アタシはびしょ濡れ。

シンジもびしょ濡れ。

でも、何だか不思議とあたたかい。

もしかして、心が身体をあっためてくれてるのかな?

だとすると、こういうのも悪くないかも?

たまには二人でびしょ濡れになって・・・ね?

  



 

アスカ一行日・番外編

第五話:びしょ濡れの二人


 


  

 アタシとシンジは川から出ると、身体が冷えてこないうちに着替え始めることにした。まずはアタシの番。さっきみたいにバスタオルでシンジに壁を作ってもらって、水着から今まで着ていた服に着替えたの。

 でも、今度はシンジをからかったりしない。アタシはシンジの気持ちに触れてうれしかったし、何よりアタシのせいでシンジをびしょ濡れにしちゃったから・・・

 シンジは別にアタシのことを責めないけど、シンジの着替えなんて持ってこなかったから、これからシンジはどうするんだろう?って、ちょっと心配なの。

 アタシは悪いことはしなかったと思ってたんだけど、やっぱり後悔って後になって来るのね。やっぱりアタシ、軽率だったかな・・・?

  

 アタシは予備のバスタオルで濡れた身体を丹念に拭くと、手早く服を着た。そして、やっぱりさっきと同じく目をつぶって顔を横に向けているシンジに呼び掛けようとした。でも、ちょっと躊躇して、そして、そんなシンジにあることをした・・・

  

「シンジ、さっきはごめんね!!」

  

 アタシはそう言うと、ちょうどアタシに向かって差し出しているかのようなシンジのほっぺたに軽くキスをした。シンジは何事かとびっくりして目を開ける。

 そして、そこにはきちんと着替え終わったアタシの姿が映っていたのだ。

  

「ア、アスカ・・・・」

「着替え・・・・終わったから。」

「う、うん・・・・」

  

 アタシはキスのことは何も言わない。

 シンジもキスのことは何も言わない。

 しかし、シンジはちゃんとわかっていた。自分のほっぺたに触れたのが、アタシの唇だってことを・・・・

  

 アタシもシンジも、少しだけぼーっとしてたけど、アタシはすぐに現実に戻って、シンジに尋ねた。

  

「シンジはどうする?着替えがないけど・・・・」

「取り敢えず、バスタオルでよく拭くよ。それで、後は自然に乾くのを待つ事にする。」

「そう・・・・それがいいかもね?」

「うん・・・・」

  

 そしてアタシは、自分に鞄の中から最後の乾いたバスタオルを取り出すと、自らの手でシンジの濡れそぼった身体を拭いてあげようとした。すると、シンジはびっくりしてアタシの手をとると、こう言ってきた。

  

「い、いいよ、アスカ。自分でやるから・・・・」

「でも・・・・」

「自分で出来るから、ね?」

  

 シンジは諭すようにアタシに言う。でも、アタシはそれを聞けなかった。

  

「・・・お願い、アタシにさせて。シンジがこうなったのも、アタシのせいなんだから・・・・」

「・・・・わかったよ。じゃあ、アスカにお願いするね。」

「うん・・・・」

  

 そしてシンジは、アタシの手を離す。アタシは自分の手が自由になると、丁寧にシンジの身体をバスタオルで拭き始めた。シンジはしばらくアタシのなすがままになっていた。しかし、あらかた拭き終わり、アタシがシンジの髪の毛を拭いてあげようとすると、シンジはちょっとそれを拒んだ。

  

「ア、アスカ、もういいよ。アスカの気持ちは十分に伝わったから・・・・」

「駄目。せっかくここまでやったんだから、最後までやらせて。」

「で、でも・・・・」

「いいから!!髪の毛なんて、そんな大した事じゃないでしょ!?」

「そ、それはそうかもしれないけど・・・・」

「じゃあ、ちょっと屈んでくれる?高すぎて拭きにくいから・・・・」

  

 アタシがそう言うと、シンジは黙って腰を下ろしてくれた。シンジはアタシがわがままを言い出したら、絶対におとなしく言う事を聞かないって思ってるのかもしれない。実際のところ、アタシから見てもそうなんだし・・・

 アタシはちょっと自己嫌悪に陥りながら、シンジの頭を拭き続けた。

  

「アスカ・・・?」

「な、何、シンジ?」

「もう・・・・いいんじゃない?」

「そ、そうね。ごめん、シンジ・・・・」

「いや・・・ありがとう、アスカ。」

「ううん・・・・」

  

 アタシは自分の考えに没頭していて、ついシンジの髪の毛のことを忘れてしまっていた。そして、シンジに注意されたように髪の毛を拭くのを止めると、そのバスタオルを胸のところに抱えるようにして、シンジの隣に腰を下ろした。

  

「シンジ・・・寒くない?」

「大丈夫だよ、アスカ。寒くなんかないから・・・・」

「そう・・・だといいんだけど・・・・」

「そんなに気にしないで。まだ日は高いし、きっとすぐに乾くよ。」

「そう?でも・・・・」

  

 アタシはまだ心配していた。シンジがこんな様子じゃ、風邪でもひくんじゃないかと思って・・・

 すると、シンジはそんなアタシの様子を察したのか、アタシの気を紛らわそうとするかのように、こう言ってきた。

  

「それよりアスカ、お腹空かない?」

「・・・・空いたわね。アタシ、すっかり忘れてた・・・・」

「僕もだよ。今、何時になったかわかる?」

「今・・・・もう少しで2時になるってとこ。」

「そう・・・じゃあ、お腹が空いてもおかしくないね。」

「そうね。でも、シンジはこういう状態だし・・・・どうしようか?」

「そうだなあ・・・・そうだ、アスカはこの荷物の中に何か食べ物は入れてこなかったの?」

「食べ物?そうねえ・・・・ちょっと探してみるわね。」

  

 アタシはそう答えると、シンジの横から立ち上がって、鞄の置いてあるところに行き、中を物色してみた。まさか食べ物が必要になるなんて思いもよらなかったから、アタシも鞄の中には色々放り込んだけど、食べ物があるかなんてよく覚えていない。だから、結構時間がかかったんだけど、取り敢えずひとつ、なぜか板チョコが見つかった。アタシは戦利品のそれを持ってシンジのところに戻ると、シンジに詫びた。

  

「・・・ごめん、あんな大きな荷物なのに、これしかなくって・・・・」

  

 アタシはそう言うと、立ったままシンジに板チョコを差し出した。すると、シンジはアタシに向かってこう言った。

  

「仕方ないよ。じゃあ、これはアスカが食べて。僕は少し我慢するから・・・」

「で、でも・・・・」

「それはアスカが持ってきたんだろ?アスカが食べるべきだよ。それに・・・・」

「それに?」

「それに、僕は一応男なんだしさ。」

「・・・・チョコ・・・嫌いなの?」

「いや、そういう訳じゃないよ。ただ、男は我慢も出来るって言うことさ。」

  

 アタシはそんなかっこつけたようなシンジの言葉を聞くと、思わずちょっと笑ってしまって、こう言った。

  

「加持さんじゃないんだから、かっこつけないでよ。」

「へ、変かな・・・?」

「変って言う訳じゃないけど、シンジには似合わないわよ。」

「ど、どうして?」

「シンジはかっこ悪いけど、すごくやさしいってところが魅力なんだから・・・」

「そ、そう・・・・じゃあ、なんて言ったらいいのかな?」

「そうねえ・・・・半分ずつにしようか?って言えばいいんじゃない?」

「わかった。アスカ、それを半分ずつにしようか?」

「って、そのまま言ってどうすんのよ?雰囲気も何もあったもんじゃないわ。」

「ご、ごめん・・・・」

「いいわよ。二人ではんぶんこにしましょ。」

「う、うん・・・・」

  

 アタシはそう言って再びシンジの隣に腰を下ろすと、手に持った板チョコを半分に割って、片方をシンジに手渡した。

  

「ありがと、アスカ。」

「いいのよ。少ないから、良く味わって食べてね。」

「うん・・・・じゃあ、いただきます・・・・」

「いただきます・・・・」

  

 こうして、アタシとシンジの、旅行にしてはやけにわびしい遅めのお昼ご飯が始まった。アタシもシンジもかなりお腹は空いていたけど、あんまりがつがつ食べてしまうとすぐに無くなってしまうから、まるで舐めるようにチョコを食べていった。

 そして、しばらくチョコを食べるのに専念していたアタシとシンジだったけど、黙っているのに飽きて、アタシはシンジに話し掛けた。

  

「ねえ、シンジ・・・・」

「なに、アスカ?」

  

 シンジはチョコを下に降ろして、アタシの方を向いてくれた。アタシは別に大した事を話すつもりじゃなかったのに・・・・アタシは真剣にアタシに接してくれるシンジを見て、ちょっぴりうれしくなって、アタシもチョコを下に降ろして会話に専念することにした。

  

「もう、こんな時間だけど・・・・」

「そうだね。残念だけど、ちょっと富士山は無理かもしれないね。」

「明日・・・日曜日でしょ?」

「そうだね。それが?」

「泊まりでも・・・・いいかなって?」

  

 アタシは自分から言うつもりはなかったのに、シンジに言うことに決めた。だって、今のアタシはシンジに意地悪出来るような気分じゃないから・・・

  

「泊まり!?日帰りじゃなくって!?」

  

 シンジは驚いてる。でも、当然よね。いきなり泊りがけの旅行に行くなんて、そんなの無茶な話だもん・・・・

  

「うん・・・・せっかく来たんだし、どこかに一泊していきましょ?」

「でも・・・・」

「駄目?」

「駄目って訳じゃないけど・・・・・」

「ミサトには、後でアタシから連絡しておくから、ね?」

「うーん・・・・そうだね。明日は日曜なんだし、別に一泊にしてもいっか。」

「本当!?ありがと、シンジ!!」

  

 アタシはそう言うと、思わずシンジに抱き付いた。そして、ちょっと後悔した。シンジの身体はまだ濡れていたの。別にアタシが濡れるのは構わないんだけど、シンジが・・・・

  

「ア、アスカ!!アスカまで濡れちゃうじゃないか!!」

「ご、ごめん・・・・でも、もう遅いみたい・・・・」

「仕方ないなあ・・・・ほら、早めにバスタオルで拭けば、僕よりマシだと思うから・・・・」

  

 シンジはそう言って、アタシにバスタオルで拭くように促す。でも、今のアタシはそんな気分じゃなかった。シンジにもう一度抱き付くと、耳元でこうささやく。

  

「・・・・アタシだけが乾いてもしょうがないでしょ?こうして二人で抱き合っていれば、乾くのも早いと思うから・・・・」

「アスカ・・・・」

「いいでしょ?もう少し、アタシにこうさせて・・・・」

「・・・・・」

  

 シンジは黙ったまま、何も言わなかった。

  

「シンジの身体って、濡れてるけどあったかいのね。」

「・・・・・」

「きっとすぐに乾くわよ。だから・・・・」

「・・・・・」

「だから、しばらくの間だけ・・・・」

  

 アタシはどうしてこんな気持ちになったんだろう?

 こんなにシンジを抱き締めたいなんて・・・・

 アタシはよく、ふざけ半分でこうすることはあったけど、めったにこんな気持ちになったことはなかった。でも、今は・・・・今は、シンジをこうして抱き締めていたい。アタシがシンジをびしょ濡れにしちゃったって言う罪悪感みたいなものはきっとあったと思うけど、それだけじゃないはず。

 でも、アタシにはそんな理由なんてどうでもいいこと。ただ、こうしてシンジを抱き締めているって言う事実だけが、アタシをふんわりと包んでいるの。きっとこういう気持ちを、幸せって言うんだろうな。

  

 こうして、アタシはまたひとつ賢くなった。アタシは一応大学は出てるけど、やっぱりまだまだ子供。人生の何たるかなんて、ほんと、全然知らないのよね。

 でも、アタシは少しずつ、大人になっていくはず。シンジと二人、二人三脚でいろいろ大きくなっていくの。そして、二人で素敵な大人になれるといいな。みんなに羨ましがられるような、お似合いの二人の大人に・・・・・

  


高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪   

「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「これが本当の五話よ! あのぶぁわかが書いた五話なんて偽物のへっぽこよ!!」

カヲル「偽物のへっぽことは失礼な・・・・あれでも僕が心血を注いでかき上げたのに」

アスカ「アンタの書く電波な小説なんて、誰も読みはしないわ! それよりそんな電波奈情報を流しておいて、この責任はどう取るつもりなんでしょうね!!」

カヲル「何で僕の責任なんだい? 少なくともこのことには作者も関わっているはずだけど」

アスカ「あいつはアタシが脅しかけてあたらしくタイトルページを作らせたし、ついでに二、三発殴ってるからいいの。問題はアンタよ!!」

カヲル「そ、それはとりあえずおいて置いて、アスカ君。きみがシンジ君にあげたチョコレート。あれはもしかしてバレンタインの物かな?」

シンジ「そ、そうなの・・・アスカ?」

アスカ「な、な、何でアタシがそんな安っぽいチョコをバレンタインにあげなきゃいけないのよ!!」

カヲル「そんなもの、というと・・・・」

アスカ「ほ、ほ、他にとびっきりのチョコを用意してるのよ、アタシは!!」

シンジ「・・・・でも、あのチョコレート、すごくおいしかったよ。アスカ、ありがとう」

アスカ「・・・・シンジ・・・・アタシ、うれしいわ!! チュッ」

シンジ「ア、ア、ア、ア、アスカ・・・・(真っ赤)」

カヲル「うむむむむ。この二人は場所柄もわきまえずに・・・・」

アスカ「さあ、最後にさっきの責任、とってもらうからね!!」

カヲル「わわわわっ!! アスカ君、マサカリなんて納めてくれないか!!」

アスカ「うるさいわ!! 覚悟!!」

 どっきゃあああああん!!

カヲル「・・・最近いつもこれだな・・・・ぐはっ」


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