公園。
夕陽が人気の少ない公園を染めている。
わずかな風が、ブランコを揺らす。

ギィー
ギィー

ブランコの軋むような音に混じって、女の子の声が耳に届く。

「シンちゃんもやりなよ」
「ガンバってつくろうよ、おしろ」
「うんっ!!」

幼いシンジは、女の子達と一緒に砂でお城を作る。
ぱん、ぱん、と砂を叩いて固める音が響く。
子供達はお城作りに夢中だった。

どれ位時が過ぎただろう。
辺りはすっかり暗くなっていた。
人の気配に女の子達が顔を上げる。
シンジもつられて顔を上げる。

「お母さん!!」

シンジが叫ぶ。

「シンジ。アスカちゃんも、レイちゃんも。
 もう晩御飯ですよ。帰りましょう」
「はぁ〜い!」
「わかりましたぁ!」

「かえろ、アスカ、レイ」

そう言うと、シンジは2人の少女に手を差し伸べた。

4つの長い影は、仲良く公園を後にする。
子供達の明るい声がこだまする。

公園の砂場には、作りかけのお城がそのまま置き去りにされていた。





Welcome
第12話
想い出ぽろぽろ





「シンジ、レイちゃん、ちょっといらっしゃい」

帰宅したシンジとレイを迎えたのは、嬉しそうなユイの声だった。

アスカの母キョウコも出張を終えて自宅に戻っている。
夏休みを数日後に控え、今日から午前中のみの短縮授業である。
学生にとって一番の楽しみである夏休みを目前に、
レイはすっかりご機嫌であった。
アスカとレイのお陰でどうにか補習を免れたシンジも、同様の筈だった。

しかし今日の帰りしな、加持体育教諭に呼び止められたシンジは、
夏中に何でもいいから25m泳げるようになるよう厳命されたのだった。
その場に居合わせた2人の幼なじみは、
ありがたくも水泳の練習につき合うことをすぐさま言明してくれた。
期末試験に至る一月を思い出して、シンジはすっかり元気を無くしていた。
あの、二度と思い出したくない日々が再び訪れるのかと思うと、
足取りも重くなろうというモノだ。





「何? 母さん」

とりあえず、気を取り直してユイの言葉に応える。
ユイの声のする1階の物置へとレイと向かう。
物置でユイは、小柄な姿をすっかりモノに埋もれさせていた。
ありったけのモノをぶちまけたような惨状に、
シンジは勿論、レイもやや呆れ気味だった。

「どうしたんですか、いったい?」
「ちょっと、服の整理をしてたの。そしたら・・・・」
「整理って、これで?」

シンジの素直な感想を一睨みで退けると、ユイは話を続けた。

「そしたら、こんなモノが出て来ちゃったの。ホラ」

ユイが示したのは、いくつかの古い女物の衣服だった。
色は褪せ、デザインはすっかり時代を感じさせる。

「これ・・・・」

不思議そうなレイにユイが応えた。

「ケイ、アナタのお母さんの服よ。若い頃の」
「母さんの?」
「そう。しまいこんで、すっかり忘れてたけど、
 ケイがアナタくらいの時に着ていた服よ」
「母さんの・・・・」

どう反応すればいいのか分からずシンジがその顔を覗き込むと、
レイの瞳は涙で潤んでいた。
レイはセピアがかったワンピースを抱えると、その布地に顔を伏せた。

「あら? まぁ、まぁ。レイちゃんったら」
「綾波・・・・」

静寂が空間を支配した。
しばらくして、ようやく落ち着いたレイがポツリと呟いた。

「・・・・母さんって、こんな服着てたんだ」
「そうね。ケイはひらひら、ふわふわ、って感じのかわいい服が好みだったわ。
 ・・・・うん、サイズも同じくらいね。
 ネ、レイちゃん。ちょっと着てご覧なさいな」
「エ? あ・・・・その。アタシ、こういうのは・・・・」
「レイちゃんは、スポーティなカッコが好きだモノね」
「はい」
「でも、たまにはいいでしょう。ネ、シンジも見たいわよね?」
「エ? あ、その・・・・」

いきなり話を振られたシンジは、まともに反応できなかった。
それでも、レイの不安そうな視線に気づくと、出来るだけ明るい声で応えた。

「う、うん。たまには・・・・いいんじゃない・・・・かな?」
「・・・・シンちゃんがそう言うんなら」
「さ。それじゃ、行きましょう」

そう言うと、ユイはこれ以上は無い、といった嬉しそうな顔でレイの手を取り、
さっさと物置を後にした。
シンジは1人呆然とその場に残されてしまった。


気を取り直したシンジがキッチンで紅茶を煎れていると、
リビングの方からユイの声がかかった。
呼ばれるままリビングに向かうと、
そこには、ふわふわのワンピースを身に纏ったレイが立っていた。

「どう、シンジ。レイちゃんのこんなカッコウ、新鮮でしょう?」
「・・・・」
「に、似合わない・・・・かな?」

頬を紅潮させたレイがオズオズとシンジに尋ねる。
すっかり見とれてしまっていたシンジは、ユイの咳払いで我に返り、
うわずった声で返事をした。

「・・・・すごく、いいよ。かわいい・・よ」
「ホント?」
「うん」
「う・わ〜い! ありがと、シンちゃん」

レイは嬉しそうにピョンピョンとその場で飛び跳ねてはしゃぎまくった。
その様子を唖然と眺めながら、シンジは思った。

(どんなカッコしても、・・・・綾波は、綾波なんだな)





その晩、碇家の食卓はレイの両親の思い出話で持ちきりだった。
結婚以前の話題から、レイが生まれた時のエピソードに、
レイは涙を浮かべるくらい笑い転げたモノだった。

そして、レイは楽しかった日々、両親やシンジやアスカと一緒に行った
行楽地の思い出などを語っては、はしゃぎ続けた。
いつもにも増して賑やかな夕食であった。
その夜、レイは幸せな気持ちで眠りに着いた。

楽しい記憶は次々と別の思い出を引き起こし、
ついには楽しからざる記憶を揺り起こす。

夜半、レイは悲鳴を上げてしまった。

事故の夢。
朱に染まる座席。
息絶えた父。
次第に失われていく母の体温。

未だに残る生々しい記憶が、レイの心を打ちのめす。

「夢・・・・」

ベットの上で跳ね起きたレイは、荒い息を繰り返し、
自らの身体を抱き締めた。


控えめなノックにレイは顔を上げる。

「どうしたの? 綾波。大丈夫?」

心配そうなシンジの声に、レイは心が落ち着いていくのを感じた。
ほっとため息をつき、彼女に似つかわしくない弱々しい声で、
ドアの向こうのシンジに応えた。

「怖い夢見たの」
「夢?」
「そう、父さんと母さんが死んじゃうの」
「あ・・・・、大丈夫?」
「う・・・・ん、あの、シンちゃん・・・・」
「え?」
「ありがと。・・・・心配してくれて」
「そんな、・・たいしたコトじゃ・・・・」

シンジは照れくさそうにうやむやに応える。

「それとね、お願いがあるの」
「何?」
「今日シンちゃんの部屋に泊まっていい?
 一緒に寝て欲しいの」
「そ、それって・・・・」
「だって・・・・昔はいつも一緒に寝てたじゃない」
「そんな・・・・困るよ。ボクは覚えてないし・・・・。
 それにボクも・・・・男なんだよ」
「シンちゃんなら、いいよ」
「え? 何? なんて言ったの?」
「う、ううん、なんでもない。それより、お願い・・・・」

その頼りなげなレイの声にシンジは散々迷いながらも結局折れてしまう。
ひとつため息をつくと、ドアの向こうのレイに向かって、
やさしく語りかける。

「それじゃ、部屋で待ってて。ミルク、暖めてくる。
 飲むでしょ? 綾波」
「うん、ありがと」





シンジの部屋で待っていると、湯気の立ち上るカップを2つ手に、
シンジが戻ってきた。レイにカップを差し出すシンジ。
ベットに座り込んだレイはソレを素直に受け取った。

「ありがとう、シンちゃん」

そう言うと、レイは両手でカップを大事そうに抱える。
コクリと一口。

「おいしい・・・・」

実はレイのカップには少々ブランディーが垂らしてあった。
何も考えずに眠れるようにとの、シンジの思いやりである。
レイは気づかずにコクコクと飲み干した。

「落ち着いた?」
「うん、ゴメンね」
「いいよ、もう。じゃ、寝ようか?」
「うん」

アルコールが効いたのか、頬を桜色に染めて、
レイはいつもの笑顔をようやく浮かべた。
かなり落ち着いた様子にシンジは安心していると、
突然レイはパジャマを脱ぎ出した。

「ちょ、ちょっと、綾波? な、何してんだよ!?」
「何って・・・・。パジャマ脱いでるだけなんだけど」
「だけって、そんなの見れば分かるよ。だから、何で脱ぐんだよ」
「だって、アタシ。夜はいつもこうして寝てるから・・・・」
「いつもはそうでも、一緒に寝るんなら、今日はやめてよ」
「いいじゃない、別に」
「困るよ!」
「アタシは困んないけど・・・・
 ね、見たくないの? ホントに?」

この時、レイは中学生らしからぬ妖しい微笑みを浮かべてシンジを見ていた。
アルコールのせいか、普段からは考えられない色香が漂っているようだ。
先程までの夢に怯えた少女と同一人物とは、とても思えなかった。

「そんな・・・・。それは・・・・、ボクだって」
「あは、冗談よ。シンちゃんのベットに一緒させてもらうだモン。
 今日の所はガマンします」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」

(ひょっとして、綾波酔っぱらってるんじゃ・・・・)
(そんなにたくさんブランディー、入れなかったよな)
(でも、これって・・・・)

心の中でダラダラと冷たぁい汗を流しながら、シンジは笑って見せた。

「そ、それじゃ、電気消すね」
「うん」

灯りを消すと、シンジは出来るだけレイの身体から離れるように、
ベットに潜り込んだ。
そんなシンジの努力など知らぬ気に、レイは身体をすり寄せて来た。

「ちょ、ちょっと、綾波。そ、そんなにくっつかないで」
「いいじゃない、ちょっとくらい」

(あ、背中に綾波の胸の感触が・・・・)
(だ、ダメだ。そんなコト考えちゃ・・・・。でも・・・・)

「それより、ネ」
「な、何?」

我ながら情けないほど裏返った声にますます気が動転するシンジ。

「シンちゃん、アタシのコト、好きよね」
「う、うん・・・・」
「じゃ、証拠見せて」
「証拠?」
「キス、してくれる?」
「え〜! き、キス!?」
「それくらい、いいでしょ?」
「で、でも・・・・」
「そんなにイヤなの? 好きだって言ったの、ウソだったの?」
「そ、そんな・・・・。そんなコト、ない」
「じゃあ、お願ぁい」

甘美な誘惑に心乱すシンジが、その甘えた声に振り返ると、
レイはまぶたを閉じてじっとシンジを待っていた。

ゴクリ

大きな音を立てて、唾を飲み込む。
それからシンジにとって永遠とも思える時間を
心の中で右側の天使(理性)と左側の天使(欲望)が戦い続けた。
激しい戦いの末、ついに左側の天使が勝利を収めた。
意を決したシンジは、そろそろとレイの顔に近づいていく。

「あ、綾波・・・・」

息がかかる程2人の顔が接近し・・・・

レイの柔らかそうな唇に近づくと・・・・

レイは、すーすーと、寝息をたてていた。


「はぁ〜」

大きなため息1つ。
未練を残しつつも、その安らかな寝顔にシンジは安心していた。

(これでよかったんだ)

そう自分に言い聞かせたシンジは、自分も眠るコトにした。
しかし、一度興奮してしまった14歳の熱い血潮は、
そう簡単に冷めることはなかった。
結局シンジは明け方近くまで眠るコトが出来なかった。





翌朝シンジの部屋を訪れたアスカはその場に凍り付いてしまった。
レイはしっかりとシンジに抱きつき、
見るからに幸せそうに安らかな寝息をたてている。

「う、うう・・・・ん」

その時シンジがわずかに身じろぎをした。
するとレイは、いっそう強くシンジを抱き締めた。

プチッ!!

そんな音が聴こえたようにアスカには感じられた。

その後吹き荒れたアスカ台風の猛威は想像に難くないであろう。
大幅に遅刻して教室に辿り着いたシンジの顔や手足に張られた絆創膏の数は、
数えるのにトウジ、ケンスケ、カヲル、3人の手指が必要であったことだけを
記しておこう。



to be continued



みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「何でかしらないけど、最近こういう寝たって多いわよね〜」

カヲル「字・・・・間違えてるよ・・・・君も毒されてるんじゃないのかい?」

アスカ「あ、いけないっ・・・・汗・・・・と、とにかく! どうしてレイとシンジがベッドで仲良く寝るシーンが多いような気がするのよ! アタシとシンジがベッドで仲良く寝て、それをレイがみつけるなんていうのはほとんどないくせに!」」

カヲル「それは多分・・・・」

アスカ「多分?」

カヲル「それぞれのイメージのせいだね」

アスカ「どーいうことよ」

カヲル「君の場合、夜中にこっそりとシンジ君のベッドにはいって眠るなんてことしないで、無理やり押し入ってひっぱたいて起こして、それでもって強引に、だね・・・・ぐはあっ!!」

 どかっ ばきっ 

アスカ「だから、どうしてそう言う下ネタ系に走る!」

カヲル「うぐ・・・・それはひとえに・・・・逃げた作者のせい・・・・ジオ掲示板に・・・・全ては隠されている・・・・」

アスカ「・・・・またジオ掲示板・・・・そこには一体何があるって言うの・・・・」

カヲル「・・・・グリーンヒカリの・・・・父・・・・

アスカ「またあいつかぁ!!」


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