Welcome外伝外伝
巡り来る日々〜第1話〜
再会を祝して・・・・





「ねェ、おば様」
「何? レイちゃん」
「この家の台所って、普通のお家と違いますよね」

レイの言うとおりだった。
何しろガスバーナーの火力は一般家庭のそれと比べれば、
3倍のカロリーだったし、
その廻りの壁には耐熱用に大理石がはめ込まれている。
包丁に至っては、和洋中各種、大小様々、個人専用。
フライパンにも卵焼き専用を初め、細かに役割分担されていた。
鍋にしても、しかり。
どんなレストラン、割烹にも負けないのではなかろうか?

この家に来てから料理を習い始めたレイだったから、
そのコトに気付いたのは極最近だった。
アスカやマナの家の台所に立った時、あまりにも火力が足りなくて、
困惑したモノだった。

「ああ、これはネ。お祖父さま、あなた達から言えば曾祖父さまの遺品なの」
「エと、碇家・・の?」
「そうよ、シンジ。これは第2新東京市にあった家から譲り受けたモノなの」
「へぇ〜」
「どうして、台所を貰ったんですか?」
「それは、ネ。ふふ・・・・」
「こ、コホン。あ、ああ〜。そ、そろそろ夕飯の支度をするんだが・・・・」

振り返ると、割烹着姿のゲンドウが立っていた。
すでに前掛けとタスキ掛けも完了している。
なのに、いつもの色眼鏡は掛けたまま。
もっともその隙間からは、ほんのり朱に染まった頬が覗いている。
やはり照れ隠しなのだろう。

「はい、はい。お話はコレまで。
 じゃあ、お願いしますね。ア・ナ・タ」
「う、うむ」

さらに朱色が濃くなったのはシンジの目にも明らかだった。

(父さんって・・・・感情表現がヘタなだけだったんじゃ・・・・)
(あっちの世界でも?!)
(でも、あんな風にはなりたくないなァ)
(あ、でも、アスカなんかはそっくりだって言ってたし・・・・)
(イヤだなぁ〜、ああなるのォ?)

シンジの思考の方向を敏感に察知したゲンドウは、

(うぅ、な、何故だ! なぜ、子供の前でこんな姿を晒さなければならんのだ!)
(ユ、ユイも、もう少し、父親の威厳と言うモノを尊重してくれれば・・・・)
(何はともあれ・・・・情けない、ククク)

心の中で滂沱しながらも、包丁は快調に縦横無尽にまな板の上を走りまくる。

その時、ふと気が付いたようにユイが振り返った。

「あ、そうだ。アナタ、今日の夕飯。もう2,3人分余分に作れます?
 材料に余裕ありませんか?」
「いや、大丈夫だが・・・・。誰か、急な客なのか?」

不審そうな顔つきのゲンドウに対して、ユイはあくまでにこやかに応えた。

「ええ、お祖母さまが久しぶりにいらっしゃりたいって」
「・・・・!!」

ゲンドウの顔色の変化は劇的だった。
その瞬間を見れなかったコトを冬月が、
心底残念がったのは言わずもがなであろう。
そんなゲンドウの様子に子供達は不思議そうな顔をした。

「どうしたの? 父さん」
「い、いや・・・・。な、何でもない、ぞ。シンジ。ハハ・・」
「お祖母さまって、トキお祖母ちゃん?」
「そ。2人とも随分ご無沙汰してるでしょ?
 お祖母さまったら、待ってられなくなって、ご自分がいらっしゃるそうよ」
「え〜っ!? だって、忙しいんだモン。仕方ないわよ。ネ、シンちゃん」
「え? あ、あはは・・・・。いくつになるの、かな? お、祖母・・さん」
「そうね、もう80才は越えてらっしゃるわ」
「元気ねェ〜」
「100までは好き勝手やらせてって言われてるのよ」
「は、はは・・・・」

(な、なんか凄い人みたい・・・・)
(まあ、母さんのお祖母さんだモンな)
(でも、どうしたんだろ? 父さん。急に顔色悪くなったけど・・・・)

「そ、それで・・・・いつまでこちらに滞在なさるんだ?」
「1週間くらいかしら。第3新東京市も久しぶりだから、
 あちこち見て歩きたいって、おっしゃってたから」
「・・・・そ、そうか」
「あ、それから、冬月先生にもお逢いしたいそうよ。
 だから、先生も夕飯にご招待しましょう、ネ!?」
「う、うん。そうだな。それがいい。
 あ、冬月には私から連絡を入れよう。うん、そうしよう」

そう言うとゲンドウはそそくさと自分の書斎に向かったのだった。
調理の途中で台所を放り出すなど、彼にはすごく珍しい。
子供達2人の顔には大きく”クエスチョン・マーク”が浮かび、
ユイはというと、解っているのかいないのか、いつもと変わらぬ笑顔をたたえていた。

そんなコトは構う余裕もなく、震える指で携帯電話のボタンをプッシュする。
すでに50gを切った重量が異様に重く感じるのか、小刻みに持つ手が揺れている。

2コールで反応があった。

「・・・・はい」
「ふ、冬月か?」
「な、なんだ? 碇か? どうした、珍しいな。おまえが電話など」
「そ、そんなコトはないぞ。ハハ」
「どうしたんだ? 声が裏返っているよだが・・・・」
「!! い、いや、問題ない。気にするな」
「・・・・すごく気になるが」
「と、ととと、とにかく、本題だ」
「あ、ああ」
「きょ、今日、暇か? おまえ」
「何だ、藪から棒に」
「暇なのか? どうなんだ? 是非を答えろ」
「ま、まぁ、暇とは言えんが、とりたてて忙しい訳でもないが・・・・」
「な、なら良かった。今日はウチで飯を喰わんか?」
「どうした、碇? 変なモノでも喰ったか?」
「っ〜!!(が、我慢だ! 我慢!!)
 い、いや、その、だな。そ、そう、ユ、ユイだ。
 ユイがだな、たまには冬月先生をご招待しましょう、とだな」
「なんだ、ユイ君のご招待か。それなら遠慮なくお邪魔しよう」
「(なんだ!その豹変ぶりは!!)
 と、とにかく腕を振るうから、絶対来るように」
「ああ、ユイ君によろしくな」

ッチャッ! ッー! ッー! ッー・・・・


この時碇ゲンドウの顔にはどす黒い笑みが、
毒々しいまでに鮮やかに浮かんでいたという。




ピンポーン!

はぁ〜い

カチャッ

碇家の玄関が開かれる。
玄関口に立っていたのは、渋く極めた冬月教頭だった。

「やあ、ユイ君。お誘いありがとう。遠慮なく御馳走になりに来たよ」

冬月は華やかに笑って見せた。
それから、右手に持ったビニール袋を差し出す。

「いつも同じで芸がないが、私が育てたパンジーだ。
 よかったら、飾ってやってくれたまえ」
「まあ、冬月先生ったら。いつも済みません。
 ありがたく頂戴いたします。
 さ、上がって下さい」
「それじゃあ、お邪魔して・・・・」

そう言いながら、ふと視線を落とすと、どこか見覚えのある婦人用の靴が・・・・
その瞬間、冬月の動作は凍り付いた。

「? どうかなさいました?」
「あ? ああ、な、なんでもない。いや、疲れてるのかな? ハハ」

ユイの言葉に再始動を開始した冬月だったが、どこかぎこちなかった。

(気のせいだ。私の気のせいだ。あの人が、ココにいる訳は・・・・)

無理矢理自分に言い聞かせると、ひきつった笑顔を張り付かせたまま、
ユイの後について、勝手知ったる碇家のダイニングを目指す。

そこには既に全員が揃っていた。

「やあ、レイ君。シンジ君。こんばんは」

どうにか、普段の調子を取り戻した彼は、滑らかな口調だった。

「こんばんは、冬月先生」
「こ、こんばんは。副指れ、・・・・教頭先生」
「うん」

にこにこ笑顔を浮かべながら、

(やはり、碇の息子だな。いつもながら、妙なコトを口走りおって)

などと口には出せない感想を抱いている。
彼の視線が、そこに居るハズのない人物を捉えたのは、その時だった。

「!!」

視神経は正確に捉えた情報を脳へ送っている。
だが、肝心の脳細胞が受け取るコトを拒否している。
彼の脳細胞は、「見なかったコトにしよう」そう囁いていた。
そんな冬月の虚しい努力をあざ笑うかの如く、
聞き間違えようもない声が耳に届いた。

「お久しぶり、冬月君」
「・・・・り、理事長・・・・」

すでに80才は軽く越えているハズなのに、
シャンと背筋を伸ばし、上品な笑顔を浮かべている老婦人は、
間違いなく碇トキ、その人だった。

「いやぁ〜ね、冬月君ったら。私は理事長じゃないわよ。
 そんな重荷は孫娘に押しつけて、日々気楽に幸せに暮らしている、
 只のお祖母さんよ」

本人は特に意識してのコトではないのだろうが、
トキの台詞を耳にして、ユイのこめかみ辺りが僅かにひきつった。
そのコトに気付いたのは、ゲンドウと冬月だけだった。
実際、彼女の若さで理事長などという重職をこなすのは並大抵のコトではない。
全くおくびにも出さないが、彼女がどれだけ努力を払い、
周囲に気配りをしているコトか。
その原因の全ては、この目の前の人物にある。

(り、理事長・・・・た、頼みますから、余計なコト言わないで下さいよォ!)

心の祈りはゲンドウも同じだった。
しかし、連帯意識が芽生えるコトなど、万に1つ、億に1つ、
いやいや、兆に1つもなかった。

ゲンドウと視線があった瞬間から、凄まじいアイ・コンタクトの応酬が始まった。

(い、碇! 貴様、何故黙っていた!!)

(ふ、それは愚問ですよ、冬月先生)

(くっ〜! なぜ、ワシを巻き込む。これは貴様の私事だろうが!!)

(何をおっしゃるんです。理事長は元々あなたの管轄でしょう?)

(何をバカなコトを!)

(死なば、もろとも。1人だけ逃げようなど虫が良すぎますよ)


「そうだ、冬月君」
「な、なんですが?」

ゲンドウとのやり取りに夢中になっていた(というか現実逃避していた)冬月は、
トキの声に現実に引き戻された。

「私、第3新東京市は久しぶりなの」
「は、はぁ・・・・」
「だから、1週間くらいアチコチ見て歩くつもりなの」
「そ、それはいいですね」
「と言うわけで、よろしくね」
「はぁ〜?」
「だ・か・ら、案内、よろしくね」
「な、なんで、私が?」
「あら、冷たいわね。冬月君。私とあたなの仲じゃないの」

そ、そんな誤解を招くような台詞は止めて下さい!!
そんな怒声が喉まで出かかったが、危うい処で自制した。

「し、しかし、私にも仕事がありまして・・・・そのォ・・・・」
「あら、それだったら大丈夫ですよ」
「ゆ、ユイ君?」
「いつもこの人ったら、冬月先生に雑用任せっぱなしなんでしょう?
 たまには全部この人に押しつけて、先生は羽を伸ばしてください」

ユイの言葉は善意以外の何物でもない。
それは冬月にも解ってはいる。
しかし、それがどれ程恐ろしいコトなのか、彼女には終生解らないだろう。

冬月は胸の奥で、そっとタメ息をつくと、「諦め」とともに全てを受け入れた。
そんな彼を一部では「日本で2番目にタメ息の似合う男」そう呼んでいるそうだ。




「どうしたんでしょう? ここ、2・3日教頭先生見掛けませんけど」
「珍しいわね、あの堅物の教頭が休んでるなんて」
「あら、もっと不気味なのは校長よ。
 この3日ばかり、真面目に書類仕事やってるんだモノ」
「天変地異の前触れかしら?」
「1999年は過ぎて随分立ちますよ」
「何にしろ・・・・」
「「「ぶっきみィ〜!!」」」

職員室姦し娘と異名をとる3人のひそひそ話を耳にして、
碇ユイはくすくすと楽しそうに笑いを漏らした。
さらに、校長室で慣れない書類仕事に悪戦苦闘している夫の姿を想像すると、
ますます笑いは止まりそうになかった。




一方その頃−−−

「り、理事長・・・・」
「さあ、あとひと踏ん張りで箱根の山を越えるわ。
 頑張りましょう!!」
「理事長・・・・」
「あら、どうかした? 冬月君」
「ちょ、ちょっと・・・・休憩しませんか?」
「もうへばったの? 60前の若いモノがだらしないわよ!」
「あ、あのですね・・・・」
「さあ、今日中に芦ノ湖周りまで周遊するから、気を入れなさい!!」
「り、理事長ォ〜!!」

その後冬月は半年の間、整骨院通いするハメとなった。






みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


不定期開催 マダム達のお部屋(爆)

トキ「ということで、世の中のオヤヂには負けてられませんからね」

ヒナ「老骨に鞭打って・・・・(ぽそり)」

トキ「なんですってぇえええええ!!」

ヒナ「なななななんでもないですぅ〜(びくびく)」

ユイ「(あせあせ)で、でもお祖母様、この「マダム」っていうのは・・・・その・・・・」

トキ「あら、なんだったら「女王様」でもよくてよ(にっこり)」

ユイ「・・・・こっちで良いですわ(にこり汗)」

ヒナ「碇家の趣味って・・・・すごいのね・・・・「ぢょうおうさま」だの「まだむ」だの・・・・。うちとは違うわ〜(にやり)」

トキ「あら、庶民はそうなのね。知らなかったわ(にやり)」

ヒナ「ぐっ! そこまで言うか!」

ユイ「まーまー二人とも落ち着いて落ち着いて(^^;;」

ヒナ「・・・・・しかし、こんなコーナー始めたんだ〜」

ユイ「あの人や冬月先生にばかり舞台をあげてしまうのはしゃくですからね」

トキ「そう、私のかわいいユイをさらっていったばかりかいろんなところでいろんな悪事を繰り広げて・・・・ぶつぶつ」

ユイ「お祖母様お祖母様、妄想がすぎますよ」

トキ「っとっと、いけないけない」

ヒナ「でも、元理事長、結構いぢめてお楽しみだったじゃありませんか」

トキ「お楽しみ?」

ヒナ「ええ、ゲンちゃんとあのおぢさんを」

ユイ「ああ、冬月先生ですか?」

トキ「それが楽しいのよ〜あの人いぢめればいぢめるほどこうリアクションがね〜。なんて言うのかしら。噛めば噛むほど味の出るスルメイカって感じかしら〜」

ユイ「最後に噛み飽きたからって捨てちゃダメですよ」

トキ「ああ、そういう方法もあったわね(ぽむ)」

ユイ「あったわねじゃありません!」

トキ「あははは、じょーだんよじょーだん。この程度のことが分からないようじゃ、ユイ、あなもまだまだね」

ユイ「お祖母様! 仮にもいい年の孫をつかまえてその台詞はないですよ」

ヒナ「・・・・へー。彼女が苦手にしている人もいるんだ〜(ぢぃぃぃ)」

トキ「あら? 何か言いたいことでもあって?」

ヒナ「あ、いえ、別にないですわ」

トキ「しかしヒナさんだっけ? あなたも物好きね〜。ゲンドウ君のいったいどこが好きであんなにつきまとってるのかしら?」

ヒナ「えーっと・・・・・そうね・・・・いろいろあるけれども・・・・」

ユイ「・・・・・」

ヒナ「強いて言えば、いぢめがいがあるから、かしらね(にこり)」

トキ「いぢめがい?」

ヒナ「そう。いろんな意味でいぢめればいぢめるほどリアクションがおもしろくて」

ユイ「・・・・それってもしかして、お祖母様が冬月先生に関わり合っているのと同じ理由なのかしら・・・・」

ヒナ「あら、ほんとだ」

トキ「まあ、似たもの同士なのね〜あの二人って」

ヒナ「同類相哀れむ、ってかんじなのかしら」

ユイ「むしろ私には似ているだけに近親憎悪、と言う感じがしないでもないのだけど・・・・」



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