新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第五話<混への序曲>


 ついに切れたアスカは実力行使に及ぶ。
「あ、アスカ、耳ひっぱんないでよ。痛いよ」
「うるさいわねぇ。バカシンジ!」
 ああ・・・・、なぁんて、おもしろいのかしら。まったく、レイとアスカの争いと 思っていたけど、カヲルという伏兵がでてくるとはねぇ。あぁ、ビールが美味しすぎ る! まったく、リツコにも見せてやりたいわ。
 ・・・・もう、何も言えない。
「アスカさん、暴力はいけないよ」
「あんたには、かんけいないわ!」
 その言葉を聞くと、カヲルはにやっと笑った。
「まるで、シンジ君は自分のものだみたいな発言だね」
「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そんなわけないでしょ」
 な、な、な、な、な、な、なにをいうのよ!
「そう?」
「そうよ!」
「じゃぁ、僕が何しようと、君には関係ないんじゃないの?」
「なんですってぇ!」
「あ、アスカもカヲル君もやめてよぉ。せっかくの夕食なのに・・・・」
 へぇ〜、シンちゃんが自分から意見を言った・・・・。めっずらっしわねん。やっ ぱり成長している証かしら? いいわねぇ、子供達の成長を見ることができるのは。 って、あたしはまだ、そんなに老け込む年ではなかったわ。
 シンジ! やめてよぉ、ですってぇ? あんた、あたしが何で怒っているのかわか ってないでしょ!?
 ・・・・アスカちゃん、君にはわかってるの?
「そうだね。そのシンジ君の優しい心に免じて・・・・」
 カヲルはそう言ってシンジの右手を取った。
「もうやめるよ・・・・チュッ」
 カヲルはその右手にキスをした。
「あぁぁぁっ」
 と、声をあげたのはアスカ。
「何? 君は関係ないんでしょ?」
「・・・・」
 そうよ。あたしには関係ないことよ。シンジがホモであろうと、なんであろうと。 シンジが誰を見ていようが、どうしようが。そう、関係ないわ!
「もう、勝手にすれば!」
 それだけ言うと、アスカは猛然と夕御飯をかき込み始めた。ほとんど自棄食い状態 である。
「あ、アスカ、そんなに急いで食べたら・・・・」
「なによ、バカシンジには関係ないことよ! ふんだ! ごちそうさま!」
 そういって、アスカは席をたってしまった。


 夕食は本当に美味しかった。ミサトにとっては、あらゆる意味でつまみがそろって いたため、普段より特にビールが美味しかったようである。
 デザートの梨も丁度良い熟れごろで、本当に美味しかった。アスカは二度にわたる シンジの無視(シンジはそう言うつもりはなかったのであるが)によって、まだ拗ね ていた。が、美味しいものには目のないアスカのこと、抜け目なく自らの割り当て分 はきちんと食べていた。
 しかし、今のシンジに、機嫌の悪いアスカに声をかける事などできるはずもなく、
「じゃぁ、僕、お風呂の準備をしてくるから」
 と、言うのがやっとだった。
 そして、今、シンジがカヲルをお風呂に案内している。
「洗濯物は、ここ、バスタオルはここに置いておくね」
 そう言った、シンジの声と同時に
「ありがとうシンジ君。親切だね」
 と、いったカヲルの声も聞こえてくる。
 カヲルの声が聞こえてくるたびに、アスカの眉がつり上がる。
 どうして、どうして、あんな、カヲルなんかにシンジが・・・・
 だが、このような不機嫌なアスカにシンジは近づくことができない。
 それが故に、いよいよカヲルとシンジが近づいてしまう。そして、さらにアスカの 機嫌が悪くなるという悪循環ができてしまっていた。だが、アスカ本人にはどうにも できなかった。エヴァに乗るために良い子を演じてきたアスカにとっては、このよう な感情は初めてで、もてあましていたのだった。
 一方、そういう年少者を見て助言を与えるべき年長者であるミサトさんは・・・・ 、
 うーん、これからどうなるのかしら? 楽しみぃ!
 と、無責任に打ち興じていたのだった。
 そんなミサトに、苛立ちの吐け口を探していたアスカはかみついた。
「ミサト、楽しそうね」
 アスカは、不満が滲み出たような声で言って、ミサトをにらんだ。
「ん? そう?」
 と、言いながら、ミサトはまた新しいビールの缶に手をのばした。
 プルトップを開けて、いきおい良く、ビールを喉奥に流し込む。
「アスカの思い過ごしよぉ」
 そうは言ったが顔はにやけていた。
「・・・・」
 アスカはミサトを睨みつづけている。
「じゃぁ、アスカちゃんは何で、機嫌が悪いのかなぁ?」
 ミサトは楽しそうに訊いた。
「アスカちゃんですって、気持ち悪い。やめてよ、ミサト」
「答になってませぇん。何で機嫌が悪いの?」
「別に機嫌なんて悪くないわ」
「そうかなぁ?」
「そうよ」
「じゃぁ、なんで、あたしをそんなに睨んでいるの?」
「ミサトの気のせいよ」
 そうかなぁ? 絶対そうじゃないんだけど、アスカちゃん、素直じゃないからなぁ 。正面から聞いても、絶対に答えないでしょうね。
 どうしよう?
 そうだ! アスカって、頭が良い割には、結構簡単な罠に引っかかったりするから ・・・・、ちょっとこれを試してみようかな?
「そうかなぁ・・・・、あ、カヲルくんとシンちゃんが・・・・」
 ミサトは大きく目を見開いて、アスカの後ろを指さした。
「あぁー!」
 ミサトが硬直している。少なくともアスカにはそう見えた。
「なんですって!?」
 いきなり立ち上がって、後ろを振り向くアスカ。
 だが、そこにはシンジしかいない。
「どうしたの、アスカ? いきなり立ち上がっちゃってさ・・・・。カヲルくんなら 、風呂に入ったところだよ」
「そんなこと、聞いてないわ。あんたはさっさと台所で片付けをしなさいよ」
 それだけをシンジにたたきつけるように言った。シンジはため息を一つついて、す ごすごと流しに向かう。それを確認すると、憤然とミサトに振り向いた。
「どういうつも・・・・!?」
 アスカが最後まで喋れなかったのは、ミサトのいやらしい目つきと、にやけた笑み を浮かべた口元を見たためであった。
「ほらね・・・・」
 ミサトは敢えて、言葉を最後まで言わなかったが、アスカの心にははっきりと聞こ えた。「ほらね、気になるんじゃない」と。
 アスカは一瞬で真赤になってしまった。
 うそ!? わたし、シンジのことが気になっているの? あんなにださくて、すぐ うじうじと悩んで、ハッキリしなくて、決断力がなくて・・・・、そりゃ、ちょっと はかっこいいし、笑顔はそれなりにいいと思うし、料理は上手だし、やさしいし・・ ・・、チェロも上手だし、エヴァでの戦闘でも助けてもらったことはあるし、でも、 でも、でも・・・・、こんなやつ・・・・。
 アスカが少し視線を上げると、すぐさまミサトと目があってしまった。
 ミサトの目はいよいよ、いやらしくなっている。
 その目に、アスカは憤然とした。
「違うわよ、それは! シンジにホモが近づいたら困るから! それだけよ!」
「へぇ〜、じゃぁ、何で、シンちゃんにホモが近づいたら困るの?」
「そ、それは・・・・」
 また、そこで詰まってしまうアスカ。
 ミサトは目だけでなく、口元までにやにやしている。
「な、なによ! それで、わたしの秘密を握ったと思わないでよ」
 あぁ、もう、まだまだ、子供ねぇ。不用意に秘密なんて言葉なんか、使っちゃって ・・・・。もう、完全にバレバレよね。どうしよっかなぁ? 言っちゃおうかなぁ?  でも、今日はこれくらいで勘弁しといてやるか?
「あたし知っているのよ。ミサトの秘密」
 なぁんですってぇ?
「あら、ミサト、ちょっと真剣になったわね」
 あたしの秘密? 何かしら、あれ? あれ? それとも、あれ? まさか、あれだ ったりして・・・・。あれだったとしたら、ちょっちまずいわねぇ。でも、まさかそ んなわけないから・・・・。
 アスカ、主導権が取り戻せそうでいい気になっているわね。いいじゃないの。受け てたってやるわ。
「何? お姉さんに言ってごらん」
「ミサト、頬が引きつっているわよ」
 うるさいわねぇ
「ほんとぉぉぉに、言っていいのね」
「言ってごらん」
「これなぁぁんだ?」
 アスカがそう言って差し出したものは・・・・
「なんで、あんたがそんなもの持っているのよぉ!?」
 それは、ミサトが隠し持っていたシンジの生写真一覧であった。制服から体操服、 セミヌード、授業中から、寝姿、寝起きまで、ありとあらゆる種類がそろっている。
「まぁったく、ホントにミサトがショタだったなんてねぇ」
 しかし、ミサトはふてくされたように言った。
「それがぁ?」
「え?」
 ミサトの予想外の反応に戸惑うアスカ。
「え? じゃないでしょ。シンジに言うわよ」
「言えばぁ?」
「へ?」
「そのかわり、アスカがその写真を持っていることも言うわよん」
「えぇぇぇぇ!」
「墓穴を掘ったわね。アスカ」
「こ、これは、クラスの女共に売り払うために・・・・」
「じゃぁ、どうして、アスカもその写真持ってるの?」
「そ、それは・・・・」
 アスカはうつ向いている。
「いい加減、認めなさい。シンちゃんが好きだって・・・・」
「・・・・認めない・・・・」
 アスカは小声で呟いた。
「え? 何?」
「認めないわ。何もかも。ぜっったい認めないわ! それに、このこと、加持さんに もリツコさんにも誰にも言いふらしてやる」
「なんですってぇ!」
 加持なんかはどうでも良いけど、リツコに知られるのはちょっち、いや、かなりま ずい。リツコ、シンちゃんの写真ほしがってたし、でも、あたしが独占するために一 枚もあげてないし、しかも、リツコ、執念深いから・・・・。この前なんか・・・・ 、あぁっ、思い出したくない!
「ようやく、真剣になったわね。ミサト」
「アスカ、もう、許さない・・・・」
 ミサトは手を震わせてそう言った。
「へぇ、どう許さないの? 見せてもらおうじゃないの」
「あんたみたいに素直じゃない女の子には・・・・」
 ミサトはそれだけ言うと、右手を高く上げた
「むぅぅん、ぷりずむぱわぁ、めぇいくあぁぁぁぷ!」
 ミサトの体が閃光に包まれると、衣装が変わっていた。超ミニでタイトなセーラー 服を身に付けている。
「せぇらぁふくびしょぉじょせんし、せぇらぁむぅぅん」
 そう言って、ポーズを取る。
「つきにかわってぇ・・・・」
 右手でアスカを指さす。
「おしおきよ!」
 一瞬以上、アスカは唖然としていたが、気を取り直して言った。
「み、ミサト・・・・」
「違うわ。今のあたしはセーラームーンよ」
「この銀水晶の力であなたの心を素直にしてあげる」
 そう言って、ムーンスティックをかまえた。
「あんた何歳?」
「十四歳よ!」
「嘘をおっしゃい!」
「嘘じゃないわ。今のあたしは十四歳だもの。そんなことより、いくわよぉ」
 セーラームーンことミサトはムーンスティックを高く掲げた。
「むぅぅんひぃりぃんぐぅぅぅ、えすかれぇぇえいしょぉぉん」
 ムーンスティックによって描かれた満月からほとばしる光がアスカを包み込む。
 いったいこの光は何? ちょっと、このままじゃ・・・・やばい。
「ミサト! あたしだって愛天使。見くびらないでよ!」
 そう言って、アスカはブレスレッドをはめた手を高く掲げた。
「うえでぃぃぃんぐあとらくてぃぶふらわぁぁぁぁぁあ!」
 その瞬間、セントバンデュールからほとばしった眩い光にアスカは包まれた。光が 晴れると、そこにはウェディングドレスに身を包んだアスカがいた。
「なぁに、それ、アスカ。そんなドレスを着て戦うというの?」
「違うわ。今のあたしはエンジェルデイジー。それに、これで終わりじゃない。見な さい!」
「うぇでぃんぐおいろなおし! えんじぇるくらぁぁぁぁじゅでいじぃぃぃい!」
 そしてまた、光に包まれた。光がはれると、ミサトに負けず劣らずタイトな衣装に 包まれたエンジェルデイジーことアスカがいた。
 そして、決め台詞を放つ。
「デイジーは無邪気な心の象徴だ。邪悪な風なんて吹き飛ばしてやるぜ!」
「あたしが邪悪だって言うの?」
「年増で色魔でショタなくせに自覚がないなんて、ほぉぉんと困ったオバサンだわ」
「なんですってぇ! オバサン!? それに自分が誰を愛しているかを認めないくせ に、愛天使とは笑わせるわ!」
「なんですってぇ!」
「それはこっちのせりふよ!」
 ミサトとアスカはにらみ合う。だが、その平衡状態は短かった。
「許さない!」
「許さない!」
 二人同時に叫ぶ。
 そして、技を繰り出すのも同時。
「せんとばんでゅぅぅる・でいじぃ・ぶりざぁぁぁど!」
「むぅぅぅんてぃあらぁぁ・・・・・・あくしょぉぉぉぉん!」
 二人の技の衝撃で、轟音とともに、マンションの窓ガラスは割れ、照明は壊れ、テ ーブルは碎け散った。ようやくこれで、鈍いシンジは二人の有り様に気づいた。
「ア、アスカ、それに、ミサトさん、どうしたんです。いったい?」
 シンジはすっかりおろおろして聞く。
「違うわ!」
「違うわ!」
「今のあたしは・・・・」
「今のあたしは・・・・」
「セーラームーンよ」
「エンジェルデイジーよ」
 シンジにはまったく理解不能の内容だった。
 だが、もっとも巨大な衝撃は浴室の扉を開けてやってきた。
 その時、浴室から出てきた人は・・・・
                      <つづく>


次回予告
セーラームーンに変身したミサト
愛天使と名乗ったアスカ
そして、ついにあの少女が登場する
三つ巴の争いの中、明らかにされる
補完計画とゼーレのシナリオ
はたして、真実を知るのは誰か?

次回
新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
最終話<時の中で真実を知った


秋良つかささんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

カヲル 「『せーらーむーん』とはなにかな?」

アスカ 「そ、それはねぇ・・・・」

ケンスケ「わったしにお任せ下さい!! セーラームーンとはセカンドインパクト前の一九九〇年代、日本を中心に大ヒットしたアニメーションで、海を越えてアメリカでさえもヒットを記録したという・・・」

カヲル 「で、それになぜ葛城ミサトが変身するのかな?」

ケンスケ「それはもちろんぐはああっ!!」

 ばきいっ!!

アスカ 「それを言っちゃあアタシたちの存在意義に関わるから却下よ!!」

カヲル 「まあそれはいいとして、ではなぜアスカ君が「うえでぃんぐぴーち」とやらに? そもそもそのアニメは何かな?」

アスカ 「さ、さあ、なんででしょうね・・・・ケ、ケンスケにでも聞いてみたら?」

カヲル 「・・・・自分で殴って気絶させたくせに・・・・」


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