ここは何処だろう?
ブランコに滑り台、砂場・・・・
ボクはシーソーに座ってる。
向かいには小さな女の子。
赤い髪をした大きな瞳の女の子。
赤い服がかわいい。
ボクはその子に話しかける。
「ねぇ、アスカ。
ボクねぇ、アスカのこと大好きだよ。
アスカはボクのこと、好き?」
「アタシは・・・・」
ハッ!
今のは夢?
夢なの?
ボクとアスカ、小さかったよね?
何か恥ずかしいこと言ってたな、ボク・・・・。
でも、ボクの記憶に幼なじみのアスカなんていない。
何であんな夢見たんだろ?
それとも・・・・この世界のボクの記憶?
朝の光が差し込んむ部屋の中で、シンジはしばらく考えていた。
いったい今の夢が何であるのか?
この世界で生きてきた碇シンジが持つ記憶なのか?
果たして、自分はこの世界の人間なんだろうか?
ここに居ていいんだろうか?
いくら考えても結論など出るはずがない。
ひとつ頭を振ると諦めて顔を洗いに行く。
しかし、夢は心地よかった。
くすぐったい気分だった。
ずっと憧れていた。
まるで知らなかった想い。
あの世界では決して得られなかった、得られるはずもない安らぎ。
洗面を済ませて、ダイニングへと向かう。
そして、キッチンに顔を出して、ユイに声を掛ける。
「おはよう、母さん」
「アラ、今日も早いのね」
ユイの言葉に苦笑いが浮かぶ。
(ここでは、よっぽどだらしなかったんだな、ボク)
そんなコトを考えながら、ふと視線を向けるとキッチンにはレイの姿があった。
思い掛けない人物の姿にシンジは驚いた。
「何してるの?綾波」
「お料理に決まってるでしょう。ねェ、レイちゃん」
シンジの素朴な疑問に、間髪入れずユイが応える。
「ああ、やっぱり女の子はいいわねェ。
娘に手伝って貰いながらの台所仕事、母さんの長年の夢だったわぁ・・・・
ホラ。男性はテーブルについておとなしく待ってなさい」
ユイは追い立てるようにそう言った。
レイが手伝っていくれているコトで相当ご機嫌なようだ。
一方、珍しく無口なレイ。その頬を少し恥ずかしそうに朱に染めている。
おとなしくテーブルに向かうと、既にゲンドウが新聞を広げて座っていた。
朝の挨拶をかけても、いつものように最小限の返事しか返ってこない。
いつもの様に(と言ってもこの3,4日の記憶しかないが)パジャマ姿で、
新聞に見入っているゲンドウは、どこが落ち着かな気だった。
『新聞ばかり読んでないで、早く用意して下さい』
という、いつものお小言が無いせいか、少し淋しそうに見える。
シンジは一面記事(つまり、テレビ欄)の載ったページをもらって、
所在なげに眺めていると、キッチンからとても賑やかな声が聞こえてくる。
「キャーッ!!ど、どうしよう」
「大丈夫よ、レイちゃん。落ち着いて」
「な、なんでぇ?どうしてぇ?こ、このォ!うまく返りなさいよっ!!」
「あ、レイちゃん。そこはそうじゃなくって・・・・こう、ね?」
「あ、そうかぁ。はい、やってみます!」
「ホラ、レイちゃん。おミソ汁が煮立っちゃうわ」
「あぁ〜!た、たぁいへん!!」
「レイちゃん、そっちはお味見した?」
「え、まだです。と、・・・・う、しょ、しょっぱい・・・・」
「どれどれ、あぁ、これくらいなら大丈夫。いい?これをこうして・・・・」
「ふ〜ん。そっかぁ、そうすればいいんですねぇ」
「さぁ、後はキレイに盛りつけるだけよ。ガンバって」
「ハイっ!!」
しばし沈黙が流れる。
「ホラ、完成よ」
「うわぁ〜い、やったぁ!」
キッチンから嬉しそうなレイの歓声が聞こえてくる。
(一体なんなんだろう?突然どうしたのかな?)
シンジが不思議に思っていると、
朝食がテーブルに並べられ、食事が始まった。
この日は珍しく疑問を素直に口にした。
「ねぇ、どうしたの?今日は。綾波って料理得意だったっけ?」
出来るだけ言葉を選んだつもりでも、それはかなり失礼な問いかけだった。
まぁ、ある意味仕方のないコトだった。
シンジの記憶には、日常生活には疎い、
と言うか無頓着な綾波レイの姿がしかないのだから。
しかし、当然レイはちょっと頬を膨らませて、
シンジの顔を見上げるようにして言った。
「ぶぅ。いいじゃない、別にィ。
得意じゃないからおば様にお料理習おうと思ったんじゃないのぉ〜!」
「ご、ゴメン」
釈然とはしないモノの、いつものクセでつい謝ってしまう。
何より、初めて見るレイの表情にすっかりドギマギしてしまった。
「それより。ね、ね、シンちゃん。これ、アタシが作ったんだ」
いつの間にか機嫌を直したレイは、そう言って卵焼きをシンジにすすめる。
「う、うん。じゃあ、いただくね」
いつもにも増してニコニコと笑顔を溢れさせるレイに気圧されながら、
卵焼きを1つ口に運ぶ。
さすがにこの時ばかりは、少し心配そうな顔でシンジの様子をジッとうかがう。
「・・・・うん、おいしいよ」
「ホント?やったぁ!」
シンジの一言でレイは飛び上がらんばかりに喜んだ。
そして再び笑顔に戻ったレイは食事とお喋りの両方に忙しく口を働かせ始めた。
「おはようございます」
「はぁい、アスカちゃん上がって」
玄関口からのアスカの声にユイが返事を返す。
おじゃまします、の言葉と同時にアスカが碇家の食卓に登場する。
にこやかに一人一人と挨拶を交わすアスカだが、
今朝も既に起きているシンジにまたまた不機嫌になってしまう。
輝かんばかりの笑顔は翳ってしまい、妙に無口になってしまう。
(???)
シンジには訳が分からなかった。
今日も3人で登校する。
昨日と違ってゆっくり歩いて行ける。
少しは機嫌が直ったのか、にぎやかにお喋りを交わすアスカとレイ。
そんな2人をぼんやり見つめながら、今朝の夢を思い出す。
(あれは、ホントのコトなのかな?)
(この世界の、アスカと幼なじみなボクの記憶なのかな?)
(ホント、だったら・・・・いいな)
その一方で、アスカの様子も気になってしまう。
この3日間、朝シンジが起きているのを見る度に、
(いや、昨日はちょっと違ったけが)急に不機嫌になってしまう。
いったい、何が気に入らないのだろう?
「・・・・ね、シンちゃん」
「え?」
とりとめもなく考えていたところに突然レイが声を掛けてきた。
「な、何?綾波」
「まぁ〜た、聞いてなかったんだ!?いったい何考えてたの?」
「え、いや、別に・・・・。アスカ、ここんトコなんで朝機嫌が悪いのかなぁって・・・・」
レイの問いにポロリと口にしてしまった。
次の瞬間、パーン、と乾いた音が朝の通りに響いた。
突然のことに、レイも、シンジも呆然としてしまった。
シンジは頬に手をやることさえ忘れてしまっていた。
「ばか・・・・」
俯いてそれだけ言うと、アスカは2人を置いて走り出した。
お昼休み、今日もみんなで(カヲルも含めて)屋上へ向かう。
「ホラ、シンジ」
朝のコトで未だにご機嫌ナナメな様子のアスカは、
ぶっきらぼうな口振りでそっぽを向いてお弁当を差し出した。
同時に、レイも両手を添えてカワイイ袋に包まれたお弁当を、
頬を朱に染めながら少し躊躇いがちに差し出した。
「あ、アタシも作ったの。シンちゃんに・・・・お弁当・・・・」
「「「「えぇ〜っ!!」」」」
驚く一同。
シンジに至っては声も出ない様子だ。
レイの頬はますます紅潮していった。
そんな中でカヲルだけがいつもと変わらぬ微笑を浮かべている。
「れ、レイ。シンジの分はアタシが作ってるの知ってるでしょ!?」
「うん」
「だったら、なんで・・・・」
「だからよ。アスカが羨ましいなって・・・・。アタシも負けたくないなって・・・・」
あまりに素直な言葉にアスカも二の句が継げない。
珍しくうつむき加減のレイは、潤んだ瞳でシンジを見上げると、
「お願い。食べて」
そう哀願する。
これを断れるようなシンジではない。
それがシンジの美点であり、一番カンに障るところでもある。
それが分かっているアスカはため息をついてしまう。
始めてみるレイの表情にすっかりうろたえてしまったシンジは、
一方で、ジト目で睨んでいるアスカの様子も気になった。
こうなっては、シンジが取れる道は自ずと決まってくる。
結局2人の美少女に見つめられながら、
2つのお弁当を無理矢理かき込むしかなかった。
いくら育ち盛りとはいえ、一時にお弁当2つは多すぎた。
救いは、どちらもすこぶる美味であったことである。
それでも、シンジは今日もリツコ先生のお世話になってしまった。
保健室でリツコ先生のご厚意を謝辞しつつ、市販(!)の胃腸薬をもらったのである。
この結果にアスカとレイの間で話し合いが持たれた。
かなり紛糾したが、2人はどうにか合意に達した。
『シンジのお弁当は1日交代で作るコト』
それまでの既得権益を半分譲る形となったアスカは当然おもしろくない。
かなり悔しそうな顔だった。
一方のレイは、満面の笑みを浮かべ、今にも浮き上がってしまいそうなくらい、
舞い上がっていた。
これを見ていた男子3人は口々に感想を述べた。
「まったく、いいよなぁ、シンジは」
「ホンマ、うらやましいやっちゃで」
「レイに権利があるんなら、ボクだって・・・・」
「「アンタは引っ込んでなさい」」
こんな時だけはピッタリ息の合う2人の剣幕に、
さすがのカヲルも沈黙するしかなかった。
一方で、ヒカリは意を決したように、それでも頬を赤らめて話しかけた。
「あ、あの、鈴原・・・・」
「ん?なんや、いいんちょ」
「え、とぉ、・・・・そのぉ」
「? どうしたんや、いいんちょ?」
「うぅん、いいの、別に・・・・」
ヒカリの言いたいコトは、全員にミエミエだった。
もちろん、肝心のトウジを除いてだが・・・・
結局、アスカは一日中不機嫌そうだった。
帰りもシンジのコトをことさら無視してみせた。
一方のレイは、お昼の一件以来、ずっと浮かれっぱなしだった。
そんな対称的な2人の美少女に挟まれたシンジに出来るコトと言えば、
ただ黙って嵐が過ぎ去るのを待つ、それだけだった。
それでもいろいろ考えを巡らさずにはいられなかった。
(・・・・どうして、怒ったんだろう)
(何が悪かったんだろう)
すると突然ミサトの言葉が思い出された。
『そうして、人の顔色ばかり気にしてるからよ』
夕食時、碇家の全員がダイニングに集う。
そこでレイは今日の出来事を逐一披露する。
特にシンジのお弁当を一日おきに作る権利を手に入れた件に関しては、
とても嬉しそうに報告する。
これに関してレイは、ユイにさらなる協力を要請して、
速やかなる快諾を得ている。
そして、シンジがアスカを怒らせた件に触れると、
ユイとゲンドウは、真顔でシンジを振り返った。
「シンちゃん、ちゃんと謝ったんでしょうね」
「シンジ、・・・・おまえには失望した」
そんな両親の様子にシンジは気弱げに笑うしかなかった。
to be continued
管理人(その他)のコメント
カヲル「シンジ君〜(はあと)」
シンジ「な、な、なにカヲル君(汗)」
カヲル「じつは、いつもいつもここでコメントに出てもらっているお礼に、お弁当を作ってきたんだ。一緒に食べないか?」
アスカ「ちょっとまったあああ!!」
カヲル「なんだい、アスカ君」
アスカ「アンタ!! 毎回毎回コメントに駆り出されるアタシには一言もなしで、ぽっと出のシンジにだけお弁当を作る気なの!!」
カヲル「何で僕が君に?」
アスカ「うだあああああ!! だから理由は今言ったでしょうが!!」
カヲル「・・・・じゃあ聞くけど、きみは好きでもない男の子から、お手製のお弁当を渡されて、「はい、きみは自分で作れないから、代わりに僕が作ってきてあげたよ」なんていわれたらどうする?」
アスカ「問答無用でシバキ倒す」
カヲル「だろ? だったら僕が作ってくる理由はないじゃないか。何しろこの世界での君は「お弁当作りの天災…あいやもとい、天才」なんだからね」
アスカ「それはそうよ。でも、でも・・・・」
カヲル「なに?」
アスカ「でも、なんかむしゃくしゃするからやっぱりシバキ倒す」
どかばきぐしゃっ!!
カヲル「そ、それはひどいな・・・・がくっ」
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