ミルク世紀すちゃらか(偽)エヴァンゲリオン

   

番外編で外伝なお話

  

題名「何を考えているのです、アナタ?」

  「・・気のせいだよ。ユイ」

  「だといいのですけど・・本当に・・もうしょうがないんですから」

  「そういいつつお前も十分乗り気だろう」

  「解ります?やっぱり・・」

  「顔が笑っているからな」

  「だって、シンジがいけないんですよ・・あの子、優柔不断だから」

  「そうだな・・」

  「ホント、アナタにそっくり」

  「なっ・・」

  「あら、赤くなったわ。本当に可愛いんだからアナタってば」

  「・・」

  「では皆様、つたないお話ですが、お楽しみ下さい」

  

*お読みになる前に

  

 この作品は、設定ベースとして『すちゃエヴァ』(今のところ未発表)と、『へぼレイ』として採用しています。よって、作品を読んでいて違和感のある呼称があると思いますが、あらかじめご了承ください。

著者 踊りマンボウ    

  


  

「何を考えているんだよ、父さんは・・」

 父、碇ゲンドウの命令で、シンジはとある料亭に向かっていた。

 第三新東京市郊外のやや緑が多い、静かで落ち着いている高級住宅街の端にその料亭はある。

「・・突然、あんなこというなんて」

 ぶつぶつと、シンジはアルバムのようなものを見ながら歩いていた。

 何度見直したところで新しい発見があるわけではないのだが・・。

「・・あ、ここだ」

 シンジはアルバムを閉じた。

「えっと・・名前は・・」

 シンジは念のためもう一度、料亭の確認をした。

 料亭「村瀬」という看板が出ている。父の指定した料亭に間違いない。

 からからと、戸を開けてシンジは中に入っていった。

「・・」

 シンジは玄関をくぐってすぐの自然石を埋め込んでいる黒い床に視線を奪われそうになった。

『そういえばコンクリートの床や道路ばかりを近頃見ていたような気がする』

 昔は母親の実家によく遊びに行っていたときは土の道というものをよく見ていた。川では、石の絨毯を見ていたし、泥の田んぼ道も歩いていた・・。

 そして何より、一番良く見ていたのは、他ならぬ・・彼女、幼馴染みの勝ち気な少女である。

「どなたですか?」

 ふと懐かしい思いに浸るシンジを、店の女将が出迎える。

 玄関先で考え事をしている少年を不思議に思って出てきたようだ。顔に少し疑いの表情が見て取れる。

「あ・・、はい。あの、こちらの方で予約していました碇シンジですが・・」

 シンジは父親に渡された封筒を女将に渡した。

 中には、予約券が入っている。

「・・はい、碇シンジ様ですね。承っております、こちらへどうぞ」

 女将は封筒の中身を見てシンジを鶴の間へと案内した。先程の疑いの表情は、すっかり払拭されていた。

 特別にしつらえてある別館の一室に、シンジは通された。

「では、ごゆっくり・・」

「はい・・」

 シンジは俯いて中におずおずと入っていった。

    

「おお、遅かったなシンジ。アスカ君は既に来ているぞ。れでぇを待たせるとはシンジいい度胸ではないか」

「そうですよ、アスカちゃんがせっかく着飾って着物を着ているのですから、早く見てあげなきゃ駄目ですよ」

「・・と、父さん、母さん。ふ、二人とも用事があるんじゃなかったの?」

 中に入ったシンジを迎えたのは、用事があるといってさっさと出かけてしまったはずの父ゲンドウと母ユイであった。

「甘いぞシンジ。私はお前の男としての甲斐性を見るために敢えて嘘を言って先に来ていたのだ」

 眼鏡を指で押し上げゲンドウは、冷たい目でシンジを見る。

「だが、三分と五十三秒も遅刻するとはな」

「さ、三分くらいいいじゃないか!」

 父の得もいわれぬ雰囲気に圧倒されつつもシンジは反論した。

「なんだと!・・もういい、お前には失望した。帰れ!」

「・・そうじゃないでしょう!」

 スパーン。

 すかさず、どこに隠し持っていたのか、取り出したスリッパでゲンドウの頭を叩くユイ。

「ナイスな突っ込みだ、ユイ」

 叩かれて、少しずれた眼鏡を指で直しながらゲンドウは笑みを浮かべた。

 得意の夫婦漫才に彼は満足したようだ。

「・・本当は、アスカちゃんの着物の着付けのためだったのよ。だますつもりじゃなかったんだけど・・。でもシンジ、時間に遅れてきたことは確かなんだから、アスカちゃんに謝りなさい」

「・・ごめん・・アスカ」

 ぺこぺこと平謝りするシンジ。

「・・べ、別にいいわよ・・」

 アスカはシンジの方を見ようとしないでもじもじとしている。

「・・ところで、今日は見合いって言ってたけど・・何でアスカがいるの?」

 アスカが意外と素直に許してくれたのを不思議に思いながらシンジは、周りを見渡した。

 部屋に居るのは、自分、アスカ、両親である。

『見合いと父に言われていたのだが、相手はどこに居るのだろう』

 シンジはきょろきょろと相手を捜した。

「・・」

「何でって、・・お見合いの相手だからよ」

 もじもじしていて、何も言わないアスカに代わってユイがシンジの質問に答えた。

「そう・・何だ、アスカが見合いの相手なんだ・・って、えー!

 ユイの言葉にシンジが驚きの声を上げる。

 先程シンジが見ていたアルバム、見合いファイルには、相手の写真が入っていなかった。

 それ故シンジは、見合いの相手が誰だかまったく知らされていなかった。

 ただ、プロフィールで、何となく解ってはいたのだが、まさか本当にアスカとは思っていなかったシンジは、必要以上に大袈裟に驚いていた。。

 ちなみにその見合いの写真のところには、父ゲンドウの直筆で『Now Printing』と書かれている。

「ちょっとシンジ、何ですその声は・・アスカちゃんに失礼ですよ」

「だって・・」

「ほら、ちゃんとアスカちゃんの方を見なさい!」

「うん・・」

 確かにユイの言う通り、部屋に入ってからほとんどシンジはアスカを見ていなかった。

 まさか見合いの席で、幼馴染みのアスカと顔を合わせる事になるとは思っていなかったから。

「・・あ、あまりじろじろ見ないでよ・・」

 ユイに言われて着物姿のアスカを見るシンジに、恥ずかしがるアスカ。

「・・」

 だがその時、シンジはアスカの着物姿に視線を奪われていた。彼女の言葉も聞こえないほどに。

『アスカ・・本当にアスカなの・・』

 いつも、蹴ったり殴ったり自分に暴力を振るうアスカとは思えない、落ち着きと恥じらいを持ち合わせて少女。

 シンジは、目の前のアスカが本当にアスカであるかどうか一瞬疑ってしまった。

 しっかりと着物を着て、いつものヘアバンドの代わりにくるくると丸めまとめた髪にかんざし一輪・・。

 ほんのりと恥じらいの桜色の頬。唇には赤い紅を注している。

「き、綺麗だよ・・アスカ」

「・・」

「そ、その着物・・よく似合っているし・・、まるでアスカじゃないみたいだ・・」

「・・バカシンジ・・」

『なによ・・今まで綺麗だなんて一言も言ってくれなかったくせに・・』

 今までだって、精一杯オシャレはしていたつもりだった。

 けれど、シンジの口から、綺麗だの、似合っているだの、という言葉を聞いた事はなかった。

 少し、暴力を使って・・無理矢理言わせた事はあっても、シンジ自身の意志の言葉は、今日が始めてだった。

『でも、・・まるでアスカじゃないみたいって・・ちょっとシンジ・・それって』

「本当に・・綺麗だ・・」

「・・」

 シンジの素直な感想にアスカは恥ずかしげに目を背け、頬を赤らめた。

『今更遅いわよ』

 そう思いつつも、アスカは嬉しかった。

「・・おや・・何だかいい雰囲気だねユイ」

「そうですわね、アナタ」

「では、ひとまず我々は退くとするか」

「ええ、戦略的撤退ですわね」

「そうだな・・」

 二人の様子に、いい雰囲気を察したゲンドウとユイは音を立てずに素早く退室する。

 もっとも、今の二人には、少々の雑音など気にする余裕など無かったが・・。

「・・」

「・・」

 じっとアスカを見つめるシンジ。

 もじもじと、してシンジの方をちらりちらりとしか見ないアスカ。

 奇妙な沈黙。

 間が持たない事この上ない。

 何か話さなければいけないと、互いに思っているのだが、よい言葉が見つからない。

「あの・・アスカ・・」

 それでも、シンジは努力して話し掛けようとする。

「な、何よ!・・シンジ・・」

「その・・あの・・」

 けれど、うまく言葉が出ない。

 また・・『綺麗だ』というのは馬鹿な話だし、かといって緊張しているシンジには、中々良いネタが思い付かない。

「な、なんでもない・・」

・・ナニヨ・・バカ・・イクジナシ・・

    

「な、何をしているシンジ。こうもっとアスカ君に迫って甘い言葉の一つぐらいかけられんのか!」

 別室に引き下がった(戦略的撤退)碇夫妻であるが、無論隠しカメラで二人の様子を見ていた。

「そうですわね・・せっかく二人きりなんですから、隣に座るとかすればいいのに・・」

 だが、ユイには解っていた。そういう臆病なところも含めて碇シンジなのだという事を。

「そうだ、それから、こうして、こうやって、あまつさえこうして・・それでもって、こうでだな、あれしてこれして・・それであーんなことや・・初めての勢いでうひひなことまでしてみるとか・・」

 一人、勝手なシナリオを想像してゲンドウは興奮している。

「あ、・・アナタったら・・ポッ・・」

 あまりにじれったいシンジとアスカの会話に、勝手な想像を働かせたゲンドウはついその手が動いていた。

 その手の先には、隠しカメラに同じく注目していたユイの胸があった。

「・・」

 ゲンドウは、自分の行為に一瞬、頭がスパークした。

『いかん・・。ついシンジ達に刺激されて・・いやそうではない夫婦だからいいのだ。決して痴漢行為では無い。いやそうではなくて・・』

 スパークしたゲンドウの混乱する考え。

 しばらく彼の中の時間が止まった。

『そうだ、これは夢に違いない。だからこんなことだって大丈夫なのだ!』

 何をどう結論づけたのか解らないが、ゲンドウはそう思って手を動かした。

 ☆わきわき☆

 優しくユイの胸を揉むゲンドウ。

「あん☆・・アナタったら・・こんな所で・・ううん、こんな所だから・・なの?」

 ゲンドウのアプローチにユイの目が、母親のそれから女のそれへと変わる。

「・・そうだ・・夢だから何でも・・」

 ゲンドウはユイの反応に夢だと決め付けた。

「もう・・着物だから・・よけい・・」

 ユイの目が捉えるのはゲンドウだけになった。

 シンジ達を忘れたわけではないが、大胆な夫に思わずそっちのけになっているようである。

「・・ユイ・・」

「アナタ・・」

 臨時の監視(覗き)モニターの部屋に猥雑な音が響く。

 何だか良く解らないが、張り切っているようである。

    

「・・」

「・・」

 碇夫婦が張り切っているのに対して、アスカとシンジは、また沈黙に支配されていた。

『カコーン』

 鹿おどしの音がはっきりと聞こえる。

「あの・・アスカ・・」

 シンジの三度目の試みがなされた。

 今度は、比較的言葉が落ち着いている。

「・・何?・・」

「お見合いって父さん言ってたけど・・見合いの相手が僕だって知ってたの?」

 ようやく、次に繋がる話をシンジは口にした。

「・・ううん・・知らなかった・・ここに来るまでは・・」

「え?そうなんだ」

「うん・・着物を着てみないっておばさまに言われて・・着物を着てから、実は・・っていわれたの・・」

「そうなんだ・・。僕は父さんから見合いだって言われてきたんだけれど・・」

 シンジは、父から渡されたファイルを開いた。

 写真の無い、見合いファイル。

「写真が無い・・」

 アスカは自分のプロフィールの所でしっかりとスリーサイズが書かれているのに気付いたが、敢えて口にはしなかった。

 誰が調べたか、訊くまでもない。

 筆跡から見て、シンジの父ゲンドウに間違いないのだから。

『死』

 アスカは頭の中にそう描いてからそれを飲み込んだ。

 腹は立つがその問題は後だ。

『とにかく落ち着いて・・』

「うん・・。だから本当はすごく悩んだんだ・・。行こうか、やめようか」

「そう・・じゃあさ・・今は・・?」

「え?・・」

「後悔してる?」

「いっ、あの・・その・・」

 アスカの質問にシンジが戸惑った。

 アスカの着物姿は確かに綺麗でその点については良かったと思っている。

 だが、問題は見合いということである。

 十四歳で見合いだなんて・・何か違う気がする。少なくともシンジの中では違和感でしかない。

 それで、いつものように言葉をしどろもどろさせながら考える時間を稼いでいるのだ。

「・・もう、嘘でも後悔してないって言えばいいのに・・」

 結局いつもと変わらなくなったシンジにアスカが溜め息を吐く。

「後悔してない・・」

 鸚鵡返しに言うシンジ。

「今更言っても遅いの!・・ホントバカナンダカラ・・」

『でも、好きなんだよね』

 気の利かないシンジ。

 特別何かあるって訳じゃないけど・・気がついたら好きになってた。

 周りの皆も不思議がっているけど・・、一番不思議がっているのは私。

 何でだろう。

 カッコイイ訳でも、お金持ちでも、話し上手でもないけど・・好きなのよね。

 でも、決して幼馴染みということで、ではない。

『理屈抜きなのね・・好きってことは』

 今の自分の気持ちに正直にいること、それでいいとアスカは思っている。

「・・」

 アスカはシンジをじっと見つめた。

 でも、もう少ししっかりして欲しいと思う事もある。幼馴染みとして、あまりに情けなさすぎる。

 特に今日は、着物を着ていたりして普段の二人ではないのだから。

「あの・・アスカ、ごめん」

 本当にいつもと変わらないシンジ。

「・・いつもそうやって謝ってばっかり・・」

「え?」

「何でもないわよ・・ふふ・・」

「・・うん」

 シンジは頷いた。

「・・」

 そしてまた沈黙が支配する。

『せっかく二人きりなんだから・・もう少し大胆になってよね・・』

 着慣れない着物を誉めてくれたのはいいのだけれど・・。

「・・シンジ」

 結局、先程までのもじもじとした態度が移ったかのような様子のシンジに、アスカは自分からアプローチすることにした。

「な、何?あ、アスカ」

「キス・・しようか・・?」

 アスカは自分なりに精一杯色っぽい声でそう言った。

 初めて着た着物に触発されて、アスカはいつもより大胆になっていた。

 そんなアスカに、シンジは動揺の色を隠せない。

「え・・な、・・そのき、き、キスぅー!

「・・そうよ・・キ・ス☆・・しよう」

「な、何でだよ・・だってアスカ・・する理由なんて・・」

「・・バカ!」

 アスカが、突然切れた。

 パンッと、頬を叩く音が部屋に響いた。

「もういいわ!」

 アスカは、呆然とするシンジを部屋に残して出ていった。

『何よ・・シンジったら・・馬鹿!』

 出て行くアスカの目に涙がこぼれているのにシンジは気付かなかった。

「何なんだよ・・アスカ・・」

 呆然としてシンジは頬をさすっている。

 何故アスカが怒って出ていったのか、まったく見当がつかないようである。

「シンジ!何だ今の態度は!」

「と、父さん・・」

 と、アスカと入れ替わるように部屋にゲンドウが現れた。

「せっかくのアスカ君のアプローチを・・情けない・・」

「・・父さん・・チャック開いてる

「・・おお、これはいかん・・。いやそうではない!そうではなくて、いかんぞシンジ!」

 シンジに着衣の乱れを指摘されて、それを慌てて直しながらゲンドウはシンジに怒った。

 だが、ズボンのベルトをかちゃかちゃとさせながらの注意など、あまりに説得力が無さすぎる。

「・・」

 それだけではない。

 首筋には、口紅の痕がついているし、胸元には、爪で引っかいた痕もある。

 衣服全体は、何か激しい運動をしたように乱れているし、何か怪しい。

「何してたの、父さん」

 不信感を露にシンジは問いただす。

「・・ふ、秘密だ

 いつもの調子で言ってのけるゲンドウだが、冷や汗が流れていた。

「・・」

 じーっ、と不信の目を向けるシンジ。

「そ、それより、アスカ君との見合いが駄目なら次だ!」

 シンジの質問にゲンドウは答えないでシンジを次の部屋に移動させる。

「・・いつも強引なんだから・・」

 シンジは、強引な父にしぶしぶ従って次の部屋に移動する。

「・・ここだ」

 そういってゲンドウは障子戸を開けた。

「・・」

「加持君たら・・こんなところで・・アンっ・・」

「でも君の唇は、嫌っていってない・・」

 部屋の中では、葛城ミサトと加持リョウジが妖しく絡み合っている。

「だって、誰かきたら・・」

「見合いの事か?大丈夫さ、シンジ君はきっとアスカと上手くいってるさ」

「でも・・碇支部長が・・」

「大丈夫・・」

 加持は、ミサトの唇を塞ごうとする。

 だが、拒否の意志ではないが、手でそれを押しとどめるミサト。

「そこにいるんだけど・・」

 開いた戸からの光で、ミサトはゲンドウの存在に気付いた。

「・・」

「・・」

 振り向いた加持とゲンドウの目が合う。

 バタン。

 ゲンドウは部屋の戸を閉めた。

「父さん・・今のはミサト先生?」

「・・誤認だ」

「そんなはずないよ、だって・・」

「忘れろ・・。この部屋は間違いだ。次の部屋はこっちだ」

「何だか、激しい物音が・・」

 シンジの言う通り、戸が閉まった後のその部屋は騒がしかった。

「気のせいだ」

「・・」

 父の言いきり様にシンジは黙り込んだ。

『やっぱりミサト先生なんだ』

 口調が厳しくなればなるほど、それはゲンドウの激しい動揺を表わしていることを、シンジは知っていた。

「・・それにしても・・もう一人居た人誰なんだろう・・」

 ミサトと絡み合っていたもう一人の人物を考えていたが、結局、思い出せなかった。

『トウジとか学校のみんな、がっかりするだろうな。ミサト先生に恋人がいたなんて』

 けれど、どこか事態の認識の焦点がずれていた。が、ゲンドウにとってはその方が良かった。

「今度こそ、本当だ」

 ゲンドウは仕切り直しとばかりに障子戸を開けた。

「・・」

「あん・・先輩」

「ふふ・・マ〜ヤ〜ね〜こ、にゃん☆

 部屋の中には、伊吹マヤ及び、赤木リツコが、楽しそうにじゃれあっていた。

「・・」

 バタッ。

 ゲンドウは、瞬速の勢いで、戸を閉めた。

 そして、落ち着くために眼鏡を指で押し上げる。

「・・ふ、また間違えたようだな」

「・・」

 必死に平静を取り繕うゲンドウに、シンジは何も言わなかった。

「で、次はどこなの?」

「こっちだ・・」

「今度こそ、大丈夫だよね・・」

「ふ、シナリオ通りだ。問題はない」

 そう言って、ゲンドウは次の部屋の戸を開けた。

「あ、シンちゃんだ。わ〜い、わ〜い。クルクル〜」

 中にいた少女は、ゲンドウが戸を開けるなりくるくると喜びの踊りを踊り始めた。

「あ、綾波・・なの?何だか・・別人みたい・・だけど」

 今度は、まともなのかと部屋に入ったシンジだが、綾波レイの踊りに呆然とする。

「シンちゃんとお見合い〜。でも、お見合いて何?あやや?」

「アンタ、バカー!チェぃスト〜っぉぉぉぉぉぉぉ!」

 ぴたりと止まったレイの頭に、突然乱入してきた少女が斧を振り下ろした。

「あ、アスカ?」

 服装こそ違うが、確かにそれはアスカだった。

 シンジは、自分の目を疑った。

 そのアスカであるはずの少女が、綾波らしき少女を斧で真っ二つにしたのだ。

 何故か血は出ていないが、一刀両断、見事なものである。

「アスカ!何やってんだよ!」

 だが、シンジは次の瞬間、卒倒しそうなほど驚いた。

 斧を持ったアスカを諌めたのは、自分ではない碇シンジだったのだ。

「綾波!大丈夫?」

 だが、その碇シンジ(以降シンちゃん)は、真っ二つになったレイ(以降へぼレイ)に意外なほど落ち着いて話し掛けた。

『普通、二つに分かれたら死んでると思うんだけど・・』

 これは夢だと思いつつ、シンジは目の前の光景に関して考えていた。

 あまりに、非現実的な展開にかえって冷静になっているようだ。

「あ、あんまり大丈夫じゃ・・ないの・・」

 へぼレイは、二つになりながらも喋っていた。

 一体どこから声を出しているのだろうか、謎である。

「それだけ口が動くなら、あと二、三回切っても平気そうね」

 そのへぼレイをアスカは冷たく見下す。冗談を言っている目ではない。

 本気でやりかねない、とシンジは思った。

 担いだ斧の刃が、鈍く光りシンジを不安に陥れる。

「アスカ!」

 だがシンちゃんがそれをすかさず諌める。

「・・解ったわよ・・」

 しぶしぶ、そのアスカは承知する。

「ううっ・・」

「取りあえず、ご飯粒でくっつけておくから、後でしっかりとリツコさんにくっつけてもらってね」

「うん・・シンちゃん・・優しい・・ズズっ・・」

「ほら、鼻かんで・・」

「・・うそだろう・・」

『ご、ご飯粒でくっつくものなの?あれって・・』

 丹念に、切り口にお弁当のご飯粒をつけるシンちゃんを見て、シンジはこれは夢だと確信した。

 こんなこと、現実であるはずはない。

「あ、ありがとう。シンちゃん・・あや?でもなんかへんなのだけど・・」

「ほら、もうシンジいいでしょ。行くわよ!」

 へぼレイに構うシンジの手を引くアスカ。かなり不機嫌なようで、声にもそれが表れている。

「あ、アスカ!ごめんね綾波・・」

「そんな奴に謝る事はないわよ。ほら早く!」

 体の変調を訴えるへぼレイを無視してアスカはシンちゃんの手を引いてどこかに消える。

「あ、まって、シンちゃん・・」

 シンちゃんによって応急処置のなされたへぼレイは、だがその意志とは反対に、二人を追いかけることが出来なかった。

「あう、まえにすすめない・・」

 どこで、どう間違えたのか、へぼレイの体はくっついてはいたのだが、両方とも右半身だった。

 けれど、接着は見事に行われている。

 それがどのような結果を生むかというと・・。前に進もうとするとその場で回転してしまうのだ。

 まるで、左腕同士で腕を組んで(当然、向きは逆)、楽しくくるくると回転するダンスカップルのような状態になっているのだ。

「ま、まってよ。シンちゃん・・うぅ・・」

 くるくると回りつつも少しずつへぼレイは移動してどこかへ消えていった。

 部屋には、呆然とする親子が残された。

「・・まずいぞ・・」

 部屋に入ってから初めてゲンドウが口をきいた。

「どうしたの父さん・・」

「シンジ、今の光景は忘れろ・・いいな・・」

「え、・・どういうこと・・」

「作者め!いくら『すちゃらか』だからといって、やっていい事と悪い事はあるということを忘れている」

「?」

「・・いいか、今のはインターネットの『月観レイ』というところの綾波へぼレイだ!」

「と、父さん・・何を言っているの?」

「お前も見ただろう。もう一人のお前を・・もう一つの世界と繋げるなどとは・・正気のさたではないぞ!」

「・・解らないよ・・話が見えてこないよ・・」

「とにかく、忘れろ・・。それが身のためだ」

『場合によっては・・この文章は削除だな・・。完全にシナリオ通りにはいかないということか・・』

 ゲンドウはあせりつつシンジを次の部屋へと連れていった。

     

「ふう・・あんなに激しいのなんて久しぶりだったわ・・」

 ユイは料亭の庭でほてった体を冷ましていた。

「ホント・・あの人ったら・・ポッ・・」

 先程の行為を思い出して顔を赤くするユイ。

 まさか、息子の見合いに付き添って女に戻るとは思っていなかった。

 近頃は、ずっと母親役でしかなかったから。

 それが、不満というわけではなかったのだが・・それでも体は正直だった。

「私も・・かなり・・だったし・・お互い様かな・・」

 ふふっ、と艶っぽい笑みを浮かべるユイ。

「あれ?アスカちゃん・・」

 ユイは、失意のアスカを見つけた。ぼんやりと庭を散策している。

「アスカちゃん・・」

 そのあまりの落ち込み様に、ユイは声を掛けないでは居られず、アスカを呼び止める。

 アスカは、ユイの呼びかけに涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。

「・・おばさま・・私・・」

「・・ほら、アスカちゃんは悪くないから・・」

「私・・ヒック・・グスッ・・」

 泣きじゃくるアスカを受け止めるユイ。

 アスカの肩は震えていた。

「嫌われちゃった・・あんなこと・・言うなんて・・」

「ううん、違うわ・・。シンジが悪いのよ。女の子に恥をかかせるなんて」

「でも・・」

「シンジも突然言われて、戸惑っているだけよ。ほら・・涙、拭いて・・」

「はい・・」

「でも・・お見合いっていうのは、やっぱり早かったわね・・。私は、アスカちゃんの着物姿を見たかったから賛成したんですけどね・・」

「・・」

「ほら、行きましょう。シンジに謝らせなきゃ」

「はい・・」

 アスカは頷いて、受け取ったハンカチで涙を拭いた。

 泣き顔でシンジと顔を合わすなんて出来ない。

    

「ほら、次だ!シンジ」

「・・もういいよ、父さん」

「何だと!せっかく私が選りすぐりの美女を集めておいたというのに何だその言い草は!」

「何のためにこんなことするんだよ・・」

「すべては人類補完計画のためだ・・いや違う。な・ん・と・な・く・だ!

「・・」

 ふんぞり返って答えるゲンドウに、シンジは殺意を覚えた。

「シンジ、一言言ってやろう。すべての原因はお前にある。お前が気持ちをハッキリさせないから私は仕方なく、見合いという手段に出たのだ」

「嘘だ!だって父さん自分が一番楽しんでいるじゃないか!」

「ふっ・・何故この父の気持ちを解ろうとしない!愚か者め」

「解らないよ!父さんの言うことなんか!解るもんか!」

「だからお前はアホなのだ!」

「あら、支部長。このような所でお会いするとは光栄ですわ。どうです?一戦交えますか?」

 親子で言い争っている声に、部屋から出てきた女性は、ゲンドウの顔を見るなり微笑んだ。

 本当は、文句を言うつもりだったのだが、まさかゲンドウであるとは思わなかったようだ。

 女性の名は赤木ナオコ、赤木リツコの母親である。

 先程のユイと同じ、女の目つきでゲンドウを見ている。

「ナオコ君か・・そうだな・・いやしかし」

 ゲンドウはユイと一緒であることを思い出して断ろうとした。だが、すでに遅かった。

「あ〜な〜た〜!」

 アスカを連れたユイの目が光る。いつの間にか二人がその場に居合わせていた。

「ぬうっ・・」

「ふふ、ユイさん・・」

 ユイとナオコの間に、激しい視線の応酬が繰り広げられる。

「ま、まずい・・今のうちに逃げた方がいいや・・」

 ゲンドウ達の激しい嵐に巻き込まれまいとして、シンジはその場からそそくさと離れた。

「ほら・・アスカ・・」

 途中、話の展開についていけないでユイの傍らで立っているアスカの手を引いていく。

「あ、・・シンジ・・」

 か細い声で、アスカは呟いた。

 決して泣き顔は見せまいと思っていたのに・・、自然に涙が溢れてきている。

 そう・・、『スキ』なんだ、やっぱり。

 繋がれた手から感じる温かさ。

 うん・・シンジなんだ・・これが・・。

「シンジぃ!」

「わ、アスカっ!」

 泣き顔をそのままに、アスカはシンジに抱きついた。

 慌てて抱きとめるシンジ。

「シンジ・・シンジ・・シンジ・・」

 言葉に出来ない想いに駆られてアスカは何度も名を呼ぶ。

 溜まっていた、隠していた想いをすべて吐き出すように、何度も、何度も呼ぶ。

「・・」

 シンジはそんなアスカの気持ちに切なくなる。

 身近に・・こんなにも自分を想ってくれる幼馴染みがいたのに、敢えて避けていた。

 それは、幼馴染みという枠に逃げたくないという、ひねくれた気持ち。

 本当は、自分だって・・『スキ』なんだ。

 今だったら言える。

「アスカ・・好きだよ」

 長い間・・逆に幼馴染みだから言えなかった言葉は、意外にすんなりと出た。

「え?」

 突然のシンジの告白に意表を突かれて顔を上げるアスカ。

「・・んっ!」

 そのアスカに更にシンジは意表を突いてキスをした。

 アスカの目が、驚きで丸くなり・・閉じられた。

『ドーン』

 そんな二人の背後で、まるで祝砲のような激しい爆音がした。

 それは、ユイとナオコとゲンドウの争いの音なのだが、二人にとっては祝砲以外の何物でもなかった。

「行こう・・アスカ」

「うん・・」

 長い、互いに初めてのキスの後、すっかりわだかまりの解けた二人は、しっかりと手を繋いで家路へとついた。

 この後、二人はめでたく恋人として付き合い、結婚へと至るのだが、それはまた別のお話(皆様の心の中でシナリオを綴って下さい)。

  

 ☆HappyEND☆

  

追記

 料亭は、三人の争いで粉々に破壊されたそうである。合掌・・。

  

ミルク世紀すちゃらか(偽)エヴァンゲリオン

番外編で外伝なお話

題名「シンジのお見合い話」

The End    


作者の呟き(後書き)

 まずは、この物語を読んで下さった貴方に感謝!

 最初の設定に書いたように、この物語の設定ベースは『すちゃエヴァ』という、まだ発表予定の立っていない自分のエヴァ学園小説をもとにしています。

 といっても、せいぜい『碇支部長』とかだけですけど。

 本当は、『すちゃエヴァ』のオリジナルキャラとか出そうと思ったのですが、・・なにぶんにも未発表ですからねぇ。

 その関係上、綾波レイは出てきません。

 綾波へぼレイは出てきますけど・・。

 何故こんな物語を書いたのか?

 とにかく、アスカのハッピーエンドの話を書きたかった。

 というか、ほかの話でアスカがメインでないので、一つは書かなければと思っていたのです。

 それだけ(をいをい)。

 ちなみに、ほかの話は長くて・・公開の目処がたっていなくて・・。

 次に、何処でいつお目にかかれるか解りませんが、もし私の作品にであった時は、温かい目で見てやって下さい。  

1996/12/19    


踊りマンボウさんへのかんそうはこ・ち・ら♪   


管理者(以外)のコメント

アスカ「あれ? 今日はあのへっぽこ使徒はいないの?」

シンジ「あ、カヲル君なら、もう一本の投稿の方にかかりっきりらしくてこっちにはでて来れないんだって。伝言を預かってるから、読むね」

 シンジ君、そっちはどうでもいいから、はやくこっちにおいで♪  カヲル

アスカ「・・・・なにか、いやな予感がするわね・・・・」

シンジ「・・・・そ、それはともかく・・・・踊りマンボウさん、分譲住宅へのご入居、ありがとうございます」

アスカ「しかし・・・・アタシの着物姿かぁ・・・・シンジ、見てみたい?」

シンジ「え、え、えと、その、あの・・・・う、うん、見て、みたいな」

アスカ「・・・・その直前のどもりが何か引っかかるのよね・・・・(ぎろり)」

シンジ「え、そ、そ、そんなことはないよ」

アスカ「じゃ、着物着たアタシとお見合いする?」

シンジ「え、え、えええええええ!? そんな、ぼ、僕たちまだ14歳だし、ええとその、なんというか、クラスのみんなが何て言うか、それそれに、その、あの・・・・」

アスカ「(・・・・ホント、シンジってからかいがいがあるわね・・・・うぷぷぷ)さあて、シンジがパニクっているうちにカヲルがかかりっきりっていう噂の話でも見に行くとしますか」


作者のコメント

 踊りマンボスさん、御投稿ありがとうございます。しかしまあ、アスカがずいぶんとおしとやかに感じたのは気のせいでしょうかね。多分気のせいではないと思います(笑)。途中にはギャグも織り交ぜてありますし、なかなか楽しめる一品に仕上がっていますね。いやー、おもしろいっす。ホントに、ありがとうございますです。


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