砂浜はかなりの人でごった返していた。
水着に着替え、パーカーを羽織った少年が一人ゴチた。
「海・・か。随分久しぶりだなぁ・・・・」
少年の声には幾分不安や恐れが混じっている。
はぁ・・・・
思わずため息が漏れてしまう。
「なぁに、暗くなってんのよ! ばかシンジ!」
「アスカ・・・・」
振り返った少年の前には、黄色いビキニを纏った少女が立っていた。
とても中学に入学したてとは思えない立派なプロポーションだ。
少年の視線は女性らしさを増した幼なじみの肢体に釘付けになった。
ずっと一緒だった・・・・
いつでも側にいた・・・・
共に遊んで来た・・・・
一緒に転げ回った幼なじみが、女性らしい躰へと成長しているコトに
少年はドギマギした。
「ネ、見て見て、シンジ。・・・・似合う?」
少女は少し恥ずかしそうに少年に尋ねる。
少女の表情に少年はドキリと胸が高鳴った。
「うん・・・・、すごく、その・・・・かわいい・・・・よ」
そう言うと少年は真っ赤になって俯いた。
少女は予想もしなかった少年の言葉に、
こちらも頬を朱に染めて俯いてしまう。
しばらくの間、沈黙が続いた。
それを破ったのは少女の言葉だった。
「行こう、シンジ。アタシが教えてあげる。
そのエア・マット持ってっていいから・・・・」
そして、少女はすっと手を差し伸べた。
再び少年の胸が高鳴った。
少年は少し躊躇いながらも、少女の手に自分の手を重ねた。
少女の手はとても柔らかかった・・・・
おそらく昨夏の海での出来事だろう。
夢から目覚めたシンジは、そう確信した。
改めてこの世界の幸福な自分を羨ましく思った。
あのエヴァのある世界の昨夏、シンジは独りだった。
父に呼ばれる前・・・・
誰にも必要とされなかった・・・・
孤独な中学1年の夏休み・・・・
今の幸せを決して手放したくない。
心からシンジはそう願った・・・・
「こ、このウラギリもぉ〜ん!!」
突然シンジの襟首を掴み、目に一杯涙をためたトウジが叫んぶ。
いったい何事かと、当のシンジは目をパチクリさせている。
「エ? な、何? トウジ」
「しらばっくれおってェ〜!! おまえだけは、おまえだけは、
そんなコトせぇへん思おとった。それやのに、それやのに・・・・」
「こういう奴なんだよ、シンジは。男の友情なんて分かっちゃいないんだ」
声を詰まらせたトウジに替わって、妙に冷静で悟りきったような口調は、
もちろんケンスケである。
最後には、ワザとらしく溜息をつく。
何のコトかさっぱり見当もつかないシンジは、
呆然と2人の顔を見比べるだけだった。
「それで何が問題なんだい?」
いつもの柔らかな口調で微笑みを浮かべたカヲルが口を挟む。
「オノレもウラギリもんや! オノレも、シンジも、
ワシらに断りものぉ、期末考査にパスしおってェ!
シンジ、ワシらは親友や。
どんな時も苦楽を共にするゆうた、
あの誓いはどないなったんや!
一緒に補習受けようて、あれ程約束したやないか!!」
「ちょっと、なぁに勝手なコト言ってんの!」
その怒気を孕んだ声に、ビクリと身体を振るわせるトウジとケンスケ。
ゆっくりと振り返って視線の先には、アスカとレイが立っていた。
「あ、いや、その。こ、これは・・・・
男の友情の問題やよって、・・・・お、落ち着けや、惣流」
「自分たちが勉強しなかったせいで補習になったクセに、
シンジを巻き込まないでよね! 渚はどうでもいいけど」
「アンタも補習組だったら、随分平和な夏休みを過ごせたのに。
残念だわ、カヲル」
「それはないよ。アスカちゃん、レイ。
ちゃんと2人も招待しただろう? 別荘行きの話」
「とにかく鈴原は、しぃいいいっかり、ヒカリに面倒見てもらいなさい。
ついでに相田も」
「はぁ〜、どうせボクはオマケだよ。
ふん、ふん。いいのさ。ぶつぶつ・・・・」
「な、なんで、そこでイインチョが出てくんのや?」
「あんた、自力で補習の後のテスト、パスできる自信あるの?
それなら別にいいんだけど・・・・」
「いや、それは・・やな・・・・」
痛いところを突かれて、トウジの口調も弱々しい。
ワケもなくフラフラと視線をさまよわせる。
と、その先にヒカリ本人を見つけて、トウジは柄にもなく硬直する。
「あ、あの・・・・鈴原。アスカの言うコト、気にしないでね。
でも、アタシで良ければ、ホントに手伝ってあげるけど・・・・」
「ほ、ホンマか? イインチョ」
「ええ、委員長として当然のことだモノ・・・・」
「おおきに、イインチョ。ホンマ心から感謝するで」
「そんな・・・・大袈裟に・・・・」
何となくいいムードの2人は、互いの視線に頬を染めて俯いてしまう。
どちらも言葉を捜しているようだが、何も浮かばない。
なんとも初々しい、そしてもどかしいカップルだった。
「はぁ〜、補習の間中トウジの奴に見せつけられるのか・・・・
キライだぁ!! 白い雲なんて〜!!」
ケンスケは窓から空に向かって独り絶叫した。
(アスカの立てた)予定を早めて、
夏休み早々からカヲルの別荘に行くことになった3人。
特にシンジは熱心に2人を口説いた。
休みに入ればありがたくもアスカとレイ、2人による水泳の特訓が始まる。
期末考査前を思い返すに連れ、あの地獄の日々の再現だけは避けたい。
それがシンジの偽らざる本心だった。
シンジに言わせれば、『生きるか死ぬかの分かれ道』だ。
もはやなりふり構わぬ必死の説得だった。
必死の思いが通じたのか(なワケ無い)アスカもレイも思いの外、
簡単に同意してくれた。
しかし、シンジの視界の外で、
2人がこっそりと悪魔の微笑みを交わしたことをシンジは知らなかった。
そして、シンジとアスカ、レイ、カヲルは夏休みに突入すると同時に、
別荘へと避暑に出掛けたのであった。
「な、何でだれも教えてくれなかったの?」
『強制的』に水着に着替えさせられたシンジが大騒ぎをしている。
「カヲル君の別荘にプールがあるなんて!
それも競泳用!
ボクを騙したな。ボクの気持ちを裏切ったな!」
「なぁにパニくってんのよ、ばかシンジ! 恥ずかしいわね」
「あ、アスカ!・・・・!!」
振り返ると、そこには黄色のビキニに身を包んだアスカが立っていた。
視覚的効果をバッチリ計算したようなそのスタイルに、
シンジは、ぽかぁ〜んと見とれてしまった。
そんなシンジの様子にすっかりご満悦のアスカは、
いつにも増して魅力的な微笑みを浮かべてみせる。
「・・・・キレイ・・だ・・・・」
思わず本音がぽろり。
そんなシンジの言葉をアスカが聞き逃すわけがない。
頬を桜色に染めながら、少し意地悪そうにシンジに尋ねる。
「ネ、今なんて言ったの?」
「エ!? ・・・・あ! な、何でも・・ないよ・・・・」
「な・ん・て・い・っ・た・の!?」
「あの、その、・・・・き、キレイだ、って・・・・」
「ちょっと、何処向いてんのよ! 失礼ね。
ハイ、ちゃんとアタシの目を見てもう一度!」
「あ、あぁ、あのォ、・・・・き、キレイだね・・・・」
「うっれしぃ〜っ!!」
と、ここで素直に喜びを現せないのが、アスカのアスカたる所だろう。
実際にアスカが口にしたセリフはこうだった。
「ま、まぁ、このアタシが着てるんだモノ。
どんな水着だって似合わないはず無いモンね。当然よ」
強気が売りとはいえ、少しレイを見習った方がいいかも。
本人も分かってはいるようだが、長年の習慣は早々に変わるモノでは無いようだ。
「し、しっかし、遅いわねェ。レイに渚」
「そ、そうだね。どうしたんだろ・・・・」
「おっ待たせぇ〜!」
タイミング良くレイの声が聞こえてきた。
そのレイが身に纏った水着は、
白のハイレグ
だった。
これには、シンジもさすがのアスカも声が無かった。
「ん? どしたの? 2人とも・・・・
そうだ。ねぇ、ねぇ、シンちゃん。
この水着、似合う?」
そう言うとレイは、ちょっと悩ましげなポーズを取ってみせる。
当然、シンジに返事など出来るモノではない。
ただ、ぼ〜〜、っとレイの水着姿に見とれるだけだった。
「ちょっと、レイ。何よ、そのカッコ」
「えぇ? 似合わないかなぁ?」
「そうじゃなくて、なんで中学生がそんな過激な奴・・・・」
「だぁ〜って、アスカがそんなおとなしい水着だなんて思わなかったんだモン」
「な、何よ、それ」
「だから、アスカに負けないようにって、アタシ随分無理したんだけどな。
でも、ホントに似合わないかな? ね、シンちゃん」
そう言ってレイは少し哀しそうな顔でシンジの眼を覗き込む。
「そ、そんなコト、・・無いよ。すごく、その・・・・カッコいいよ」
「ホント?」
「う、うん」
「うっれしぃ〜っ!!」
素直に喜びの感情を現したレイは、そのままシンジに抱きついてしまった。
再び固まってしまうシンジ。
「コラぁ〜!! レイ、離れろ!!」
「えぇ、いいじゃない。ちょっとくらい」
「さっさと離れる! 抜け駆け厳禁!!」
「ぶぅ。アスカのケチぃ」
「なぁんですってェ〜!」
「やぁ、お待たせ。おや、どうしたんだい? 2人とも。
ああ、そうだ、シンジ君。この水着、似合うかな?」
ドカッ!x2
ドボ〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなくプールの藻屑となってしまった。
(カヲルがどんな水着を着ていたかは、読者の想像にお任せします)
ここまで随分と長い前振りだったが、ようやく水泳の特訓が始まった。
ジャンケンの結果、まずはアスカがコーチする。
アスカ曰く、
「とにかく! 水に顔をつけなさい!」
その言葉にシンジの顔は蒼白となってしまう。
「そ、そんなぁ・・・・、急に言われても・・・・」
「いいから! 言われた通りにやんなさい!」
「うぅ・・・・」
アスカに手を引かれながら、とりあえずバタ足を繰り返す。
そして、恐る恐る水に顔をつける。
・・・・が、1分と経たずに溺れかかるシンジ。
「ガボ、ゲボ、ゴボ、ゲホ」
シンジは必死の形相でアスカにしがみついた。
「ちょっと、シンジ。落ち着いて。
大丈夫だから、そんな、しがみつかないで・・・・」
そんなコト言われてもシンジに余裕など無い。
そして偶然シンジの右手がアスカの左の胸を触ってしまった。
「!」
アスカは一瞬凍り付いてしまった。
状況を完全に把握するまで、かなりの時間を要した。
「!! ッキャ〜〜!!! エッチ、バカ、変態! 信じらんない!!」
アスカの強烈な一撃にシンジは敢えなくカヲルの後を追った。
驚いたレイが慌てて助けに入った。
「キャー!! シンちゃん、シンちゃん。大丈夫?
ちょっとアスカ、酷いじゃない」
レイは完全に気を失っているシンジを胸に抱きかかえるようにして、
プールサイドへと立ち泳ぎで近づいてきた。
「し、シンジが悪いのよ! あ、アタシの胸・・・・」
アスカは両手で胸を庇うようにして、真っ赤な顔を俯かせていた。
この頃ようやくシンジは気が付き、激しく咳き込んだ。
レイはそんなシンジをいたわりながら、プールから上がるのを手伝った。
そして、誰にともなく呟いた。
「アタシだったら、そんなコトしないのに・・・・
シンちゃんどうして、アタシに掴まってくれないのぉ」
「シンジ君、ボクに言ってくれればいくらでも・・・・」
ドカッ!×2
ドボ〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなくプールの藻屑となってしまった。
「今度はアタシの番よ。ネ、アスカ」
「チッ! 仕方ないわね」
シンジはレイに手を引かれながら、必死にバタ足を繰り返していた。
「お、お願いだから、手、手を離さないでね。あ、綾波」
「だぁい丈夫よ。任せて、シンちゃん!」
そう言いながら、レイは深みでいきなり手を離してしまう。
必死にもがけば泳げるようになる、そう考えたのも確かだが、
自分もアスカのようにシンジに掴まって欲しい、そんな欲望も含んだ行動だった。
しかし、シンジにとってレイとの距離わずか50cmは、
永遠の彼方とも言える距離だった。
結局レイにしがみつくコトもできずにその場に沈んでいった。
『人は浮くように出来てないんだ』
いくらシンジがそう主張しようとも、
よほど身体を鍛えて筋肉を発達させない限り、
本来大抵の人は沈むようには出来ていないのだから、
器用と言うしかあるまい。
またもや溺れかかったシンジは、プールサイドで苦しそうに咳き込んでいた。
そんなシンジにレイは嬉々として、
「シンちゃん、人工呼吸・・・・」
と、迫る。
その瞬間アスカはゆらりと立ち上がると、無言でレイに近付いた。
そして、やはり無言で今にもシンジの唇を奪おうとしていたレイの
背中を思いっきり突き押した。
ドボ〜ン!
「ぷはーっ!! ちょっと、アスカ。危ないじゃない!」
「危ないのはアンタの思考回路よ!」
「えぇ〜! 言ったわねェ!?」
「言ったわよ」
「うぅ、もう怒った」
言うが速いか、アスカの足を引っ張って、プールに引きずり込む。
「ケホッ! エホッ! な、何すんのよぉ!」
「へ、ヘェ〜んだ。コレでおあいこよ」
険悪なムード漂う美少女2人。
まさに一触即発といった雰囲気に包まれた時、
プールサイドではいつの間にか復活を果たしたカヲルが、
シンジににじり寄っていた。
「シンジ君、平気だったかい」
「か、カヲル君?」
「もう大丈夫。ボクが愛を込めて人工呼きゅ・・・・」
ドカッ!×2
ドボ〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなくプールの藻屑となってしまった。
「あのさ、カヲル君」
「なんだい? シンジ君」
「このプール塩っ辛いけど、わざわざ塩混ぜてるの?」
「ああ、違うよ。このプールは新潟県から直送した本物の日本海の海水さ」
驚いたシンジは、視線をプールの水面とカヲルの顔の間で忙しく往復させた。
「そ、そうなの?」
「そう、シンジ君のためにね」
「ボクのため?」
「シンジ君が泳ぐ練習をするって聴いたからね。
海水は真水より比重が重いから、身体が浮きやすいんだ」
「それは、知ってるけど・・・・」
「アンタばかぁ? それだけのために、なぁんでわざわざ日本海なのよ?」
『あきれた』と顔中に書いたアスカがぼやいた。
それに対するカヲルの返答は簡潔を極めた。
「趣味」
「へ?」
「あちこち、旅したけど、新潟で飲んだ海水が一番おいしかったんだ」
「全く、どこかの財閥の御曹司みたいなコトを・・・・」
「何、ソレ? アスカ」
「別にィ、気にしないで」
「ああ、また行きたいな。そうだ、シンジ君も一緒に行かないかい?
これから2人だけで」
ドカッ!×2
ドボ〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなくプールの藻屑となってしまった。
「アンタの放浪癖にシンちゃん巻き込まないでよね」
「全く、こぉんなバカげたコトにお金使うなんて、金持ちって信じらんない人種ね」
「あ、そうだ。ねぇ、カヲル君のご両親ってどんな人なの?」
「どんなって、何が?」
「何やってるのかなとか・・・・」
「アンタばかぁ? 今朝のニュースにも出てたじゃない。
渚トオル大蔵大臣」
「エ? あ、あれって、カヲル君のお父さん?」
「そうだよ」
「し、知らなかった」
(カヲル君のお父さん・・・・)
(大蔵大臣・・・・)
(似合ってるような・・・・、怖いような・・・・)
すっかりシンジは混乱していた。
「カヲルの家は代々政治家の家系だモンね。
そういえば、アンタおじさんの跡継ぐの?」
「本人にその意志が無くても周りはお構いなしさ」
「ま、悪人にはお似合いの職業よね」
「ひどいな、アスカちゃん。ボクのいったいどこが悪人なんだい?」
「見たまんまじゃない!」
「ホント、その笑顔で何人くらい女の人騙したことか・・・・」
「レイ、知らない人が聴いたら誤解を招くような言い方やめてくれないかい」
「アラ、ホントのコトじゃない」
「ひどいな。ボクはただ今のうちに本当の親友が欲しいだけさ。
いつまでも、大人になってもつき合える、
何も飾らない、本音で話せる、
そんな親友が欲しいだけなんだ」
「カヲル君・・・・」
遠い目をして語るカヲルに、シンジはなんと言えばいいのか分からなかった。
そんなシンジの頬に手を伸ばすと、カヲルは艶然とした笑みを浮かべた。
「だからシンジ君。ボクと・・・・」
ドカッ!×2
ドボ〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなくプールの藻屑となってしまった。
「そう言えば、シンジ君はどうするんだい」
「どうって・・・・」
「先生になって、お父さんの跡を継ぐのかい?
お母さんの跡を継いで学校経営をするのかい?
それとも全く別の職業を目指すのかな?」
それは全く思考の外だった。
シンジは将来のコトなど、コレまで考えてもみなかった。
向こうの世界でも。
この世界でも。
シンジが困惑気味に黙っていると、代わりにレイが声を上げた。
「エ〜っ!! シンちゃんが経営なんてピンとこなぁ〜い」
「うん、シンジは経営者って、タイプじゃないわよね」
「そうよね。・・・・じゃあ、アタシ大学は経済学部にするわ」
「な、何よ。突然」
「だって、シンちゃんが跡継がないんなら、
奥さんが経営方面専攻してれば、おば様も安心でしょ?」
そう言うとレイはシンジに向かってウインクする。
コレにシンジは真っ赤になって俯いてしまう。
それを見たアスカは、さもおもしろくなさそうに、
凄まじく不機嫌な声でレイに食ってかかる。
「だから、なんでアンタが経済学部なのよ?」
「アラ、分かんない? 言って欲しい?」
「いいわよ、もう。じゃ、アタシはアメリカ留学して、
ハーバードのビジネス・スクールに行くわ!」
「ふ〜ん、シンちゃん置いて、独りで留学か。
ま、シンちゃんのコトはアタシに任せて」
レイはシンジの方を振り返り、両手をシンジの首に伸ばしてやさしく微笑んだ。
即座にアスカは2人の間に入り、レイをシンジから引き外す。
そして、シンジの羽織ったパーカーの襟首を掴み、
シンジの顔を覗き込みながらこう言った。
「何言ってんのよ。いい? シンジ。アンタも留学するんだから、
英会話くらい早めにマスターするのよ」
「アスカったら、何勝手にシンちゃんの将来決めてんのよ!」
「それは、アンタもでしょ!」
「まぁ、まぁ。2人とも、落ち着いて。
シンジ君、君の将来はボクが責任を持って・・・・」
ドカッ!×2
ドボ〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなくプールの藻屑となってしまった。
その夜。
寝室はそれぞれ個室が割り当てられていた。
シンジを除く全員に様々な(よこしまな)思惑が、
ムクムクと湧いてきたコトは言うまでもない。
みんなが寝静まった頃を見計らって、カヲルはシンジの部屋を目指した。
特に努力しているわけでもないようなのに、足音は全くしない。
シンジの部屋の前に立つと、ノブに手を掛け、そっと回してみる。
鍵はかかっていない。
カヲルはニコリと満足の笑みを浮かべた。
と、その時背後からすさまじい殺気を感じた。
そこには、廊下に飾られていた西洋鎧から失敬してきた長槍を
振りかぶったレイがいた。
その迫力にカヲルの背中を冷たい汗が伝わった。
「わぁ〜!! ちょ、ちょっと、レイ。そ、それはシャレにならないんじゃ・・・・」
「いいの。冗談じゃ無いモノ」
「ま、待って。落ち着いて」
「アタシは冷静よ」
「目、目がイっちゃってる。・・・・あ、そうだ、レイ。アスカちゃんは?」
「アスカ?」
「そ、アスカちゃんがココに居ないなんて変だと思わないかい?」
「そう言えば、そうね」
「そ、そうだよ。ちょっと、中覗いてみようよ」
出来るだけレイを刺激しないように細心の注意を払ってカヲルは動いた。
ドアを開けると、そこは無人だった。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・! シンちゃんが危ない!」
そう呟くと、レイは長槍を持ったまま走り出した。
カヲルもその後に続いた。
(何とか死人が出るのだけは阻止しないと・・・・)
それがカヲルの真剣な思いだった。
その頃シンジはベランダでぼーっと星を見ていた。
第3新東京市では見るコトの出来ない見事な星空だった。
「シンジ・・・・」
「アスカ・・・・、どうして、ココに?」
「多分・・・・ココだと思ったの。
アタシがシンジのコト、一番良く知ってるんだモノ。
分かるわよ、コレくらい」
「そう・・なんだ」
「うん」
2人の間に沈黙が流れる。
しかし、それは決して不快なモノではなかった。
何かお互いの心に触れるコトが出来たような気がする。
そっと、アスカは手を重ねて来る。
「・・・・あ、アスカ」
「シンジ・・・・」
躊躇いながらも、意を決してシンジもアスカの手を握り返す。
静寂の中で互いの体温を確かに感じていた。
シンジとアスカは、いつまでもお互い見つめ合い・・・・
そして・・・・
「アぁ〜スぅ〜カぁ!」
驚いて振り向いた2人の前には、レイが仁王立ちしていた。
「ぬぅ〜けぇ〜がぁ〜けぇ〜しぃ〜たぁ〜なぁ〜!!」
「あ、綾波?」
「ちょ、ちょっと、レイ。アンタ、何ソレ。
その手に持ってんの、何なのよぉ」
「問答無用! 天誅!」
アスカとシンジは慌てて飛び退いた。
咄嗟に避けたから良かったモノの、当たっていたら・・・・
「あ、ああああ、綾波? ど、どうしたの? そ、そんなもの振り回して」
「だって、シンちゃん、アタシ・・・・」
シンジの存在にようやく気づいたレイは、
長槍を捨てるとシンジの横に座り込んで、やおら甘えだした。
「だって、シンちゃん、アタシに黙って居なくなってんだモン。
その上、アスカとなんかいいムードになっちゃってさ・・・・」
「そ、そんなんじゃ・・・・」
「そんなんじゃ、って何よ」
いつの間にかレイの反対側に座り込んでいたアスカが問い質してくる。
「エと、その、・・・・」
「シンちゃ〜ん」
「シンジぃ」
美少女2人が左右から迫り、にじり寄って来る。
世の男性から見ると羨ましい限りのシチュエーションだが、
シンジにはそんなコトに気づく余裕はない。
2対の視線にすっかり硬直してしまい、シンジは進退窮まっていた。
「シンジ君、これからパーティーしないかい?」
普段と何ら変わらぬカヲルの声にシンジは金縛りから解放された。
そして、話題が逸れたコトに心からホッとした。
「え? これから?」
「そうだよ。どうせ、みんな眠れないようだし・・・・」
そう言うと、カヲルは視線で2人の美少女に問い掛けた。
「アンタにしちゃ、いい思いつきじゃない」
(パーティーとなれば・・・・アルコールは付き物よね!)
(シンジを酔わせて・・・・ウッフッフ)
(邪魔者2人をKOするのが先か・・・・)
「うん、楽しんじゃおう」
(こんなコトもあろうかと・・・・エヘヘェ、ウォッカ!!)
(コレでカヲルとアスカを酔い潰させて・・・・)
(後はシンちゃんとアタシ2人・・・・)
「さ、決まりだ。それじゃあ、大急ぎでパーティーの準備だ!」
この時、アスカとレイ、それにカヲルは期せずして、
妖しい笑みを浮かべていた。
パーティが始まって30分も立つと、
ドカッ!x2
ドス〜ン!
アスカとレイの無言の連携の前にカヲルは敢えなく床に崩れ去る羽目となった。
その後の展開はシンジにとって、
2度と思い出したくない記憶の一つとなった。
そしてそれを話すコトはなかった。
すっかり気を失っていたカヲルに問い正されても・・・・
その時の記憶が抜け落ちたアスカとレイに尋ねられても・・・・
シンジは貝のように口を閉ざしたままだった・・・・
to be continued
隠れるような管理人のコメント
カヲル「こそこそこそ・・・・よし、アスカ君はいないな・・・・・
さて、ここで今回大募集!! 作品中で僕が海の藻くずとなってしまったために見ることの
できなかった僕の麗しい水着姿を書いてくれるCGを大募集!!
テーマはずばり「悩殺」!!
シンジ君をくらくらさせるようなCGを待ってるよ!!」
アスカ「この、アホたれぇええええ!!」
どかばきぐしゃあぁっ!!
カヲル「はぐうっ! アスカ君いつのまに!」
アスカ「あれだけ一人で馬鹿声張り上げてりゃ一発でわかるわよ!」
カヲル「はうっ、僕としたことがしまったあっ!!」
アスカ「その程度のことも気づかないの!? レイ、行くわよっ!」
レイ 「おっけーっ♪」
カヲル「ここでも僕はやられてしまうのかぁああああああああああっ(涙)」
アスカ「はん、自業自得ね」
レイ 「で、この上のカヲルが募集していた水着CGの話、どうする?」
アスカ「うーん・・・・せっかくだし、この「カヲル」って名前だけを「アスカとレイ」にかえてみる?」
レイ 「テーマは「悩殺」・・・うふふっ、これでシンちゃんを・・・・」
アスカ「あーっ!! それはアタシのせりふよっ!!」
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