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特別企画 |
バレンタインデー・キッス "転の巻" |
そして、当日の朝がやってきた。
「おはよう・・・・」
「あ、おはよう。アスカ、霧島さん」
「おはよ、ヒカリ」
「? アレ? 綾波さんと碇君は?」
何気ないヒカリの問いにアスカとマナの肩が、
ビクッと跳ねた。
「・・・・ちょっと、ネ」
「え? あ、・・・・あぁ! そうなんだ」
「うん、そういうコト」
2人の態度でヒカリにはすぐに解ってしまった。
それから、5分後。
レイとシンジが教室に現れた。
頬を上気させながらも、ニコニコと上機嫌のレイ。
一方のシンジは、これまた顔を真っ赤にしている。
2人の間に何かありました。
そう、力一杯表現しているようなモノだった。
ケンスケがクラスみんなを代表して、シンジに直接問い正す。
「シンジ・・・・」
「お、おはよう、ケンスケ。・・・・ど、どうかしたの?」
「朝っぱらから幸せそうな顔しやがって!
綾波と何があったんだい? 正直に言ってみな」
「エ?・・・・そ、その、・・ちょ、チョコもらって・・・・
そのお礼を言っただけだよ」
と言いつつ、さらに頬を朱に染める。
あまりに正直な反応に、ケンスケを始め、みんな呆れてしまった。
それでも、それ以上はケンスケがどんなに手を尽くそうと、
口を閉ざしたままだった。
そんなやりとりを横目に見つつ、アスカとマナはレイに詰め寄った。
その後から、ヒカリもやってくる。
お堅いと思われがちな委員長も、さすがに好奇心には勝てないようだ。
「ネ、どうだった?」
マナの質問にレイは、改めてポッと頬を染めた。
「・・・・言えない」
「何よ! 言っちゃいなさいよ!」
その苛立たしそうな声は、もちろんアスカだ。
「だって・・・・恥ずかしいんだモノ・・・・」
ザワッ!
何気なさを装いつつ、聞き耳を立てていた2年A組の面々はざわめいた。
「おっはようさん!」
「やあ、トウジ」
「? なんや? 妙な雰囲気やな」
「そう言うトウジは朝からご機嫌の様だね」
「ん、まぁ、ええやんか。
そや、ケンスケ」
「ん? なんだい?」
「ホレ」
そう言って、トウジはカバンの中から取り出したモノを手渡した。
それはかわいいラッピングが施され、ピンクのリボンが掛けられていた。
「・・・・こ、これは?」
「にぶいやっちゃなぁ〜。決まっとるやろ?
チョコや、チョコ! バレンタインの」
トウジの台詞に騒然とした2年A組は一瞬、静寂に包まれた。
それから、クラス全体がどよめいた。
「な、なんや? みんな。ど、どうかしたんか?」
突然クラスメートの視線を一身に集め、
トウジは、落ち着かな気に辺りを見渡した。
特にヒカリの様子がおかしいようだった。
その視線はトウジをどうにも居心地が悪くさせる。
「と、トウジ・・・・わ、悪いんだけど・・・・」
呆然と手渡されたチョコの包みを眺めていたケンスケが、
ようやくそれだけを口にした。
すると、トウジは心から残念そうな顔をした。
「なんや、せっかく妹がケンスケにゆうてくれたんやでェ?
こん前、おまえに遊園地連れてってもろたんが、えろぅ嬉しかったらしいで」
「エ!? な、ナツミちゃん?」
「そや」
「それを早く言ってくれよ! はぁ〜、ビックリした。
うん、それじゃあ、ありがたくいただくよ。
うれしいなぁ〜」
ケンスケは、トウジの手からひったくるようにして包みを受け取ると、
軽やかにスキップなどしながら教室を後にした。
シンジの目から見てもすっかり舞い上がっているようだった。
「なんや? 変なやっちゃなぁ」
「仕方ないよ」
それまで、2人のヤリ取りを傍観していたシンジが、
トウジの所にやって来るとそう言った。
チラリとヒカリの方に視線を送る。
ヒカリは心底ホッと胸を撫でおろしていた。
「何が?」
「だって、さっきの状況じゃあ、
どうしてもトウジがケンスケにバレンタイン・チョコ、
渡してるようにしか見えないよ」
「なんや、それ!? なんでワシが!
あ、それでか。みんな妙な反応しとったのは。
そそっかしい奴らやなぁ、みんな。
ちょお考えれば、すぐ解るコトやろに。
まったく、ワシは渚とはちゃうで!!」
ようやく事態を把握したトウジは、
憤然とした面もちで一気にまくし立てた。
「ボクがどうしたんだい?」
ちょうどその時、カヲルが教室に入って来た。
いつもの笑顔と、両手いっぱいに抱えたチョコと一緒に。
「なんでもあらへん」
「あ、おはよう。カヲル君」
「おはよう。シンジ君」
「すごい数だね」
「ああ、コレかい?
せっかくの好意を無駄には出来ないからネ。
仕方ないさ」
「かぁ〜! 色男ブリおって!」
「でも、ボクは貰うよりも、渡す方が・・・・」
「あ、あ! と、トウジは? トウジは貰った? チョコ」
シンジは慌ててカヲルの言葉を遮って、トウジに聞いてみた。
そんなシンジの慌てぶりに、トウジは同情の視線を送った。
「ん? なんや、ワシか?」
「アンタ、バカ?
そんな物好きいるワケ無いじゃない!(ヒカリ以外に)」
いつの間にやって来たのか、シンジの後ろからアスカが口を挟む。
その断定口調にムッとしたトウジは、
一転、不敵な笑みを浮かべた。
「ふ! 残念やったな。コレを見ぃ!」
「・・・・コレ・・・・女の子から?」
「な、なにゆうてんのや、シンジ! 当然やろ!?
男からもろて、どないすんのや?
さっき校門のトコで、1年の女子から直接手渡されたんや!
いやぁ〜、ようやくワシにも春が来よったでェ」
トウジは満面に笑みを浮かべていたが、
シンジ達は、カヲルを除いて、皆凍り付いていた。
アスカは恐る恐るヒカリの方を見る。
そこには全ての表情を消し去った、能面の様なヒカリの顔があった。
(ま、まっずぅ〜。コレはまずいわ)
(まるで、あの時のユイおば様みたい)
(下手すると、こっちにまでとばっちりがくるわネ)
そう一瞬で判断したアスカは、
何とかフォローしようと頭脳をフル回転させたが、
焦れば焦るほど何も浮かばない。
アスカの額から冷たい汗が流れる。
その思いはシンジも同じで、とにかく無難の言葉を掛けてみる。
「よ、よかったね。トウジ」
「おう、サンキュッ。ま、センセェや渚には及ばんけど、
妹以外から貰ったのも初めてやからなぁ」
「それじゃあ、妹さんからのと併せて2個かい?」
「いいや」
カヲルの何気ない質問に首を振るトウジ。
(アレ? 他にも誰かに貰ったのかな?)
シンジの疑問は、アスカやレイ、マナ、それにヒカリにも共通のモノだった。
その深刻さの度合いに違いはあっても。
そんな他人の思惑に頓着せず、トウジは嬉しそうに右手の指を3本立てた。
「3個や! 妹と1年の娘ォと、それから委員長や!」
「エ?」
「ヒカリ渡したの?」
すっかり会話に取り残されていたレイとマナが、ヒカリを振り返る。
ヒカリは、ふるふると首を振った。
「な、委員長! 委員長もワシにくれるんやろ?」
突然の展開にヒカリの頭の中は真っ白で、何も応えられない状態だった。
その様子に何を勘違いしたのか、トウジは急にしょげ返った。
「なんや、くれへんのか。期待しとったんやけどなぁ。委員長の手作りチョコ」
その残念そうなトウジの声にようやくヒカリは我に返った。
「う、ううん! あるよ。ちゃんと。いっぱい、作ってきた・・・・」
真っ赤になってうつむきながら、ヒカリは机の横に掛けていた紙袋を取ると、
トウジの方につきだした。
「それ、全部か? スマンな、委員長。ホンマ、うれしいわぁ」
と言うと、トウジはホクホク顔で袋を受け取った。
まさに至福、といったところか。
やや呆然とした面持ちのヒカリにもようやく笑顔が広がっていた。
すっかり当てつけられた2年A組の一同。
もらえるアテのない男子数名は窓から身を乗り出して何事か叫んでいた。
そんな中で、トウジは心に呟いていた。
(いやぁ〜、楽しみやったんや、委員長の義理チョコ)
トウジの恋愛音痴が完治したワケではなかったのだった。
昼休み。
風もなく、陽射しも暖かい。
いつものメンバーは、屋上でお弁当を広げた。
今日のシンジのお弁当は、レイの担当だった。
朝からずっとご機嫌なトウジは、ヒカリお手製のお弁当を、
見るからにおいしそうにかき込んでいる。
ケンスケも、ニコニコ(というより、ニタニタ)しながら、
コロッケ・パンなどかじっている。
カヲルは何か考え事でもしているのか、
上の空な様子で箸を動かしている。
アスカ、レイ、ヒカリは、お喋りと一緒にお弁当を楽しんでいる。
しかし、いつもと違って、マナは落ち着きなく早々に食事を終えた。
あまりノドを通らなかったようで、おかずの半分は、
シンジやレイにあげてしまった。
それから、じっとシンジが食べ終わるのを待ちわびていた。
「ごちそうさま」
「シンジ君! 来て!」
シンジが箸を置くと同時に、マナはシンジの手を取ると、
有無を言わせず、足早に屋上を後にした。
唖然として2人を見送った一同の表情は二分されていた。
チョコを渡し、渡された者と、そうで無い者とに。
ちなみにカヲルは渡された者ではあったが、
渡す者には、まだなれずにいた。
そんなアスカとカヲルの憮然とした顔に、
ヒカリもトウジも、声すら掛けられずにいた。
とにかくココで待っていても仕方がない。
教室に戻ると、レイはヒカリとぺちゃくちゃお喋りを楽しんでいた。
一方、アスカは心ここにあらず、気が気でならないようだ。
いらいらしながら、チラチラとドアの方へ視線を送る。
そんなアスカにレイとヒカリは、くすくす忍び笑いを漏らした。
ふいにアスカが立ち上がった。
「? どうしたの? アスカ」
レイの言葉に応えず、つかつかとシンジの机の方へ歩き出す。
そして、机の影に隠れて、シンジの机の中にラッピングされた箱を
忍ばせようとしていたカヲルの前に無言で立ちはだかる。
「や、やぁ、アスカちゃん。ど、どうかしたのかい?」
・・・・この日渚カヲルは、
放課後まで保健室のベットで過ごす特権を与えられた。
ようやくアスカが鬱憤をはらした頃、マナとシンジが帰って来た。
頬を紅潮させ、ニコニコと上機嫌のマナ。
一方のシンジは、これまた顔を真っ赤にしている。
2人の間に何かありました。
そう、力一杯表現しているようなモノだった。
ケンスケがクラスみんなを代表して、シンジに直接問い正す。
「シンジ・・・・」
「や、やあ、ケンスケ。・・・・ど、どうかしたの?」
「ホント、やな奴だな。幸せそうな顔しやがって!
霧島と何があったんだい? 正直に言ってみな」
「エ?・・・・そ、その、・・ちょ、チョコもらって・・・・
そのお礼を言っただけだよ」
と言いつつ、さらに頬を朱に染める。
あまりに正直な反応に、ケンスケを始め、みんな呆れてしまった。
それでも、それ以上はケンスケがどんなに手を尽くそうと、
口を閉ざしたままだった。
そんなやりとりを横目に見つつ、アスカとレイはマナに詰め寄った。
その後から、ヒカリもやってくる。
お堅いと思われがちな委員長も、さすがに好奇心には勝てないようだ。
「ネ、どうだった?」
レイの質問にマナは、改めてポッと頬を染めた。
「・・・・言えない」
「何よ! 言っちゃいなさいよ!」
その苛立たしそうな声は、もちろんアスカだ。
「だって・・・・恥ずかしいんだモノ・・・・」
ザワッ!
何気なさを装いつつ、聞き耳を立てていた2年A組の面々はざわめいた。
「もうチャイム鳴っちゃったわよ。席について」
その時、伊吹マヤ教諭が入って来た。
仕方なく全員、その言葉に従った。
アスカなど、まさに渋々といった感じだった。
「では、授業を始めます。・・・・」
こうして、午後の授業も平和に、退屈に、過ぎていった。
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