シンジが夏休みの成果を試されるプールサイドに立ったのは、
他の補習組の生徒たちがテストを終了してしまった後だった。

「ようやくの登場だな、シンジ君」

いつもの男臭い笑みを浮かべる加持に謝ってから、シンジは準備運動を始めた。
緊張で心臓が爆発しそうだった。

(大丈夫、アレだけ特訓したんだから)
(ボクはアスカとレイの地獄の特訓に耐えたんだから)

そう自分に言い聞かせていると、あの封印された記憶までもが甦り、
シンジは気分が悪くなってしまった。
慌てて悪夢の記憶を振り捨て、気を取り直す。

(もう、ボクは泳げるんだ・・・・沈んだり・・しない・・ハズ・・・・)
(だから・・・・その、・・・・逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃ・・・・ )

シンジは顔を伏せ、大きく息を吸い込む。
それからゆっくり顔を上げ、キッと瞼を開く。

(そう、逃げちゃダメだ!)

そして、加持に促される前に自分からスタート台に上がる。
そこでもう一度深呼吸をすると、加持を振り返って宣言する。

「行きます」

そう言葉を残すと、シンジは大きな水飛沫を上げて飛び込んだ。





「わっちゃ〜!!」
「アレは痛い・・・・」
「失敗だったわね。スタートまで手が回らなかったワ」
「ゴメンね、シンちゃん」
「ほんでも、何とか進んどるで」
「必死に水と格闘する君の姿は・・・・好意に値するヨ」

シンジがスタートした後、いつもの面々が何処からともなく、
わらわらとプールサイドに現れた。

「おや? どうしたんだい、君たち」
「シンちゃんの応援です」

加持の質問にレイが即答した。
ソレを補足するようにアスカが続ける。

「でも、あのバカ。アタシ達が見てるって知ったら、
 緊張して実力の半分も出せないに決まったるんだモノ」
「だから、今まで隠れてたんです」
「そ〜ゆうコトォ〜」
「って、おい。なんで葛城が居るんだ?」

生徒達の後ろにはミサトの顔があった。
長いつき合いだ。
理由など簡単に想像できるが、一応聞いてみる加持だった。

「あら、ご挨拶ねェ〜。かわいい教え子が頑張ってる所、
 陰ながら応援したいっていう担任の心意気を・・・・」
「あぁ、分かった、分かった。しかし、なんでリッちゃんまで」
「わ、私は校医として、万一の場合を考えて・・・・、そ、そう。
 生徒がおぼれた時の救急医療の準備をしてるだけよ」

一同の不審な視線がリツコに注ぐ。
さらに見ると、なぜか今年赴任してきた伊吹マヤを始め、
青葉や日向の姿も確認された。

「私は・・・・先輩が楽しそうにしてるんで、その。
 何があるんだろうなって、気になって・・・・」

どうやら楽しげなミサトやリツコにつられて、ワケも分からず野次馬に来たようだ。
青葉と日向は、そんなマヤにくっついて来たのだろう。
さすがの加持も呆れてしまって、苦笑を浮かべるだけだった。


そして極めつけは・・・・

「おじさま! それにおばさまも!」

いつの間にか碇夫妻が現れていた。
それに気付いたアスカは、思わず叫んでしまった。

「あぁ、その・・・・。コレはだな」
「あらあら、テレちゃって」
「ゆ、ユイ!」
「あのね、アスカちゃん。
 私達もアナタ達と同じなの。
 この人も、シンジが水泳の補習テスト受けるって聞いて、
 居ても立ってもいられなかったらしいの」

不思議なモノを見るようなその場に居合わせた全員の視線に、
ゲンドウは何とも言えない表情を眼鏡の下に隠そうとしているようだった。
それでも、耳まで真っ赤に染まっているコトに、
アスカやレイ、マナも気付いていた。

「碇! 仕事を放っておいて、何を遊んどるんだ!」
「冬月」
「ん? なんだ、この人だかりは?」
「教頭先生・・・・」
「イヤ、水泳の補習テストなんですよ、教頭」
「それでシンジが泳いでるんですよ」
「おや、ユイ君まで。そうか、シンジ君が・・・・。なるほど」
「なんだ、冬月。その目は」
「ん? なんでもない」
「言いたいコトがあるなら、はっきり言ったらどうだ」





そんな場外での喧噪など知る由もなく、シンジは必死に泳ぎ続けていた。

(や、やっと半分・・・・。が、ガンバんなきゃ・・・・)

精一杯水を掻き、力の限り水を蹴りつけているが思うように進んでくれない。
一生懸命なのは分かるが、アスカらの目には今にも沈みそうでハラハラしてしまう。
バシャバシャと派手に水飛沫が上がっている。

(シンジったら、余分な力がかかってるのヨ!)
(シンちゃん、教えた通りにやればいいの!)
(シンジ君・・・・一生懸命で、かわいい・・・・)

3人娘はそれぞれの感慨を抱きながら、
祈るようにシンジを見つめている。

(シンジ君、頑張って。そうすれば、ボクがアレやコレや・・・・)

珍しく真剣な表情のカヲルは、
何やら怪しげな方向へと思考が暴走しだしたようだったが、
さらに珍しく固唾を飲んで見守っていたおかげで、
プールの藻屑となるコトはなかった。


(あ、あと10m・・・・なんで、まだそんなにあるの?)

プールのラインがチラリと視界に入った。
いい加減息が上がり掛けているシンジだった。
しかし、ココで発想の転換を行ってみる。

(あと10mじゃない。たった10mなんだ)
(あとたった5分の2じゃないか)
(夏中ボクを苦しめた水泳の補習から、もうすぐ解放されるんだ!)
(あと少し・・・・あと少し。ガンバれ・・・・ガンバれ・・・・)





そして、あと

                              5m



                        4m



                  3m



            2m



      1m



ゴール!!


「ぷはァ〜!!」

ゴールに手が届いた瞬間、シンジは水面から顔を上げ、大きく息を吐いた。

(やった! やった!! できた、泳ぎ抜いた! ボクはやったんだ!!)

嬉しさがこみ上げてくる。
顎の辺りで右のコブシを握り締める。
と、その時、一斉に拍手が沸き起こった。

シンジが驚いてプールサイドを見上げると、
よく見知った人達の顔があった。

夏を思わせる抜けんばかりの青空の下。

アスカが、レイが、マナが・・・・
カヲルが、トウジが、ケンスケが、ヒカリが・・・・

ミサトが、リツコが、マヤが・・・・
加持が、青葉が、日向が、冬月が・・・・

そして・・・・

父と、母が・・・・


「おめでとう」 と、アスカが。

「おめでとう」 と、レイが。

「おめでとう」 と、マナが。



「おめでとう」 と、カヲルが。

「おめでとさん」 と、トウジが。

「めでたいな」 と、ケンスケが。

「おめでとう」 と、ヒカリが。



「おめでとう」 と、ミサトが。

「おめでとう」 と、リツコが。

「おめでとう」 と、マヤが。



「おめでとう」 と、加持が。

「おめでとう」 と、青葉が。

「おめでとう」 と、日向が。

「おめでとう」 と、冬月が。



「「おめでとう」」 と、ゲンドウ、そしてユイが。


みんながシンジを祝福する。
にこやかな笑みと割れんばかりの拍手をもって。

しばし呆然としていたシンジは、
にっこりと微笑みを返し、そして言った。


「ありがとう」










父にありがとう。










母にさようなら。




















そして、










全ての読者にありがとう。















[the End]





みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


月刊オヤヂニスト

ゲンドウ「なにぃ! 18話から始まったばかりの月刊オヤヂニスト、いきなり最終号か!(爆)」

冬月  「納得いかん、納得いかんぞ! このために我々がどれだけの時と費用を費やしたと思っている! 碇よ、この責任は重いぞ!」

ゲンドウ「わかっている! それもこれも、すべてはシンジが自分一人の世界で完結などしてしまったからだ! ええい、我が息子ながらなんと自分勝手な!」

冬月  「その辺がやはりおまえの息子と言うことか、碇よ」

ゲンドウ「ぬ、それはいったいどういう意味だ」

冬月  「おや? 聞き間違いようのない意味にしかとれないはずだが?」

ゲンドウ「何だと! だいたい冬月、貴様は昔からそうだった。自分はきれい事を言うだけで、そのほかの仕事はすべて私に押しつけおって」

冬月  「なにを! 碇よ、おまえこそ司令の椅子に座ってからは何をするにも儂をこき使いおって! 知っているぞ、おまえは司令席で毎日のように居眠りしていること! オペレータの間ではおまえは「居眠り総司令」と言われているんだ!」

ゲンドウ「な、なんだと! 冬月、おまえこそ職員の間でなんと言われているか知っているのか! 私の横で立ったままぼんやりと何をするでもなくあさっての方向を見つめているおまえは、上野の西郷さんとはりあう「銅像副司令」だってな」

冬月  「なんだとぉぉぉ!!」

ゲンドウ「なにを!!」

冬月  「だいたい儂は初めてあったときからおまえのことが・・・・」

ゲンドウ「それを言うなら私だってアンタのことは・・・・」




以下不毛な会話につき削除(笑)





この結末は納得行かない!もう一回選択やり直しだ!
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