」

「この銅鑼を耳元でぇ・・」

 ナギサはレイの耳の近くで銅鑼を思い切り叩いた。

「えい」

『ぐわーん』

「はにゃぁ」

 耳元で銅鑼の大音響を聴いたレイは一瞬何も聞こえなくなった。体まで痺れるような強烈な音だ。頭の中でお星様が幾つも飛んだ。

「な、なぎしゃ・・」

「はい?」

 耳栓を外したナギサは、邪気の無い笑顔を見せる。眩しいまでの素直で良い笑顔なのだが、今のレイにはその後ろに悪魔の影が見えていた。天使の笑顔に、悪魔の所業である。

「あんたねぇ!何かもっと別の方法ってものがあるでしょう!」

「だってぇ・・揺すっても叩いても起きないんですもの・・」

 レイの怒気に押されて少したじろぐナギサ。

「・・まったく、これのせいだったのね。あんな夢見たのは・・」

「あんな夢って、何ですの?レイさん」

「あたしが、何故かお寺の鐘の中にいて、外から誰かがガンガンその鐘を叩いている夢・・」

「まあ、そうでしたの。なかなか楽しい夢ですわねぇ」

「本気で言ってるの?ナギサって、・・あーっ!もうこんな時間だ。あーもう、ナギサと話してるとあっという間に時間が経っちゃうんだから」

「では、お先に参りますのでレイさんも遅れないようにお気を付けを」

 ナギサは時計を見て、鞄を手に持ち玄関へと急いだ。

「ナギサ!」

「レイさん。御飯はよく噛んで食べないと消化にわるいですよ」

 と、玄関に行ったはずのナギサが戻ってきて、言い忘れていたことを告げた。

「大きなお世話よ」

 レイが仏頂面で返したとき、ナギサはすでに居なかった。

   

「だけど、大きなお世話と言ったのに、あたしったらバカ正直によおーく噛んで食べちゃうんだもんなぁ」

 どうもナギサの言うことには逆らえないというか、もっともだと思ってつい従ってしまう。で、実行した後、後悔することになってしまうのだ。

「子供じゃないんだけどね」

 しゅたっ。

 また軽やかにレイはジャンプした。特に、何か障害物があったということでもないのだが、気分が高揚していて思わず跳んだのだ。

 まるで陸上選手のような綺麗なジャンプ。

「ほら、バカシンジ。もっと速く走りなさいよ!」

「無理だよ!もうこれ以上は・・」

「・・あれ」

 男女の話し声が道の角の奥から聞こえるのにレイは気付いた。

『近い・・』

 そう思ったがが、反応できなかった。

 着地の直後で、体勢を整える途中だからだ。

「あー!」

 自分と同い年の少年がすぐ目の前に出てきた。

『ブレーキ!止まれーぇ』

 レイの心の中だけにブレーキの音が響く。

 無論・・止まるはずもない。

 ☆ごいん☆

 星が少なくとも十個以上飛んだ。

『なんだか見覚えのある星・・そう朝に・・』

 レイは幾つか飛んだ星を見て、そう思った。

「きゅう」

「っ・・とと」

 シンジはもろにレイと頭からぶつかってのびた。

 アスカはそんなシンジとレイをうまく避けて立ち止まった。

「・・あ、イタタッ・・」

 レイは頭を押さえる。今度は頭を銅鑼代わりに思いっきり叩かれた感じだ。

 ジン、ジンと痺れに似た痛みが頭に響く。

「・・はっ!一体、僕は・・」

 普段から叩かれ馴れているのかシンジは意外に早く気絶から回復した。

『白い・・足?そしてその先には・・』

 ハッキリしない意識でシンジは懸命に考えた。

「あ、すみません。その大丈夫ですか?」

 シンジの方も心配なのは確かなのだが、アスカはレイに声をかけた。

「ん・・はい」

 答えつつ、痛みに顔をしかめるレイ。ズキリとひときわ大きく痛みが響いてきたようだ。

「ほら、バカシンジ!どこに顔突っ込んでんのよ!」

 アスカは、レイのスカートの中に頭を突っ込んでいるシンジを殴りつけた。

「ごぺ」

 何が何だかよく分からない中で、シンジは地面にしたたかに顔を打ちつけられる。その結果として彼の意識は遥か彼方へと旅立っていった。

「あ・・」

 そのやり取りの中で、レイは今自分に起こっている恥ずかしいことを理解した。スカートの中に少年の頭が入っている。

 それで慌てて身を引いたのだが、その所為でシンジの頭はもろに地面とぶつかることになった。

 追い撃ちに、さらなる追い撃ちが加わった。

「ぐげ」

 また短い悲鳴をあげるシンジ。

「あやや・・って、もうこんな時間だ。あの急いでるから・・そのごめん。その人にも謝っといて。ホントごめん、じゃっ!」

 パンパンと足やスカートについた埃を軽く払うとレイは立ち上がり猛然と走っていった。

「ごめんねぇぇぇぇぇ!」

 ここが整備された道路でなければきっと土煙がもうもうと舞い上がったであろう、素晴らしい走りだった。レイはややエコーがかっている謝罪の言葉を残してあっという間に視界から消えてしまった。

「・・何よ、あれ」

 珍しく相手の勢いに飲まれてしまったアスカは、呆然としていた。あまりのレイの行動の素早さについていけなかったのだ。

「・・何があったの?」

 その直後にシンジが意識を取り戻す。

 彼は常人ならざる回復力を持ち合わせているようだ。さすがアスカの幼馴染みというべきだろう。

「うるさいわね!」

「そんなぁ・・」

「ほら、もうぐずぐずしてないで行くわよ」

 アスカは手を差し出してシンジが立ち上がるのを手助けした。

「・・とほほ」

 何だかよく分からないまま、シンジはアスカと共に走り出した。

 まだ、学校までは距離がある。

 時間は・・無い。

  

第弐話「転校生 壱」

終わり

第参話「転校生 弐」へと続く


    すちゃらか裏話

   

作者 「こんにちわ、踊りマンボウです」

ナギサ「初めまして、雪風ナギサと申します。皆様、何とぞよろしくお願い致します」

作者 「本当にとーとつなのですが、ここでは、本編をフォローする形で、色々書きたいと思います」

アスカ「ちょっと、マンボウ野郎!格好つけないで、ただ単に、情景描写とかが苦手っていえば」

作者 「・・はい、彼女の言う通りです。ということで、今回は私の大のお気に入りの雪風ナギサちゃんについての補足です」

ナギサ「わたくし・・ですか?」

作者 「そうです。ナギサちゃんの外見に付いて、あんまり詳しく書けなかったのですが・・。ずばり喩えると、SS版のエヴァ2の山岸マユミ(眼鏡、ホクロ無し)・・かな。もしくは、エターナルメロディの紅 若葉です」

ナギサ「たしかに・・長い黒髪(?)ですが・・」

作者 「少しおとぼけで、とても可愛いというキャラクターとしては、エタメロの方があってます。今では彼女の顔を思い浮かべながら書いています(マジ)。燃えてます!」

アスカ「でも、最初はエタメロの楊雲(ヤンユン)とか言ってなかったけ?」

作者 「き、気のせいだよ。はっはっはっ!」

アスカ「誤魔化さないで!ハッキリと言いいなさい」

作者 「・・じゃ!」

アスカ「じゃ!じゃない!待ちなさい!」

 作者、逃げる。アスカもそれを追いかける。

ナギサ「ではまた、第参話でお会いしましょう」

   


踊りマンボウさんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「うふふふふふ」

カヲル「・・・・なにをそんな酷薄な笑いを浮かべているのかな・・・・って、その右手に持った青竜刀と、左手のマサカリは・・・・何かな?(汗)」

アスカ「シンジめ・・・・ぱんつ見るだけならまだしも・・・・突っ込むとは・・・・ふっふっふ・・・・」

カヲル「シンジ君からなら、書き置きがあるよ」

アスカ「え?」

カヲル「ええと・・・・・「後は任せるよ、カヲル君」・・・・だそうだ」

アスカ「シンジ・・・・・逃げたわね・・・・・」

レイ 「まったく、ひとのスカートに顔突っ込むなんて、シンちゃんも大胆なんだからぁ(ぽっ)」

アスカ「そのぽっ、はなによ!! あんた!!」

  


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