ようやく駅に着いた。
シンジは早くも疲れた顔をしてるけど、やっとアタシの重い荷物から解放されると思って、ほっとしてるみたい。
今日は土曜日だし、まだ割と早い時間だから、駅前の人通りもまばら。
アタシ達と同じく、この土日を利用してどこか旅行に行く恋人達もいるのかな?
アタシとシンジは恋人未満。でも、アタシの気分はすっかり恋人同士。
そしてアタシとシンジは旅に出る。
どこに行くかはわからないけど、この旅行でアタシとシンジ、二人の関係が、少しでも恋人に近づくといいな・・・・・
「疲れた?」
アタシはシンジに尋ねた。すると、シンジは疲れきっているくせに、強がっているのか平気な顔を作って答える。
「大丈夫だよ、このくらい。」
アタシはシンジが弱音を吐いてくれた方がうれしかった。シンジがアタシのために無理をしていると、アタシはなんだか申し訳ない気分にさせられる。だからアタシは、ちょっぴりシンジにやさしい顔をして言った。
「もうすぐだから、頑張って。」
「う、うん。ところで、これからどこに行くの?アスカはまだ決めてないみたいなことを言ってたけど・・・・」
「そうねえ・・・・シンジはどこか行きたいところ、ある?」
「僕?僕は別にないよ。だから、僕はアスカの行きたいところについて行くよ。」
「そう・・・じゃあ、海と山、どっちがいい?それをシンジに選んでもらって、後の細かいところはアタシが決めるから。」
「・・・・じゃあ、山。」
「わかったわ。じゃあ、山に行きましょ。」
「うん・・・・」
山に行くとはいったものの、アタシには行くあてなどなかった。
日本の山っていうと・・・・やっぱり富士山よね。そんな訳で、アタシは単純な思い付きで、富士山に行く事を決めた。
「で、具体的にどこにする?」
「そうね、富士山にしましょ。」
「富士山?」
「そ、日本で一番高いんでしょ?」
「そりゃあ、そうだけど・・・・」
「ならいいじゃない、そこで決まりで。ね?」
「う、うん・・・・」
こうして、アタシとシンジは切符を買って、駅のホームに入った。
「でも・・・・特急かなんかにした方がよかったんじゃない?」
シンジがちょっと不満そうな顔を見せてアタシに言う。
「いいのよ。旅の醍醐味は、各駅停車にあるの。」
アタシはシンジにそう断言する。しかし、シンジはまだ納得した様子を見せない。
「そうかなぁ・・・?」
「そうなのよ。それにアタシ達は中学生でしょ?そんなに贅沢もしてられないじゃないの。」
「・・・・それもそうだね。うん。」
元来主婦のような生活をしているシンジは、お金にうるさいところがある。
だから、シンジはアタシがお金の問題を持ち出すと、すぐに納得した様子をみせた。
実際のアタシの本音はというと、各駅停車で気になったところをいろいろ見てまわりたいって言うのもあったんだけど、それよりもここで時間を使っておかないと、泊まりの旅にならなくて、日帰りで終わっちゃいそうな気がしたの。
何だかシンジを騙しているような気がして申し訳ないんだけど・・・・しょうがないわよね。シンジも楽しんでくれるわよ、きっと。
まもなく電車は到着し、アタシ達はそれに乗り込んだ。
アタシとシンジはボックス席を占領すると、窓際に相向かいに座って、まず外の景色を眺めた。電車が発車してまもなくすると、第三新東京市の都会を離れて、辺りには田舎の景色が広がった。
「来てよかったね。」
シンジは外の景色を見ながら、アタシにつぶやく。
アタシも窓の外に視線をやりながら、シンジにこう答えた。
「そうね・・・・でも、旅はこれからなんじゃない?」
「・・・そうだね。でも、あんまりこういう景色、見る機会ってないから・・・・」
確かにシンジの言う通りだった。
アタシ達がいつも出かけるのは、大抵街中に限られていて、第三新東京市を離れることなどめったになかったからだ。そのせいか、シンジは真剣な眼差しで外の景色を眺めていた。そして、アタシは時々そんなシンジに視線を向けた。
シンジはいつも、アタシを見てくれてた。
アタシがシンジに視線を向けると、すぐに気付いてくれたし、シンジは目が離せなくて、アタシの方を向くことが出来ない時でも、シンジの意識はアタシに向いているような気がしてた。アタシはそんなシンジの事がうれしかったし、アタシはシンジに振り向いてもらいたくて、シンジに視線を向けてたような気がする。
でも、今のシンジはアタシが視線を向けても、外を見続けていた。
いつもアタシはシンジの顔をずっと見ていることなど出来なかった。だってシンジと目が合っちゃうから。目と目が合うと、何だか気まずくなっちゃって、二人ともすぐに視線をそらしてた。でも、今は違う。シンジを見ていても平気。
アタシはいつの間にか、シンジだけを見つめてた。アタシの目は、シンジだけを見てた。シンジがアタシに気付くまで、その時までずっとこうしていようと思った・・・・
「・・・・アスカ?」
しばらくして、シンジがとうとうアタシに気がついた。
「・・・なに、シンジ?」
アタシはずっとシンジを見てたなんて、おくびにも出さない。
「あの・・・・」
「なに?」
「外の景色、きれいだよ。」
「そうね。」
「・・・・見ないの?」
「見るわよ。」
「・・・・一緒に見ようよ。」
「そうね。」
「・・・・・」
アタシはそう返事をしても、シンジから目を離して視線を外の景色に移そうとはしなかった。
ちょっとしたいじわる。アタシははじめの考えを改めて、シンジをずっと見ていることにした。
シンジは顔を真っ赤にし始める。シンジはしばらく黙っていたけど、外に視線を戻した。
でも、さっきまでのシンジとは違う。シンジはアタシの視線を感じてる。シンジの様子にも、はっきりとそれが感じ取れた。でも、アタシはシンジを許してあげない。これはアタシの、シンジに対するちょっとした罰。アタシははっきりとシンジに想いを示してるのに、シンジがそれに応えてくれない事への、ちょっとした仕返しのつもりなの。
しばらくして、シンジは耐えかねてアタシに言った。
「・・・アスカ、勘弁してよ。」
しかし、アタシは空とぼけて答える。
「何のこと?アタシは何にもしてないじゃない。」
「それはそうだけど・・・・」
シンジは困った顔を見せる。アタシはそれを見ると、ちょっぴりかわいそうになって、もうシンジを解放してあげることにした。
「アタシに見つめられてるのって、やっぱり気になる?」
「そりゃあ、気になるよ・・・・」
「どうして?」
「だって・・・・そうじゃない?」
「アタシは別に、気になんないわよ。」
「嘘?」
「ほんとよ。なんならシンジが試してみる?」
「え・・・!?」
「ほら・・・アタシが外を見てるから、今度はシンジがアタシを見つめてて。」
「で、でも・・・・」
「いいから!!やってみてよ。ね!!」
「う、うん・・・・」
結局シンジを解放することにはならなかった。アタシはそんなつもりじゃなかったのに・・・・でも、結果オーライかも?アタシがシンジにずっと見つめられてることって、そうめったにあることじゃないもの。
そしてアタシは外の景色に目を向けた。でも、アタシの目には何も入っては来ない。だって、視覚以外の全ての神経をシンジに集中させているから。
シンジがアタシを見つめてる。
そしてアタシはそれを肌で感じてる。
アタシはシンジの視線に応えたかった。
でも、アタシが応えてしまったら、その時がシンジの視線の終わる時。
アタシはそれを知ってるから、シンジを見つめ返したい自分を抑えて、窓の外に視線を固定させていた。
時はゆっくりと過ぎ行く。
景色はどんどん流れては消えていくというのに、アタシとシンジ、二人の間に流れる時は、永遠のようにも思えた。
しかし、時は止まってはいなかった。アタシとシンジを運んでいるのと同じように、時も着実に流れていた。
電車は駅に到着し、そこで二人の時は終わりを迎えた。
駅に着いたのはきっかけにしかすぎなかった。
しかし、きっかけだけで十分だった。
アタシとシンジは、またいつもの二人に戻った。
恋人未満の二人。
でも、ほんの少しの間だけ、恋人同士になれた気がする。
そして、電車が再び駅を離れると、アタシとシンジは顔を見合わせた。
二人とも、いつもの関係に戻ったけれど、二人の中で何かが変わった。
それを示すかのように、微笑みあったアタシとシンジは、なぜだかとても自然に感じたのだった・・・・・
管理人(その他)のコメント
カヲル「じいいいいいいいいいいっ」
シンジ「・・・・・な、なに、カヲル君・・・・(汗)」
カヲル「いや、こうやってシンジ君のことを見ていれば、ぼくたちも上の話みたいになれるのかな、とおもってね」
アスカ「無理ね。こういう世界を作れるのはあたしとシンジだけなんだから!」
カヲル「ふん、いっつもいっつもシンジ君を殴ってばかりのきみとちがって、ぼくはシンジ君にはやさしいからね。いつか、きっとシンジ君を振り返らせて見せるよ」アスカ「できるもんならやってみなさいよ、あたしたちはこんな〜に親密なんだから!!」
だきだき、ちゅっ
シンジ「ア、ア、ア、ア、アスカ!!(真っ赤っか)」
アスカ「ふーんだ、どんなもんよ!」
カヲル「むっきいいいいいいいいっ!!」