University of 3rd Tokyo
episode 5
「ねえ、シンジ…」
ゲームセンターからみんなで夕食を食べに行き、家に帰った直後。
「何?」
「あと二日だね、こうして二人でいられるの…」
そう言うアスカは心なしか寂しそうに見える。
「仕方ないよ。」
「それは分かってるのよ。」
二人はリビングに入ると並んでソファーに座る。
「まあ、父さんと母さんが帰ってくるだけで、別れる訳じゃないんだしさ。」
「やな言い方。もう少し言葉を選びなさいよ。」
少し頬を膨らませてアスカがシンジの口を抓る。
「うーーー、……痛い。」
「デリカシー欠乏症は相変わらずね、まったく。」
抓られたところをさすっているシンジの真ん前にはアスカの顔。
「お詫びにキスして。」
「…はい。」
シンジは少し困った様に微笑むと、アスカの口唇に軽くキスする。
アスカは物足りないといった顔をしたが、微笑むシンジを見ると安心したように
寄り添う。
「なんか今日は甘えたさんだね。」
テレビのスイッチを入れながら、シンジはアスカの方に顔を向ける。
「別にいいのよ、あんたはアタシのものなんだから、ね。」
「そりゃまあ、そうだけど…」
二人が初めて一つになった夜以降でも、シンジは特にアスカに対する態度を変える訳でも
なかった。
「今日もしようね。」
アスカの言葉にシンジは顔を赤くする。アスカに不都合のない限りは毎夜の様に重なる二人。
まあ、若さの証明みたいなものだろうが。
「あ、アスカこそ言葉を選んでよ…恥ずかしいじゃないか。」
あっけらかんとしたアスカに比べると、シンジはまだまだ初な様である。
「だって、やっと良くなってきたのよ。」
「だ、だから…」
「最初は痛かったんだから。」
「う、ごめん。」
「それに…シンジも結構持つ様になってきたしぃ…」
「ぐっ。」
シンジはますます顔を赤らめる。いたたまれなくなったのか、ダッとキッチンに逃げる。
「コーヒーでも煎れるよ。アスカも飲むだろ?」
「うん。」
火照った顔を冷ます為に、シンジはケトルの湯が沸くのを黙って見ている。
やがてカップを二つ手に持ち、テレビを見ているアスカに左のカップを差し出す。
「ありがと。」
アスカは受け取るとすぐに口を付ける。
「うん、おいしい。コーヒー煎れるのだけは上手いのよねー。」
「何か素直に喜べないなぁ。」
フフッと笑うアスカに例のいじけた顔をするシンジ。
「いやね、冗談よ。コーヒーがおいしいってのは本当だけど。」
「そう?ならいいけど。」
溜息混じりの笑みで返すと、シンジもソファに腰を下ろす。
「ねぇ。」
少し真顔になるアスカ。
「ん?」
「今日さ、レイに宣戦布告されたんだ。」
「へ?」
キョトンとするシンジを見ると、アスカは大きく溜息をつく。
「ったく、全然気付いてないの?」
「なに言ってるのかわかんないよ。」
困惑するシンジ。
「それに僕が関係ある訳?」
「なけりゃシンジに言わないわよ。」
「??????」
「ねえ、一つ聞いてもいい?」
アスカの言うことにまるで付いていけないシンジは黙って頷くしかない。
「アタシとレイと、どっちが好き?」
「へ?」
「だ・か・ら、アタシとレイと、どっちの方を愛してるの?」
「誰が?」
ボケが冴えまくる(?)シンジに額に手を当て天を仰ぐアスカ。
「ああもう…決まってるじゃない、シンジ、あんたよ!」
「はぁ…って、ええっ!?」
質問の内容をようやく把握したはいいが、余計におろおろするシンジ。
「なんで綾波が出て来るんだよ?」
「いいから答えなさい。」
「そりゃあ…その…なんだけど…決まってるじゃないか…」
「アタシよね?」
真っ赤になって頷くシンジを見ると、満足げに微笑むアスカ。
「でも…それで宣戦布告ってなんなんだろう?」
流石のアスカもこの台詞にはこけてしまった。
「あ、あんたねぇ…ひょっとしてアタシと付き合い始めてますます鈍くなってない?」
「失礼だなあ、僕のどこが鈍いのさ。」
ムッとしたのかシンジは少し低い声で答える。
アスカは目を点にして呆然としている。
「自覚無いのね…まあ、いいわ。」
アスカはふぅと溜息をつくと気を取り直して続ける。
「シンジにも分かるように言ってあげるわ。あのね、今日レイの歌ってた歌、覚えてる?」
「えっと…」
「みなまで言わなくていいの。三曲歌ってたけど、みんな共通するところがあるのよ。分かる?」
「みんな英語。」
自信あり気に答えるシンジだが、アスカは再び溜息をつく。
「あれ、違った?」
「そんなことじゃないわよ…って言っても、英語は分からないんだったわね。
レイが歌ったのはみんな英語のラブソングよ。」
「へー。綾波って洋楽が好きなんだね。」
「はいはい。それでレイはそれをその場にいた誰かに向けて歌ってたのよ。」
「ふうん。」
いい加減に気付きなさいよっ、と言いそうになるのを押さえてアスカが続ける。
「シンジに向けてね。」
「へぇー…って、一寸待ってよ、も、もしかしてそれって…」
「そうよ、やっと分かったの?」
シンジは呆気に取られた様にアスカの顔を見つめていたが、ふと我に返ると少し怒った様に
アスカに言った。
「からかうのはやめてよ、アスカ。」
「アタシも嘘の方がいいわ、でも本当なのよ。」
「綾波が僕を好きになる理由なんかないのに?」
「人を好きになるのに理由なんていらないの。それにあんたが気付いてないだけで、レイには
ちゃんと理由があるのかも知れないじゃない。」
困惑するシンジにアスカが畳み込む。
「いい?あんたは自分で気付かないだけよ。もう、アタシの身にもなって欲しいわ。
身を切る思いをするのはアタシなのよ?ああっ、ほんとにもう!」
気持ちが高ぶって目を潤ませるアスカを見ると、ますます困るシンジだった。
「でも、僕がアスカと付き合ってるのを綾波は知ってるはずだよ?」
「だから宣戦布告されたんじゃない。」
ふとシンジの頭にガイダンスの日のレイが思い出された。
「あ…あ、あれって本心だったんだ…」
「なにか思い当たるフシでもあるの?」
怪訝な面持ちのアスカに説明するシンジ。無粋極まりないことではあるが、アスカの前で嘘を
付き通せるはずもない。
「…って言ってたんだけど…」
「あんた、それでもアタシを追いかけて来たの?」
暫し呆れていたアスカだが、ふと安堵の溜息をつくとにこっと微笑む。
「良かった、シンジが鈍くて。」
「なんだよ…失礼だなぁ。」
「いいの、アタシはそんなシンジが好きなんだから。」
「…喜んでいいのかな…」
首を傾げるシンジを見て微笑むアスカ。しかし、すぐに真顔になった。
「それよりも…どうするの?」
「どうするって?…どうしよう。」
「って言うと思ったわ。まあ、取り合えず今までと同じでいいんじゃないの?変に意識すると
シンジの場合おかしな事になるからね。」
「うん…」
「それよりもね、シンジ。どうしてアタシがこの事をあんたに教えたのかを考えて欲しいの。」
じっと見つめるアスカの真意をまるで理解できないシンジ。俯いてうんうん唸っている。
「いい?アタシがこの事を黙っていれば、シンジが妙にレイを意識することもないとは思うわ。」
「でも、僕にはアスカがいるから綾波の気持ちには応えられないよ。」
「いいから聞きなさい。今まではアタシがずっと側にいたせいか、シンジは女の子慣れしてないでしょ?
まあその方がアタシには都合がいいんだけどね。でも、これからはそうは行かないかも知れない。
バイトもあるでしょうし、男の付き合いってのも出てくると思うし…。ただでさえ流されやすいのに、
下手にコンパなんかで迫られでもしたら…あんたってば、ほいほい付いていっちゃうかもね。」
ジト目でシンジを見るアスカ。
「そ、そんなことないよ…アスカと付き合い初めてからは合コンだって全部断ってるんだ。最近じゃ
誘ってもくれなくなったのに…ちぇ、アスカは僕をまるで信用してないの?」
こうは言っているが、シンジはアスカ抜きでの合コンは未経験である。徹底してアスカは
シンジに言い寄ろうとする女の子の戦意を削ぐようにしていた。無論、シンジは気付いていない。
「誰もそんなことは言ってないわよ、もう…そのことはアタシも知ってるって。言いたいのはこの
続きなの。つまり、レイのことでシンジがそんな時どう対処するかってこと、解るようになる
かなぁって事よ。少し危険かも知れないけど、ちゃあんとシンジを信じてるから言ってるのよ。」
アスカがシンジの扱いに関しては絶対の自信を持っているのがうかがえる言葉。
「でも、アタシだって怖いんだからね…」
伏し目がちに最後の言葉を呟くアスカ。
-でも、無警戒でレイに迫られたら…その方がもっと怖い-
アスカの本音はここにあった。
「…大丈夫だよ、アスカ。信じてくれてるなら裏切るようなことはしないさ。」
「そんなの当たり前よ…もし、浮気したらコロスからね。」
つい自分が浮気してばれた時のアスカを想像するシンジ。血の気がサーッと引いていく。
「…しないよ。絶対に。」
「よろしい。はい、ご褒美。」
アスカは満足気に微笑むと、シンジの頬に軽いキスをする。
「でも…明日からちょっと疲れるかもなぁ…」
シンジは溜息一つつくと、チラッとアスカを一瞥する。
「慣れるまではね…でも、いつでもレイと一緒って訳でもないわよ。」
「そうだね。」
-いつまでも同じじゃないってことか…いやだな、そう言うの-
窓の外を見ながら、シンジはぼんやりとそんなことを思っていた。
場所は変わってレイの部屋。
レイはシャワーを浴びながら今日を振り返っていた。
「鈍いところはぜんぜんかわってなかった…碇君。」
目をじっと閉じて、頭の上から伝うお湯の感覚はレイの切ない気持ちを幾分和らげてくれる。
-死ぬほど恥ずかしかったのになぁ…アスカも苦労してるはずだわ-
髪の毛をさっと後ろに回し、シャワーを顔で受ける。
-でも、もう後には引けない。何時になるか分からないけど、碇君は私の碇君にしてみせる。-
-そう、その為に同じ大学に進んだんだもの…最悪でもあと四年はあるもの、チャンスはきっと-
-ある。アスカには悪いけど、必ず…碇君は私の…碇君に…-
レイは目を開け、胸の前でキュッと手を握る。
-想いは届くはず…-
微笑むシンジの顔が、レイの心に浮かんでは消えていた。
やがてバスルームから出たレイは、下着の上に大きなTシャツだけと言う格好で机に向かう。
レイにとっての一日の締めくくり、日記を付ける為である。
高校に進学すると同時に付け始めた日記に、シンジの名前が登場しない日は一日として無かった。
特に大学での再会を果たした後の内容は、ほぼシンジのことで埋められている。
ループバインド式の分厚いノートに書き込んでいくレイ。
うっすらと頬を上気させて書く内容はやはりシンジのことだ。
今日、シンジとしゃべったことを一つ一つ、ノートに記していく。
高校の頃の日々募る一方の想い。そしてシンジと知り合った中学校時代。
両親を失ったショックで感情を無くしていた時、隣の席にいたシンジ。
何故かシンジは心を閉ざしたレイに対していろいろと手助けしてくれた。
最も、その頃からアスカに振り回されていた訳であるが、暇を見つけては面倒を見ていた。
シンジからすれば、なんとなく好意を持っていた少女に何かしてあげたいと言う気持ちである。
当時の担任からレイの世話を頼まれたと言う大義名分もあり、出来る限りのことをしていた。
初めの頃はそんなシンジをうっとおしく思っていたレイであるが、懸命なシンジの態度に
次第に心を許していく。そして気付いた時にはシンジに心を奪われていたのだ。
が、シンジにはそんな下心はなかった。と、言うよりもある意味では同情の念で世話をしていたのである。
そのことに気付いたレイは悲しみでいっぱいになった。
ましてや女心に人一倍鈍いシンジのこと、レイが自分を取り戻す頃にはゆっくりとレイから
離れていこうとしていた。
「みんなとも仲良くしなくちゃ。」
この言葉はレイの心に新たな負担を強いた。シンジのいないところで何度泣いたか分からない。
シンジの優しさはレイの心を開いたが、明らかに歪ませてもいた。
そして進路を決める時。レイはシンジと違う高校を選択していた。
一度シンジから離れる必要があると思ったからである。
しかし、いざ離れてみると心が壊れんばかりに寂しかった。
友達はたくさん出来た。
クラブ活動もやってみた。
でも、それは寂しさを和らげることしか出来なかった。
心にぽっかりと空いた穴。
その部分はシンジが持っていったまま、埋まる事はなかった。
そして大学に進学する時に、シンジの受ける大学をシンジの身内から聞き出し、
同じ大学を受験したのである。
そして、シンジに想いを告げるべく、大学に行くと…。
アスカの存在。
レイがシンジに想いを寄せる様になってから、常に壁となっていた存在。
ここでもアスカにシンジを取られていた。
高校の三年間は、レイにとって大きなブランクとなっていた。
アスカの変化はレイにも見て取れた。角がとれたかなり柔らかいイメージ。
そしてそれがシンジによってもたらされたものとも分かった。
が、レイもずっと想い続けていた。諦められなかった。
シンジ本人から断られたら諦められたかも知れない。
しかし、試しにカマを掛けた時にまんざらでもなさそうな様子だった。
レイは一つの決心をする。
-アスカに私の想いを伝えよう。そしていつか碇君に想いを伝えよう-
その気持ちが、今日の行動の原動力となっていた。
つづく
うーん、うまく書けない…
いや、文章に自分の考えを反映させるのは難しいですね。
今回はレイがメインのパートのはずなのに、アスカが半分以上を占めてます。
いやいや、アスカはたくましいですねぇ、書くのがすごく楽しいし自分でどんどん動いてくれます。
逆にレイは難しいです。想いを秘めたタイプの女の子としているので…。
でも、今回のパートの役割は果たしてくれました。
過去のレイとシンジの関係。
そしてアスカのレイ対策。
ただただ鈍いバカシンジ。
三人の行方はいかに?
次回はさらに三年後の世界に入ります。
研究室が別れたアスカとシンジ。
同じ研究室になったレイとシンジ。
ここでやっと本当のストーリーが展開されます。
お楽しみに!してくれる人っているんだろうか?
ご感想のメールをお待ちしております。うう…本当に待ってます。
管理人(その他)のコメント
カヲル「しよう、って、なにを?(にやり)」
アスカ「・・・やっぱりつっこんできたわね、そのネタで」
カヲル「だってねぇ(にやり)」
アスカ「あたしが言った訳じゃないもの。あれは、そのー、高橋の小説の中でアスカって大学生が言っているだけでしょ。あたしは、関係ないわよ」
カヲル「声が多少裏返っているところがまあ、限界ってとこかな」
アスカ「ぬあんですってぇ!!」
レイ 「あなたがいいなら、私が碇くんとするわ」
アスカ「ちょちょちょっとレイ!! なに問題発言しているのよ!!」
レイ 「私は、あなたみたいにひねくれているわけじゃないもの。碇くんのためなら・・・・(ぽっ)」
アスカ「その「ぽっ」はやめいっ!!」
カヲル「・・・・で、碇くんと何をするんだい、綾波レイ」
レイ 「・・・・何・・・・何・・・・何かしら・・・・」
アスカ「アンタはシンジと町内会のゴミ拾いでもしてきなさい!!」
レイ 「ゴミ拾い・・・・碇くんと一緒に・・・・・わかったわ。命令ならそうする」
カヲル「近所の奥様たちにご挨拶してくるんだよ。「夫がいつもお世話になっています」、ってね(にやり)」
アスカ「し、しまったぁああああっ!!」