シンジと二人、手をつないで歩く。

よく考えると、そう何度もあることじゃない。

シンジは人目を気にして嫌がるのが普通だけど、

今だけは、この旅行の間だけは・・・・アタシ達のことなんか誰も知らない。

だからシンジも、

そしてアタシも、

ただの二人の男と女になるの。

仲のいい、かわいいカップルに・・・・




アスカ一行日記・番外

第十二話:かわいい関係



「シンジ、シンジ!!」

「何、アスカ?」

 

手をつなぎながら温泉街を歩くアタシ達。

薄暗い路地にぼんやりと光る店々の明かり。

アタシはこの異世界に魅せられて、なんだかちょっぴりはしゃいでた。

そしてシンジは・・・そんなアタシのことを見守ってくれてた。

 

「これ、かわいいと思わない?ねぇ?」

「そう?」

「もう、アンタに聞いたアタシが馬鹿だったわ!!アンタってば、センスのか

けらもないんだから!!」

「ご、ごめん・・・・」

「いいの、いいんだって!!アンタに無いものはアタシが持ってるんだから!!」

「そ、それって喜んでいいものやら・・・?」

「喜んでいいのよ。今度からアタシがアンタの服をコーディネイトしてあげる。

そうすればアンタも少しは見栄えがよくなるかもね。」

 

アタシがからかい半分本気半分でシンジにそう提案すると、シンジはさも面倒

臭そうにアタシに応えた。

 

「いいよ、僕の服なんてどうでも・・・・別に僕は気にしてないから。」

「だめ!!」

「どうして?」

「アンタが気にしなくっても、このアタシが気にするのよ!!」

「アスカが?」

「そう、アタシが!!」

「どうして?」

「バカ・・・・い、一緒に歩くからでしょ!!アタシの男がみすぼらしかった

ら、アタシだって恥かしいじゃない!!」

「お、男って・・・・」

 

アタシもついうっかり。

でも、思わず口をついて出た言葉だけど、だからこそアタシの中の真実の言葉。

それなのにシンジってば・・・・

 

「違うの?」

「い、いや・・・・」

「アタシの男じゃ嫌?」

「そ、そんな事はないよ。」

 

シンジは慌ててぷるぷると首を横に振る。

アタシは何だかそんなシンジがかわいくって、ちょっとからかってみた。

 

「アンタがアタシの男になる代わりに、アタシはシンジの女になってあげる。

それでいいでしょ?」

「そ、それって・・・・おんなじ事だろ?」

「ちょっと違うわよ。」

「違うって・・・どこが?」

「つまり、シンジはアタシのものだけど、それだけじゃなくって、アタシもシ

ンジのものなの。おわかり?」

「・・・・な、なんとなく・・・・」

「ま、アンタには何となくが精一杯かもね?上出来上出来。」

 

アタシはそう言ってけらけらと笑う。

さっきまでしんみりとした関係だったのに、全然違ったいつものアタシ達に戻

ってる。

でも、今のアタシにはわかる。

いつもこうしていられるのは、傍にシンジがいるからなんだって。

そして今も、アタシの手にはシンジの手がしっかりと握られてる。

だからアタシは・・・アスカでいられるんだな、って。

 

「アスカ?」

「なに、シンジ?」

 

今度は反対にシンジがアタシに呼びかけてくれる。

しんみりしたアタシも、かわいいアタシも、それから意地悪でわがままなアタ

シも、シンジにとっては全部アタシ。

だからどんな時でもシンジはアタシを受け入れてくれる。

時々すれ違いはあったりするけど、やっぱり最後はこうしてアタシの名前を呼

んでくれて・・・・それが一番うれしいの。

いつもおんなじやさしいその声で、シンジに「アスカ」って呼ばれるのが。

 

「それ、買ってあげようか?」

「えっ!?」

「アスカ、気に入ったんだろ?だから・・・」

「アンタ、お金持ってるの?その格好で・・・・」

 

アタシはお金なんて持ってなかった。

だってお風呂に入ってそのままだったし・・・・

 

「うん。全部持ってきた訳じゃないけど、ほら、温泉に入るためにタオルとか

買わなきゃいけなかったから・・・・」

「あ・・・そう言えばそうね。」

「だからアスカにそれを買ってあげるくらいのお金は十分にあるよ。」

「ほんとに!?」

「ほんとだってば。僕もそんなけち臭いことは言わないよ。なんたって旅行な

んだしさ・・・」

 

シンジはそう言って何だか楽しそうに微笑む。

確かにシンジはうちの家庭を切り盛りしてるから、自然とお金に関しては締ま

り屋さんになる。だから普通に出かけてもジュース一つおごってくれないし、

自分でもあんまり余計なものを買わない。

そんなシンジがアタシに、しかも考えてみれば無駄な安っぽいネックレスを買

ってくれるなんて・・・アタシはうれしくって涙が出そうになっちゃった。

でも、アタシは涙は見せない。

笑って喜んで、シンジのプレゼントをその胸に飾るの。

きっとシンジは笑ったアタシ、喜んだアタシの方がずっとずっと好きだろうから・・・

 

「・・・・ありがと、シンジ。」

「いや・・・大した物じゃないけど・・・」

「ううん、そんな事ない。シンジが買ってくれるものなら・・・・」

「ほんとなら僕が選んで買ってあげるべき何だろうけど、さっきもアスカが言

ったように、僕ってセンス無いからさ・・・・」

「・・・・」

「ごめんね、アスカ。僕、アスカみたいな女の子の喜びそうなものなんて、何

にも知らなくって・・・・」

 

シンジはそう言って済まなそうに自分を責める。

でも、アタシはシンジに自分を責めないで欲しい。

アタシは十分、シンジに喜ばせてもらってる。

安っぽいものなんかじゃなく、あったかくてやさしい、その心で・・・・

 

「いいのよ、シンジ。」

「えっ?」

「ものでつられる女は所詮その程度の女なのよ。だからアタシはシンジがセン

ス無くってよかったと思ってるわ。」

「・・・・それって褒め言葉?」

「そうよ!!アンタがそういう事に長けてたら、内面を知ろうとしない有象無

象までが寄ってくるじゃない。それよりもアタシは・・・・」

「・・・・」

「やさしいシンジがすき。」

「アスカ・・・」

「だから、そんなやさしいシンジがアタシの為に少ないお小遣いをはたいて買

ってくれるものなら、たとえそれがかっこ悪いものだとしても、アタシは喜ん

でそれを受け取るわよ。」

「・・・・」

「そして受け取ったら・・・・ほら、早く買ってきて。続きが言えないじゃな

い。」

「あ、う、うん。わかった。」

 

アタシがそう言うと、シンジは慌ててそのネックレスを握り締めて、売店のレ

ジへと向かった。もう暗くなっていることもあって、そんなに人通りは多くな

いし、多分みんな夕涼みに出てるだけだから、買い物なんてしないと思う。

だから売店は閑古鳥が鳴いてる状態で、シンジもすぐにアタシの元へ戻ってき

た。

 

「お待たせ、アスカ。」

「おかえり、シンジ。」

 

アタシはなんだか素直にシンジにそう言えた。

シンジもアタシらしくもない台詞にちょっとどきっとしたみたいで、ほんの少

しだけ顔を赤くしている。

 

「ただいま、アスカ。」

「・・・早く包みを開けて。」

「うん・・・・」

 

シンジはアタシに言われると、その不器用な手でネックレスの入った包みを開

ける。そしてアタシの前に差し出した。アタシはそれを見ると、くるっとシン

ジに背中を向けてひとこと言った。

 

「つけて。」

「う、うん・・・・」

 

シンジの手が、アタシの首に回される。

シンジはこんなのに慣れてないから、やっぱりぎこちない。

でも、やけに手慣れてるシンジよりも、アタシはこう言うシンジの方が好きだな。

しばらくして、ようやくシンジはアタシの胸にそのネックレスをつけ終わった。

アタシはシンジに見せる前に、そのネックレスを確認する。

プラチナなんかじゃない、メッキの鎖。

そして先端についてるのは、ダイヤでも何でもない、その辺で採れるような青

い天然石。

所詮は綺麗って言うよりも、かわいいっていう感じのするもの。

だけど今のアタシは・・・かわいいで十分かな?

アタシは強がって自分を大きく見せようとしてたけど、やっぱりただの中学生

でしかないの。アタシは自分が大人じゃないこと、中学二年生だって事を悔し

く思ったこともあったけど、でも、今はそんなこと思ってたって事が馬鹿らし

く思える。

だって、だってアタシが中学二年生じゃなければ、シンジと一緒に学校に行く

ことも出来ないもんね。

だからアタシは、今は中学二年生、かわいい女の子のままでいいの。

そして少しずつシンジと一緒に大人になって・・・・

その時はプラチナのネックレスをプレゼントしてもらうわ。

ネックレスだけじゃなく、左手の薬指にはめる、ダイヤの指輪もね・・・・

 

そしてアタシは振り向く。

この、今のアタシを見せるために・・・・

 

「どう、シンジ?似合う?」

「うん・・・似合うよ、アスカ。」

「・・・・よかった、シンジがそう言ってくれて。」

「そんなことないよ。アスカはかわいいから、何をつけても似合うだろうしね。」

「あっ、それってアタシにもセンスがないって事を暗に示してる訳!?」

「そ、そういう訳じゃないよ、困ったなぁ・・・・」

「じゃあ、どういうことよ?」

「う、うーん・・・だから、とにかくアスカはかわいいってことだよ。」

「綺麗じゃなくって?」

「き、綺麗だよ、もちろん。でも・・・・」

 

シンジは困ってる。

でも、アタシはシンジの言いたいことがわかった。

アタシも今、同じ事を考えてたんだから・・・・

だからアタシはシンジをいじめるのをやめて、軽く笑って言った。

 

「わかってるって。今のアタシは、かわいいアタシでいいの。」

「アスカ・・・」

「それよりもさっきの続きだけど・・・・」

「う、うん・・・・」

 

シンジは思い出したかのように少し真剣な眼差しをアタシに向ける。

 

「・・・アタシはこうしてシンジのプレゼントを受け取ったらね・・・・」

「うん・・・・」

「ご褒美をあげるの。ほら、こうして・・・・」

 

アタシはそう言うと、そっとシンジの首に両腕を回して、左のほっぺたにキス。

そして呆然とするシンジに追い討ちをかけるように、反対のほっぺたにも同じ

ようにキス。

それが終わると、アタシはシンジから離れて解放してあげた。

 

「どう?アタシのご褒美は・・・」

 

いつもアタシのご褒美はキスだった。

でも、シンジはいつも嫌がらせに感じていたのかもしれない。

って言うよりも、私も半分嫌がらせとかからかいの気持ちがなかったとは言わ

ない。

でも、今は・・・今のキスは違う。

本当に心からシンジのことを思ってキスしたの。

だから・・・・

 

「うれしいよ、アスカ。」

「えっ?」

「アスカのご褒美、有り難く受け取らせてもらったから。」

「シンジ・・・・」

「さ、帰ろう。夕涼みもいいけど、お腹も空いたしね・・・・」

 

シンジはそう言うと、アタシにやさしく微笑んでくれた。

そう、アタシはこのシンジの微笑みが見たかったんだ。

だから・・・

 

「うん、帰ろ、シンジ!!アタシ、お腹ぺこぺこ!!」

「料理、おいしいといいね。」

「そうね。でも、おいしくなかったらシンジが厨房に乗り込んで作っちゃえば

いいのよ。」

「ははは・・・それはいいアイデアかもね?」

「でしょ?でも、作るのはアタシの分だけよ。シンジが料理の天才だって事が

ばれると、ここでスカウトされちゃうかもしれないじゃない。」

「そ、そこまでは行かないんじゃないかなぁ?」

「うん。でも・・・スカウトされるのもいいかも?」

「どうして?」

「だって、ここで二人で暮らせるじゃない。シンジが料理人で、アタシが仲居

さんで・・・」

「アスカが?」

「そ、そうよっ!!悪い?」

「い、いや・・・仲居さんにしては、ちょっとかわいすぎるんじゃない?」

「そうね。毎日セクハラされちゃったりして・・・・」

「僕も料理そっちのけでアスカを守らなくっちゃならないね。」

「まあ、大丈夫よ、アタシはそういうの、撃退するのには慣れてるから・・・」

「ははは・・・そうだね。アスカは強いから。」

 

シンジが笑ってそう言うと、アタシは急にしんみりとこう言った。

 

「そうよ。アタシが弱いのは・・・・シンジに対してだけなんだから・・・・」

 

するとシンジも、アタシに合わせるようにこう言ってくれた。

 

「僕も・・・強くなれるのは、アスカを守る時だけだよ・・・・」

「シンジ・・・・」

「僕は弱虫だけど、アスカの為に強くなるから・・・・」

「アタシも・・・・シンジの為に弱くなる。かわいくなるから・・・・」

「アスカは十分すぎるほどかわいいよ。」

「でも・・・・すぐに暴力振るうでしょ?」

「それは僕が弱いからだよ。僕が強ければ、アスカにそんなことはさせない。

する必要を与えない・・・・そうだろ?」

「うん・・・・だから頑張って強くなって。アタシの為に・・・・」

「うん・・・」

「・・・・」

「・・・・」

 

沈黙。

こうしてずっと見つめ合っていたら、いつキスしちゃうかわからない。

だからアタシは・・・・

 

「じゃあ・・・シンジも特訓しなくちゃね!!」

「え?」

「アタシをおんぶして宿まで帰るのよ!!」

「そ、そんなぁ・・・」

「文句は言わない!!ほら、しゃがんで!!」

 

シンジはアタシに言われるがままにしぶしぶとアタシに背を向けてしゃがむ。

アタシはシンジの背中を見て・・・・抱き締めるように乗っかった。

 

「じゃあ、行くよ・・・・」

「いいわよ。行って。」

 

シンジはアタシの気持ちには気付かない。

ううん、気付いてても、何も言わないんだと思う。

 

「ほら、ダッシュダッシュ!!」

「そ、そんな無理言うなってば・・・・」

「おいしいご飯がアタシ達を待ってるわよ!!だからもっと速く!!」

 

シンジはアタシを背負って走る。

シンジの心臓の音が、呼吸の音が聞こえる。

そしてアタシは・・・・シンジを感じてる。

ごまかし合う二人だけど・・・・わかりあってる気がする。

だから・・・今のままでいいかな?

こんなかわいい関係でも・・・・

 


高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪   

「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪   


管理人(以外)のコメント

アスカ「きょろきょろきょろ」

シンジ「ど、どうしたんだよ、アスカ」

アスカ「どうしたじゃなくて。前回あれだけネルフの人間に邪魔されたら、こっちだって用心深くなるってものよ」

シンジ「そんなこと言ったって、ミサトさん達だって偶然ここにいたんじゃないか〜」

アスカ「あ・ま・いっ!! あの鬼畜どもなら、アタシ達を尾けるために平気で旅行先なんて変更するわよ!」

シンジ「そ、そうかなぁ・・・・」

アスカ「ふっ・・・・しかし、どうやらここにはいないようね・・・・(にや)」

シンジ「・・・・にや、って・・・・・汗」

アスカ「シンジ〜(はあと)」

シンジ「え、いや、あの、ちょっと・・・・」

アスカ「ここにはアタシとシンジだけ・・・・ねぇ(にっこり)」

シンジ「あ、はぁ・・・いや、だから・・・・ちょっと、ちょっとまって・・・・」

アスカ「まってもなにもないの・・・ね」

シンジ「そ、そうじゃ・・・・なくて・・・・あはぁあああああああ」

アスカ「じゃあ、なによ・・・・」

シンジ「あ、綾波が・・・・」

アスカ「ええっ!?」

レイ 「・・・・碇君・・・・涙・・・・」

アスカ「な、なにみてんのよ!!」

シンジ「いやだからそういうことじゃなくて・・・・」

レイ 「悲しい・・・涙・・・・弐号機パイロット・・・なにを、しているの・・・・」

アスカ「うるさいうるさいうるさいっ!!」

・・・・・・・

ゲンドウ「にや やはりこういうものはこっそりのぞくに限る」

ミサト 「だ〜からやっぱりあの三人は面白いのよね〜」

リツコ 「人の感情はロジックじゃないから」

シゲル 「おっし、そこだ、シンジ君、そこでがばっと!

マコト 「なにいってんだおまえは・・・・」

冬月  「若いもんはええのお・・・ずずずっ」

マヤ  「いやあの・・・・副司令・・・・お茶かこぼれていますけど・・・・」


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