走れシンジ、アタシを乗せて!!
ちょっと苦しいかもしれないけど、特訓には丁度いいわよね。
それに、これでもアタシ、軽い方なんだから。
だからこんなくらいでへばったら承知しないからね!!
アスカ一行日記・番外編
第十三話:試練
「はぁはぁはぁ・・・」
シンジにおんぶされながらも、ようやくアタシは宿に戻ってきた。
ひ弱そうに見えるシンジは、やっぱり見かけ通りひ弱で、宿の前で完全にへば
って座り込んでしまっている。
アタシは息を切らしているシンジにねぎらいの言葉をかけてあげた。
「ご苦労様、シンジ。よく頑張ったわね。」
「ほ、ほんと・・・・かなり頑張ったよ・・・・」
シンジは喋るのも苦しいにもかかわらず、アタシの言葉に無理して応えてくれる。
本当なら、自分勝手なことを言い出したアタシに怒ってもおかしくないのに・・・
「ごめんね、無理させちゃって・・・・」
「いや・・・いいんだよ。僕だって嫌なことや無理なことは、流石にしないか
ら・・・」
「じゃ、じゃあ、シンジ、嫌じゃなかったの?」
「当たり前だろ?アスカが言うように、僕ももっと強くならなくちゃいけない
のは事実なんだし、僕は自分から始められるほど、強くないから・・・・」
シンジは驚くアタシに、やさしく微笑みながらそう言ってくれた。
アタシは自分のわがままだってわかってるのに・・・・
でも、シンジだからこそ、アタシのわがままを受け止められるんだろうと思う。
他の奴なら・・・絶対にこんなアタシには愛想を尽かしてる。
でも、シンジは・・・アタシの気持ちを想ってくれるから、単なるわがままじ
ゃないんだって考えてくれるから、だからアタシのこんなわがままもやさしく
受け止められる。
そしてシンジは反省しているアタシのことも知ってる。
きっとアタシが調子に乗ったら、今みたいには言ってくれないと思う。
アタシが反省してるから・・・シンジはうるさく言わない。
ただ、微笑んでくれるだけだ。
アタシはシンジに魅かれてる。
シンジを知れば知るほど、どんどん好きになっていく。
誰よりもアタシを理解してくれるシンジ。
今まで誰もアタシのことなんて理解してはくれなかった。
うわべだけ、外見だけのアタシしか見ていないで・・・アタシの心を見てくれ
ようとはしなかった。
でも、シンジは・・・・シンジだけはアタシの心を見つけてくれた。
言葉に隠されたアタシの心を・・・・
そして、そんなシンジがアタシに見せてくれた心は、アタシのなんかよりも遥
かに綺麗で、暖かかった。
だからもっと知りたい。
もっともっと、シンジの綺麗な心が見たい。
アタシもシンジにだけは、アタシの心を見せてあげるから・・・・
「・・・立てる、シンジ?」
「はは・・・運動不足のせいか、足ががくがくだよ・・・・」
シンジはアタシの心配そうな言葉に、ぎこちない笑い顔を見せながら、そう答
える。
でも、シンジが強がれないほどなんだから、きっとよっぽどなんだと思う。
多分、無理しても立てないほどに・・・・
「肩、貸してあげる・・・・」
「ありがと、アスカ。」
「ほら・・・・」
アタシはしゃがみこむと、シンジの腕を自分の首に回して、更にシンジを引き
寄せて抱きかかえると、立ち上がろうとした。
しかし・・・・
「んっ!!」
「ごめんね、重くって・・・・」
シンジが持ち上がらない。
持ち上がらないって言う訳じゃないけど、重くって重くって・・・
シンジのことだからかなりアタシに力を貸してくれてるんだろうけど、それで
もアタシには重過ぎた。
でも、シンジが重過ぎるなんてことはない。
シンジは女の子と間違われるほど華奢だし、体重もアタシとそんなには変わら
ないと思う。
「んん・・・」
アタシも全力を振り絞って立ち上がった。
シンジはこんなに重いものを背中に背負ってそれでなおかつ走ったって言うの
に、アタシが音を上げるなんて、シンジに申し訳無さ過ぎて出来ない。
シンジはアタシを背負って走ることで、アタシを支えることが出来ると証明し
てくれた。
でも、シンジがアタシを支えられるのに、アタシは支えられるだけでシンジが
困った時に支えてあげられないなんて、そんなのは嫌だった。
「無理しなくってもいいんだよ。僕も少し休めば、すぐ歩けるようになるんだ
から・・・」
シンジはアタシを気遣ってそう言ってくれる。
でも、アタシは逃げない。
これは言わば、アタシにとっての試練でもあるんだから・・・・
アタシはそう心の中で誓うと、黙ってシンジを立ち上がらせた。
「くっ・・・・」
シンジを立たせる状態まで持ってくると、あとはそんなに苦しくはなかった。
でも、自分から立ち上がれないほど足が駄目になってるなんて・・・・
アタシは改めてシンジが無理をしていたことを知る。
そして今シンジほどじゃないけどアタシも無理してみて、シンジがどれだけ大
変だったかに気付いた。
また、単なるわがままなのにそうまでして付き合ってくれたシンジのやさしさ
にも・・・・
アタシはシンジを引きずるように、宿の中に入る。
中に入ってすぐ、宿の人がアタシ達の異常に気がついた。
「お、お客様、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ってくる。
でも、アタシはそれを制してこう言った。
「大丈夫よ!!大丈夫だから、気にしないで!!」
アタシの言葉に、宿の人もそれ以上アタシ達に近付こうとはしなかった。
乱れた浴衣。
汗まみれの二人。
それでアタシがシンジに肩を貸してるんだから、どう見てもおかしいと思うは
ずよね。でも、アタシの瞳、燃えるようなその瞳が、宿の人を押しとどめたの。
アタシの、絶対シンジを一人で部屋まで運ぶんだって言う、強い意志が・・・
「アスカ・・・」
シンジは心配そうにアタシに声をかける。
アタシはそんなにシンジを安心させようと、にこっと微笑んでこう言う。
「大丈夫よ。アタシ、強い女の子だから。」
「・・・・」
「アタシ、決めたの。シンジを絶対自分ひとりの力で部屋まで運ぶんだって・・・」
「・・・・」
「安心して、アタシなら出来るから。シンジが出来たんだもん、アタシも頑張
らなくっちゃね。」
アタシがそう言うと、シンジはアタシの気持ち、ううん、気持ちはもう既にわ
かってるはずだから、アタシの決意の程を知って、ただうなずいてアタシに身
を委ねた。
アタシはシンジに頼られたことがうれしくって、ちょっと顔を紅潮させながら
まだ不安そうに遠巻きにアタシ達のことを眺めていた宿の人にこう言う。
「聞こえたでしょ?だからアタシ達のことは気にしないで・・・それよりも部
屋についたら食事にしたいから、用意、宜しくね。」
「は、はい。承りました・・・・」
宿の人はそう言うと、そそくさと引き下がった。
まだ遠くで見てる奴がいたけど、もうアタシ達に口出ししないようなので、ア
タシは気にせずに草履を脱いで上にあがる。
そして・・・・アタシ達の部屋は見晴らしのいい最上階。
まあ、最上階って言っても、三階なんだけど、それでもシンジを担いだアタシ
にはしんどい。
だからアタシは階段を使うのを断念して、車椅子の人専用のエレベーターを借
りることにした。アタシははじめ、こんな宿にエレベーターなんて不似合いで
しょうがないなんて思ったりもしたけど、こうやって自分が使うことになると、
その便利さに感謝した。
ともかくあっという間に三階まで着いた。
そこからアタシ達の部屋までが結構大変だったけど、それでももう大分シンジ
の足が回復してきたのか、アタシにかかる力が弱まってきた。
アタシはそれに気付くと、シンジに微笑みかけて訊ねる。
「もうだいぶよくなった?」
「うん・・・アスカのおかげだよ。」
「まだ、もう少しアタシを頼っててね。部屋に入るまで・・・・」
「わかってるよ、アスカ・・・・」
シンジはそう言ったけど、また少し軽くなる。
完全じゃないけど、ほんのちょっとだけ。
きっとこれが、シンジの考えたアタシへの思いやり。
アタシに侮辱と取られない範囲での、アタシへのいたわり。
そんなさりげないシンジのやさしさがうれしくって、アタシはまた先へと進ん
でいった。
「ふぅ・・・・」
何とか部屋に入ることが出来た。
ドアのノブを回すのがかなり大変だったけど、そこになるとシンジは更に少し
だけ力を貸してくれて、アタシをさりげなく助けてくれた。
「ご苦労様、アスカ。」
シンジを降ろして畳の上に大の字になるアタシに、シンジは真上からアタシの
顔を覗き込んで、そうねぎらいの言葉をかけてくれる。
でも・・・・そう、これってアタシがシンジにかけてあげた言葉と同じ。
アタシはそのことに気付いて、一瞬目を丸くする。
すると、シンジはそんなアタシの気持ちに気付いて、やさしくこう言ってくれた。
「アスカの頑張り、ちゃんと受け取ったよ。ありがとう、アスカ。」
「シンジ・・・・」
シンジの瞳が綺麗。
眉毛も鼻も唇も、柔らかそうなほっぺたも尖り気味のあごも、みんな綺麗だけ
ど、でも・・・・やっぱり瞳が一番綺麗。
アタシをやさしくこうして覗き込んでくれるシンジの瞳を見ると、手を伸ばし
て掴み取って、アタシのものにしたくなる。
「アタシ、支えられたわよね?」
「うん・・・・」
シンジは細かいことは聞かないし、何も余計なことは言わない。
自分が少しアタシに力を貸していたことも、今は言う必要のないことだから。
アタシはいつもは寡黙すぎるシンジに苛立ちを覚えることもあるけど、でも、
シンジのこの沈黙、それがアタシへの想いから来るものだとわかった今、それ
もいとおしいものへと変わっていく。
シンジの唇から紡ぎ出される言葉を待ち焦がれることもあるけど、でも今は・・・
ただこうしてアタシを見つめてくれているだけで、それだけでよかった。
「・・・アタシもこの試練に打ち勝って、シンジにふさわしい女になれたって
言えるかな・・・・?」
「・・・・・」
「・・・・答えは・・・ないの?」
シンジの目が答えてる。
でも、アタシはシンジの口からも聞きたかった。
すると、シンジの顔が下に降りてきて、アタシの顔に近付いて・・・
そっとキス、してくれた。
すぐに唇は離れたけど、でも、シンジはそのままアタシの真上でアタシを見つ
めてくれてる。
「・・・ありがと、シンジ・・・・」
そして微笑み。
アタシは顔を赤くしながら。
シンジはいつものやさしい眼差しで・・・・
このまま時が止まっていて欲しい。
シンジと見つめ合いながら・・・・
時はアタシ達と共にある。
でも、時は止まってはくれない。
わかってはいるけど・・・・
お願い、少しだけアタシの為に、二人だけの時間を頂戴・・・・
管理人(以外)のコメント
冬月 「若い者は・・・・」
ゲンドウ「やめんか、冬月。同じネタの繰り返しはいい加減つまらんぞ」
冬月 「いやしかしの、あんなふうにひとりがもうひとりを担いで歩くなどと、今の私には無理だからの。若いというのはいい事だ、と」
ゲンドウ「そんなことはどうでもいい。シンジよ、あのていどでへばってしまうなど、おとことしてはもってのほかだ」
シンジ 「だ、だって父さん・・・・」
ゲンドウ「私はおまえの育て方を誤った。もっと体力をつけさせるべきだった」
シンジ 「何だよ父さん! 自分はぜんぜん人の事を気にしないで先生のところに預けておいて、育て方を誤ったなんてないよ!!」
ゲンドウ「それが失敗だったというのだ。先生のところなどではなく、もっと苛酷な環境においておくべきだった、といっているのだ」
シンジ 「苛酷な環境?」
ゲンドウ「そうだな・・・・人跡未踏のアフリカ大陸に放り出すとか、セカンドインパクト後の南極に置いてきぼりとか、そういう風にすれば、おまえももっとたくましい男になっていただろうに」
シンジ 「じょ、冗談じゃないよ! そんなところにいたら、たくましくなる前に死んじゃうよ!」
ゲンドウ「子供の駄々に付き合っている時間はない」
シンジ 「大人の無理に付き合っている暇もないよ! アスカ、父さんはほっといて、さっさとどこかいこう」
アスカ 「え、ええ」
ゲンドウ「こら、待て、待たないかシンジ!」
冬月 「若いというのはいいことだのお・・・ずずずっ」
ゲンドウ「茶をこぼすな、冬月!」
冬月 「ずずず〜」
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