シンジの手はあったかい。

 まあ、今は夏だからあったかいって言うよりも、

 熱いって言う方が自然だろうけど、

 アタシはシンジの手の熱さ、嫌な感じはしないな。

 でも、シンジはどう思ってるんだろう?

 アタシの手のぬくもり、感じているのかな?

 アタシの手、汗ばんでなきゃいいけど・・・・

 まあ、気にしたって仕方ないわよね!!

 シンジだって耐えきれなくなったら離すだろうし、

 今はしっかり、アタシの手を握り締めていてくれるんだから・・・・

   




スカ一行日記・番外編

第四話:水遊びの後、これからのこと



   

「着いたみたいだけど・・・・」

   

 シンジはちょっと心配そうに言う。まあ、シンジが思っていたほどまともな川じゃなかったみたいだけど、でも、かわいい、って言う言葉が当てはまるような、小さな小川よね。シンジとは違って、アタシとしてはここに全然問題はなかったから、シンジを安心させようと思って、さりげなくつぶやいて見せた。

   

「きれいな小川ね・・・・」

   

 ちょっと見え見えだったかしら?シンジはアタシの言葉を聞くと、ひとことこう言った。

   

「ありがとう、アスカ・・・・」

   

 アタシは、そんなシンジに何も返さなかった。ただ、シンジの手を握っていた手に軽く力を入れただけだった。

   

「・・・・・」

「・・・・・」

   

 しばらくアタシ達は黙っていた。視線は目の前の小川に注がれていたけど、気持ちは果たしてどうなんだろう?少なくとも、アタシの場合はシンジに向かっていたんだけど・・・・

 アタシがそう思っていると、シンジがいきなり手に持っていたアタシの荷物を地面においてこう言った。

   

「せっかくここに来たんだし、時間もそんなに多くないから早く遊ぼうよ!!」

「そうね!!」

   

 アタシがシンジにそう答えると、シンジはさっそく自分の靴を脱ぎ始めた。アタシもシンジと同じように靴を脱ごうとしたんだけど・・・・あることを思い出して、その手を止めた。

 シンジはアタシが手を止めたのに気付かずに、いそいそと靴下を脱いでいるところだった。アタシは脱ぎ掛けた靴を履き直すと、シンジが持ってきたアタシの荷物のところに歩み寄り、鞄を開けた。

   

「ア、アスカ?どうしたの?」

   

 シンジはアタシの行動に少しびっくりして声を上げた。アタシはそんなシンジを尻目に、鞄の中をあさり続け、あるものを見つけて取り出すとシンジに見せびらかした。

   

「これよ、これ!!」

「これって・・・・水着ぃ!?」

「そ、水着。こういう事もあるかと思って、持ってきたの。アタシって用意がいいでしょ?」

   

 しかし、シンジは呆れた風にアタシのことを見ると、こう言ってきた。

   

「そ、そこまでする必要はないんじゃないの・・・?ちょっとした水遊びなんだし・・・・」

「いいの!!せっかく持ってきたんだから、使わないともったいないでしょ!?」

   

 アタシは何だか嬉しそうに応える。しかし、シンジはまだ不思議そうな顔をしてアタシに尋ねてきた。

   

「た、確かにそうかもしれないけど・・・・どうして水着なんて持ってきたの?」

「アタシ達、どこに行くか決めてなかったでしょ?だから、海にしたときのためにね・・・・」

「なるほど・・・・」

「それに、温泉が混浴かもしれないじゃない!!」

「お、温泉ねえ・・・・・」

「そ。アタシは別にシンジには見せてもいいんだけど、どっかの親父にこのアタシの珠の肌を見せる訳にはいかないわ!!」

「ははは・・・そう・・・・」

「そういうことよ!!わかった!?」

「わ、わかったけど・・・・その水着、着るのはいいとしてどこで着替えるの?」

「あ・・・・」

   

 アタシはうかつだった。ここでいきなり着替える訳にも行かないもんね。アタシが少し気落ちしていると、シンジはそんなアタシにこう言ってきた。

   

「仕方ないから諦めるんだね。わざわざ水着に着替えないでも、十分楽しめると思うよ。それに、僕も水着じゃないんだし・・・・」

   

 アタシはシンジの言葉を聞いたとき、ついむきになっちゃって大きな声で言った。

   

「アタシは諦めないわよ!!絶対にこの水着を着るんだから!!」

「で、でも・・・・どうするの?」

「そ、そうねえ・・・・・」

   

 アタシにはいい案などなかった。でも、こう大見得を切った以上、アタシのプライドにかけて水着を着ない訳には行かない。と、その時、アタシの目にある物が飛び込んだ。それは、大きなバスタオルだった・・・・

   

「そう、これよ!!このバスタオルよ!!」

「え・・・?」

「あそこにちょっと陰になったとこがあるじゃない。このバスタオルでシンジに壁を作ってもらって、あそこで着替えれば・・・・大丈夫よ。」

「た、確かに誰もいないから、そうすれば見られる心配もないけど・・・・」

「なに、何か問題でもあるの?」

「い、いや、別に問題はないんだけど・・・・」

「じゃあ、いいわね!!荷物を持ってあそこにいきましょ!!」

   

 アタシは半ば強引に、シンジを道から陰になったところに連れて行った。しかし、シンジはまだ何か踏ん切りが付かないらしく、情けない声でアタシにこう言った。

   

「ねえ、アスカ・・・やめようよ。別に無理して水着に着替えることもないだろ?」

「駄目よ。ほら、そのバスタオルを持って・・・・」

「こんな小さいバスタオルじゃ駄目だよ。見えちゃうよ・・・・・」

「誰もいないでしょ?大丈夫よ。」

「で、でも・・・・」

   

 アタシは何となく、シンジが言いたいことがわかった。でも、アタシの口からそんな事は言わなかったし、シンジを勘弁してやるつもりはなかった。

   

「しっかり持ってなさいよ・・・・・」

   

 アタシはそう言って、着ていた服を脱ぎ始める。薄着だったから、急げばすぐにも着替えは終わるんだけど、アタシはわざとゆっくりと脱ぐ。そして、一生懸命見ないようにしているシンジに向かって、意地悪そうにこう言った。

   

「・・・見るんじゃないわよ。」

「わ、わかってるよ・・・・・」

「・・・見たい?」

「べ、別に・・・・」

「・・・・アタシが見てもいいって言ったら、シンジはどうする?」

「み、見る訳ないだろ?」

「ほんとに?」

「当たり前じゃないか!!僕を見損なうなよ!!」

「ふふっ・・・・アタシ今、ちょうど全部脱いだとこよ・・・・」

「そ、そんな事言うなよ・・・・」

「アタシがこのまま、川に飛び込んで行ったらどうする?」

「や、やめろよ・・・・」

「ふふふっ、冗談よ。アタシがそんな事するわけないじゃない。」

「・・・・・早く着替えてよ。」

「わかってるわよ。」

   

 アタシは散々シンジをからかった後、長い着替えを終えた。

   

「もう着替え終わったわよ。」

   

 アタシはシンジにそう告げる。しかし、シンジはアタシに弄ばれた後だったので、簡単に信じる訳にはいかないのか、首を横に向けたまま尋ねてきた。

   

「う、嘘じゃないだろうな?嘘だったら承知しないぞ。」

「嘘じゃないわよ。ほら、こっちを向いて・・・・・」

   

 アタシはちょっとやさしい声を出して、シンジを誘った。するとシンジはようやくアタシを信じたのか、目を開けて首をこっちに向けた。

   

「・・・・どう、シンジ?似合う・・・?」

「・・・う、うん・・・・」

「・・・うん、じゃわからないわよ。もっとはっきり言って。」

「・・・・似合うよ、アスカ・・・とっても・・・・」

「でしょ?アタシのお気に入りなの。」

「そう・・・なんだ・・・・」

「そういう事。さ、川に入りましょ。」

「う、うん・・・・」

   

 アタシはシンジが応えるや否や、いきなり川に飛び込んで行った。

   

「きゃ〜、冷た〜い!!」

「そ、そんなにはしゃぐなよ、アスカ・・・・」

「いいじゃない、めったにないことなんだから!!それよりもシンジも早く来なさいよ!!」

「わ、わかったよ・・・・」

   

 シンジはそう言って、ズボンの裾を大きくまくる。そして、恐る恐る水に足をつけはじめる。しかしそれを見ていたアタシは、ふざけて思いっきりシンジに水を引っかけた。

   

「あ!!アスカ、何てことすんだよ!!びしょぬれじゃないか!!」

「これで、そんな濡れるのを気にしなくてもよくなるでしょ?」

「だ、だからってこれはあんまりだよ・・・・」

「仕返しなら、受けてたつわよ。」

「ひ、卑怯だぞ!!そっちは水着じゃないか!!」

「卑怯じゃなくって、抜かりがないって言ってちょうだい。戦いには準備ってものが必要なんだから・・・・」

「な、何が戦いだよ!!これはただの旅行だろ!?」

「そうね。でも、人生は全て戦いの連続なのよ。」

「そ、そんな無茶苦茶な・・・・」

   

 まあ、シンジの言う通り、無茶苦茶な言い分よね。でも、アタシはシンジとのこういうやり取りが好きで、やめようとは思わなかった。そして、アタシは笑いながらシンジにこう言った。

   

「シンジが来ないなら、アタシから行くわよ!!」

   

 アタシはそう言うと、また手で水をすくっては、シンジに浴びせ掛ける。シンジももう頭に来て、びしょぬれになるのも構わずに川にざぶざぶと入って、アタシに水を引っかけた。アタシは水着だったから、大した事はなかったんだけど、シンジを煽るためにやられたように見せかける。

   

「や、やったわねぇ〜!!覚悟なさいよ!!」

「うるさい!!そっちこそ覚悟しろよ!!」

「この〜、行くわよ!!」

「来い!!」

   

 こうして、アタシとシンジは時の経つのも忘れてお互いに無邪気に水を引っかけ合った。そして、喧嘩口調だった声もいつのまにか楽しげな声に変わっており、アタシ達はこの小川での水遊びを満喫した。

 しかし、気力だけは持続しても、体力にはそのうち限界が訪れる。アタシもシンジも、息を切らせながら水に浸かっていた。

   

「・・・た、楽しかったわね・・・・・」

「そ、そうだね・・・・久しぶりに思いっきり遊んだっていう感じだよ・・・・」

「で、でも・・・アンタ、びしょ濡れね・・・・」

「ア、アスカのせいだろ!?」

「そ、そうだけど・・・・ごめんなさいね。」

「・・・・別に・・・・構わないよ。楽しかったから・・・・・」

「・・・・ありがと、シンジ・・・・」

「・・・ううん・・・・」

   

 そして、会話は途切れた。アタシはちょっとごまかそうと、仰向けになって川に身体を浮かべた。シンジはそんなアタシの様子をじっと見つめていたが、口には何も出さなかった。そして、アタシもそんなシンジに何も言えなかった。

   

 しかし、いつまでもこのままではいられない。アタシは水に浮かんだままシンジに尋ねた。

   

「これから・・・どうする?」

「・・・・どうしよっか?」

「・・・・・」

「・・・・・」

   

 これからどうするのか?これはただ、今の問題にとどまらない問い掛けなのかもしれない。びしょ濡れになっちゃったシンジや、これからの旅行の計画などだけではなく、アタシとシンジ、二人のこれからの行く末を、アタシはシンジに尋ねていたのかもしれない。シンジもそれを察していたのか、はっきりと答えてはくれなかった。そして、またお互いに沈黙のときが流れた。

 しかし、しばらくして、シンジがその沈黙を破った。

   

「・・・・何とかなるよ、きっと・・・・」

「・・・何とかって?」

   

 アタシはそう尋ね返す。するとシンジは、アタシに向かってこう言ってきた。

   

「きっと二人で行けば、何でも乗り越えられると思うよ。そう、僕は信じてる・・・・」

   

 そしてアタシは、そんなシンジに何も言葉を返せなかった。何かを口に出せば、きっと涙があふれてしまいそうな、そんな予感がしたから・・・・・

   


高嶋さんへの感想はこ・ち・ら♪   

「かくしEVAルーム」高嶋さんのぺえじはこ・ち・ら♪   


管理人(以外)のコメント

アスカ「前回、このコメントをレイに占拠されちゃったわ! ファーストったら、ここに出てこないのにちゃっかりアタシたちの話を読んでいるなんて!!」

シンジ「まあ、そう怒らないで。でも、今回の水遊びは楽しかったね・・・へっくしゅん!!」

アスカ「大丈夫、シンジ!! 風邪・・・・ひいちゃった・・・・?」

シンジ「あ、いや、大丈夫だよ。ほんとに。 ありがとう、アスカ、心配してくれて」

アスカ「そ、そ、そんなにお礼言われるほどのことじゃないわよ!! そ、そ、そうそう、きょうは管理人がい、い、い、いないけど、あのぶわぁか、なにやってるの?」

シンジ「えーと、カヲル君は昨日の夜から何か書き物をしていて、今日は疲れてお休みだそうです」

アスカ「ふ〜ん、逃げた作者が酔っ払って疲れているのと同じ様な物ね。そもそもこの話、もう次の5話をもらってるんでしょ? 逃げた作者の怠慢でそれを見れないなんて・・・・」

シンジ「・・・あれ? ここに何かあるぞ・・・・・なになに、5話のお話?」

アスカ「シンジ、それ早く見せなさいよ!!」

シンジ「あ、うん・・・・ええと・・・・『水遊びを終えて着替えようとしたアスカは、しかし足を滑らせて川に落ちてしまい、すぐ側の滝壺の中へ・・・・』」

アスカ「は、はあ?????」

シンジ「『シンジは狂ったようにアスカを探すが見つからず、体は芯まで冷え切ってしまう。あまりの寒さに蹲るシンジ。そこへ通りがかった謎の美少年が、彼を見かねて自分の家へ連れていく。そしてその優しさにほだされたシンジは美少年と・・・・』?????」

アスカ「ちょっとまった!! その表紙、「アスカ一行日記・番外編」の他に副題がついてるじゃない!!」

シンジ「・・・・・『カヲル作・第五話』・・・・」

アスカ「あ・の・あ・ほ・た・れ〜〜〜〜〜!!」


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