どうも、龍牙です。
はじめて投稿する小説がこんなものになったのには理由があります。まず、島津さんの『鋼鉄のヴァルキューレ』を見て「この手があったかぁ!」と閃いた事。そして富士の裾野、御殿場で行われた陸上自衛隊総合火力演習を雨の中見学した事です。私は誓いました。
「自衛隊小説を書くぞ」と。
そして出来上がったのがこの「戦人たちの長い黄昏」です。
断っておきますが、この話にはカヲル君はもちろんアスカもレイもシンジ君もほとんど出てきません。いや全く出てこない人もいるでしょう。これはエヴァ小説ではなく、「エヴァ世界における自衛隊の物語」なのです。
それでも構わないという方は読んでみて下さい。
では、また後ほど。
戦人(いくさびと)たちの長い黄昏
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「目標なおも前進中、第一警戒線まで距離1300(ひとさんまるまる)」
「第3特科大隊より報告、誘導部隊は目標を捕捉。支援砲撃準備よろし」
「入間AB、第2支援航空団より連絡。直協攻撃隊の出撃準備は完了、待機中。指示後5分で攻撃可能」
大地を震わせながら前進するそれは、彼らが背水の陣として決死の覚悟で踏みとどまっている防御ラインに接触しつつあった。前進するそれの進路上には第三東京市がある。ここにいる者たちの大半にとっては縁もゆかりもない場所ではあったが、そこを護ることが彼らに与えられた任務だった。ならば戦うのが軍人、自衛官としての責務というものだ。
「師団長」
それを睨み付けている彼は、傍らから呼ぶ声に気付かなかった。気付かなかったと言ってもほんの数秒の事だったが、それほど彼が「敵」に向ける視線は熱を帯びていた。敵意と言うより、それはもっと原初的な怒り、憎しみのようなものだったかも知れない。
「師団長」
「・・・ああ」
陸上自衛隊第1教導師団師団長、妙高タダシ陸将はようやく我に返った。傍らの副官は電文綴を手に、彼に半ば不安の入り交じった視線を向けている。妙高は一つ咳払いをすると、その軍人(いや、自衛官)という稼業がぴたりとはまっている精悍な顔を歪めた。自分では不敵な笑みのつもりだが、副官にそう見えているのかどうかは今ひとつ自信がない。
「何か」
「NERV本部、葛城作戦部長より連絡がありました。主力の戦闘加入の目途立たず、との事です」
「諒解した・・・ふん」
あのお嬢ちゃん、つまりは勝手に戦えという事か。妙高は鼻で笑うと、折り畳み式地図台の上に広げられた作戦図に視線を落とした。彼が若い頃とは全く姿を変えてしまった関東地方一円が描かれたそれには、この方面に展開している各部隊の兵力配置が書き込まれている。素人が見ても何が何だか理解できないだろうが、長いこと軍人、いや自衛官をやってきた彼の目にはその配置が何を意味しているのかは一目で理解できた。彼の師団は防衛戦の要に位置していて、敵を食い止めたいのならば何が起きようともここから一歩も退かず踏みとどまらなければならない、という事が。
無論、「何が起きようとも」には、妙高以下師団の全員がここに屍を晒すという事も含まれる。つまりはあれだ、じいさんが死んだっていう硫黄島と同じって訳か。
「例のからくり人形はアテに出来んって事だな」
「・・・」
上官の冗談になっていない冗談に、副官は無表情で応じた。自衛官たちが言うところの「からくり人形」、NERVの汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオンは、例によって何らかのトラブルで出撃見込みが立たないらしい。それは、それだけ自衛隊に負担が掛かる事を意味する。当然犠牲は増える。笑い事ではない。
副官の思考を察した妙高は、図の傍らに置いてあるクーラーバッグから缶コーヒーを取り出し、副官に手渡した。自分も缶を手に取る。
「そんな顔をするな」
「・・・」
「まるっきり戦えないという訳ではないさ。うちらは陸自最強だからな」
確かにそうだ。第1教導師団は陸自最高の精鋭部隊として知られている。かつての富士学校戦車教導団及び普通科教導連隊の後身であるこの部隊は、各部門で最も優れた能力と練度を持つ隊員や幹部達、そして最先端の装備を集めて編成されたエリート部隊だ。以前の教導部隊というものは幹部教育のためのものであって別に精鋭というわけでも無かったが、セカンドインパクト後の合理化再編成によって二個師団にまとめられた教導師団は文字通りの精兵と呼べる物に生まれ変わっている。
しかし、それを承知していながらまだ副官は不安だった。今の敵は、陸自が想定してきたようなものとはまるで違う。「敵」、「使徒」と呼ばれるその敵の前に、今のところ自衛隊をはじめ各国の戦闘部隊はまるで歯が立っていない。唯一「NERVのからくり人形」だけが対抗できているに過ぎないのだ。
その思いを知ってか知らずか、妙高は呟いた。
「・・・俺達にも意地がある。そして、この日の為に練り上げた秘策もある、心強い味方もいる」
彼は視線を馳せた。その彼方には紺碧の大海原が広がっているはずだ。
そうだ。やってやる。戦争のせの字も知らないような学者あがりの餓鬼どもに、これ以上でかい顔はさせん。あのお嬢ちゃんにも戦争のやりかたというものを教育してやらんとな。
NERVめ、見てろよ。
同時刻。
かつてよりずっと広くなった東京湾を望む太平洋上には、海上自衛隊第一護衛隊群が展開していた。横須賀が消滅してしまい、結果として帝国海軍のホームポートだった呉に所属するようになった第一護衛隊群は、国連艦隊とアメリカ第7艦隊を除けば世界最強の水上戦闘部隊だ。
規定よりやや小振りの輪型陣を敷いている艦隊の中央には、佐世保の三菱重工長崎造船所で竣工したばかりの新鋭艦が艦隊旗艦としてその巨体を浮かべている。艦番号BB−01、打撃護衛艦「やまと」。第二次大戦以後に建造された水上戦闘艦艇としては世界最大という巨体と今までの護衛艦の常識を覆す重武装を誇るこの艦は、かつての最強戦艦の名を受け継ぐに相応しいと思わせるだけの偉容を示していた。
その艦橋から、第一護衛隊群司令の鳥海アキラ海将が彼の艦隊を見渡している。艦長の大淀ハヤト海将補は既に戦闘指揮所に移っており、鳥海を待っている。
「司令、そろそろです。指揮所へ移りませんと」
「おう」
言いながら、彼はなおも艦隊を見つめていた。彼の艦隊。昔流に言えば、戦艦1、正規空母1、軽空母2、大巡4、軽巡以下14。完全編成の機動部隊だ。第一護衛隊群固有の編成ではなく、今回の作戦の為に第二、第三護衛隊群から使えそうな艦を引き抜いてきて臨時編成されたもので、これほどの大艦隊を率いるのは鳥海も初めてだった。
彼は自分の座乗する旗艦の前甲板に目を落とした。巨大な主砲塔が二つ背負式に並び、更にその先にミサイルの垂直発射筒(VLS)区画が続き、錨鎖甲板を経て艦首。その向こうは紺碧の太平洋。確かに「大した」偉容だ。これがどの程度連中に通用するかは分からないが。
そう、彼らは自力で戦わねばならないのだ。先ほど、NERV本部から一通の電文が届いていた。主力は使えない、そう言ってきている。
NERV司令である碇ゲンドウという男に、鳥海は会った事がある。NERVが第三東京市に腰を据えた頃、当時海将補だった鳥海は統幕会議(統合幕僚会議)の海上幕僚の任にあった。碇とはそこで会った。着任の挨拶という事だったが、この男がどういう目で自分たちを見ているかは一目で分かった。その頃、まだ使徒は現れず、NERVという異様な組織が何なのかも知らなかったが、その司令が鳥海に言わせれば「ろくでもない」男だという事はすぐに理解できた。
目的は知らない。何を考えているのかも分からない。しかし彼が自分たちを役に立たない捨てゴマ、あるいは邪魔者と考えているのは確かだ。気に入らない。
「それも今日までだな」
鳥海は制帽をかぶりなおすと、戦闘指揮所へ通じるラッタルに手を掛けた。
今までは俺達はその無力さに反論できなかった。しかし今回は違う。貴様らの怪しげな機械人形など無くても、俺達の手で奴を仕留めて見せる。
この「やまと」にはその力がある。少なくとも俺はそう信じている。
あの男が命を懸けたフネじゃないか。やれるに決まっている。
1
「初めてお目に掛かります。NERV作戦部長、葛城ミサト三佐です」
29で三佐。しかも女。もちろん防大を出ている訳ではない。聞いた話、京大だかどこだかの出身だという。それで同年輩の防大クラスヘッドですら及ばない地位にいる。目の前の女は彼に敬礼を向けていたが、その動作も一向にさまになっていない、少なくとも妙高はそう思った。
NERVというものそのものに偏見を持っている彼は、この小娘に答礼してやる意味も感じなかったが、半ば義務として敬礼を返した。
「陸上自衛隊第1教導師団師団長、妙高タダシ陸将だ。よろしく頼む」
第三東京市にほど近い陸上自衛隊強羅駐屯地。作戦打ち合わせという事でここにやってきたNERVの作戦部長に、彼は何も期待していない。そもそもこの打ち合わせだって、上の方からやれと言ってきただけなのだ。NERVそのものをも彼は全く評価していなかった。少なくとも、軍事組織として優れている訳でも頼りになるわけでもない。あの何とかいうロボットだか何だかが強力なだけなのだ。
ミサトはミサトで、この生粋の職業軍人(いや、職業自衛官と言うべきか)に好意のひとかけらも無い視線を向けていた。彼女も相手の詳細なデータを持っている。防大卒、統合幕僚学校も出ているエリート。父と母も自衛官。祖父は帝国陸軍の戦車将校で、硫黄島で戦死したという。陸自の戦車戦術の権威で、今までに第1戦車教導連隊連隊長、富士学校主任教官、第7師団長と戦車屋の主流を歩み続けてきた男だ。50そこそこというこの年齢で陸自の師団長としては最も格の高い地位にいるのは、彼がいかに有能であるかという証であると同時に、陸自が今の状況を非常事態だと捉えている現れでもあるだろう。
・・・何だってあたしが、こんなじいさまの相手をしなきゃなんない訳よ。
だいたい、打ち合わせをしたいと言ってきたのは自衛隊の方なのだ。NERV本部へ乗り込ませる訳にも行かない、そう冬月副司令が考えてミサトの方から出向く羽目になったらしいが、長引いたらどうしてくれるのだろう。
・・・どうすんのよ、今夜は加持くんと・・・!
「貴女の貴重な時間を取らせても悪い。NERVの作戦部長というのは激務らしいしな」
心中の思いを見透かされた訳でも無かろうが、余りにタイミングの合った妙高の下手な皮肉にミサトははっとした。慌てて相手に視線を合わせる。
「まあ、今回は我々も本気だと承知しておいて頂ければそれでいい。こないだの戦闘で第3師団の損耗率は4割を越えた。この数字が何を意味するか、分かるかね」
「近代戦における戦闘集団が許容できる損耗率ではありません。戦術単位といては無力化されたと考えてよろしいかと」
「ふむ」
・・・なるほど。何も知らない訳ではないか。仮にも作戦部長を名乗るのだから当然なのだろうがね。
「正解だな。さすがにNERVの作戦部長、若い美女だからと言って馬鹿には出来ないという所かな」
妙高は笑って見せた。
「正直、馬鹿にしたくもなるのは分かってもらえるだろう。私のように長く自衛官をやっている者には、どうも貴女達の組織は胡散臭く見えて仕方がないし、正規の教育を受けていない作戦部長を信じろと言われても困る」
「それはお察しします」
思ったよりいい男なのかも知れない。ミサトは改めてこの男を眺めた。よく日に焼けた精悍な容貌は、年齢が信じられないほどに活力に満ちている。これで有能なのだから、若い頃はさぞかしもてた事だろう。
何より実直そうなのがいい。面と向かって不信感を表明されると、割合に悪い気はしないものだ。それよりも相手の正直さに好意を持ってしまいそうになる。しかし。
この男は自衛隊の高級幹部なのだ。
「我々は対使徒戦闘に特化した組織です。軍事組織としては、まだまだアマチュアですからそう思われて当然だと思います。よろしくご指導頂ければ」
「ただ、相手が相手なのでね。我々としても今のところ力の振るいようが無い」
妙高は自嘲気味に笑うと、表情を引き締めた。
「まあ、それで第3師団は戦力回復の為に後退させられた訳だ。替わってここの防衛を担当する事になったのが我々第1教導師団、そういう事だ」
「精鋭部隊だと存じております」
「そう言って貰えて光栄だな。まあ大時代的な機械化師団に過ぎないがね」
そう、大時代的な機械化師団。陸上自衛隊で最も強力な戦力、切り札と言ってもいい。全部隊が完全充足状態で、装備も最新なら将兵も練度の高い者を集めている。通常戦闘なら、世界のどこに出しても恥ずかしくない、有力な戦力だ。
だからと言って、使徒と戦えるのかと言えば、それは別問題だが。
・・・彼らの敵はあたしたちね。間違いないわ。
出てくる前、リツコはそう言った。ミサトもそう思う。日本政府がNERVに向けた牽制、それが今回の第1教導師団の展開ではないだろうか。
そう言えばリツコは今頃どうしているのだろう。確か・・・。
広島県、呉市。
かつての村上水軍の根城であり、瀬戸内海に覇を唱えた毛利水軍の根拠地。年を経て帝国海軍のホームポートとなり、連合艦隊の母港として世界中に名を知られた軍港都市。
横須賀が消滅し、結果として海上自衛隊の母港は伝統に回帰していた。今、ここには護衛艦隊司令部と第一護衛隊群・第二護衛隊群の司令部がある。
その沖合、かつて海軍兵学校があり、今は海上自衛隊幹部学校がある江田島を望むあたりに、航空護衛艦「ひりゅう」が停泊していた。同型艦の「そうりゅう」は現在神戸の石川島播磨重工で最終艤装工事中であり、今のところ海自唯一の正規空母だ。
「ようやく実戦配備が可能な程度まで練度が上がってきました。母艦の戦力化には下手をすると十年はかかると言いますから、これでも出来過ぎでしょうけれど」
その飛行甲板上で、相手が聞いているかそうでないかはお構いなしにその女は言った。「ひりゅう」副長、加賀シノブ一佐。今のところ、海自のWAVE(女性幹部)では最も高い地位にいる一人だ。30代で一佐だから、その昇進速度はかなり速い。
その横を無言で歩いている、彼女より一回り弱ほど若い女は、白衣の裾を潮風に翻しながら視線だけで周囲に注意を向けている。科学者として、この最新技術のかたまりのような航空母艦に興味がない訳ではない。まあ、「時代遅れの先端技術」という気がしなくはないが。
「高名な赤木博士ほどの方を、本来なら艦長が出迎えるべきなのでしょうが、あいにく艦を離れておりまして」
「いえ、お構いなく」
赤木リツコはそっけなくそう返した。第三東京市からNERVの連絡機でここまで来たのだが、それに対する自衛隊の対応はどう考えても冷淡なものだった。呉?連絡機の降りられる飛行場はありませんよ。え、「ひりゅう」に?ええ、構いませんが、事故が起きても責任は持てませんね。何せ母艦に降りるのはただの着陸とは訳が違いますからね。
パイロットは肝を冷やしながらもこの新型空母に何とか着艦に成功した。NERVで最も腕のいいパイロットを見繕っては来たのだが、これでそのざまなのだから空母の飛行機乗りというのは流石というか凄いというか。
と、甲板上の轟音がひどくなった。加賀が何か言ったようだが、まるで聞こえない。
F−4EJ改2、いわゆるスーパーJファントムのエンジン音だ。石川島播磨のターボファンエンジンと最新アビオニクスを得て生まれ変わった老兵が、今のところ海自の主力艦載機だ。現在、岩国で新艦載戦闘攻撃機三菱/スホーイVF−1のテストが進んでいるから、この進化の極限と限界に達した名機もあと数年で退役するはずだという。
リニアカタパルトの作動音がして、ファントムは一瞬で離艦した。このリニアカタパルトもこの「ひりゅう」独自の新型装備だ。
「それで、目的地までですが」
轟音が途切れて、加賀が再び言った。手元のクリップボードを確認したようだった。
「5分後にヘリを出します。「やまと」は現在室戸岬沖で公試運転中ですので、その最中になりますがよろしいですか」
「ええ」
「やまと」。
海上自衛隊が再建プロジェクトの総仕上げとして計画した新型艦だ。海自の広報資料によると、全長247メートル、満載排水量4万5千トン。「新型艦載砲」を連装4基、計8門装備し、「新型防御システム」を装備していて画期的な防御力をも発揮するという。写真を見た所、ステルス技術も導入されたスタイルはいかにも現代的だが、デザインコンセプトそのものはどう見てもかつての海上の王者「戦艦」そのものにしか見えない。
マスコミからは「時代錯誤の大艦巨砲」と叩かれ、近隣諸国からは「軍備拡大の象徴」と言われ、それでも我を通すために海自は色々と苦労したようだった。その苦労は艦の呼称「打撃護衛艦」にも現れている。空母を「航空護衛艦」と呼ぶ海自は、この艦の呼び名を色々と考えた。ただの護衛艦で済ませる訳にもいかず、かといって戦艦とは呼べない。「重護衛艦」「超大型護衛艦」ではぱっとしないし、「攻撃護衛艦」では言葉に矛盾が出る。その結果が「打撃護衛艦」なのだが、これはまあ無難なところだろうか。艦名の方は、海自のもくろみ通りに進んだ。海自初の航空護衛艦である軽空母「しょうかく」級の時にインターネットによる公募という手法を導入した彼らは「ひりゅう」級に続いて公募を掛けたのだが、結果は誰にでも予想がつくもので、彼らの望み通りでもあった。圧倒的な得票を得て一位となったのは「やまと」で、二位が「むさし」だったのだ。ちなみに三位は「みかさ」だったという。
リツコはこの新型艦に興味を持っていた。わざわざ呉まで出向いたのはその為だった。
・・・そう、あの人が作った船だものね。ただで済むものではないはずよ。
5分はすぐに過ぎた。「ひりゅう」のアイランド脇から離陸したヘリは、そのまま南に進路を取った。
「一時間ほどの飛行になります。しばらくご辛抱下さい」
押しつけられた重たいヘルメットのレシーバー越しに女性パイロットの声。ヘリコプターという乗り物がやたらにうるさいのは今も昔も変わらない。こうやってマイクとレシーバーを使わないと、機内での会話はまず不可能だ。
リツコは小さく頷くと、固い折り畳み座席に体を預けた。
彼女は、「やまと」の事実上の設計者をよく知っている。
名を大山トシロウという。大学時代の友人だ。当時から変わり者として有名だった男で、同じく彼を知っているミサトに言わせれば「すごく怪しい人。映画に出てくるようなマッドサイエンティストそのままみたい」な人物だ。しかし頭は恐ろしいほどに切れる。リツコは生まれて以来、自分より頭のいい人間には母親を含めて片手で数えるほどしか出会っていないと思っているが、明石はその数少ない一人だった。細かい分野や理論ではリツコの方が優れている事が多いのだが、物事の要所を見極める眼力や総合的判断力、独創性や直観力はほとんど人間離れしたほどの能力を持っている。
卒業後、どこだかの小さな研究室に入ったまでは掴んでいたのだが、その後行方をくらまし、何度かNERVに誘おうと探してみたのだがどうしても行方が知れなかった。その彼の名を再び見つけたのが、情報部の定期報告の中に小さく挙げられていた海自の人事記事だった。海自技術本部、本部長付補佐官(艦船基礎設計担当)。海自に、彼に目を付けるほど気の利く人物がいたのも驚きだったし、大山がこの仕事を受けた事もまた信じられなかった。
・・・何でまた、自衛隊の仕事なんかを・・・。
もし彼がいれば、E計画も人類補完計画さえも、技術的なレベルでは今よりはだいぶ容易に進んだ筈だ。多分碇司令とはソリが合わないだろうけど、彼ほどの力があれば文句は出ないに違いない。私だって、これほどの苦労はしなくて済んだろう。
「見えました。「やまと」です」
パイロットの声が彼女の意識を現実に引き戻した。
「右側の窓から見えますよ。かなり出してますね・・・40ノット近いんじゃないですか」
窓に頬を寄せるようにして覗き込むと、それは確かに視界に入ってきた。
紺碧の太平洋に純白の航跡を引きつつ、明るい灰色の軍艦が疾駆している。空母やタンカーなどと比べれば確かに小さな船なのだろうが、その禍々しいまでの威圧感、存在感、発散する力の意志のようなものは、確かにこの艦がかつて洋上に君臨した古い大海獣、海の王者の末裔である事を示していた。
リツコは半ば魅入られたようにそれを見つめている。
管理人(その他)のコメント
ケンスケ「く、くくく、くくくくくはははははっ・・・げほげほげほっ!!」
アスカ 「いーかげんそのワンパターンな始まり方、やめたら?」
ケンスケ「なんといわれようとも僕は気にしないぞ! あらたなミリタリー小説! 血沸き肉踊る使徒と人との決戦! いま、エヴァ小説はこのエデンで新たな境地を開いた!」
アスカ 「・・・・こいつ、完全にイっちゃってるわね・・・・汗」
カヲル 「ところで、だね」
アスカ 「なに?」
カヲル 「この、うえではなしをしている「やまと」というフネだが・・・・」
ケンスケ「はいはいはい、解説しましょう。「やまと」は昔同名のフネがあって、その名も「大和」。大平洋戦争時に建造された世界最大の戦艦で、45口径46センチ三連装砲塔を前部に2基、後部に1基の計9門を備え付け、最大速力27ノット、基準排水量は・・・・って、ちゃんときいてる? せっかく僕が解説してるんだからさ」
カヲル 「・・・は、はあ・・・・汗」
アスカ 「あーあ、このアホたれにくだくだと自慢話させる話をわざわざふるなんてね・・・・カヲルもしばらくは話もできないだろうな」
シンジ 「遅くなりましたけど、龍牙さん、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
アスカ 「あ、シンジ」
シンジ 「あのさ、アスカ」
アスカ 「なに?」
シンジ 「『鋼鉄のヴァルキューレ』でもそうだったけど、ここでも、リツコさんって結構でてくるんだね」
アスカ 「あったりまえじゃない。あの、あのリツコよ。マッドでサイエンティストな、あのリツコなんだからこういう場所には出てきて当然じゃない!」
シンジ 「マッドでサイエンティスト・・・・むー。なんか違うような・・・・」
アスカ 「気にしたら終わりよ」
カヲル 「ふらふらふら〜」
アスカ 「あら、やっと解放されたのね。・・・で、あいつは?」
カヲル 「満足したらしく、あっちで「ほうしょう」を見ているよ」
シンジ 「おつかれさま。まあ、ケンスケはああだけど言い奴だからさ」
カヲル 「ううう、シンジ君・・・・ありがと〜感涙」
アスカ 「ぬあっ! カヲルだけ、ず、ずるいわっ!!」
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