アスカのお弁当
初めてだった
人に作ってもらったお弁当なんて

ボクのためのお弁当
おいしかった
とっても、おいしかった

アスカの口調は変わらない
アスカの態度は変わらない
記憶の中のアスカと変わらない

でも
ボクのことを見てくれる
ボクに優しくしてくれる
ボクを大事にしてくれる

うれしい
すごく、うれしい
夢なら醒めないで!
ボクはここにいたいんだ!





Welcome
第5話
思い出がいっぱい





帰り道も朝と同様、アスカとレイがお喋りに花を咲かせていた。
時々話が振られても、この世界の記憶がないシンジは頷くしかなかった。
2人の話は多岐に渡り、・・・・早い話とりとめがなかった。
話題は、いつしか子供の頃のコトに変わっていた。

3人が通った幼稚園のコト。
3人が遊んだ公園のコト。
みんなで行ったハイキングのコト。

シンジはふと思いついた。

(アルバム!アルバムを見れば、何か分かるかもしれない)

帰宅後自室に戻ると、シンジは早速アルバムを捜し始めた。
自分の部屋なのだろうが、勝手が分からず意外と手間取った。
ようやくディスクとプレイヤーの両方を見つけると、
逸る心を抑えてまずは一息入れることにする。
キッチンに行き、ゆっくりと紅茶を煎れる。
部屋に戻ると、一口飲んで心を落ち着けたところで再生を始めた。


そこには、記憶にない碇シンジの14年間の記録があった。

笑っているシンジ。
泣いているシンジ。
怒っているシンジ。
眠っているシンジ。

みんな碇シンジだった。
自分の知らない幸せそうな碇シンジ。
アルバムに残されている自分の知らない幸せの記憶。
自分には無縁と諦めていた世界。
けれど心の底で憧れ続けた世界。
そんな世界が広がっていた。

そして、必ず1人の少女が横にいた。
赤い髪の少女が横にいた。

笑っているアスカ。
泣いているアスカ。
怒っているアスカ。
眠っているアスカ。

いつも碇シンジの側に惣流アスカはいた。

シンジは確かに幼なじみのアスカをそこに見た。
とても不思議な感じがした。
記憶の中でシンジは常に独りだった。
母ユイが消えてしまったあの日から・・・・
父ゲンドウに捨てられたと感じたあの日から・・・・


でも・・・・

この世界では

いつも

アスカといる。

父さんもいる。
母さんもいる。

幼なじみと一緒の写真。
家族と一緒の写真。
それはシンジの憧れそのものであった。
その全てを享受していたこの世界の自分が妬ましい。
そして、出来うることならこのまま自分が換わりたい。

どこかくすぐったい気分がするこの世界で、
自分が碇シンジとして生きていきたい。
そう、心から願うシンジだった。



アルバムを食い入るように見ていたシンジは、
人の気配を間近に感じて視線を上げた。
真横にはレイが座り込んで、一緒にアルバムを眺めていた。

「うわぁ!」
「きゃっ!な、なぁに、シンちゃん。大きな声出して?」
「あ、あ、あ、綾波!い、いつからそこに」
「ん〜?10分くらいかな?だってシンちゃん、ノックしても、
 声かけても返事しないんだモン。
 てっきり寝てるんだとばっかり思ったから、
 チャンスだと思って、寝込みを襲おうかと・・・・」
「そ、それって・・・・」
「え、あ!じょ、冗談よ。冗談!やぁねぇ、本気にしたの?」

あわてて誤魔化すレイの頬は桜色に染まっていた。
釈然とはしないが、とりあえずレイの言葉を額面通りに受け入れることにした。
深く追求するのはちょっと怖かった。

「ご、ゴメン。でも、部屋に入るのは返事をしてからにしてよ」
「だったら、ノックしたらちゃんと応えてよね!」
「ご、ゴメン。ちょっと考え事してたから・・・・」
「ね・・・・、それって・・・・、アルバムのアスカに・・・・見とれてたって・・・・コト?」

妙に寂しそうな表情で詰問するような口調でレイが聞いてくる。
その様子にドギマギしたシンジは、視線を逸らして応える。

「そ、そんなんじゃないよ!ただ、・・なんて言うか・・・・」
「ね、シンちゃん。リモコン貸して」
「う、うん・・・・」

シンジの答えを待たずに、いつもの調子に戻ったレイ。
その変わり身の速さに驚きながらも頷くしかないシンジ。

そんなシンジの様子など知らぬ気に、レイはアルバムを操作する。
妙に真剣な表情でページをめくっていく。
そして、ようやく目的の画像に到達したのか、喜びの声を上げる。

「あったぁ!ホラ、ホラ、シンちゃん!これ!」

レイの指さす画像には、それまでと同じようにシンジとアスカがいた。
そして、もう1人透きとおるような白い肌の少女がいた。
それは、間違いなくレイであった。



シンジを挟んでアスカと反対側に立つレイ。
アスカはシンジの右手を抱えて。
レイはシンジの左手を握り締めて。
3人はカメラに向かって笑っていた。

「わぁ、これって6つの時のだよ。懐かしいなぁ!
 この頃は、父さんも母さんも元気でアタシもこの街に居たんだよねぇ」

レイがさらに操作すると、
シンジとアスカとレイが仲良く写っている写真が、次々と現れた。


3人ではしゃいでいる写真。
ケンカしている写真。
泣いている写真。
笑っている写真。

「あ、これ、みんなでハイキング行った時んだ」
「見て、見て!海水浴の写真。シンちゃんたら溺れちゃったんだよね」
「やぁだ!こんなのまで。はずかしいなぁ。これってアタシが・・・・」

レイは、その写真1枚1枚を解説しながら、
嬉しそうに見つめていた。
そんなレイの様子にシンジは自分まで嬉しくなってしまう。

シンジとレイ、2人だけの写真もあった。

笑っているレイ。
泣いているレイ。
怒っているレイ。
眠っているレイ。

いろんな表情のレイがシンジの隣にいた。


そして今

写真より、
ずっと成長した、
ずっと綺麗になった、
綾波レイが、
シンジの隣にいる・・・・


気が付くと2人の距離は・・・・
思わず見つめ合うシンジとレイ。
互いの息遣いさえ感じられる距離。

「あ、綾波・・・・」
「シンちゃん」

「ンん!」

突然聞こえた咳払いの2人が振り返ると、戸口にゲンドウが立っていた。
その口元が意地悪そうにゆがんでいる。

「と、父さん!」
「おじ様!いつからそこに?」
「うむ、声を掛けても返事がなかったんでな。しかし、2人とも」
「な、何?父さん」
「ドアくらい締めとくもんだぞ。イチャつくときは」
「「ちがうよ(ます)!!」」

思わずユニゾンが響く。

「ふ、息もピッタリだな」

ニヤリと笑いゲンドウはそから離れて行った。
残されたシンジとレイは互いの顔を見やり、
次の瞬間真っ赤に頬を染めてうつむいてしまった。



ユイが帰宅すると、すでに食事の準備が整えられていた。
ユイが着替えて来ると、子供達もダイニングにやって来た。

夕食も賑やかだった。
今日の出来事を楽しそうに話すレイ。
それをうれしそうに聴いているユイ。
まさに家族の団欒だった。
それはシンジにとって、どこかこそばゆく感じられた。

レイの報告は事細かで、細大漏らさぬモノだった。
シンジなど、『何もそこまで』と思ってしまう。
特にお昼休みの一件に話が及んだときなど、
頬が上気するのをどうしても止められなかった。


「ホント、アスカったらカワイイの。
 子供の頃と全然性格変わってないんだモノ」
「あら、それはレイちゃんも一緒でしょう?
 昔から2人でシンジのコト取り合ってたし」
「おば様!」

そう言ったきり、言葉に詰まったレイは頬を染めて俯く。
それから何か思いだしたように真剣な表情を浮かべて、
ユイと視線を合わせる。

「あの、おば様・・・・」
「なぁに、レイちゃん」

にこにこ微笑みながらユイが応える。

「えと、その、ですね」

言葉に詰まりながら、レイはシンジの方にちらちらと視線を送る。
それに気づいたユイは、ああ、と納得顔で頷き、
ゲンドウとシンジの方を向いてこう宣言した。

「はい、これからは女性同士の内緒話です。
 さ、2人とも。リビングにでも行って下さいね」

にっこりと笑顔は崩さないが、有無を言わせない。
そんな妻の顔をしばらく眺めていたゲンドウは、
諦めたようにダイニングを後にする。

「あなた」

その背中にユイが声を掛ける。訝しげにゲンドウが振り返ると、
これ以上は無いといった笑顔を浮かべてユイが一言。

「ごちそうさまは?」

・・・・

リビングでゲンドウはシンジに向かって呟いた。

「男とは寂しいものだな、シンジ」



夕食後、早々に自分の部屋に戻ると、シンジは改めてアルバムを見返していた。
脚を放り出し、背中は壁に預けている。
そんな格好で1枚1枚最初からぼんやりと眺めている。
どこか放心したような表情が浮かんでいた。

それはこの世界の碇シンジの幸せそのもの。
これからは、自分のモノになるかもしれない幸福。

この世界の不思議さを噛み締めているうちに、
ふとあの世界のことを思い出した。
あの世界の、最後の刻を・・・・

(サードインパクトの後、ボクは独り残された)
(でも・・・・綾波が来てくれた。ボクの側に)
(父さんを残して)
(ボクが呼んでいるからと)
(ボクのために)
(ボクを守るために。ボクを独りにしないために)
(綾波は来てくれたんだ)

(そして、カヲル君が現れた。ボクの前に)
(カヲル君は笑ってくれた。ボクに向かって)
(カヲル君は話してくれた。いろんなコトを)
(ボクの知らなかったコト)
(誰も教えてくれなかったコト)
(ボクが知らなければならないこと)
(みんな教えてくれた)

(それから、ボクは・・・・)

いつしかシンジは浅い眠りについていた。




[to be continued]



みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

カヲル「じいいいいいい」

アスカ「アンタ、なに熱心に見てんのよ・・・・ってこら! あたしのアルバムじゃないの!!」

カヲル「や、どうかしたかい?」

アスカ「れでぃの過去を恐れ多くも無断で見るんじゃないわよ!」

カヲル「れでぃっていうけどねぇ・・・・この写真、どーみてもきみ、男の子にしか見えないんだけど」

アスカ「・・・・どういう意味よ」

カヲル「喧嘩で男の子をこてんぱんにぶちのめしているところとか、木登り昆虫採取・・・・人形遊びとかおままごととか女の子の遊び、やってる写真がないじゃない」

アスカ「う、うるさいわね! そういう写真は、す、す、捨てちゃったのよきっと!」

カヲル「ほんとうかなぁ・・・・(にやり)。ま、この隣で泣いている女の子みたいにとは言わないけどね・・・・」

アスカ「はあ?」

カヲル「ほら、この隣で君に殴られて泣いている女の子」

アスカ「・・・・それ、シンジなんだけど・・・・」

カヲル「・・・・・ええっ!!」

アスカ「ま、たしかにアイツはちっちゃいときは女みたいだったけどね・・・・そこまで見事に間違えるとは・・・・」

カヲル「シンジ君・・・・やっぱりぼくは君に会うために生まれてきたんだ・・・・今すぐ行くからね・・・・」

アスカ「って人の話を聞けええ!!


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