僕と一緒に暮らす父さん。
僕と一緒に暮らす母さん。

僕と幼なじみのアスカ。
元気で怒りっぽいアスカ。

クラス担任で英語教師のミサトさん。
保険医のリツコさん。

理科教師のマヤさん。
数学教師の日向さん。
社会教師の青葉さん。
体育教師の加持さん。

第壱学園園長の父さん。
教頭先生の冬月さん。
そして、理事長の母さん。

綾波はもう一人の幼なじみ、僕のいとこ。
両親は随分前に亡くなり、
綾波を育ててくれたおじいさんも亡くなって、
僕の家に引き取られて・・・・

セカンドインパクトもなく、
サードインパクトも起こらなかった世界。

使徒が攻めてこない世界。
エヴァンゲリオンを必要としない世界。

悪くない。
居心地のいい世界。





Welcome
第4話
お昼休み




ようやく午前の授業が終わった。
NERVのメンバー(あくまでシンジの記憶のみであるが)の授業には
どうにも違和感がつきまとい、シンジは必要以上に消耗してしまった。

大きなタメ息と同時に机に突っ伏す。
そうして一息つくと、ある重要なことに気がついた。

(お昼!どうしよう!?)

妙に機嫌の悪かったアスカに、十分余裕があるにも係わらずせかされ、
母ユイに確認できなかったのだ。

「あ、綾波。お昼はどう・・・」
「え、ユイおば様がお弁当作ってくれてるけど」
「ぼ、僕の・・は?」
「さあ?アタシは知らない」

レイの素っ気ない返答に、もう一度タメ息をつく。

(しようがない。トウジ達とパン買いに行くか)

そう考えて見回すが、2人の姿はすでになかった。
そこにアスカが少し上気した様子で声をかけてきた。

「ホラ、シンジ!お弁当!」

そう言うと、かわいい袋をシンジに向かって差し出す。
シンジは事態が把握できずにしばらく呆然とその袋を眺めていた。

「えぇ〜!ア、アスカがぁ!!」

ようやく状況を理解すると、つい大声で叫んでしまった。
シンジにすれば当然であろう。
記憶の中のアスカは包丁を握ることなど、ただの一度も無かったのだから。
葛城邸に同居を始めてから家事一切を自分に任せ(押しつけて)、
ラフな(あられもない)格好で、寝そべってテレビを見ている。
そんな姿ならいくらでも覚えがあるのだが。

このシンジの様子にカチンときたアスカは、声に不穏なものを
混じらせながら言った。

「アンタねェ!それがいつもお弁当作ってあげてる幼なじみに対して
 言う感謝のセリフ?素っ頓狂な大声出しちゃったりして。
 それとも何?このア・タ・シ・が!作ったお弁当、食べたくないワケ!?」
「ご、ゴメン。そ、その・・・・そういうワケじゃ・・・・」

アスカの剣幕にどうフォローしようかと慌てながらもその一方で、

(このあたりの性格って、僕の知ってるアスカだ。これだけは変わんないや)

などと、妙に感心してしまう。



ここらで、当然レイが口を挟んでくる。

「何、何。アスカったら、シンちゃんに愛妻弁当?」

これにアスカは真っ赤になりながら反論する。

「な、何言ってんのよ!これは・・・・ユイおば様!
 ユイおば様忙しいからって頼まれて、それでアタシが代わりに・・・・」

しかし、この言葉に説得力はない。
なにしろレイの手元にはユイお手製のお弁当があるのだから。
ここぞとばかりにレイが畳み掛ける。

「別にテレることないでしょう。
 好きな人のためにお弁当作ってあげるなんてステキじゃない」
「ア、アンタ、バカぁ!?こ、これは義理でやってんの!」
「ふぅ〜ん、それじゃあ、やりたくてやってるワケじゃないんだ?」
「そ、そうよ!」
「なら、アタシが代わってあげましょうかぁ?」
「!!」

猫なで声で迫るレイ。
返答に詰まるアスカ。
あまりのことに声にならない。

「あ、あのぉ、2人とも。それくらいにして早くお弁当食べましょう!?」

ヒカリの言葉にホッとてアスカは黙って頷く。

(ホント、アスカったらカワイイんだから)

笑いの衝動を堪えながらレイも頷く。

「それじゃあ、屋上に行きましょう。綾波さんも」
「うん!あ、ねぇ、アスカ。シンちゃん達も一緒しよう!」
「な、なんで?」
「なんでって、何か都合悪い?」
「そんなこと無いけど・・・・」
「それじゃあ、決まりね。ヒカリちゃんもいいでしょ?
 ちゃんと鈴原君も誘うから」

その一言で見る間に顔全体を真っ赤に染めたヒカリは、
ただ小さく頷くだけだった。

「シンちゃん!」
「え、あ、何?綾波」
「もう、聞いてなかったの?あのねぇ、アタシ達と一緒に
 お弁当しましょう。いいでしょう?」
「え、と。い、いいと思うよ」
「良かった。それじゃあ、アタシ達屋上に行ってるから、
 鈴原君達戻ってきたら連れてきてね」

そう言うと、レイは鮮やかな微笑みを浮かべた。
そして、アスカとヒカリを伴って屋上に向かった。
その様子をぼぅっと見送りながら、シンジは考えていた。

(やっぱり、僕の知っている綾波じゃない)
(けど、こんな綾波も・・・・いいかな?)
(それに起こしに来たり、お弁当作ってくれるアスカ)
(それも悪くない・・・・かな?)



6人でのお昼はにぎやかだった。シンジはお弁当を広げてみる。

「うわぁ、おいしそう」

そう歓声を上げたのはレイだった。
それは、配色にさえ気を配られた見事なお弁当であった。
できあいや冷凍食品を一切使っていない。
まさに愛情たっぷりといったところだ。

作ったことはあっても、作ってもらったことなどないシンジ。
こんな時、なんと言えばいいのか、どうすればいいのか、
初めての経験に戸惑ってしまう。
そして、不覚にも目頭が熱くなってしまう。

『笑えばいいと思うよ』

いつか綾波レイに投げ掛けた言葉が脳裏に浮かんだ。
自然と極上の笑みが浮かぶ。

この様子をジッと見ていたアスカ。
昨日から感じている違和感が再び湧いてくる。
一方で、その笑顔がたまらなく嬉しい。
アスカは誇らしげに胸を張る。

「いつもながら見事ねぇ」

料理に関しては学園で右に出る者がいないと言われるヒカリも、
手放しの褒めようだから相当なモノだ。
ヒカリの言葉に、ケンスケやトウジも続ける。
それは当然やっかみ半分、と言ったところだ。

「いいよなぁ、シンジは。愛情一杯、惣流お手製弁当だもんな」
「ホンマやな。ワシら、いつもアテられっぱなしやからなぁ」
「そう、そう。この間だって、ホラ・・・・」

「な、何言ってんのよ!アタシは別に・・・・」

真っ赤になったアスカの語尾は彼女に似合わず弱々しい。
シンジは曖昧に笑って、その場を誤魔化す。
とにかく一口。
記憶の中のアスカは、この方面にはからっきしだっただけに、少々怖い。
しかし、

・・・・おいしい!

「おいしい!すっごく、おいしいよ。アスカ」
「あ、あったり前でしょ!このアタシが作ったお弁当よ。
 おいしくって当然よ」
「ご、ゴメン。でも、嬉しくって。ホントにおいしいよ」

そう言うとシンジは、おいしそうに、幸せそうに、大事そうに食べる。
この時、”他の人が作ってくれた”と言う点に感動していたシンジは、
”女の子が作ってくれた”と言う事実に気づいていない。
この辺りがいかにもシンジらしい所だ。

アスカはそんなシンジの過剰反応に驚きつつも、
うっとりとその様子を眺めやる。
そんな2人を交互に見ながらお弁当を食べるレイ。
珍しく考え事をしているようだった。
そして、何か決心したようにそっと頷いていた。



「ねェ、アスカは食べないの?」
「た、食べるわよ。もちろん」

ヒカリの言葉にアスカは慌てて、ちょっとドモってしまう。
それを見ていたレイがまたアスカにちょっかいを掛ける。

「ひょっとしてアスカったら、シンちゃんが食べてるところ見てるだけで、
 胸一杯になっちゃったとか」
「あ、アンタばか?どうすりゃ、そんな発想出てくんの?
 信じらんない!」
「だって、シンちゃんが食べてるトコ、幸せそうに見つめてたわよ」
「そ、そんなワケ無いでしょ!なんでアタシが・・・・」

再び雰囲気が険悪になりかける。
焦ったヒカリはぎこちなく別の話題をふった。

「あ、そうだ。綾波さんも2人と幼なじみなんですって!?」
「え?あ、そうよ。6つの頃まで一緒だったわ。ね?レイ」
「うん。アタシが引っ越すまでは、いつも3人で遊んでたわね」
「ね、どんな感じだったの?3人とも」
「そうねェ、シンジは・・・・大して変わんないわね。
 子供の頃からボケボケってしてたし」
「アスカ。それじゃあ、シンちゃんかわいそうよ。
 だいたいアスカって、いつもシンちゃんにくっついてたクセに」
「へェ〜、それじゃあ惣流も変わりないんじゃ」
「相田、黙れ!」

ケンスケをひと睨みで黙らせる。
返す刀でレイに向かうアスカだが、こちらは一筋縄ではいかない。

「ちょっと、レイ!勝手なこと言わないでよ。『シンちゃん、シンちゃん』って、
 シンジの後ついて回ってたのアンタじゃない」
「あ〜ら、アタシは自分の気持ちに素直なだけよ。昔も今も」
「おお!綾波のライバル宣言!羨ましやっちゃで、シンジは」
「す〜ず〜はぁ〜ら〜!アンタなんてこと言うのよ!」
「ど、どないしたんや?いいんちょ。ワシなんかまずいこと言ったか?
 っ、ぐぇ〜!」

あまりのコトに言葉が出ないアスカは実力行使に訴えることにした。
トウジの首を絞めるアスカの手は、ヒカリが止めに入るまで、
力を込められたままだった。

この様子を黙って見ていたシンジ。

(なんて平和なんだろう)
(なんていい所なんだろう)
(なんだかくすぐったいような気がする)
(でも悪くない)
(これが幸せってコトなのかな?)
(すごく居心地がいい)
(でも何でボクが、ここに居るんだろう?)
(ボクなんかがここに居ていいのかな?)



食事が終わった頃、女の子の間で相談がまとまった。

「ねェ、アスカにヒカリちゃん。週末に買い物つき合ってくれない?」
「いいわ。ついでに街を案内してあげる。いいでしょ?」
「うん。アタシも別に予定はなかったし。
 じゃあ、日曜日の10時に駅前集合でどう?」
「そうね。それでいいわ」
「アタシも。ありがとう、2人とも」

カヤの外に出された男子3人は、ぼぉっとその様子を眺めていた。
それに気づいたアスカは突然振り返り、こう宣言した。

「そうだ。アンタ達も来なさいよ」
「えェ〜、なんでワシらが」
「レディの代わりに重い荷物を持つのが殿方の仕事でしょ!」
「なんや、休みの日までコキ使う気ぃか〜?」
「こっちの都合も考えて欲しいよ。な、シンジ」
「え?う、うん・・・・」

急に話をふられたシンジはとりあえず相づちを打ってしまう。
しかし、ふとアスカの方を見るとその表情はこわばった。

「シィ〜ン〜ジィ!」

「あ、ぼ、ボクはかまわないよ。アスカ」

「こ、このウラギリもぉ〜ん!」
「ハァ〜。こんな奴だよな、シンジって」
「つべこべうるさい!・・・・で?アンタ達は?来るの?来ないの?」

アスカの眼光に加え、トウジにはヒカリからの熱い視線もある。
これには、さすがのトウジも逆らえない。

「しゃ、しゃあないなぁ。よっしゃ!行ったるわ」
「仕方ないな。ボクもお供するよ」

渋々と言った表情のケンスケだったが、内心ではガッツポーズを作っていた。
それはそうだろう。こんなチャンスは滅多にない。
学園最高の被写体、しかも私服姿が撮れるのだから。
早速日曜日の装備を考え始める。

「あ、そうだ。相田」
「え、な、なんだい?惣流」
「言っとくけど、アンタ達はポーターなのよ。余計な荷物持ってくんじゃないわよ」
「な、なんのこと?」

その言葉にケンスケの背中を冷たいモノが走る。

「どうせアンタのことだから、アタシ達の素晴らしい私服姿が撮れるってんで、
 山ほどカメラ持って来るつもりでしょ!?いい?
 当日は、カメラは1台のみ。モデルガン、野戦服その他の装備はいっさい不許可!」
「そ、そんなぁ」
「イヤならそれでもいいわよ。ただし、これまでの分も含めて、
 アタシ達のモデル料について話し合いましょ!」

ここまでの会話がなければ、どんな男性でも魅了されてしまう。
そんな極上の笑み浮かべるアスカ。

「・・・・わ、分かりましたぁ」

うなだれるケンスケの背中には哀愁の2文字が刻まれているようだった。




[to be continued]



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管理人(その他)のコメント

ケンスケ「なんで、なんで迷彩服がいけないって言うんだ!!」

トウジ「まあまてやケンスケ」

ケンスケ「あれだって立派なファッションじゃないか!」

トウジ「一部にのみ受け入れられるファッションやけどな」

ケンスケ「機能性にあふれたフォルム! 視認度を下げるための迷彩装飾!」

トウジ「・・・・街のどまんなかで迷彩はかえって目立つで・・・・」

ケンスケ「そしてなにより男のロマン!」

アスカ「男のロマンは男だけのときにやってくれない? アタシやヒカリが一緒にいるときにやられると迷惑なのよ」

ケンスケ「そんな・・・しくしくしく」

アスカ「ほんとうはあんたのジャージも何とかしてもらいたいんだけどね・・・・」

トウジ「なんや! ジャージはわいのぽりしーや! めったなことではかえるつもりはあらへん!」

アスカ「本人もこう言ってるし、ヒカリが・・・ねぇ・・・」

トウジ「なんや? いいんちょーがどうしたて?」

アスカ「いや、あんたのジャージが・・・・」

 っぱああん!!

ヒカリ「い、いやねアスカったらわけのわかんないこと言って・・・」

アスカ「・・・・やるわね、ヒカリ・・・・汗」


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