「バカシンジ!!」
その声にハッと目覚める。
ベッドの上で寝ていたシンジが目にしたものは、・・・・見知らぬ天井だった。
(え?)
ここはどこだろうと、辺りを見回す。
オーディオ・セット
女の子の微笑むポスター
ケースにしまったチェロ
放り出されていたエレキ・ギター
そして、
ベッドの横に制服姿のアスカが腰に手を当てて立っている。
「よぉうやく、お目覚めね。バカシンジ」
「なんだ、アスカか」
よく知っている少女の存在に少し安心して、寝ぼけ眼でそう応える。
「なんだとは何よ!こうして毎朝遅刻しないように起こしに来てやってるのに、
それが幼なじみに捧げる感謝の言葉ぁ?」
「え?お、幼なじみぃ!?」
「何寝ぼけてんの!うんもぉ〜〜、さっさと起きなさいよ!」
そんなシンジの反応に業を煮やしたアスカは、実力行使に出ることにした。
バッと布団をはぐアスカ。
ふと、シンジの下半身が目に入る。
そこにあったものは・・・・
真っ赤になるアスカ。
碇家にビンタの音が響く。
「キャー!!エッチ!バカ!ヘンタイ!信じらんない!」
「ご、ごめん。でも、仕方ないよ。朝なんだから」
碇シンジ
汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機パイロット。
惣流アスカ・ラングレー
同2号機パイロット。
それが2人の公式な立場。
僕らはあの日、初めて出会った。
国連軍太平洋艦隊旗艦オーバーザレインボーの上で。
黄色のワンピース
赤いヘッドセット
勝ち気な笑みを浮かべ
腰に手を当てて
僕の前に立っていた。
それは、彼女と過ごしたわずかな時間の始まり。
あの惨劇へと続くプロローグ。
僕と、アスカと、そして綾波は戦い続けた。
僕らは全ての使徒を倒した。
でも、みんな壊れてしまった。
サードインパクトは起こってしまった。
ミサトさんも死んだ。
リツコさんも。
父さんも。
アスカも。
そして、僕と綾波は・・・・
でも、ここは?
「ほぉら、さっさとしなさいよ!」
「ご、ごめん。でも!どうして!アスカは死んじゃったのに!」
「なんですってぇ」
パンとビンタの音が再び響く。
痛い。夢じゃない。
でも、アスカがいる。
アスカは幼なじみだって言った。
アスカは僕を起こしに来たって言った。
これは何?現実なの?
こんな部屋、知らない。知らない天井だ。
茫然自失のシンジは、それでもアスカに促されて制服に着替える。
洗面所に引っ張って行かれ、顔を洗う。
冷たい。
もやの掛かったような頭が少しすっきりする。
それでも何がどうなっているのか、サッパリ分からない。
ダイニングからは話し声が聞こえていた。
「シンジったら、せっかくアスカちゃんが迎えに
来てくれてるっていうのにしょうのない子ね」
「ああ」
「あなた。新聞ばかり読んでないで、さっさと支度して下さい」
「ああ」
「もう、いい年して、シンジと変わんないんだから」
「君の支度はいいのか」
「いつでも。もう、会議に遅れて冬月先生にお小言言われるのは、私なんですよ」
「君はモテるからな」
「バカ言ってないで、さっさと着替えて下さい」
「ああ、わかってるよ、ユイ」
アスカに引っ張られてダイニングに入ると、そこでシンジは信じられないものを見た。
そこには、テーブルにつき、新聞を読みふける父ゲンドウの姿があった。
そして、キッチンには見知らぬ女性。
(あ、綾波・・・綾波レイ?)
(ち、違う。もっとずっと年上だ)
(でも、さっきの会話。父さんと話してた)
(まさか・・・・)
「じゃあ、おば様。いってきます」
(やっぱり!お母さん?)
そんな疑問を確かめる暇もなく、アスカに背中を押されて家を出た。
背後からかすかに声が聞こえてきた。
「いってらっしゃい。ほらもう、あなた!いつまで読んでるんですか」
「ああ、わかってるよ、ユイ」
朝日の中の街。
渋滞している車を横目にアスカとシンジは疾走する。
「今日転校生が来るんだって」
ふと思い出してアスカはシンジに話し掛けた。
「ここも来年には遷都されて、新たな首都になるんだもの。
どんどん人は増えてくのね」
そう言われても、アスカについて行くのに必死なシンジは
答えを返す余裕がなかった。本当は聞きたいこと、
考えなければならないことが、たくさんあるはずのに
それどころではなかった。
一方、返事がもらえなくて、アスカはムッとする。
「ねぇ、どんな子なんだろう?かっこいい子だったらいいな」
年頃の女の子なら当然だろう。転校生はかっこいい男の子でなければならない。
もっともアスカの場合、シンジの反応が知りたくて、そんなことを口にするのだが。
しかし、応えることの出来ないシンジ。
アスカは平然としているが、シンジはもうすでに息が上がっている。
普段なら、話ながら走っても平気なはずなのに、今日のシンジはおかしい。
そのことにようやくアスカは気づいた。
(そう言えば、起きたときから変なこと口走ってたわね)
シンジはすでに前を見て走るのも辛くなっていた。
だから、交差点に差し掛かったとき、右の方らトーストをくわえたまま
走ってくる少女に気づきもしなかった。
「あ〜ん、チコク、チコクぅ!
初日からチコクじゃ、かなりヤバイってカンジだよねぇ」
そんなことをぼやきながら走る少女が、目の前の人影に気づいたときは
もう遅かった。
激しい衝撃に、はじき飛ばされ、倒れてしまう2人。
道路に両手をついたシンジが、ふと、前を見ると
そこには白い布地と形のいい脚が覗いていた。
頭をさすっていた少女が気づき、あわててスカートの中を隠す。
そして、バツが悪そうに
「ごめんね、マジで急いでたんだ」
そう謝ってきた。
赤くなってるシンジが少女に目をやると、それはよく知っている顔だった。
「あ、綾波!綾波レイ!」
「え、なんでアタシの名前?」
不思議そうな顔をするが、ハッとした顔で腕時計を覗き込むと、
「ほんと、ごめんね」
そう言い残し、慌てて走り去る。
少女の姿を呆然と見送るシンジの様子にアスカはムッとして顔である。
ようやくたどり着いた校門にはこう書いてあった。
『私立第三新東京市第壱学園』
(知らない名前だ。ここはどこなんだ)
(でも、まったく知らない訳じゃない)
(いったい、どうなってるんだろう?)
(パラレルワールド?まさか・・・・)
2年A組の教室に入ると、そこには知った顔ばかりだった。
ふと見ると、トウジが手招きしている。
その横にはデジタルビデオを構えたケンスケがいる。
見知った顔にホッとしたシンジは、
考え事をする暇もなく、さっきの出来事を話して聞かせた。
「ぬワァニィ〜・・・・で、見たんか・・・・その女のパンツ!」
「別に見えたってわけじゃ。チラッとだけ」
「カァー!朝っぱらから運のエエやっちゃなぁ」
いきなり横から耳をつかまれるトウジ。
その手の持ち主は言わずとしたクラス委員長、
洞木ヒカリ嬢のものである。
「いてててて。いきなり何すんのや・・・・イインチョ!」
「鈴原こそ朝っぱらから、何バカなこと言ってんのよ!
ホラ、さっさとゴミ捨てて来て。当番でしょ!」
その剣幕に文句も言えずに、ゴミ箱を抱えて走り出すトウジ。
いつもの光景
いつもの会話
少し安心したシンジが、ふとつぶやく。
「尻に敷かれるタイプだな、トウジって」
「あんたもでしょ」
間髪入れずにアスカが言う。
「そ、そっかな?」
「そうよ。見たまんまはない」
「そんなぁ。もうちょっと、言い方ってもの・・・・」
「うるさいわね、バカシンジ」
それを見ていたケンスケがぽつりとつぶやいた。
「平和だねぇ」
窓の外からエンジンの轟音とタイヤの軋む音。
それに気づいたケンスケ、ゴミ捨てから戻ってきたトウジが窓から顔を出す。
「おお、ミサトセンセーや!」
(え?)
トウジの歓声にシンジも首を出す。
見覚えのあるスポーツカー。
ドアが開き、スーツ姿の女性が降りてくる。
そして、おもむろにサングラスを取ると。
それは、間違いなく葛城ミサトだった。
葛城ミサト。
特務機関ネルフ作戦課長。
三佐。
シンジの記憶はそう告げる。
彼女は直属の上司。
第三新東京市での同居人。
保護者。
そのはずなのに・・・・
「「おおお」」
「やっぱ、ええなぁ、ミサトセンセは」
そうつぶやくトウジの横で、黙々とケンスケはカメラを回す。
そのカメラに向かいミサトは、笑顔でVサインを送る。
トウジとケンスケもVサインを返す。
その軽いノリはミサトに間違いない。でも・・・・
(ミサトさんが先生なんて、いくら夢でもタチが悪過ぎるよ!)
そんな3人の様子を見ている頬つえを突いたアスカ。
そしてヒカリ。2人の声がハモる。
「「何よ!3バカトリオが、バッカみたい!」」
始業チャイムの音。
「起立、礼。着席」
ヒカリの号令の後、開口一番葛城ミサト教諭はこう言った。
「よろこべ、男子!今日は、噂の転校生を紹介する」
「綾波レイです。よろしく」
(や、やっぱり!やっぱり、綾波レイなんだ!)
(でも、性格は全然違う)
(僕の知ってる綾波じゃない)
にこやかに自己紹介を見てレイに対して、シンジはそんなことを考えていた。
クラスを見渡していたレイが不意にシンジに気づく。
「あんた、今朝のパンツ覗き魔!」
そのあまりな言葉に先に反応したのはアスカだった。
「ちょっと、言い掛かりはやめてよ!
あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない!」
その速攻にレイもカチンときたのか、間髪入れずに反攻する。
「あなたこそ、何?すぐにこの子かばっちゃって。デキてんの?」
そのあまりにもストレートな攻撃にアスカは答えに詰まる。
ようやく口を開くが、その頬がほんのり染まっている。
「た、た、ただの幼なじみよ!うっさいわねぇ!」
「ちょっと、授業中よ!静かにして下さい!」
たまりかねて、ヒカリが注意すると、
担任教師であるはずのミサトは、無責任にもこう言う。
「あら、楽しそうじゃない。二人とも、続けていいわよ」
喧噪はますます激しさを増していく。
そんな中、碇シンジはこれが夢なのか、現実なのか、
判断できず、呆然と成り行きに身を任せていたのであった。
[to be continued]
管理人(その他)のコメント
カヲル「みきさん、この分譲住宅へようこそ。僕は待っていたよ」
アスカ「ぬ、学園エヴァってろくなことにならないのよね」
カヲル「どういう意味だい?」
アスカ「レイがああいう性格だからね。アタシやシンジにしょっちゅうちょっかい出してくるじゃない。それがいやなのよ」
カヲル「じゃ、本編の破滅した君とどっちがいいの?」
アスカ「どっちもいや(どきっぱり)」
カヲル「人間贅沢はいけないねえ。ほら、日本のことわざに言うじゃないか。「欲しがりません、勝つまでは」ってね」
アスカ「いつの時代の人間じゃおのれは!」
シンジ「あううう、ぼくって、ぼくってどこの世界の人間なんだろう・・・・」
カヲル「あ、シンジ君だ」
シンジ「頭の中の記憶と現実が違うなんて・・・・うう、僕には分からないよ!」
アスカ「シンジに中学校以上の知識はやっぱり重いのね。ふう、まったくバカなんだから・・・・」
カヲル「いちおう彼は中学生なんですけどね・・・・汗」
アスカ「う゛・・・・そ、それはそれ、これはこれ!!」
カヲル「そう言う問題じゃないような・・・・」
アスカ「そ、それはともかく。この先、どうなるかしらね」
カヲル「僕が出てこない作品にはしないでほしいなぁ」
アスカ「無理な要求をするなぁ!」
シンジ「あうううう、僕は、僕は・・・・」
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