窓の外の景色・・・
とても100万ドルの夜景とは言い難い、田舎のみすぼらしい風景。
きっと一人で見たら、眺めるに値しないと思っただろうけど、
二人で見ると全然違う。
どんな景色も隣にシンジがいれば・・・・
きっとどれも素晴らしい景色に映るんだろうな。
今のアタシには・・・ほんと、それが真実だってはっきりとわかるのよね。
「・・・アスカ?」
アタシとシンジはしばらく窓の外の景色を眺めていたけど、唐突にシンジがアタシに声をかけた。
「何、シンジ?」
アタシが聞き返すと、シンジは何だか久々にアタシの顔を見てこう言ってきた。
「ほら、こうしていてもなんだし・・・・温泉にでも入ろうか?」
「それもそうね。同じ景色を長時間見ていてもつまんないし・・・」
「あれ、アスカはつまんなかった?」
アタシの言葉に、シンジは意外そうな顔をして尋ねた。まあ、この景色を見ようと言い出したのはアタシなんだから、シンジがそう思うのは当然なのかもしれない。だからアタシは慌ててそれを否定した。
「そ、そういうつもりで言った訳じゃないわよ。ただ、アタシはアンタの意見に同調してやっただけなのに・・・・」
「あ、ご、ごめん・・・・」
「いいのよ、別に。シンジが悪い訳じゃないんだし・・・・それより、早くお風呂に行きましょ。」
「そ、そうだね、うん。」
こうして、アタシとシンジは、温泉に入る準備をはじめた・・・・
「シンジ、アンタ、タオルかなにか・・・・持ってる訳ないわよね。」
「う、うん。温泉なんかに入るとは思ってなかったから・・・」
「取り敢えずバスタオルならまだ完全に乾いてはいないけど、替えがあるとして・・・・タオルはアンタ、自分で買いなさいよね。」
「う、うん。わかった。」
「着替えはそこの備え付けの浴衣を持って行きなさい。アタシもそれを着るから。」
「う、うん・・・・」
シンジは何だかアタシの言葉に不思議そうな顔をしている。アタシはそんなシンジをいぶかしく思って、尋ねてみる事にした。
「なによ、アンタ、そんな顔しちゃって?」
「あ、いや・・・・何でもない。」
「何なのよ、気になるじゃない。はっきりと言いなさいよ!!」
「いや、その・・・・何だかやけに、アスカがしっかりしてると思って・・・」
「なによ、アタシがしっかりしてちゃ、おかしいとでも言うの?」
「いや、そういう訳じゃないよ。」
「じゃあ、どういう訳よ?」
「・・・・・」
「何とか言いなさいよ、黙らないで。」
アタシはシンジがすぐに答えないから、ちょっとむっとして言葉を促した。するとシンジは、いつものようにアタシに謝りながら答えた。
「ご、ごめん・・・・着替えだのなんだのはいつもは僕の方が細かく言う立場なのに、今日はアスカの方が何だか気が利くような気がするからつい・・・・」
「そういうこと。わかったわ。」
アタシは言い訳がましいシンジの物言いが気に食わなかったから、そっけなくそう応えた。シンジはアタシの気分をすぐさま察知すると、慌てて大きな声で弁解した。
「いや、違うんだよ!!やっぱりアスカは凄いんだなーって言う意味で言ったんだから。」
「・・・・・」
「ほ、ほんとだからね!!アスカを馬鹿になんてしてないんだから!!」
シンジはむっとした顔をしてるアタシを見て、はらはらしてるみたい。
アタシだって、シンジがアタシを馬鹿にしてるなんて露程も思ってないのに、ちょっと意地悪が過ぎちゃったかもね。
アタシもそろそろこの辺でやさしくしてあげないと・・・・
「ふふっ、わかってるわよ。ちょっとすねてみただけ。」
「ア、アスカぁ・・・・」
シンジはアタシの言葉に拍子抜けしたのか、呆れてるみたい。アタシはそんなシンジが気を抜かないように、釘をさしておいた。
「でも、今度から気をつけなさいよ。アタシは今回は怒ってなかったけど、ほんとに怒る事だってあるんだからね。」
「わ、わかってるよ。それはもう・・・・」
「わかればいいのよ。さ、行きましょ。」
「う、うん・・・・」
こうしてアタシとシンジは備え付けのおそろいの浴衣とバスタオルを手に持って、温泉へと向かった。
ここは混浴の温泉じゃないみたいだから、アタシとシンジは入口のところで別れる事になった。アタシは別れる際、シンジに向かって言う。
「じゃあ、アタシはこっち。シンジはそっちね。取り敢えずお互いに出たくなったら声をかける事。そうすれば、待ちぼうけなんてことにはならないから・・・」
アタシが我ながらなかなかのアイデアだと思ってシンジに言うと、シンジは取り敢えず同意して見せたものの、何だか気乗りしない様子だった。
「わかった。でも、何だか恥ずかしいなあ・・・・」
「声をかけるのが?」
「う、うん。」
「そのくらい我慢なさい。それとも恥ずかしいなら、アタシが出たくなるまで我慢するのね。そうすれば、自分が声をかけなくても済むだろうから・・・」
アタシが冗談半分でそう言うと、シンジはやけにいい事を聞いたかのような感じでうなずいて応えた。
「な、なるほど・・・・」
「って、何感心してんのよ。冗談に決まってるでしょ?」
「で、でも・・・・」
「いいわね。我慢なんてするんじゃないわよ。無理してのぼせてお風呂にぷかぷか浮かんでたなんて言ったら洒落になんないから・・・・」
「ははは・・・だね。まあ、そうならないように気をつけるよ。」
そう言って、シンジはアタシを置いて先に男湯に入っていった。
一人取り残されたアタシは、シンジを心配しつつも、同じように女湯に消えていった。
脱衣所は割と閑散としていて、アタシ以外の人間を一人も見掛けなかった。やはりシンジの言うように、お正月休みが終わっちゃったから、温泉旅館も一段落して暇になっているのかもしれない。
とにかくアタシは他に誰もいなかったから、人目を気にせず手早く服を脱いで、温泉に向かった・・・・
「ひっろーい!!」
アタシは思わず歓声を上げた。
アタシの想像以上に広くて立派な露天風呂だったからだ。
だから、アタシは身体を洗う、というより軽くお湯をかけただけで、急いでお湯の中に飛び込んだ。
「ふー、極楽極楽・・・・」
何だか年寄り臭いけど、やっぱりこういう時にはこういう言葉が出てしまう。
すると、仕切りの向こうから、声が聞こえた。
「アスカー!!そっちも他に人、いないのー?」
シンジだ。シンジの言葉からすると、男湯の方にもシンジ以外誰もいないらしい。まあ、そうじゃなきゃ、こんなところであのシンジがアタシに話し掛けてくるわけないんだけど・・・・
「いないわよー!!なに、じゃあ、ここにはアタシとアンタ以外には誰もいない訳!?」
「そういうことになるねー!!」
「って、ちょっと聞きにくいわねー!!もう少し女湯の方に近寄りなさいよ!!アタシもそっちに近寄るから!!」
「了解!!」
アタシはシンジの返事を聞くと、半分泳ぐように温泉に浸かったまま男湯への仕切りの方に移動していった。
「シンジ、聞こえる?」
アタシは仕切りに顔を近づけて、普通の大きさでシンジに話し掛けてみた。
「聞こえるよ、アスカ。とってもよく。」
まるでシンジが側にいるかのように、よくシンジの声が聞こえた。シンジの顔は全然見えないんだけど・・・・
ともかく、これでシンジと普通に会話出来るようになったんだけど、お互いの正確な位置が知りたくて、アタシは見えないシンジに向かってこう言った。
「シンジ、場所がわかんないから、こうしなさいよ。こう。」
アタシはそう言うと、腕を伸ばして木で出来た頑丈そうな仕切りを叩いて見せた。すると、それを聞いたシンジもアタシに向かって言う。
「わかった。じゃあ、こっちも行くよ。」
シンジの声と共に、ゴンゴンと仕切りの叩かれる音が響いた。アタシはその振動で、シンジがどの辺にいるのかを知ることが出来た。
「よし。じゃあアンタ、アタシの近くに来なさいよ。」
「う、うん。でも、それなら僕が叩く必要はなかったような・・・」
「いいのよ。儀式みたいなもんだから。」
我ながら無茶な言い草。
シンジの言う通り、シンジをこっちに来させるなら、別にシンジに叩かせる必要も無かったのに・・・・自分の非を認めようとしない、アタシの悪い癖ね。
アタシが一番心を許しているシンジにすらこうなんだから・・・・ひどいもんよね、アタシって。
アタシがこんな風に自己嫌悪に陥っていると、シンジがアタシに声をかけてきた。
「来たよ、アスカ。」
「あ、そ、そう。わかったわ。」
「でも、こんな風に顔を見ないでアスカと話をするなんて言うのも、何だか変な感じがするね。」
「そうね。アタシはアンタが人の顔を見てしゃべらなければ、容赦無くひっぱたくから・・・・」
「そ、そうだね。アスカのおかげで、僕も人と話す時は人の目を見て話す癖がついたよ。」
・・・・シンジは凄い。
アタシは今の言葉を聞いて、本当にそう思った。
アタシは自分でこんな乱暴な自分に嫌気が差してたし、シンジもすぐに手を出すアタシの事を嫌がってると思ってた。
でも、それをシンジはアタシのおかげだなんて言えるなんて・・・・アタシには到底そんな風には思えない。
だからアタシは・・・・シンジの事を、本当に強いと思う。
そしてアタシは、こういう強さを持ったシンジが好きなんだなーって・・・・
「ア、アスカ?」
シンジはアタシが感動して何も言えなくなっていたのに驚いてアタシに声をかけた。
「な、なによ、シンジ?」
「いや、アスカが急に黙っちゃって・・・・」
「うるさいわね。いいでしょ、一人でひたってても・・・・・」
「そ、それはそうだけど・・・・ごめん。」
「アンタが謝る事じゃないでしょ。謝るのは・・・アタシの方なんだから・・・・」
アタシの言葉の後半部分は、はっきりと発せられぬまま口の中で消えていった。
「な、何か言った、アスカ?よく聞こえなかったけど・・・・」
「何でもないわよ!!バカ!!」
「あ、ご、ごめん・・・・」
「バカ・・・・謝ってばっかりいるくせに・・・どうしてこんなに好きになっちゃったんだろう・・・・こんな・・・こんなシンジを・・・・・」
アタシは独りそうつぶやくと、自分の気持ちを隠すかのように、思いっきり水面を手で打ちつけて、派手な音と水しぶきを立てた。
するとシンジはそれにびっくりして声をあげる。
「ア、アスカ!!どうしたんだよ、一体!?」
「・・・・」
「アスカ!?」
「・・・・」
「アスカ、おい、アスカ!!」
「シンジ・・・・」
「ア、アスカ・・・・どうしたんだよ、急に?でかい音たてたかと思ったら、今度は黙り込んじゃうし・・・・」
「・・・・心配・・・した?」
「当り前だろ!!」
「・・・・どうして?」
「どうしてって・・・・今日はアスカ、何だかおかしいよ。大丈夫?」
シンジはアタシの事心配してる。
まあ、当然よね。シンジはアタシの事が見えないんだし・・・・
でも、アタシはそんなシンジに答えてあげない。
そしてその代わりに、アタシはシンジにひとこと尋ねた。
「・・・・アタシの事・・・・好き?」
「な、何言ってんだよ、急に!?」
「・・・・いいから答えて。」
「そ、そんな事言われても・・・・」
「アタシは好きよ、シンジの事・・・・」
「アスカ・・・・」
「こうしてお互いに顔が見えない状態なら言えるでしょ、ほんとの気持ち・・・・」
アタシはシンジのほんとの気持ち、今ここで聞きたかった。
シンジはいつも恥ずかしがってごまかしてばっかりだったけど・・・・今ならきっと、言えるはず・・・・
「・・・・好きだよ、アスカの事・・・・」
「・・・・・・よく聞こえなかったわ。もう一度、大きな声で言って。」
「ア、アスカの事が好きだ!!」
「・・・・アタシもよ、シンジ・・・・・」
もう、何も言えなかった。
シンジにそう言ってもらえるだけで、アタシは満足だった。
今だけでもいい。
この短い旅行の間だけでも、シンジの全てをかけて愛して欲しかった。
他の誰でもない、このアタシ、惣流・アスカ・ラングレーを・・・・
高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪
「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪
管理人(その他)のコメント
カヲル「うううっ、しくしくしく」
シンジ「カヲル君、なにを泣いてるの?」
カヲル「なにがかなしいって、こんないいさくひんがもうにどとよめなくなってしまうなんて・・・うううっ」
シンジ「え? どういうこと?」
カヲル「あすかくんとしんじくんのあいのかたちをえがいたしゅぎょくのめいさくが、めいさくが、ううううっしくしく」
アスカ「なんかあんた、ひらがなばっかりで読みにくいわね」
シンジ「だからどういうことなの、カヲル君!」
カヲル「なんだ、しんじくん、しらないのかい? かくしえう゛ぁのさくしゃ、あのたかしまさんがいんたーねっとかいからおさらばしてしまうんだよ。かなしいことにね」
シンジ「へ?」
カヲル「ああ、なんとかなしい。かくしえう゛ぁもいちぎょうにっきもとうぼうも、すべてみかんのままおわってしまうなんて・・・・しくしくしく」
シンジ「あの〜カヲル君、高嶋さんのネット離脱は一時的なモノで、すぐに帰ってくるんだけど・・・・(汗)」
カヲル「・・・・・え?」
アスカ「あんた、高嶋のコメント、ちゃんと読んでないわね。その発言でバレバレよ」
カヲル「しまった、それじゃアスカ君とシンジ君のラブラブをもう読まなくていいと喜んだのはぬか喜び・・・・は、し、しまった」
アスカ「やっぱり、そういうことだったのね! その単調なひらがな発言は!」
べきべきべきっ!!
カヲル「う、ぐはっ!」
アスカ「ふん、人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまえ! ってね!」
カヲル「馬じゃなく君に、蹴られるじゃなく殴られて、死ぬような気がするよ」
アスカ「ぬあんですってええええええ!!(怒)」
どかばきぐしゃああっ!!
カヲル「う、うむううううっ・・・・ばたっ」
シンジ「と、とりあえず、高嶋さん、しばらくお別れですね。そして、はやく帰ってきて下さいね」
アスカ「これで引っ越す前に投稿が来たら間抜けよね、アタシたちって」