アタシの隣にはシンジがいる。

 シンジの隣にはアタシがいる。

 そして仲良く二人で寄り添って、太陽の光を浴びるの。

 湿った服を着てるのは、あんまりいい気持ちじゃないんだけど、

 こうして座って太陽の光に照らされていると、

 何だかぽかぽかしてきて、眠くなっちゃうのよね。

 きっと隣にシンジがいてくれるから、こんな安らぎを覚えるんだろうけど・・・

  




カ一行日記・番外編

第六話:見守って、見守られて



  

「・・・アスカ、アスカ・・・・」

  

 誰かがアタシを揺さ振ってる。でも・・・・って!?

  

「はっ!!」

  

 アタシ、いつのまにか眠っちゃってたみたい。寝不足っていう訳でもなかったのに、こんなところで熟睡しちゃうなんて・・・・恥ずかしいわね。

  

「アスカは気持ちよさそうに眠ってたよ。」

  

 隣に座っていたシンジが、アタシの顔を覗き込んでやさしくそう言う。アタシはシンジに自分の寝顔を見られていたと思うと、急に恥ずかしくなってシンジに尋ねた。

  

「ア、アタシ、いびきとかかいてなかった!?」

「大丈夫だよ。安心して。」

「よかった・・・・」

  

 アタシは取り敢えずシンジに恥ずかしい姿を見せていない事を知って、ほっと胸をなで下ろした。しかし、シンジの目の前で熟睡しちゃった事には変わりがない。アタシはちょっと反省して、シンジに謝った。

  

「・・・ごめん、アタシ、眠っちゃって・・・・」

  

 するとシンジは、アタシに向かって微笑みながら言う。

  

「いいんだよ、別に。それより僕こそ、アスカがせっかく気持ちよさそうに眠ってたのに、わざわざ起こしちゃって・・・・・」

「い、いいのよ。アタシが悪いんだから・・・・」

「いや、僕の服ももう完全に乾いたし、そろそろ夕方になるから、行った方がいいだろ?」

「あ・・・・」

  

 アタシははじめて気がついた。まだ西の空こそ赤くなりはじめていないものの、大分太陽が傾いてきている事に・・・・

  

「アスカが言うように一泊するにしても、そろそろここを離れた方がいいだろうと思って・・・・」

「そうね。ごめん、何だか余計な心配かけちゃって・・・・」

「だからいいってば。さあ・・・」

  

 シンジはそう言うと、立ち上がってズボンについた草をはらった。そして、アタシに向かって、そっと手を差し伸べる。

  

 まさか、このシンジがこんなことするなんて・・・・

  

 アタシはそう思って、びっくりしたんだけど、うれしいことには変わりがなくて、差し出された手をそっと受け取った。そして、シンジの力を借りてアタシも立ち上がった。別にひとりで立つのは大変でもなんでもないんだけど、シンジの好意を無駄にしないためにも、アタシは出来るだけシンジの力に頼った。シンジは自分から手を差し伸べてたくせに、アタシがそんな態度を見せたのを知って、ちょっとびっくりしたみたい。まあ、今までのアタシからすれば、それも当然かもしれないけど、今は旅行だから、普段と違ったアタシを見せても、別に問題はないわよね。

  

 簡単に身支度を済ませて、アタシとシンジはこの小川から離れた。

 やっぱりアタシの重い荷物はシンジが持ってくれたんだけど、熟睡しちゃってたアタシとは違って、きっとシンジは疲れてるわよね。シンジはそんなそぶりは絶対に見せないんだけど、シンジの顔には疲労の色が濃い。アタシはそんなシンジを見ると、黙ってそっと、荷物の反対側を持ってあげた。

  

「ア、アスカ・・・・」

  

 シンジはその事にまたびっくりして声をあげたけど、アタシは素知らぬ顔をして、シンジに全く別の話をした。

  

「ねえ、これからどうする?」

「ア、アスカ、荷物は僕が持つから・・・・」

「アタシはこれからどうするのかを聞いてるのよ!!余計なことは言わないで!!」

  

 アタシは大きな声で、アタシを気遣うシンジをたしなめる。すると、シンジもアタシの心を察してか、荷物のことにはもう触れようとはしなかった。

  

「これからって・・・・アスカには何か考えはある?」

「そうねえ・・・・取り敢えず、ここからは離れた方がいいわね。この辺にはろくな宿がなさそうだから・・・・」

「それもそうだね。じゃあ、とにかく駅まで行って、それからどこに行くか決めようか?」

「それがベストね。まず、電車に乗ることが先決よ。」

「・・・急ぐ?」

「・・・・別に、急ぐ必要もないんじゃない?」

「・・・・アスカがそう言うのなら・・・・」

「・・・いいわよね。こうして二人で並んで歩くのも・・・・」

「そうだね。よく二人で散歩に行くこともあるけど、景色が違うと雰囲気もまた違ってくるからね。」

「・・・そうね。」

  

 アタシがそっとシンジの意見に賛意を表すと、シンジはしんみりとアタシに言った。

  

「・・・・やっぱりアスカも・・・僕と同じなんだ・・・・」

「そうよ。でも、シンジがアタシと同じかどうかは、わからないわね。」

「どういうこと?」

「アタシが感じているように、シンジも感じているのか?って言うことよ。」

「感じてる・・・って?」

  

 アタシの言うことがなかなか理解出来ないシンジに、アタシはちょっと呆れもしたけど、アタシはシンジがそういう察しのいい奴じゃないって知ってるから別に怒る気もしなかった。だって、アタシはシンジの全部が、好きなつもりなんだから・・・・

 だから、アタシはいつもよりやわらかにシンジに怒った素振りを見せた。

  

「バカね。そんなこと、自分で考えなさいよ。」

「・・・・だね。ごめん。」

「バカ、謝ることなんてないのよ。アンタがアタシのこと、ちゃんと理解していればわかることなんだし、アタシのことを理解してなければ、絶対にわからないんだから・・・・」

「・・・・そうだね。」

「で、アンタはどうなの?アタシの気持ち、わかる気がする?」

  

 アタシがそう尋ねると、シンジは小さな声でアタシに答えた。

  

「・・・・わかる・・・と思う。」

「そう・・・・なら、いいけど・・・・」

  

 アタシはそれ以上、シンジを追求しようとはしなかった。追求すれば、シンジを困らせるだけだし、今は二人で一緒に荷物を持っていれば、それで十分だったから・・・・

 でも、アタシってば、朝とは大違いよね。朝のアタシはシンジをからかって、いじめてばっかりだったのに、今のアタシはシンジが困らないように細心の注意を払ってる。シンジがいつものシンジだったら、アタシもいつものようにいじめてたんだろうけど、何だか今日のシンジはちょっと違うのよね。

 今日のシンジはなんて言ったらいいのか・・・・アタシのことだけを考えていてくれる、って感じなの。まあ、シンジの他にはアタシしかいないんだから、それは当然のことなのかもしれないんだけど、よく考えてみると、アタシとシンジが何にも邪魔されずに二人っきりでいることって、そう多くはないような気がする。だって、学校ではいつもシンジの側にはファーストがいるし、家に帰ればミサトがいるから・・・・

 ミサトがうちにいないで、シンジと二人っきりって言うシチュエーションっていうのも、少なくはないんだけど、今思い返してみると、家にいるときのシンジって、いっつも何かをしてるのよね。だから、アタシもシンジにかまってもらえない。アタシもひとりじゃつまんないから、無理矢理シンジにかまってもらおうとするんだけど、そういう時のシンジは、アタシのことを邪魔に感じてる。アタシはその事がわかるから、あんまりシンジにべたべた出来ないのかもしれないわね。

 でも、今のシンジは違うの。今のシンジには、アタシ以外にない。だから、シンジは全神経をかけて、アタシのことを考えてくれてる。アタシはそれを感じるから、アタシもシンジのこと、やさしくしてあげちゃうのかもしれないわね。

 そう考えると、旅っていいかも?シンジはアタシだけを見てくれるし、アタシもそんなシンジを見てればそれでいい。だからこんな何にもないところでも、アタシは楽しく感じられるのかもしれない。アタシだけにやさしい、シンジが側にいてくれるから・・・・

  

 そうこうしているうちに、アタシとシンジは駅に到着した。

 シンジは切符を買う段になって、アタシに尋ねる。

  

「結局、どっち方面に行く? まだ帰らないにしても、戻る方向に行ってもいいんだけど・・・・」

  

 シンジの質問に、アタシは間髪いれずに答えた。

  

「バカね。一度来たとこに行ってどうすんのよ。先に進むに決まってんでしょ!?」

「そ、それもそうだね・・・・」

  

 シンジは我ながら馬鹿なことを聞いたとでも思ったのか、情けない返事をする。

 そんなシンジを見たアタシは、つい柄にもなくシンジをフォローしてあげた。

  

「気にしなくてもいいわよ。アタシはアンタがそういう奴だって、ちゃんとわかってるんだから・・・・」

「・・・・喜んでいいものやら、悲しんでいいものやら・・・・」

「喜んでいいに決まってんでしょ!!アタシはそんなアンタだってわかった上で、こうして一緒にいるんじゃないの!!」

「そ、そうだね・・・ごめん。」

「いいわよ。それよりホームに入るわよ。」

  

 切符を買ったアタシはそう言うと、シンジを引っ張って改札をくぐった。

 運のいいことに、電車はすぐにホームに入ってきた。しかし、こんな田舎の駅だから、降りる人もいなければ乗る人もいない。閑散とした中を、アタシとシンジは中に乗り込んだ。

 外から見たのと同じで、車両の中も人気があまり感じられない。アタシとシンジは、来たときと同じ様に、苦もなくひとつのボックス席を占めると、まずシンジを先に座らせた。

 そしてアタシはというと・・・・今までとは違って、シンジと向かい合わせに座るのではなく、シンジのとなりにちょこんと腰を下ろした。するとシンジはちょっとびっくりして、アタシに声をかける。

  

「ア、アスカ・・・・?」

「いいでしょ、別に。」

  

 アタシはシンジと目を合わせずに、そう答える。アタシもなんだかちょっと気恥ずかしかったからね。そして、そんなアタシを見て、シンジはまだ動揺から立ち直れない様子でこう言った。

  

「い、いいけど・・・・」

「け、景色は、十分に見たしね・・・・」

「そ、そうだね。じゃ、じゃあ・・・・・」

「じゃあ、何?」

「い、いや、その・・・・」

「景色を見ないなら、何を見るのか?って・・・?」

「あ、う、うん・・・・」

「アタシは・・・・シンジを見てるわ。そして・・・・」

「そして?」

「シンジは、少し眠って。アタシの荷物を持ったり、河で遊んだりして、ちょっと疲れたでしょ?」

「そ、そんな事ないよ。」

「いいから。アタシはアンタに、寝顔を見られてんのよ。だからアンタも、アタシに寝顔を見せなさいよ。」

「で、でも・・・・」

「ほら、アタシが肩を貸してあげるから。だからしばらく目を閉じて・・・・」

  

 アタシはそう言うと、シンジの身体を自分のところに引き寄せた。シンジは反射的に抵抗しようとしたが、それはほんの一瞬のことで、シンジは大人しくアタシの肩に寄りかかった。

  

「しばらくしたら、起こしてあげるから・・・・ね?」

  

 アタシがそう言うと、シンジはそっと両目を閉じた。それを見たアタシは、そっと身体をひねって腕を回すと、シンジの身体を抱き締めるような体勢を取った。シンジはまだ、眠りに就いてはいないだろうが、アタシがそうしても、シンジは少しも目を開けなかった。アタシをそれを見て、シンジがアタシのことを信じてくれていると感じた。

 そして、アタシはシンジの顔に視線を落としていた。シンジはアタシの肩に頭を乗せて、安らいだ表情をしている。アタシはそんなシンジの顔を見て、キスしたくなっちゃったけど、なんとか我慢した。だって、シンジはアタシが眠っている間、ずっとアタシの眠りを見守っていてくれたんだから。

 だから、アタシもシンジの眠りを妨げたくはなかった。

 シンジには、安らかに眠って欲しかった。

 そう、アタシがシンジの肩に寄りかかって、やさしく見守られながら幸せな眠りに就いていたように・・・・

  


高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪   

「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

カヲル「シンジ君、一休みでもして、コーヒー、飲むかい?」

シンジ「え? あ、うん、まだコメント始まったばかりだけど・・・・ありがとう、カヲル君」

カヲル「いやいや(にやり)、はい、できたよ」

シンジ「あ、ありがとう。じゃあ、いただきます・・・・って、何をじろじろ見てるの?

カヲル「あいや、全然気にしなくていいからさ」

シンジ「あ、うん・・・・ごくり」

カヲル「どうだい、僕が真心込めて作ったコーヒーは」

シンジ「うん、おいしいよ・・・・あれ? なんか、いきなり眠くなって・・・・きた・・・な・・・・」

カヲル「おやまあ、それはたいへんだ。じゃあしんじくん。ぼくによりかかってねむるといい」

シンジ「あ・・・・ねむい・・・・でも・・・・」

カヲル「ほら、きにしないでさ(だきだき)」

アスカ「こ・の・卑劣漢がああっ!! シンジのコーヒーに何眠り薬盛ってるのよ!!」

 がしゃああああ!!

カヲル「・・・・なぜ・・・・それを・・・・」

アスカ「はん、しらじらしい!! あんたが「おやまあ」とか棒読みの台詞を言っている時点で、上の話みたいなことをしようとしているのは明白なのよ!! あれはアタシとシンジだけの特権!! アンタは引っ込んでなさい!!」

 バキッ!!

カヲル「うううっ・・・・・がくっ」

シンジ「すぴーすぴーすぴー」

アスカ「さ、シンジ・・・・アタシに寄りかかって、眠って・・・・シンジの目がさめるまで、ここにいるから・・・・」


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