「プールサイド」
B−PART:昔と……
秋良つかさ
「あすか、ねえ、あすか」
誰かの声がする。
「かあさん、あすか、大丈夫かな」
「大丈夫よ。しばらく、このまま寝かせていれば」
「でも……まだ目をつむったままだよ」
「慎治、そんなにあすかちゃんのことが心配?」
しんじ?
「うん」
「しんじ、あすかちゃんのこと好きだもんね」
えっ?
「うん」
えっ?、しんじ、今、うん、って言ったよね……
本当、なのかな?
あすかは薄目を開けてみた。
まぶしいほど白い雲と、吸い込まれそうなほど青い空。そして、照りつける太陽が目に飛び込んでくる。あすかは思わず目を閉じた。
そして、もう一度ゆっくりと目を開けてみると、そこには……
「あっ、あすか、気がついた?」
見慣れた慎治の顔があった。
「しんじ……」
「あすか、頭痛くない?」
頭? えっと、わたし、どうして寝てたのかな。それに、慎治に「頭痛くない」とか言われるようなことしたかな? 確か今日は、朝起きて、それから、先生に言われた夏休みの宿題を手伝うために、慎治の家に行って、それから、碇の唯おばさまに一緒にプールに行こうって言われて、それで、プールで泳いでて、泳いでいたら慎治がいなくなっちゃったから、それで、それで、慎治のところに行こうと思って、走っていたら……
あすかは真っ赤になった。
「あすか、どうしたの? 顔真っ赤だよ」
慎治が心配そうにさらにのぞき込む。
わたし、転んじゃったんだ……馬鹿みたい……
いつも、ばか慎治とか、あんた馬鹿ぁとか、あんたみたいにドジな子見たことないわ、とか言っているのに、これじゃ、私の方がドジってことじゃないの。恥ずかしい……
慎治、馬鹿にしたかな?
そう思って、あすかは慎治をちらっとみた。
ちょ、ちょっと慎治、顔、近すぎ。
「あすかちゃん」
あっ、唯おばさまの声。
ほっ、良かった。慎治も唯おばさまの声で、あっちを向いてくれた。
「あすかちゃん大丈夫? 頭を打ったから心配したのよ。」
「ええ、大丈夫です」
唯おばさまってやっぱり素敵だわ。私と同じ小学四年生の慎治がいるようには見えないもの。でも、唯おばさま、慎治は二十歳の時の子供だって言っていたから、素敵なのも当然ね。
「そう……どれどれ」
そう言って唯は近づいてきて、あすかの額に手のひらを当てた。
おばさまの手、ひんやりして気持ちいい。
そう思って、あすかはもう一度目を閉じた。
「本当、大丈夫そうね」
「ええ、大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
あすかは目をつむったまま言った。
「そうね。そんなしっかりした言い方ができるんですもの。本当に大丈夫そうね。でも、もうちょっとこのまま寝ていなさい。」
「はい。唯おばさま」
「慎治、ちゃんとあすかちゃんの面倒を看てあげるのよ」
「うん、わかってるよ」
「でも、あすかちゃんて、案外あわてんぼうなのね。」
あわてんぼう?
「くすっ」
えっ? さっきのおばさまの声よね。おばさまに笑われた?、笑われたの?、どうしよ……恥ずかしい。もしかして、慎治もわらってるのかな? それはちょっと……イヤ……
「慎治、あすかちゃんお願いね。」
「うん、わかったよ」
もし、慎治が笑っていたら? そしたら、ひっぱたいてやるんだから。「人の失敗を笑うなんて最低」って言って。でも……わたし、よく慎治を「ドジね」って言って笑ってた。でも、慎治には笑われたくないよ。
あすかはもう一度、目を開けた。
し、慎治、もう、顔近すぎ!
再びあすかは真っ赤になってしまった。
「あすか、大丈夫? また、顔赤くなったよ?」
誰のせいだと思ってるのよ?
でも、慎治、まじめな顔をしてる。笑ってなかったのかな?
「慎治」
「ん?、何?」
「慎治、笑わなかった?」
「笑う?笑うって何を?」
「ううん、なんでもない。笑ってなかったらそれでいいの」
「ふぅん、へんなの」
慎治の顔がこんなに近く……顔がこんなに近くにあると、しゃべっているだけで、なんか変な感じ。くすぐったいような、ドキドキするような、うっとりするような、でも、逃げたいような……
「あれ?あすか、また顔が赤くなった。本当に大丈夫?」
う、うるさい。
でも、慎治、と言うことは、わたしのことが心配なのかな?
もしそうだったら……
「ねぇ、しんじ、心配した?」
「うん」
屈託なく答える慎治。
そう、そうなの……だったら……
「ねぇ、慎治」
わたし何を言うの?何を言おうとしてるの?
「何?あすか?」
あすかは慎治の瞳を見つめた。
「慎治……好きな女の子いるの?」
……言っちゃった。わたし、いっちゃった……
慎治は、あすかから目を逸らし遠いところを見た。少し考えた後、あすかに視線をもどすと、
「そういうあすかは?」
と、落ち着き払って言った。
わ、わたし? わたしは……わたしは慎治が好き。でも、言う? いや、そんなこと言えるわけないよ。いっつも馬鹿慎治とか言っているのに…… でも、あんたは何でそんなに落ち着いているのよぉ
「わ、わたしは慎治が好き」
あれ? なんか、口が勝手に動いちゃった……でも、慎治の顔、イヤじゃないみたい。言って良かった……の……かな?
「僕はね・・・・・・」
慎治はそれだけ言うと、もう一度あすかから目を逸らして遠いところを見た。
慎治なんて言うつもりなの?わたしから目を逸らしたってことは、誰か違う人の名前を言うつもりなの? それは、それは、イヤ。
慎治はゆっくりと視線をあすかに戻した。
あすかは舌でカラカラに乾いてしまった唇を無意識に舐めた。
「僕もあすかが好き」
「ほんとう?」
「うん」
う、うれしい。本当にうれしい。
えっと、次何を言えばいいのかな?。なんか何も言えないよ。それに慎治の瞳から目が離せない。あれ?また少し慎治の顔が大きくなった。慎治の顔が近づいてくる……えっと、目を閉じておけばいいのかな?
慎治の顔がゆっくりと降りてくる。
あすかはゆっくりと目を閉じた。
しかし、その瞬間は決してやってこなかった。
「おにいちゃん」
と、言う声と、慎治があわてて身を起こした気配と、
「麗!」
と言う慎治の声に、あすかは目を開いた。
慎治に抱きついている、雪のように白い肌をしたショートカットの女の子がいる。
もう、いいところだったのに……
そう思いながらあすかはのそのそと体を起こした。
「麗、どうしてここに?」
慎治が真っ赤になりながら聞いた。
くすっ、慎治、顔が真っ赤。
「ん?」
麗は目をくりっと動かしながら、子猫のように笑った。
「おかあさんがね、ここにくるとおもしろいものが見れるからって」
「おかあさんが?」
「うん。おかげで面白かったよ。ね、おにいちゃん。あすかちゃん」
と、今度は小悪魔のように笑って、あすかと慎治を見つめた。
慎治とあすかは真っ赤になってしまった。
もう! 麗はいっつも邪魔するんだから!
慎治と二人で学校から帰ろうとするときも、慎治と二人で勉強使用とする時も……今日だって、慎治と勉強しようとしたのに、麗が部屋から出てくるから……
ん?
麗?
どっかで聞いた名前ね。え?そりゃあ、きいたことあるはずよ。くるくるよく変わる表情と、ちょっと茶色かかったショートカットの髪の毛を持った、わたしと同じ第三新東京市立朝日小学校四年二組でクラスメイト。で、慎治の双子の妹じゃないの。なんで、どっかで聞いた名前なんて思ったのかしら? 最初から慎治と一緒に知っているわよ。
それで、小学四年の秋に、慎治のお父さんとお母さんが離婚して、麗はおばさまについて、アメリカに渡ったんだわ。それから、慎治落ち込んで、かなり、うじうじしてたっけ。それで、おばさまは旧姓に戻って……確か綾波だった……
あれ?、変よ。わたしは小学四年生。で、今は夏休みのはず。なんで、小学四年の秋のことなんて知ってるの?
絶対変。
それに、麗はおばさまの性になったんだから、麗の名前は綾波……麗ってことか。
綾波麗!
え? わたし知ってるじゃないの。麗を。そう、知ってる。慎治の妹。
と、言うことは、麗にやきもちを妬くなんて、馬鹿じゃないの。妬く必要なんてまったくないじゃないの。麗!私が忘れているのを知ってからかってたのね。
ゆるさない!
それに、私は市立朝日小学四年の惣流あすかじゃない。桜都学園三年の惣流あすかよ。
「麗!」
<つづく>
管理人(その他)のコメント
カヲル「だばだばだば」
ミサト「あら、何を涙ながしているの?」
カヲル「ああ、シンジ君! 僕は悲しいよ! いくら小学校時代に僕のようなすてきな相手に巡り会っていないからと言って、よりにもよってアスカ君に告白だなんて!」
ミサト「あっら〜ぜんぜんいいじゃない。子供同士のほほえましい光景じゃない〜お姉さん、みていてほのぼのしちゃうわ」
カヲル「相手が問題なんだよ相手が。アスカ君だったら十年以上前の約束だってどこからか引っぱり出してきてその履行を迫るくらい執念深いんだ。それをよりにもよって好きだ、なんて言ってしまって・・・ああ、シンジ君はこれから悪魔のような攻撃にたえなければならないんだ〜!!」
ミサト「悪魔って・・・」
カヲル「ああ、僕とシンジ君の間の愛には、障害が多すぎる! こんなにも愛し合っている二人を引き裂こうなどと、この世には神はいないのか!」
どかっ!!
アスカ「神がいるから、そういうイカれたアンタを滅ぼそうとしているんでしょう! そもそもアンタとシンジの、どこが愛し合っているというのよ!」
カヲル「ふっ、君たち凡人には分からないかもしれないがぐはぁっ!!」
げしげしげし!!
アスカ「アンタは1人で高尚な世界に行ってなさいっ!!」
ミサト「ふっ、シンジ君を巡って二人の男女が争うなんて、シンジ君も罪な男よね〜」
アスカ「笑ってる場合じゃないでしょ!」
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