University of 3rd Tokyo

episode 6

「僕が決めることだから、自分で決める。」

「けど…教授から許可は取ってるのよ?アタシと離ればなれになってもいいって言うの?」

3回生から4回生へのステップ…所属研究室の決定。

アスカとシンジは無事にそこまでの道のりをこなしてきた。学生として、恋人同士として。

「いい加減にしてよ…。どうして僕の進路をアスカが決めるのさ、そりゃあアスカの方が僕よりよっぽど

優秀だってのは分かるよ。でも、やりたいことが違うんだよ、アスカと僕とじゃあね。僕は遺伝子を触りたくない。

アスカは遺伝子に興味があるんだろ?」

「そんなこと言っても、あんた就職まで考えてないでしょう?天然物化学なんて…」

恋人として付き合い始めて約三年。アスカは初めてシンジと真っ向から対立することに動揺していた。

「だから…ふぅ、なんで僕が常にアスカと一緒にいなけりゃいけないんだよ。そんなに僕って信用無いの?」

「そうじゃない…一緒にいたいだけじゃない。」

常にアスカに対して譲歩の姿勢を崩さなかったシンジをアスカは当たり前のこととし過ぎていた。

「分かったわよ、アタシが希望を変えればすむことだわ。」

「やめてよ…同じ家に住んでるんだよ?まさか働くところまで一緒に、なんて考えてないだろうね。」

シンジは明らかに不愉快といった顔でアスカを睨む。

「もう、そんなことは止めよう…アスカが天然物に来るって言うなら僕は行かない。」

「どうして?もうアタシといるのがイヤになったの?」

「アスカらしくないことを言うなあ、いい?僕は自分で決めたいんだよ、ただ、それだけ。

アスカが僕のことを思ってくれるのはありがたいけど、それじゃあ何時まで経っても僕は成長しないよ。」

アスカはそのシンジの言葉に何も言えなかった。

そう…そして、後にそのことが大学最後の年を波乱に満ちた一年へと導いていった。

 

「碇君、これからよろしくね。」

「うん。僕の方こそよろしく、綾波。」

天然物化学研究室の一室で、シンジがレイと握手していた頃、アスカは松代の第二東京大学農学部の構内を

歩いていた。

「…アタシ、なんでここにいるんだろ…」

アスカは応用生物学の研究室に所属となった。

そこで与えられたテーマは…望みもしない第二東京大との共同研究だった。

無論、教授はアスカに最も重要なテーマを与えたのだが…当の本人は浮かない顔で、なんとか了承した。

しかし、問題はシンジである。事もあろうか、シンジのいる天然物化学研究室にはあの綾波レイもいる。

最も、あのカラオケ以降、レイは目立った動きもなく、アスカとも実に自然に接していた。

シンジに対しても、まるでただの友人としてしか思えない位、ごく普通のスタンスを崩そうとはしなかった。

3年間、そうだった。あの宣戦布告は何だったのか、アスカは首を傾げていた時もあったが…

此処に来て突然、アスカはあの日を思い起こしていた。

「…ったく…バカシンジ…」

ぶつぶつと呟きながら目的の応用生物研に入ろうとした時…

「ふんふんふんふんふんふんふんふんふふふふふんふふん…」

中から鼻歌が聞こえてきた。

「…第九…?鼻歌で歌うモンじゃないような…」

プシュっ…

「こんにちはー、第三東京大の…ひっ!」

「歌はいいね。」

ドアを開けたら目の前に銀髪の青年が微笑みを湛えて立っていた。しかも意味不明の言葉付き。

「は…はあ…」

流石のアスカもあっけにとられた。青年は続ける。

「歌は心を潤してくれる…リリンの文化の極みだよ…そう思わないかい?惣流アスカ君。」

「あれ?アタシまだ名乗ってないのに…どうしてアタシの名前を?」

「知らない物はないさ…失礼だが、君はもっと自分の立場を知るべきだね。」

「あの…あなたは?」

「僕かい?僕はカヲル、渚カヲル。君と共同研究を受け持つ、仕組まれた院生さ。」

-何コイツ?ばっかじゃないの?…って、第二東大の院生だもんね…ってことは…キ印か…-

アスカがそう彼…カヲルを認識しようとすると、カヲルはフッと笑って頭をぽりぽり掻いた。

「ってね。済まない、最近リバイバルで見たアニメにちょっとかぶれてね。深い意味はないよ。驚いたかい?」

「はあ…ちょっと。」

「とは言っても言ってた事は本当だけどね。渚です。よろしく、惣流君。」

「ええ、よろしく、渚さん。」

アスカは後頭部に汗をかきながら、差し出されたカヲルの右手と握手していた。

 

さて、そしてシンジの方は…丸山(^^;)教授に呼ばれてレイと共にいる。

「…と言うことだ。碇君と綾波君は二人でこのテーマを担当して欲しい。いいかね?」

「はい。」

「はい、解りました、丸山教授。」

真剣な顔のシンジと頬がゆるんだレイ。そんな二人を見て丸山はフッと微笑む。

「よろしく頼むよ…ああ、君たちはここの隣の第二研究室を使うといい。その方が何かと都合がいいだろうしな。」

その第二研究室は教授の部屋と助教授の部屋に挟まれた格好になっている。分析機器が一通りそろっており、

シンジ達のテーマには丁度良い…が、いかんせん手狭で二人で満室状態(実験台が)になる。

「はい…でも…院生の…」

シンジが腑に落ちない顔で丸山に尋ねる。

「ああ、日向君のことかね?彼には第一研究室の学生の面倒を見て貰う事になってる。」

「そうですか…良かった。」

ホッとした表情を浮かべたのはレイであった。また微笑む丸山。

「こちらも段取りは抜かり無いよ、碇君。さて、今日はもういい、綾波君と食事でもしてくるといい。」

「あ、はい。では、失礼します。」

「…失礼します。

丸山の気遣いが分かっているのかいないのか、シンジはケロッと挨拶する。レイは少し恥ずかしそうに

出ていった。それを微笑みながら見送る丸山だが…

「はて…そういえば碇君は惣流君と恋仲と聞いたことが…まあ、いいか。」

 

アスカとシンジの四回生生活は、こんな形で始まった。

何事もなく、ただ自分達の課題をこなす日々。

就職活動。

最初の三月は慌ただしくも平和に過ぎ去っていった。

そして時は7月の初旬。

 

「おはようございます。」

「やあ惣流くん、三日ぶりだね。おはよう。どうだい、就職の方は?」

カヲルは相棒ににっこりと笑いかけると、目下の課題の進行具合を尋ねる。

「ええ、決まりました。」

「そうかい、それはいいことだね。」

「ええ。これでしばらくはこちらに専念出来ます。」

「いいのかい?君には大切な人がいるんだろう?彼を放ったらかしにしておくのは、良くないと思うよ。」

ニヤッと笑みの種類を変え、カヲルはアスカの反応を伺う。

「それはまあ、そうですけど。でもいいんですよ。」

特に何もないようにケロッとしているアスカ。

「…どうしてそんなことが言えるんだい?」

「信じてますから。」

「…幸福者だね、シンジ君とやらは。」

肩をすくめてそう言うカヲルに、アスカは会心の笑みを浮かべる。

「そりゃあ、もう。なんせアタシの彼ですもの。」

 

レイはビーカーの中に落ちていく濾液を黙って見つめていた。

「おはよう、綾波。」

ビーカーに映っているレイの顔に、うっすらと紅がかかる。

「おはよう、碇君。」

「悪かったね、実験をまかせっきりで。でも、もう大丈夫だよ。」

「え、じゃあ…」

にっこり笑ってシンジが答える。

「決まったんだ、就職。」

「おめでとう。良かった、ちょっと安心したわ。」

はにかむ様な表情を浮かべるレイに、シンジは苦笑する。

「綾波は決めるの早かったしね。心配掛ける程手間取ったかな?」

「え?あ、あのね、そうじゃないの…」

「?」

「やっと実験出来る様になったなって…」

「ごめん…」

「あ、そ、そんなつもりじゃないの…」

「え?」

「碇君、実験好きだし…その…早く実験に専念出来るといいなって…」

決まり悪そうにもじもじしているレイを見ると、シンジは何故かほっとする。

「ありがとう…心配してくれてたんだ。」

そのシンジの言葉に、レイは少し嬉しそうに微笑むとぽつりと呟いた。

「ううん、私が勝手にしてるだけだし…碇君の将来も気になるから…」

「やっぱり、僕って頼りないのかな?綾波にまで将来の心配、掛けてるみたいだしね。」

苦笑混じりのシンジの言葉。レイはふうと溜息をつく。

「…鈍感…」

「え?」

「何でもないわ。さって、実験の続きをしましょ、碇君。」

レイはクスッと笑うとシンジの白衣をロッカーから取り出しに行く。

そして白衣をさっと広げると、襟の部分を持ち、シンジに向かってニッコリ笑う。

「どうぞ、お召しに。」

「いいよ、自分で着るから。」

「いいの、一度こんなこと、してみたかったから。はい。」

「分かったよ、ありがとう。」

シンジはそう言って白衣に袖を通す。そんなシンジの背中を見ながら、レイは嬉しそうに微笑む。

「碇君て、結構背中、広いんだね。」

「そうかな…自分じゃよく分からないよ。」

「やっぱり男の人なんだって感じ、する。」

ボタンを留めながら振り返るシンジ。

「そりゃあ、僕だってね。」

 

アスカはもはやレイにその気はない、と踏んでいた。

シンジから事細かにレイの挙動などを聞いていたからだ。

四回生になって三ヶ月、シンジの報告からは全く動きが見られない様に見受けられたからである。

たまにシンジの研究室を覗いてみても、仕事上の接触以上の感覚を(無論、アスカから見てである)

感じられなかった。

そうなると、アスカは自分のテーマに急速に興味が移る。

十分な魅力と高い難易度を誇るテーマ。

アスカとシンジが二人で過ごす時間は週末のみ、となっていた。

 

「くしゅん!」

レイが可愛らしいくしゃみを一つ。

「風邪かなぁ…」

「夏風邪って長引くからね。大丈夫?」

分液漏斗を振る手を止め、シンジがレイの顔をのぞき込む。

「…だ、大丈夫…だと…思う…」

心配そうなシンジの顔は、レイに取って想いを再確認する時。

「でも、顔が少し赤いよ。熱、あるんじゃない?」

そう言ってシンジはレイの額に手を当てる。また、少し顔が赤くなるレイ。

「…綾波って体温高い方じゃないよね…ちょっと熱があるかも。」

「え…ん…そう…かな…」

レイはぽーっとしてきた。それは風邪のせいなのか、シンジの手の温もりのせいか。

「今日はもう帰って大人しく寝てなよ。」

「…うん…でも…」

レイはふと目を伏せる。

「私…家に帰っても一人でしょ?だから…寂しいし…」

レイの頭は突然覚醒する。

チャンス。

「冷蔵庫にもなんにもないし、薬も買って帰らないと…」

どことなく過去のレイを彷彿とさせる雰囲気に、シンジは少し、慌てる。

「い、いいよ、僕が買って持ってくよ。食べ物だっているし…」

「でも…」

レイは遠慮がちな眼でちらっとシンジを見る。

「悪いし、いいよ。」

レイは大学に入ってからの3年間、ずっとシンジを見てきた。

-碇君のパターンだと、ちょっと戸惑いながら『そんなことないよ、綾波。』って来る筈…-

「そんなことないよ、綾波。」

ドンピシャのシンジの言葉に、レイは心の中で狂喜する。

「後は僕が片付けるから、先に帰りなよ。少しくらいなら看病もするからさ。」

「…いいの?…くしゅん!」

絶妙のタイミングでのくしゃみ。これはシナリオにはない、イレギュラーな効果。

「ほら…早くしなよ。こじらせると厄介だしね。」

少しおろおろしているシンジを見ると、レイは少し気持ちが安らいでいく。

「うん…じゃあお言葉に甘える…」

「キリのいいとこまであと小一時間位かかるけど、それから買い物してすぐ行くよ。」

レイは再び分液漏斗を振り始めるシンジをチラッと横目で確認すると、ロッカーに鞄を取りに行く。

そして鞄の中から―五年前に作った―部屋の合い鍵をシンジに渡す。

「私、多分寝てるから…これで入って来ていいよ。」

「うん。」

シンジはその鍵に込められた想いに気付くはずもない。

「あの、来てくれたら起こしてね。そのまま帰っちゃ…」

「分かったよ、ご飯食べて薬を飲まなきゃね。」

優しい笑みを浮かべてそう言うシンジ。レイは少しがっかりしながらも、思い通りの展開に気を取り直す。

「…うん。じゃ、お願いね。」

 

つづくんだよ、これが。


あとがき

 

お待たせしました、第二部のスタートです。

言い訳になりますが、最近公私共に忙しいのでちょっと時間が掛かってますが…お許しを。

励ましのメールもいくらか頂き、非常に励みになってます。

ありがとうございます、ぺこぺこ。

さて、成り行きながらついにシンジ奪取にかかったレイ。

ニブニブ優柔不断のシンジの運命は?

レイは朦朧とした意識の中で、シンジに想いを伝える。

そのことに気付いたアスカはレイの企みを阻止出来るのか。

次回もお楽しみに。

って、いるのかな?そんな奇特な人。

ついしん。

各エピソードにサブタイトルを付けた方がいいですか?

その方が雰囲気が出るかなって思ってるんですが…

この事を含めてご意見、ご希望(アスカを幸せにしろ!とか)、いちゃモンなど、メールをお願いします。



Rossignol高橋さんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「このこのこのこのこのっ!!」

カヲル「ふんふんふん〜アスカ君、なにやってんだい・・・・って、なにかな、そのわら人形・・・・気のせいか、誰かに似ているような・・・・・」

アスカ「丸山の裏切り者! アタシを見限ってレイに乗り換えたの!!」

カヲル「はあ?」

アスカ「なによ上の丸山教授って言うのは!! コメントで散々殴られたの根に持ってアタシにあんな形でねちねちねちねちと復讐して!!」

カヲル「(いちおう自覚はあるようだな・・・・)アスカ君、勘違いしちゃいかんよ。あの丸山教授とここの逃げた作者は別人なのさ」

アスカ「そんな嘘をついても無だよ!」

カヲル「だって、君だって常々言ってるじゃないか。303号室のベッドで寝ているのはアタシであってアタシじゃない、って」

アスカ「うぐっ・・・・」

カヲル「そういう意味で言えば、彼は丸山であって丸山でないのさ・・・・高橋さんがそうだと思っていてもね(にやり)」

アスカ「・・・だとしても!! やはり丸山ゆるすまじ!!」

カヲル「高橋さんは?」

アスカ「うーん・・・・この先悔い改めれば許す!」

カヲル「あ、あはははっ・・・・汗」


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