シンジが言ってくれた。
アタシの事が好きだって。
何だか無理矢理言わせちゃった形になったような気もするけど、
でも、アタシはシンジの気持ち、本物だと思う。
シンジがそう言うきっかけを作ったのはアタシだけど、
あんな言葉をああいう風に、
形だけで言えるようなシンジじゃない。
アタシはよくわかってる。
アタシのシンジが、そういうシンジだって事を・・・・
「・・・・」
「・・・・」
「シンジ・・・?」
「な、何、アスカ?」
「・・・・いいお湯ね。」
「う、うん・・・・」
「・・・・・・怒った?」
「えっ!?」
「・・・・・だから、シンジが怒ったのか聞いてんのよ。」
「ど、どうして僕が怒るんだよ?」
「・・・・その・・・・アタシが言わせちゃったから。」
「・・・・今の事を?」
「うん。」
「・・・・怒ってるわけないじゃないか。」
「・・・ほんとに?」
「当たり前だろ。そ、その・・・・僕の本心だったんだから。」
「シンジ・・・・」
「だ、だからアスカも、僕が心にもない事を無無理矢理言わされたんだなんて
思わないでよ。そんなの何か嫌だから。」
「・・・・じゃあ、もう一度言ってみてくれる?」
恐る恐るシンジの心に近付こうとしてきたアタシは、今のシンジの言葉で、少
し大胆にシンジに詰め寄った。多分、シンジがそう言ってくれた事が、アタシ
の心を躍らせるくらい、うれしかったんだと思う。
「・・・・好きだよ、アスカ。」
今度はシンジは、そっとアタシの事を好きだって言ってくれた。
アタシは、こういうシンジのやさしい声が、大きな声で言われる以上に、アタ
シに真実味を与えてくれると思った。
シンジのほんとの気持ち・・・・
ごまかしじゃない、ほんとの気持ち・・・・
シンジは恥ずかしがりやだから、人前では絶対にこんなことは言ってくれない。
そして、アタシを目の前にしても、こんな事を言えるはずがない。
今はアタシの声しか聞こえないから、だからアタシにほんとの気持ち、ほんと
の言葉を見せてくれたんだと思う。
アタシはいつも、そういうシンジを歯がゆく思っていたけど、だからこそ、今
こうしてシンジの愛の囁きを聞ける事がうれしい。
「シンジ・・・・」
シンジの名前を呼ぶ。
その響きには、いつもよりずっと、シンジを想う気持ちがあふれてる。
シンジが好きで好きでたまらない。
どうしてこんなに自分の気持ちがおかしくなるのか、アタシ自身でも理解出来
ない。
アタシは冷静になれないのはちょっぴり嫌で、恥ずかしくも思う。
だけど、自分の気持ちを抑え切れない。
シンジがアタシの声の中にそういうアタシを感じていなければいいんだけど・・・・
だけど無理よね、きっと。
アタシ自身、恥ずかしくなるくらい自分の声が上ずっているのがわかる。
「アスカ・・・?」
「・・・・な、何、シンジ?」
「いや・・・・何でもない。」
シンジは気付いてる。
アタシがいつものアタシじゃないって事に。
でも・・・・お互いに好きだって言い合ったんだから、普通じゃなくなって当
然かもしれないわね。
アタシにはよくわからないけど、きっとシンジの心臓も、アタシの心臓と同じ
くらいに、どきどきしてるんだと思う。
「あ、あの・・・・アスカ?」
「何、シンジ?」
「そ、その・・・・」
「何よ、はっきり言って。」
「そ、その・・・・アスカの口からも、もう一度言って欲しいな。」
「えっ?」
「だ、だから・・・・僕も言っただろ?だからアスカも・・・・」
「あ、そ、そうよね。ごめん、シンジ・・・・」
「べ、別に謝る事じゃないよ。アスカが嫌なら無理にとは言わないから。」
「い、嫌だなんてそんな事あるわけないじゃない。」
「じゃ、じゃあ・・・・」
「うん・・・・でも、今は駄目。」
「ど、どうして?」
「アタシはシンジの目を見て言いたいの。アタシはアンタより口がうまいから、
嘘だってなんだって言える。だから・・・・だから、アタシは、シンジの目を
見て言いたいの。アタシの言葉が、ほんとの心からのものだって事を、はっき
りとシンジに知って欲しいから・・・・」
「・・・・わかったよ、アスカ。じゃあ、アスカの言葉は後で聞く事にする。」
「・・・うん・・・・待っててね、シンジ。」
アタシはそう言うシンジに、そっとやさしい声をかけた。
いつものアタシなら、こんなことは言えない。
シンジへの想いを、シンジをからかう事で表したりして・・・・アタシも少し
だけ、大人になったのかな?
今なら素直に言える気がする。
シンジの目を見て、シンジの事が好きだって・・・・・
「じゃ、じゃあ・・・・アスカ?」
「何、シンジ?」
「いつまでお風呂に入ってる?」
「・・・・出たいの、シンジは・・・・?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど・・・・」
「アタシの言葉が早く聞きたい?」
「い、いや・・・・・う、うん。そうなのかもしれない。」
アタシのちょっとした言葉に、シンジはうろたえながらも肯定してくれた。
いつもだったら絶対にこんなの否定するはずなのに・・・・
シンジも変わってくれたのかな?
今だけの事なのかもしれないけど、アタシはとってもうれしくなって、声にシ
ンジへの想いをあふれさせながら、からかうようにシンジに言った。
「ふふっ、ごめんね、シンジ。折角だけど、もうちょっとお預け。まだ入った
ばっかりだし、もうちょっと温泉を楽しんで行きましょ?」
「う、うん・・・・わかったよ、アスカ。」
「ごめんね、シンジ。」
「い、いいんだよ。折角の温泉なんだから、アスカがそう思うのは当然だよ。」
「・・・・ありがと、そう言ってくれて・・・・・」
「ううん・・・・じゃ、じゃあ、何か別の話でもする?」
「・・・・いいけど・・・・話す事、ある?」
「・・・・・ないね。アスカは?」
「アタシもよ。いつもだったら話の種くらいいくらでもあるんだけど、今話す
ような事は何もないと思う。」
「・・・・僕もそう思うよ、アスカ。」
「そう・・・・」
「・・・・話す必要もない・・・・・かな?」
「うん・・・・」
「とにかく僕はここにいるよ。アスカが話したくなるか、僕が出たくなるか、
それまではずっといるから。だからアスカも、そのつもりでいて。」
「わかった。じゃあ、アタシも、黙ってるけど、シンジのそばにいるって事、
忘れないでね。」
「うん・・・・」
そして、アタシとシンジは黙って温泉を楽しむ事にした。
シンジとアタシの声が聞こえなくなると、とたんに周囲のかすかな音が聞こえ
るようになってくる。
遠くから聞こえる車の走る音、お湯の流れる音、さまざまな音が、アタシの耳
に届いてきた。
そしてもう一つ、聞こえてきた音があった。
それは、シンジがお湯に触れる音だった。
別にシンジはアタシに聞かせようと思っている訳じゃないと思うけど、それで
もアタシには、シンジがアタシの側にいるんだっていうことを、強く感じる事
が出来た。
そしてアタシも、シンジに向けて音を発してみる。
さりげなく、不自然に聞こえないように、水面を軽くぱしゃりと手で叩いて・・・
すると、シンジの方でもぱしゃり。
アタシはびっくりした。
でも、声は出さずにもう一度ぱしゃりとやる。
アタシの予測を真実のものにするために・・・・・
ぱしゃぱしゃ!!
・・・やっぱり。
シンジはアタシに合図してくれてたんだ。
今度は二回、お湯を軽く叩いてる。
そしてアタシには、そんなシンジの姿が目に見えるみたい。
目にも見えないし、言葉も聞こえないけど、心がこうして一つになってると、
何でもわかるのね。
アタシはそんなシンジとの一体感を、今まで以上に感じて、うれしくなって顔
を半分お湯の中に沈めてぶくぶくとやった。
ぶくぶくぶく・・・・
ふふっ、シンジもアタシを真似してる。
アタシは何だか面白くなって、ぶくぶくをやめると、今度はじゃばじゃば泳い
でみた。果たしてこれがシンジにわかるかどうかだけど・・・・
「・・・・ア、アスカ?」
「・・・なにー、シンジ?」
「な、何やってる音?それ?」
「・・・・わかんない?」
「うん。じゃばじゃば聞こえるけど、それがなんなのかはさっぱり・・・・」
「泳いでんのよ、アタシ。アンタも泳げば?気持ちいいわよ。」
「そ、そういうのは・・・・よくないよ、アスカ。」
「気にしない気にしない。どうせアタシ達以外には誰もいないんだし、固いこ
と言う必要はないわよ。」
「そ、そうかな・・・・?」
「そうよ。だから、一緒に泳ご。」
「う、うん・・・・」
シンジはそう言って、泳ぎ始めた。
アタシの耳には、シンジが泳いでいると思われるじゃばじゃばいう音が聞こえ
てきた。
「ふふっ・・・」
アタシは軽く笑うと、再び泳ぎ始めた。
じゃばじゃばやったり、すいすいやったり・・・・・
するとシンジもアタシにあわせて、泳ぎ方を変えてくる。
っていうより、音を変えてるだけなんだけど・・・・何だか不思議よね、こう
いうのって。
アタシは別に今まで意識した事はなかったんだけど、泳ぎ方によっていろんな
音があるのね。平泳ぎには平泳ぎの、クロールにはクロールの、ばた足にはば
た足の、それぞれの持つ音がある。
アタシはそれを知って、いろいろな泳ぎ方を試してみた。
シンジも何とかアタシのお遊びに付き合ってくれて・・・・
そして最後に、アタシは頭を上にして、お湯に浮かんでみた。
「・・・・・」
「・・・アスカ?」
「何、シンジ?」
「何してるの?音、聞こえなくなったけど・・・・」
「・・・・浮かんでるの。仰向けになって・・・・・」
「そ、そう・・・・」
「アンタもやってみなさいよ。なかなか気持ちいいわよ。」
「うん、じゃあ、そうしてみる・・・・」
シンジはそう言うと、ひとつじゃばという音をさせて、アタシと同じく仰向け
になったことを示した。
「どう、シンジ・・・・?」
「ど、どうって?」
「・・・・星、見える?」
「あ・・・・う、うん。見えるよ、アスカ。」
「まだ夜になったばっかりだから・・・・あの明るいのは金星ね。」
「あ・・・・あれのこと?」
「そうよ。いわゆる、宵の明星って奴。」
「・・・・アスカって、物知りだね。」
「馬鹿ね・・・・誰でもそのくらい知ってるわよ。」
「そ、そう・・・?」
「そうよ。まあ、知ったってどうにもならない知識だけどね・・・・」
アタシは少し、自嘲的に言った。
アタシはよくわかっていたから。
学歴とか、知識とか、そういうものがあっても、何にもならないって事くらい。
人間として生きるのは、そんなもの必要ない。
アタシはシンジを見て、それがわかった。
シンジはアタシほど物を知らないけど、アタシはそれで絶対にシンジを馬鹿に
したりはしない。
そんな事をすれば、アタシがアタシをおとしめることになる。
だってそれは、アタシが本当のシンジを見れていないって事になるんだから・・・・
「そ、そんな事ないよ、アスカ。知らないより、知ってる方がいいに決まって
るじゃないか。」
「・・・・そう?」
「そうだよ!!僕は何でも知ってるアスカを、ほんとに凄いと思うよ!!」
「・・・・それだけ?」
「え・・・?それだけって?」
「アンタがアタシを好きだって言ってくれたのは、それだけが理由なの?」
「ば、馬鹿、そんなわけないじゃないか・・・・・」
「じゃあ、どうしてアタシを好きだって言ってくれたの?」
「・・・・・」
「ねえ・・・・」
アタシはそう、シンジに迫った。
するとシンジは、少し黙っていたけど、アタシにこう答えてくれた。
「・・・・アスカがアスカだから・・・・かな・・・?」
「・・・・」
「な、何だか答えになってなかったね。ごめん、うまく言えなくて・・・・」
「・・・・バカ・・・・」
「え、何か言った?」
「バカ!!満点の答えよ、バカシンジ!!」
・・・うれしい。
ほんと、涙が出そう。
アタシはこういう風に言わなかったら、きっと泣いちゃってたと思う。
シンジがアタシを見てたのは、アタシの顔とか、アタシの身体とか、アタシの
頭の中身とか、そういうのじゃなくって、アタシがアタシだから、シンジはア
タシを好きだと思ってくれたんだ・・・・
「ア、アスカ・・・・」
「もう・・・・アタシもアンタがシンジだから、シンジだから好きなんだから
ねっ!!」
言っちゃった。
アタシはシンジの目を見て言うつもりだったのに・・・・
でも、言わずにはいられなかった。
だってアタシは、シンジが好きで好きでたまんないんだもん!!
シンジ!!好きだよ!!大好きっ!!
アタシの全てで、アスカの全てで愛してるから!!
高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪
「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪
管理人(その他)のコメント
カヲル「お帰りなさい、高嶋さん。といっても二日の凍結期間だったけどね」
アスカ「そう言えばここの作者、いつから小説本編書いてないんだっけ? たしか高嶋の凍結期間が始まるずいぶんと前よね」
ぎくうっ(大汗)
アスカ「・・・・なに、いまの音は?」
カヲル「気にすることはない。タダの気のせいさ」
アスカ「それならいいけど・・・・で、今回のお話よね。アタシもずいぶんと大胆な・・・・ぽっ」
カヲル「口に出さないと安心できない性格なんだね、君は」
アスカ「口に出したいくらいうれしい気持ちなのよ。アンタだっていつか彼女ができればみんなに話をしたくなるって」
カヲル「シンジ君とそう言う関係になれたら・・・・言いふらすかな・・・・僕もぐはあっ!!」
べきべきべきっ!!
アスカ「誰がアンタに彼氏ができたときの話をしているのよ!! そもそもシンジをそういうものに毒さないでちょうだい!!」
カヲル「ふっ、じゃあ君がシンジ君を毒するというのかい?」
アスカ「男と女がつきあうのは正常な姿よ!!」
カヲル「君の場合は女が男を従えている、という方が正確なんじゃないかい
アスカ「ふっふっふ・・・・あんた、よっぽど死にたいようね」
カヲル「・・・・ちょっと待ちたまえアスカ君、マサカリなんて持ち出して・・・・(汗)」