アスカは気づいてくれた。
ボクのコトを。

アスカは好きだと言ってくれた。
ボクのコトを。

嬉しい。
すごく嬉しい。

ボクのコトを見てくれる人がいるんだ。
ボクのコトを大事にしてくれる人がいるんだ。

こんな嬉しいコト、初めてだ。

ボクはココに居てもいいのかな?
ボクはココで暮らしていけるのかな?

違う。
ボクはココに居たいんだ。
なんと言われようと、
ココで暮らしたいんだ。

父さんや母さん。
アスカ、綾波、カヲル君、トウジ、ケンスケ、委員長。
ミサトさん、加持さん、リツコさん、マヤさん、・・・・
みんなと一緒に居たいんだ。

誰がなんと言おうと、
ボクはココに居たいんだ。





Welcome
第11話
夏物語




シンジは夢を見ていた。
それは幼い頃に出逢ったアスカとの出来事。
アスカと出会った夏の日の出来事。

アスカが越してきてからシンジはゲンドウとの約束通り、
あの手、この手と一生懸命アスカと仲良くなろうと頑張った。
その努力は、幼稚園に一緒に通う、という成果で一応報われた。
それでも、シンジはアスカの笑顔を見るコトができなかった。
とにかくシンジは毎朝アスカの家まで健気にも迎えに行った。

両親が共働きで留守にしがちなせいか、
アスカは無口で無愛想な子供だった。
そのためアスカは幼稚園でいじめられた。
アスカをかばうシンジはそれ以上にいじめられた。
そんなシンジを黙って見ているアスカ。
絆創膏だらけの顔でアスカに微笑みかけるシンジ。

そんな日々が永遠に続くかと思われた。

ある朝、いつまで経ってもシンジがやって来ない。
アスカはシンジを迎えに行った。

碇家のドアを開くとユイとゲンドウの声が聞こえてきた。

「あなた、目覚まし壊したんならそう言って下さい」
「フッ、問題ない」
「大有りです。何バカなこと言ってんですか!
 まったく、子供じゃあるまいし、エアガンで目覚まし撃ち抜くなんて!
 当分夕飯抜きですからね!」
「ゆ、ユイ・・・・」
「なんと言おうが許しません!」
「わ、私が悪かった。一月家事当番引き受けるから・・・・」
「・・・・一応、考慮しておきます。
 でも、今晩は食事抜きです。いいですね!」
「・・・・はい」
「あ、アスカちゃん、おはよう。シンジまだ寝てるのよ。
 悪いんだけど、起こしてやってくれない?」

ユイの言葉にアスカはやはり無言で頷くだけだった。
そして階段を昇りシンジの部屋へ向かう。
その頃シンジはまだ夢の世界を旅していた。
アスカはシンジの身体を黙って揺すってみる。
しかしそんなコトでシンジは目を覚まさない。
いつまでも起きないシンジにアスカは大きな声を上げた。

「ばかシンジィ! はやくおっきろ〜!!」

ビックリして飛び起きるシンジ。
いったい何事が起きたのか咄嗟に分からない。
周囲を見渡すとそこには赤毛の少女。

「い、いまの、アスカ?」
「ばかシンジ、はやくしろ!!」
「わ、わかったよ、アスカ。ちょっとまって」


シンジと連れだって現れたアスカにユイが微笑む。

「ありがとう。アスカちゃん」

そんなユイの笑顔にアスカは極上の笑みを返す。
この日以降、アスカは毎日シンジを起こしに来るようになった。
そして、だんだんと現在のアスカの性格が形成されていく。

幼稚園でもいじめっ子をいじめ返す程強くなった。
以来アスカはシンジを守り、コマゴマと世話を焼くようになった。





また夢だ。
これも本当のコトなのかな?
アスカに確かめてみようかな?
でも、また怒らせちゃうかな?

そんなコトを考えながらベットの中で夢の余韻を楽しんでいると、
今日も元気でご機嫌な声と共に赤い髪の少女が飛び込んでくる。
碇家に泊まっただけに、その上今日はレイのお弁当日なのでやって来るのも早い。

「コラー! 起っきろ〜! ばっかシンジィー!!」
「あ、お、おはよう、アスカ」
「な、何よ。起きてんだったら、さっさと降りて来て顔でも洗いなさいよ。
 何グズグズしてんの!? 全くだらしないんだから・・・・」

(でも、そうしてたら最近ずっと機嫌悪かったんだけど・・・・)

そんな反論をシンジは懸命にも心の中で呟くだけに留める。
ふと机の上の時計を除き込んで見ると時間はある。

「夢・・・・見てたんだ」
「夢?」
「そう、子供の頃の夢・・・・だと思う。小さいアスカもいたし・・・・」
「それで、どんな夢なのよ」

シンジは先程見た夢の内容をアスカに話してみる。
出来るだけ正確に、出来るだけ詳しく。
アスカはみるみるうちに頬を真っ赤に染めて俯いてしまった。

「エと、・・・・やっぱり、ホントなの?」
「・・・・」
「え、なんて言ったの?」
「ばか! なんでそんな恥ずかしいコトばっかり想い出すの!?」
「じゃ、ホントなんだ」
「う・・・・、そ、そうよ。もういいでしょ! 早く着替えなさいよ!」

そう言うと、アスカは熟れすぎたトマトのように顔中を紅潮させたまま、
シンジの部屋を出て、ダイニングへと駆け降りていった。

(やっぱり、最近見ている夢って、この世界の記憶みたいだ)
(ボクはやっぱりこの世界の人間なのかもしれない)
(・・・・そうだと、いいな)



朝の道。
いつもと同じ通学路。
いつもと同じ3人組。
でも、何か違う。
レイはそう感じていた。

シンジはともかく、アスカの口数が少ない。
そして、お互い妙に意識し合っているようだ。

(昨日、何かあったのかな?)
(アスカったら、抜け駆けしたわね!)
(でも、アタシは・・・・どうすればいいのかしら、これから)
(シンちゃん、アスカのコト・・・・)
(それでも・・・・アタシは・・・・シンちゃんのコト・・・・)

レイも自分の考えに浸ってしまい、いつになく静かな、
と言うより、重苦しい雰囲気の登校風景だった。





「ね、夏休みどうするか、考えてる?」

授業が終わり、通学路を帰る道筋で突然アスカが言い出した。
ようやくいつもの調子を繕えるだけの余裕が出てきたのだろうか。
そんなアスカの様子に合わせてレイも応える。

「そうねェ・・・・。
 とりあえず、おじいちゃんのお墓参りに一度田舎に帰るつもりだけど」
「ふ〜ん、それって、いつ頃?」
「やっぱりお盆の時期でしょ、普通」
「じゃ、その前後って、予定まだないんだ」
「うん」
「それじゃあ、海に行こうよ。
 それから、渚の奴の別荘って言うのもいいわね。
 シンジが頼めば、イヤとは言わないでしょうから。
 それと、ひとつコンサートにも行きたいのよね。
 あ、花火大会も外せないわね。
 それからぁ・・・・」

次から次へとイベントを数え上げるアスカに、シンジは勿論、
レイでさえ呆気にとられてしまう。

「あ、あのう、アスカ?」
「ん? 何? レイ」
「夏休みって、まだ一月は先なんだけど・・・・」
「いいじゃない。14歳の夏はたった一度しかないのよ。
 こうやって、予定を立てるところから楽しまなきゃ損よ」
「損って・・・・、そう言う問題じゃ・・・・」

あまりの言葉にシンジは呆れてしまい、苦笑してレイの方を振り返った。
レイはちょっと考え込むような素振りを見せたが、
すぐにいつもの調子で口を開いた。

「それもそうね」
「へ?」
「それじゃ、アタシ芦ノ湖に行きたいな。
 子供の頃に行ったっきりなんだモン」
「あ、レイはそうよね。じゃ、それも考慮に入れて・・・・」
「あのう・・・・」
「ね、海って、日帰り? それとも、どこかに泊まるの?」
「う〜ん、ソレなのよねェ。今からなら、何とか予約は取れると思うんだけど、
 アタシ達だけじゃ、親が許してくれないでしょうし・・・・」
「おじ様も、おば様もお忙しいわよねェ」
「そうなのよねェ。ウチの親なんてとてもじゃないし・・・・。
 ヒカリとか鈴原達の親も、多分無理よねェ」
「あ、それじゃあ、ミサト先生とか、加持先生とかにお願いするってのは?」
「あ、それ、いい! うん、今度聴いてみる」
「アラ、アスカったら、加持先生ってコトで妙に張り切ってない?」
「そ、そんなコトないわよ!」

アスカはそう言い切ると、頬を染めてシンジの顔色を窺う。
それは昨日までのアスカでは考えられない態度だった。
レイの表情がまた少し曇る。





「あ、あのう、アスカ?」
「な、なによ。シンジ?」
「そんなに勝手に予定立てていいの?
 委員長とか、カヲル君とか、先生達の予定も聴いてから考えた方が・・・・」
「うっさいわね。アタシ達は予定を立ててるだけよ! 決定してる訳じゃないの!
 予定だけなら別に誰にも迷惑掛けないでしょ。
 アタシだって、思い掛けないコトで予定が狂うコトくらい分かって・・・・」

急に黙り込んでしまったアスカにシンジは怪訝な顔をする。

「? どしての? アスカ」
「シンジ、アンタ・・・・」
「え? ぼ、ボクがどうかしたの?」

この時アスカの顔は真っ青になっていた。
いったい何事かとシンジとレイは訝った。

「ちょ、ちょっと来なさい」

そう言うと、アスカは有無を言わせずシンジを引きずり、路地へと連れ込んだ。

「ね、ねェ、どうしたの? アスカってばぁ」
「・・・・。シンジ、ひとつ聴きたいんだけど」

そのあまりに真剣な表情にシンジは後ずさってしまう。

「な、なに?」
「アンタ、この世界の記憶、無いって言ったわよね?」
「う、うん」
「アタシのコトも、レイのコトも、クラスメートのコトも・・・・」
「うん・・・・。あ、でも、ここのところ毎日夢に見るんだ、昔のコト」
「この際、それは関係ないの。アタシが言いたいのはね」
「なに?」
「一学期の記憶も無いの?」
「え? そ、そうだけど・・・・」
「授業の記憶も無いのよね?」
「うん・・・・」
「うん、じゃない! アンタ、期末テストどうするつもり?」
「え?」

それは全く思い掛けない指摘だった。

かつてシンジには、世界を守る、と言う大義名分があった。
世界の混乱は学校どころでもなかった。
それゆえ、少々の成績不振は大目に見られていた。
しかし、ココではそんな言い訳は通じない。
しかも両親は学校関係者。
そして、一学期の授業の記憶が無いコトも厳然とした事実だった。

「アンタは知らないだろうけど、ウチの学校エスカレータ式な分、
 中学から進級には厳しいのよ。
 落第点だったら、間違いなく夏休みの期間中、ずっっっっっと、補習よ!」
「そ、そんなぁ・・・・」
「こうしちゃいられないわ。アタシ達の夏休みを確保するためにも、特訓よ!」
「特訓って・・・・」
「これから一月アタシがつきっきりで教えてあげるから、
 どぉんなコトがあっても、ギリギリでいいから及第点取るのよ!?
 ひとつでも落としたら、殺すわよ!」
「そ、そんなコト言ったって・・・・」
「いい? これは決定事項よ!」
「・・・・は、はい」





(うう、いったいボクどうなるんだろう?)
(生きて夏休み、迎えられるかな?)

シンジはかなり悲観的な考えになってしまう。
そんな2人に突然レイが声を掛けてきた。

「ね。記憶が無いって、どう言うこと?」
「れ、レイ!」
「綾波!?」
「ね、アタシにも教えてよ」
「あ、アンタね。あっちで待っててって・・・・」
「言ってないわよ」
「へ?」
「アスカったら、突然シンちゃんと腕組んで行っちゃうんだモン。
 何事かって、気になっちゃうじゃない」
「うう」
「で、シンちゃん。いったいどう言うコトなの?」
「それが、そのォ・・・・」

シンジはどう答えようか、迷っていた。
アスカの顔色を窺うと、とても言い出せない。
しかし、レイの不安そうな顔を見ると言ってしまいたい。
シンジは激しいジレンマに陥っていた。

ふう

アスカは、大きなため息をついた。
そして、シンジと2人だけの秘密、を諦めた。

(記憶が違っていようが、シンジはシンジだモンね)
(ここでレイに黙っていられるワケないもの)
(アタシはシンジのそんなトコが好きなんだし・・・・)
(レイにウソつくのも後味悪いモンね)
(ここはひとつ、幼なじみってコトに免じて話してあげるか)

「シンジ」
「え、なに? アスカ」
「レイにも、話してあげて」
「い、いいの?」
「うん・・・・」
「ゴメン・・・・。でも、ありがとう」

シンジはアスカにやさしく微笑むと、
レイにも昨日アスカに話したコトを繰り返した。
2度目な分、かなりうまく説明できた。


レイは黙って聴いていたが、シンジの話が終わると、
哀しそうな瞳をシンジに向けた。

「シンちゃん、どうして今までアタシには話してくれなかったの?
 アタシには聴かせたくなかったの?
 アタシって、邪魔なのかな?
 アタシ、シンちゃんとアスカの仲、邪魔してるだけなのかな?」
「そ、そんなコト・・・・」
「あのね、レイ。アタシはレイよりもずっとシンジ見てたから。
 レイがこの街を離れてた間もずっと見てたから。
 だから、分かったの。シンジがいつもと違うって。
 それで、昨日問いつめたの。アタシが。
 それにシンジったら、昨日アタシもレイも同じくらい好きだって。
 このアタシが死ぬ思いで告白したってのによ! ホント、信じらんない」
「そうなの?」
「う、うん。ホントだよ」
「よかったぁ・・・・」

ホッとしたのか、レイはうっすらと眼に涙を浮かべたまま、泣き笑いの表情を作った。
それから、何かに思い当たると、いつもの調子に戻った。

「あ〜〜!!」
「な、なに? どうかしたの?」
「アスカったら、抜け駆けしたんだぁ! ずっるぅ〜い!!」
「な、なによ。そんなのアタシの勝手でしょ!」
「あ〜、そんなコト言うんだ。いいモン。じゃ、アタシも勝手にするモン」

そう言うと、レイはシンジの右腕に抱きつき、
息が掛かるほど顔を寄せてささやいた。

「ねェ、シンちゃぁん」
「は、はい!」
「アタシ、シンちゃんのコト、大好き。愛してるの」

突然のコトにシンジは首まで真っ赤にして目を白黒させるだけだった。
うまく言葉が出てこないようだった。

「コラ〜!! いきなり何してるのよ、レイったら!」
「えぇ〜? だから、アタシも好きにしてるんじゃない。
 悔しかったら、アスカもやればぁ?
 それとも恥ずかしがり屋のアスカには無理かなぁ?」
「な、なによ。アタシだって」

アスカはシンジの左腕を抱き締めると、顔を真っ赤にした。

「し、シンジ!」
「は、はい!」
「あたしが言いたいコト、・・・・分かるわよねェ」

そう言うとアスカはニッコリと微笑んだ。
微笑まれたシンジは、なぜか背筋が凍るような感覚に襲われていた。

「は、はい!」
「あ〜!! ひっどぉ〜い。そんなのありィ?」
「い、いいのよ。アタシとシンジの仲だモンねェ」
「う、うん・・・・」
「シンちゃん、・・・・アタシは?」
「も、勿論、綾波も・・・・」
「もぉ、レイって呼んでェ」
「そんなコト言ったって」
「そうよ。レイは『綾波』で、我慢なさい」
「言ったわねェ!」
「言ったわよ!」

睨み合う2人の美少女に挟まれたシンジは、
早く嵐が通り過ぎるのを祈るばかりだった。





その後、アスカとレイの協力により、
シンジはどうにか全教科スレスレながらも期末テストを乗り切ったのだった。
しかし、それはシンジにとって2度と思い出したくない、
決して味わいたくない辛い日々だったのは言うまでもないであろう。
以後シンジは地道に勉強を続け、決して2人の協力を仰がなくて済むよう、
努力を重ねることとなった。



to be continued



みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「ほんと、シンジっておばかだから困るわよね」

カヲル「ん、どうしたんだい?」

アスカ「あの馬鹿ったら、人が何度も何度も何度も何度も教えてるのに、なっかなか覚えようとしないだもの」

トウジ「そりゃセンセがわるいんちゃうわ〜惣流の教え方に問題があるんやないか」

アスカ「なんですって?」

トウジ「勉強しとセンセの後ろで、マサカリもって仁王立ちしとりゃ、だれでも萎縮するにきまっとるやないか。それだけやない。「このあほたれぇ!!」なんていいながらど突きまわされてみぃ。覚えたことも忘れるにきまっとるやろ」

カヲル「君は、シンジ君にそうやって教えていたのかい?」

アスカ「し、しかたないじゃない!! シンジがなかなか覚え込まないから、こっちだって必死になって・・・・」

トウジ「それがいかんちゅうんや」

アスカ「うるさい!! そもそもアンタ、シンジのことをそういうからには、自分の成績には余程の自信があるんでしょうね!」

トウジ「うぐっ・・・・そ、それをいうなや、惣流・・・」

アスカ「あんたの勉強見るのに、ヒカリがどれだけ苦労してるかわかってるの!?」

トウジ「そうそう、それや。いいんちょーも惣流とおんなじようにワイの後ろでハリセンもってたっとるからなぁ・・・・ワイもくろうしとるんや・・・・」

カヲル「ふっ、凡人はこれだから」

トウジ「なんやて!?」

カヲル「あれくらいのテスト、目をつぶってでもパスするくらいでないと」

トウジ「・・・・そうか、ほなら転校生、目ぇつぶって次のテスト受けてみぃや」

カヲル「・・・・・いや、それはあくまで比喩表現というやつでね」

トウジ「男は一度口に出したことはぜっっっっっったいに完遂するもんや! これでもしパスできへんかったら、パチキかましたるからな!」

アスカ「使徒相手にパチキ・・・・世界で一番の無謀者ね・・・・」


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