綾波。
綾波レイだよな。
確かにそう言った。
聞き間違いなんかじゃない。
淡い髪
赤い瞳
透けるような白い肌
どれも綾波だ。
綾波レイに間違いない。
でも、でも!
僕の知ってる綾波じゃない!
綾波レイなんかじゃない!
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第2話 |
私立第三新東京市第壱学園 |
アスカと転校生綾波レイの口論に端を発する騒動はいつまでも収まりそうになかった。
そんな中、騒動の原因である碇シンジは、ただ呆然とレイの姿に見入っていた。
自分の知っているままの姿。
でも、正反対の性格。
何より、あのアスカと口で対等に渡り合うなんて・・・・
母、碇ユイの存在に優るとも劣らぬ衝撃だった。
ついに堪忍袋の緒が切れたヒカリの一喝で静寂が訪れる。
その間隙をついて、担任ミサトがさりげなく次の爆弾を放り込む。
「それじゃあ、綾波さんの席はシンジ君の隣ね」
碇シンジの隣の席
それは、素直でないアスカがさけた場所。
すべての女子生徒がアスカの無言の圧力にさけた場所。
もちろん、レイはそんなこと知らない。
特に気にすることもなく、素直にうなずく。
アスカを中心にクラスの緊張が高まる。
「あ、それと今日は午後から全校集会よ。忘れないでね。以上」
言うことだけ言うと、ミサトはさっさと教室を後にする。
クラスの誰もが固唾を飲んで見守る中、レイは指定された席へ向かう。
そして、にこやかに微笑むと、シンジに話し掛けた。
「さっきはゴメンね」
その一言にシンジは
「え、あ、や、その、こっ、こっちこそ、ゴメン」
そう応えるだろうと、誰もが考えていた。
アスカもそうだった。
しかし、シンジはただ黙ってレイの顔を見つめるだけだった。
自分が知る少女とのギャップにただ呆然として。
そんなシンジの様子を勘違いしたアスカは、
「バカシンジ!何、根に持ってんのよ!いい加減になさい!」
そう言うと同時に、後ろからシンジの椅子を蹴り飛ばす。
その一撃で我に返ったシンジが応える。
「え、あ、や、その、こっ、こっちこそ、ゴメン」
ぽかんとしていたレイは吹き出してしまい、
涙が出るほど笑い転げた。
「あ、ゴメン、ゴメン。笑ったりして。それじゃあ、これからよろしく。
エと、何シンジ君?」
「碇。碇シンジ」
バツの悪そうな表情で応えるシンジ。
「え?碇・・シンジ!?ねぇ、あなたはなんて言うの?」
レイはすっかり毒気を抜かれた様子のアスカを振り返り、尋ねる。
その迫力に飲まれて、素直に応える。
「アスカ、惣流アスカよ」
「え、それじゃ、あなたたち・・・・」
その時、1時限目のチャイムと同時に、
ショートカットの似合った女性が教室に入って来た。
「きりーっつ、れい!」
ヒカリの号令に、レイは話を続けるのを一時あきらめた。
しかも、続きは昼休みまで待たなければならなかった。
シンジはそれから昼休みまでずっと茫然自失の態だったし、
レイはレイで休み時間毎に新しいクラスメートに囲まれ、
質問責めとなったのだから。
昼休み、ようやく質問責めから開放されたレイが、シンジに聞いてきた。
「ねぇ、後で校内を案内してくれない?」
「う、うん。いいよ」
即答するシンジ。
しかし、シンジはこの学校のことを知らない。
そのことに気づいて、恐る恐る振り返ってアスカに聞いてみた。
「ね、ねぇ。アスカも一緒に来てくれない?」
自分を誘ってくれる。シンジの言葉がアスカにはうれしかった。
(なんだ、いつもと変わんないや。いつものシンジだ!)
でも、アスカの返事は素っ気ない。
「な、何よ。なんでアタシが!せっかくなんだから、2人っきりで仲良く行けばぁ」
心にもない台詞。それでも口から溢れてしまう。
素直になれない自分がイヤになる。
アスカの内心など知らない(知ろうとする余裕もない)シンジは、
それでも懸命にアスカに頼んだ。
「そんなこと言わないでよ。お願いだから一緒に行こうよ」
「しょ、しょうがないわね。そんなに言うんなら行ってあげるわよ」
うれしくて堪らないクセに、つい恩着せがましい口調になってしまう。
そんな2人の様子に笑いと共にどこか複雑そうな表情を浮かべるレイであった。
「東が中等部で、西が高等部。南側は理事長室とか園長室、それから講堂ね」
アスカが先頭に立って説明してくれる。
「それじゃあ、理事長室から教えてくれない?
朝、遅刻寸前で挨拶に行けなかったから」
「わかったわ。こっちよ」
アスカが先頭に立って歩き出す。
理事長室は、東の中等部、西の高等部に挟まれた中央校舎の1階にあった。
アスカは、その重厚なドアに軽くノックをするとさっさと中に入っていく。
「失礼しまぁす、おばさま。転校生をお連れしました」
(え!)
その言葉に驚きつつも、とりあえずレイに続いてドアをくぐる。
そこに座っていたのは、間違いなく碇ユイだった。
(お、母さんが理事長?どうなってるの?)
「ご苦労様、アスカちゃん。当学園へようこそ、レイちゃん」
「よろしくお願いします。ユイおばさま」
「あれ?あんた、ユイおばさまのこと知ってんの?」
「何を言ってるの、アスカちゃん。シンジのいとこのレイちゃんよ。
忘れちゃったの?」
その言葉にさすがのアスカも声がなかった。
「8年ぶりと言っても、幼なじみの顔忘れるなんて!
アスカちゃん!シンちゃん!」
ここぞとばかりにレイは、悪戯っぽく微笑みトドメを刺す。
アスカは目を丸くしていたが、不意に思い当たったのか、興奮気味の声を出す。
「え、って、レイちゃん?ホントにあのレイちゃん?」
「まったく薄情ね、2人とも。アタシなんかすぐ分かったのに!」
「何よ、引っ越してから手紙ひとつ、電話一本くれなかったくせに!
薄情者はどっちよ、レイちゃん!」
「それはおたがいさまでしょう」
いきなり盛り上がった少女2人の会話に完全に置いて行かれるシンジ。
またも呆然としてしまう。
(母さんがこの学校の理事長・・・・)
(綾波も僕の幼なじみ。その上いとこ!?)
(もう、何があっても驚かないぞ!)
しばらくして、ユイが事情を話し始める。
「レイちゃんのご両親が亡くなってから、
おじいさまのところに引き取られたのは知ってるでしょ?
そのおじいさまも先日亡くなられたので、
ウチでレイちゃんのこと預かることになったの」
「えぇ、そうなんだ。おばさま!何でもっと早く教えてくれなかったの?」
「ん?黙ってた方が感動の再会を演出できるでしょ?
そうそう、シンジ。今日レイちゃんの荷物届くはずだから
ちゃんとお手伝いするのよ」
有無を言わせないユイの言葉にシンジは頷くことしか出来なかった。
理事長室を後にしても、キャイキャイとはしゃぐ2人。
その後ろを疲れたような足取りでついて行くシンジ。
「あ、ここが保健室よ」
アスカが言う。
その時ドアが開き、白衣を身につけた女性が出てきた。
その髪はあろう事か、金色に染められている。
(今度はリツコさんか・・・・)
先程の宣言通り、もはや驚きもしないシンジであった。
大きなため息をひとつつきはしたが。
「アラ、シンジ君にアスカ。・・・・あなた知らない顔ね」
「転校生の綾波レイです」
「私は赤木リツコ。ご覧の通り保健医よ。ところで、・・・・シンジ君。
顔色悪いわよ。疲労回復剤あげましょうか?」
シンジの冴えない様子をめざとく見つけたリツコが、優しい声を掛ける。
「リツコ先生、また新しい薬作ったの?」
アスカの問いに、嬉しそうにリツコが応える。
「ええ、そうよ。これは、革命的な新薬よ!」
「理論上は!でしょ」
いつの間にかミサトがやって来て、茶々を入れる。
「そう。だからシンジ君、科学の進歩のためにもこの薬を・・・・」
そう言い掛けて振り返れば、シンジの右腕をアスカ、左腕をレイが、
それぞれ抱え有無を言わせぬ力で引きずり、その場から逃走していた。
管理人(その他)のコメント
アスカ「人を誘っていた理由はそれかぁ! あの馬鹿シンジ!!」
カヲル「何をそんなに起こっているんだい?」
アスカ「決まってるじゃない! 珍しくシンジが熱心に誘うと思ったら、この、このアタシから情報を仕入れるためだったなんて!!」
カヲル「じゃ、君は何を期待していたんだい?」
アスカ「は?」
カヲル「シンジ君がどういう意図で君を誘ったら、君は満足したんだい?」
アスカ「それは・・・・」
カヲル「校内を案内するのに、デート気分で誘ってくれればよかったと?」
アスカ「そ、そうはいってないけど」
カヲル「それとも、そのまま体育倉庫の中にひっぱりこむつもりで、シンジ君がさそってくれればよか・・・ぐはっ」
どかばきぐしゃっ!!
アスカ「なに破廉恥なこといってんのよあんたは!!」
カヲル「うがっ・・・・」
アスカ「あんた、じつは誰かにそれをやったことない?(疑惑のまなざし)」
カヲル「まさか、できるわけないじゃないか」
アスカ「・・・・そ、ならいいんだけどね(まだ信じられないらしい)」