シンジとのキス。

 時々ふざけてしてるけど、今日のはいつもと違う。

 なんて言うか・・・・心がこもってた。

 もちろんアタシのキスに心がこもっていたのは当然だけど、シンジの方も・・・・・

 これってもしかして、旅だからなのかな?

 旅だから特別でとか・・・・

 そうじゃなければ、アタシはうれしいんだけどね。

  




アスカ行日記・番外編

第八話:二人で見る夜景



「このへんで・・・・降りる?」

 

 シンジは黙っていたアタシに尋ねてきた。

 何だかあのキスの後、何をしゃべっていいのかわからなくて、アタシはシンジに話し掛けられなかった。それはアタシだけじゃなく、シンジも同じだったみたいで、二人ともしばらく黙っていた。

 でも、それは心の通わない沈黙じゃない。

 だからアタシは何も言わなくても全然気にならなかった。

 

「うん・・・・」

 

 アタシはシンジに答える。

 富士山に行くとは言っても、アタシはどこの駅で降りたらいいのかよくわからなかったし、きっとシンジも同じだと思う。それに、富士山に行くのに一つの決まった駅からしか行けないなんて、そんな事もないだろうし・・・・

 もう、車窓には富士山が大きく見える。かなり暗くなってきていて、その美しさは幾分差し引いてみられるけれども、やはり富士山は富士山だった。テレビで見るのとは全然迫力が違う。

 

「富士山もこんなに間近に見えるしね。だから、この辺で降りればいいと思うんだ。」

 

 シンジはまるでアタシの心を読んだかのように言う。

 シンジはアタシが同じ様な事を考えていた事なんて、わかっているはずもないけど、アタシはこんな偶然の一致がうれしかった。

 

「そうね。次の駅で降りましょ。」

「だね。」

 

 こうして、アタシとシンジは、次の駅で降りる事にしたのだった・・・・

 

「ほら、荷物持って持って!!」

「わ、わかったよ。そんなに急がせないでよ・・・・」

「もう、とろいんだから。ほら、アタシが半分持ってあげるから・・・」

「い、いいって。一人で持てるし・・・・」

「バカ、遠慮なんてするんじゃないわよ。いいから貸しなさい。」

「あ・・・もう、アスカったら・・・・」

「何よ、文句でもあるの?」

「い、いや、そういう意味でなくって・・・・」

「じゃあ、何なのよ?」

「あの・・・・何でもない。」

「・・・・ほら、ドアが開いたわよ。さっさと降りる。」

「は、はいはい。」

 

 アタシはシンジを追い立てるように、駅のホームに降り立った。

 

「・・・・何だか変な臭いがするわねえ・・・・」

 

 アタシは辺りの空気の臭いに鼻をしかめるようにして、シンジに言った。するとシンジは、アタシに訳知り顔で応えた。

 

「この辺に温泉でもあるんじゃない?」

「温泉?」

「そう、硫黄の臭いだよ、きっと。」

「・・・・あんまりいいものとは言い難いわね。」

「ま、まあね。でも、以前みんなで温泉に入った事あったじゃない。だからアスカもこの臭いははじめてじゃないと思ったけど・・・・」

「そういえばそうね。あの時もこんな臭いがしてたような気がしたわ・・・・」

「でしょ?まあ、我慢してよ。いいお湯に入れるんだしさ。」

 

 アタシは呑気にそういうシンジに向かって、ちょっと冷やかしてみた。

 

「アンタ、えっちなことでも考えてるんじゃないでしょうね?うれしそうな顔しちゃって・・・」

「ち、違うよ!!」

「どうだか?」

「僕、川に入ってそのままだったから、ちょっとお風呂に入ってさっぱりしたいなーと思って・・・・きれいな川だったんだけど、やっぱりそのままじゃ気持ち悪いもんね。」

「そ、そう言えばそうね。アタシもアンタに言われたら、無性に気持ち悪くなってきちゃったわよ。」

「ご、ごめん・・・・」

「バカ、アンタのせいじゃないでしょ?むしろ、アタシの方が悪かったんだから・・・・」

 

 アタシが少し反省した色を見せながらシンジに向かってそう言うと、シンジはかなり小さな声でぼそっとこう言った。

 

「・・・・アスカは・・・悪くないよ。」

「・・・・」

 

 アタシはその声が聞こえなかった振りをした。本当はうれしすぎて、なんて言ったらいいのかわかんなかったからなんだけど・・・・

 

「と、ともかくこんなところでじっとしていないで早く行こうよ。予約無しでも泊まれるところがあるかどうかもわからないんだし・・・・」

「そ、そうね。行きましょ、シンジ。」

 

 アタシはシンジにそう言われて慌てて返事をすると、シンジを引っ張るようにして荷物を持って行った。

 

「あ、そんなに急がなくてもいいよ、アスカ!!」

「早い者勝ちってね!!いいとこに泊まれなくなったら嫌でしょ!?」

「そ、それはそうだけど・・・・そんな混んでないと思うよ、この時期。」

「そう?」

「うん。お正月休みも終わりだし、旅館も取り敢えず一段落なんじゃないかな?」

「・・・・そうかもしれないわね。」

「だから、もうちょっとゆっくり行こうよ。焦らなくても温泉は逃げないんだし・・・」

「駄目!!ゆっくりするのは宿を決めてからよ!!それからすぐにお風呂に入って・・・それからいくらでもゆっくりさせてあげる!!」

「しょ、しょうがないなあ・・・・・」

 

アタシは何だか、一刻も早く旅館に入って荷物を置いて、そして着替えたかった。シンジに言われたのが気になったからとか、そういう事じゃないんだけど、お風呂あがりに浴衣と下駄で温泉街をシンジと二人で散歩する事を考えたら・・・何だか楽しくなってきちゃって、待ちきれなくなっちゃったの。

だから、急いで切符の精算を済ませて、駅を飛び出して・・・・今夜泊まる旅館を探すことにした。

 

「アスカは・・・・どういうところがいいの?」

「そうねえ・・・・アタシは、露天風呂があって、あんまり貧乏臭くなくって、それでいて近代的過ぎずに情緒豊かなところかな・・・・?」

「・・・・それって結構贅沢だと思うんだけど・・・・」

「そう?でも、これは最低ラインよ。あ、そうそう、ご飯もおいしくなくっちゃ駄目ね。」

 

 アタシがそう言うと、シンジはいかにもアタシを馬鹿にしたような気の乗らない顔をしてこう言った。

 

「・・・・まあ、頑張って探しましょ。」

「あ、何よ、その言い方!?まるでアタシがわがままだって言ってるみたいじゃない!!」

「そ、そういうつもりじゃないよ。でも、僕は泊まれればそれでいいかなって思って・・・・」

「アンタ、妥協する気!?」

「ち、違うよ。」

「どう違うのよ!?言ってごらんなさい。」

「そ、それは・・・・ほら、あんまり詳しい事なんて解らないし、取り敢えず見た目で当たってみるしかしょうがないんじゃないかなって思って・・・」

「・・・・それもそうね。」

「だろ!?さすがに入ってみてその宿がどういう環境かを聞く訳にも行かないし・・・・」

「・・・・聞けばいいじゃない。」

「え・・・?」

「聞きましょうよ。おいしい料理かどうかを聞くのは無理としても、露天風呂があるかどうかくらいは聞いてもばちが当たらないんじゃないの?」

「・・・・・」

「ね?聞きましょうよ。せっかくの旅行なんだし、いいところに泊まりたいじゃない!!」

 

 アタシはあまり高圧的にならずに、少し媚びた雰囲気もだして、シンジにそう言った。するとシンジはアタシの気持ちが通じたのか、何とかアタシの意見を了承してくれた。

 

「・・・そうだね。何だか恥ずかしい気もするけど、後で後悔するよりマシだもんね。」

「でしょ!?じゃあ、それで決まり!!いろいろ当たってみるわよ、シンジ!!」

「了解!!」

 

 こうしてアタシとシンジは意気揚々と温泉街に繰り出していった・・・・

 

「アスカ、ここなんてどう?」

「駄目よ、みすぼらしい。」

「じゃあ、ここは?」

「小さすぎるじゃない。こんなところにろくなお風呂はないと思うわ。」

「なら、ここは?結構大きいと思うけど・・・・」

「・・・・新しすぎるわね。つまんないわよ。」

「・・・・はぁ・・・・・・」

 

 シンジは早くもアタシの贅沢さに嫌気が差してきてる。まあ、シンジが言うところを片っ端から却下してるアタシが悪いんだけど、ほんと、妥協だけはしたくないのよね。でも、こうしていてシンジに嫌われちゃうのも嫌だし・・・・仕方ない、アタシから提案する事にしよう・・・・・

 

「シンジ、ここなんてどう?」

「え・・・?」

 

 専らシンジに言わせてはそれに反対するアタシだっただけに、急に態度を変えたアタシにシンジは戸惑いを隠せなかった。

 

「だから、ここなんてどうかって聞いてんのよ。」

「そ、そうだね・・・・いいんじゃない?」

「じゃあ、取り敢えずここを当たってみるわよ。」

「うん・・・・」

 

 アタシがシンジに指し示したのは、結構年代を感じさせる、大きめの旅館だった。木造の建物で、あまりきれいとは言い難かったけど、少なくともコンクリートの建物よりは何倍もマシだと思った。

 

 がらがらがら・・・・

 

 アタシはシンジの先に立って引き戸を開けて中に入った。

 

「いらっしゃいませ!!」

 

 入るなり、歓迎の挨拶の言葉がかけられた。アタシはその明るい対応に少し心を和ませて、そのアタシ達を出迎えた女中さんに尋ねてみた。

 

「今晩泊まりたいんだけど・・・・ここ、露天風呂、ある?」

「もちろんございますよ。」

「じゃあ・・・・予約してないんだけど、泊まれる?」

「どうぞどうぞ。部屋は空いておりますので・・・・」

「そう。なら、ここにするわ。よろしくね。」

「はい。では、宿帳の方に記入を・・・・・」

 

 アタシはそう言われて、宿帳の方に書き込もうとしたら・・・・シンジに後ろから声をかけられた。

 

「・・・・アスカ、名前、どうしよっか?」

「え?」

「ほら、中学生が保護者なしで二人で泊まるなんて・・・・しかも男女だし・・・」

 

 アタシはシンジの言いたい事がすぐに飲み込めた。全くいつもはのほほんとしてるくせに、時々変に気の回るところがあるんだから・・・でも、シンジの指摘は的確だった。もしかして、変に思われて断られるかもしれないから、用心にこした事はないと思った。

 

「・・・じゃ、じゃあ、アタシはアンタの姉の碇アスカって事にするわ。」

「姉?」

「そうよ。おかしい?」

「い、いや、でも、同じくらいの年に見えるけど・・・・」

「アンタの父親が再婚して、アタシはその連れ子だって事にすればいいじゃない。」

「そ、そう・・・・わかった。それで行こう。」

「じゃあ、書くわよ・・・・」

 

 アタシとシンジは短いやり取りの後、宿帳に記入を済ませた。そして、部屋に案内されて、ようやく二人っきりになる事が出来た。

 

「ふぅ・・・・」

「何ため息なんてついてんのよ?」

「いや、嘘をつくって結構ひやひやするじゃない。」

「アンタ、このくらいでびくついてたの!?」

「そ、そうだけど・・・・」

「バカね。向こうは商売なんだから、余計な詮索なんてする訳ないじゃない。はっきり言って、さっきアタシが決めた細かい設定なんて、無用のものなのよ。」

「じゃ、じゃあ、どうして・・・・?」

「万が一のためよ。何か聞かれたら、アンタはとっさに嘘なんてつけないでしょ?だから、こうしてあらかじめ決めておいた訳。わかる!?」

「な、なるほど・・・・」

 

 くだらない事にやたらと感心するシンジにちょっと呆れて、アタシはからかってみたくなった。

 

「ほんとは夫婦って事にしてもよかったんだけどね・・・・・」

「ア、アスカぁ!!」

「冗談よ。バカね、本気にするなんて・・・・」

「冗談にしちゃ、きつすぎるよ・・・・」

「でも、もう少し年がいったら、十分夫婦でも通用するわよ。」

「そ、そうかもしれないけど・・・・・」

「それより見て、ほら、あんなに外が綺麗・・・・・」

 

 アタシはまだうろたえるシンジに向かって、話を切り替えてあげた。

 するとシンジは、アタシに誘われるがままに窓辺に近付く。

 アタシとシンジは静かに寄り添って、窓の外の景色を眺めた。

 

「ほんとだ・・・・」

「でしょ?」

 

 窓の外は、たくさんある温泉宿のほのかな明かりと、温泉のあげる湯煙が独特な独特の雰囲気を醸し出し、そして・・・・バックには大きな富士山のシルエットがあった。

 

「・・・・いいね、こういうのも・・・・・」

「ほんと、来てよかったわね。」

「うん・・・・」

 

 アタシはシンジと短い会話を交わした後、外の景色を見ながらさりげなくシンジにくっついた。シンジはこの事に気付いたのかどうなのか・・・・わからなかったけど、とにかくアタシを拒む事はなかった。

 そして、しばらく黙ったまま、温泉街の不思議な夜景を二人して眺めていた。大事な目的の一つであった温泉に入る事も、しばしの間忘れて、二人きりで・・・・

  


高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪   

「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

旅館の人「やあいらっしゃい。お風呂とお食事どちらにします? ああ、お風呂がいいね。君たちも疲れてるだろうし」

アスカ 「・・・・・・」

旅館の人「男湯のシンジ君はこっちだね。そして女湯の君はこちら、と」

アスカ 「・・・・・・」

旅館の人「女湯は湯加減が少し熱いから、きをつけてねっておっとお!!(さりげなくアスカを湯船に突き落とそうとする)」

アスカ 「(ぱっとかわして)・・・・なにやってんのよ、アホ使徒

カヲル 「なにっ、僕の完璧な変装を見破るとはっ!」

アスカ 「・・・はあっ。このコメントの字の色とその口調見てりゃ一発でばれるわよ」

カヲル 「しまった。僕としたことが、迂闊だった」

アスカ 「んで、なんで男のアンタが女湯にいるわけなのかなぁ?(ぎろり)」

カヲル 「さあ。なんでだろうね」

アスカ 「こーいうとき、女の子は合法的に男にお仕置きできるのよ。えっちばかへんたいしんじらんなーい!!っていいながらね、それっ!!」

 どかばきぐしゃっ!!

カヲル 「・・・・君の場合、非合法にでも僕を殴るくせに・・・・ぐはあっ」


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