新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第四話<苛立ちのアスカ


 その時、車が信号で停まった。そこは、いつも行くスーパー の真前の信号であった。
「か、カヲル君、ぼ、僕、ゆ、夕御飯の材料買ってくるね」
 シンジはそう言って、ドアを開けて、車から降りてしまった。シンジにしては、素 早い行動である。落胆した人が二人、安堵した人が一人、誰が誰であるか、今さら言 う必要はあるまい。
 なお、スーパーからマンションまでの道のりは、アスカの願いにより席が変更され た。助手席にシンジ、後部にアスカとカヲルという席割りである。
 最初、アスカはカヲルを助手席に乗せようとした。しかし、シンジが助手席に座る ことになったのは、
「やっぱり、シンジ君と並んで座りたいんだね」
 と、カヲルに言われ、
「違うわよ!」
 と反射的に答えてしまったためである。アスカが何となく不機嫌だったのも言うま でもない。


 ミサトのマンションに帰ってきた四人は思い思いの行動を取り始めた。シンジは先 ほど寄ったスーパーで買った材料を使って、夕食を作りはじめ、アスカはスナック菓 子を食べながら、テレビを見ている。ミサトは当然の事ながら、さっそくプルトップ をあけ、ビールを喉の奥に流し込み始めている。
「かぁぁぁぁ! やっぱり、労働の後の一杯は最高よねぇ!」
 そして、カヲルは・・・・、
「シンジ君、何か手伝うことないかな?」
 あいかわらず、シンジにまとわりついていた。
「カヲル君・・・・。カヲル君はお客様だから座っててよ」
「そう・・・・。でも、僕、シンジ君を手伝いたいんだよ」
「そう・・・・なの・・・・」
「シンちゃぁん、手伝ってもらったらぁ? カヲル君がそうしたいって言っているん だからさぁ」
 そう、声をかけたミサトは、既に二本目のビールを飲み始めている。
「ありがとう、ミサトさん。さぁ、シンジ君、何でも言ってくれよ」
「そうだなぁ・・・・、じゃぁ、これで、ここにおいてある玉ねぎをスライスしてよ 」
「わかった」
「ちょっと、見てて・・・・、こうやってやるんだよ」
「うん、よくわかったよ。シンジ君、教え方、上手だね」
「カヲル君・・・・」
 また、シンジは赤くなってしまった。その時、
「シンジ!」
 という声がした。
「どうしたの? アスカ」
 どうしたも、こうしたもないわよ。まったく!
「あ、あたしも手伝うことない?」
「へぇ、アスカ、珍しいね。どうしたの? 普段は全然手伝わないのに。それに、今 は見たいテレビ番組があるって言ってなかったけ?」
 う、うるさいわねぇ。
「いいでしょ、どうでも。なんか、ないの?」
「そうだねぇ、だったら、皿を並べてよ。そこの戸棚から」
 なんですってぇ? 渚が食材の調理で、あたしは皿ならべぇ? それって、あたし の方が能力がないってことなのかしらぁ? こんな男に負けているってこと?
「どうしたの? アスカ」
「ん? うん? 皿並べね。わかったわ」
 しょ、しょうがないわねぇ。たまたま、今回は巡りあわせが悪かったのよ。そ、そ うに決まっているわ。
「カヲル君、指、気をつけてね」
「ありがとう、シンジ君。心配してくれるんだね」
 シンジ、こんな男を心配しているの? あたしには今まで優しい言葉をかけてくれ たことすらないのにぃ!
「シンジ、終わったわよ」
「シンジ君、終わったよ、次は?」
「カヲル君、手際いいんだね」
「そうかい?」
「うん」
「僕、料理は得意なんだ」
「そうみたいだね。じゃぁ、その人参もお願い。かきあげを作るから、わかるでしょ 」
「うん、わかった」
 シンジとカヲルの会話を聞いて、かやの外におかれたアスカの眉はまたもやつり上 がっていた。
 いったい、あんたたち、何の話をしてるのよ。どうして、「わかるでしょ」だけで わかるのよ! あたしにはわからないわよ!
「シンジ!」
「あぁ、アスカ。まだ、手伝う?」
 な、な、なんですってぇ! 「あぁ、アスカ」「まだ、手伝う?」ですってぇ?  あ、あたしを何だと思ってんのよぉ、あんたはぁ。
 アスカの右手が小刻みにふるえ始めた。
「じゃぁ、箸並べてよ」
 は、はし? あたしはそれだけの存在なの?
「バカシンジ! もう知らない!」
 それだけ言うと、アスカはシンジ達に背を向けて、台所から立ち去ってしまった。
「へ? いきなり、どうしたんだろう、アスカは・・・・」
「彼女も複雑なんだよ」
「え? カヲル君はわかるの」
「まぁ、それなりにね」
「へぇ!?」
「さぁ、シンジ君、とりあえず、あと、作ってしまおう」
「そうだね」
 二人はアスカの態度を余り気にしていないかのように、楽しく料理を作り始めた。
 一方のアスカは・・・・、
 シンジぃ、あんたにとってあたしってなんなのよ! あたしが傷ついてもどうでも いいわけぇ? もぉ、本当に知らない。
 ・・・・アスカちゃん、自分が何を言っているのかわかってる?
「あぁすかちゃぁん」
 そのアスカにミサトが声をかけた。
「なによ、ミサト」
「なぁに、いじけてんの?」
 まったく、外から見てて、バレバレなのよねぇ。もう、シンジにかまってほしい、 気にかけて欲しいって言う態度が見え見え。でも、アスカちゃんは自分の気持ちには 気づいてないみたいねぇ。本当ぉに、可愛いんだからぁ。もう! いじめたくなっち ゃう!
「あたしがぁ? 別に何にもいじけてないわよ」
 そうかしらぁ?
「じゃぁ、どこ行くの?」
「別に、テレビを見にきただけよ。スナック菓子もだしっぱなしだし」
 そう、じゃ、そう言うことにしときましょ。
「あ、そう。じゃあ、あたしにもそれ、頂戴」
「わかったわよ」
 そう言って、アスカはスナック菓子をキッチンのテーブルまで持ってきて、ミサト の前においた。
「ありがとぉ、あすかちゃん」
 だが、アスカは無言で乱暴に椅子に腰をおろした。
 このようなちょっとした騒動はあったが、シンジ、カヲル作の食事は完成した。メ ニューは「ばらずし」「サツマイモ、ニンジン、玉ねぎの細切りのかき揚げ」「かき たま汁」「レタスとトマト、玉ねぎのサラダ」・・・・。デザートとしては、去年あ たりからようやく出回るようになった梨が二つ。だが、それもまだまだ高値の花だっ たが・・・・。
「わぁ、おいしそう!」
 ミサトは感嘆の声をあげる。
「シンちゃん、さっすがねぇ」
「えっと、今日はカヲル君がかなり手伝ってくれたから」
「そんなことないよ。僕はほんの少し手伝っただけだから」
「カヲル君・・・・」
「シンジ君・・・・」
 あぁ〜! バカシンジったら、またやってる!
「ちょっと、男同士で見つめあうのやめなさいよ! 何度も言っているでしょぉ」
 まぁ、アスカちゃんたら、完全にやきもち焼いちゃってぇ、かぁわいいわねん。
 だが、ミサトは声に出してはこう言った。
「じゃ、さっそく食べましょ」
「はい」
 そう答えたのはシンジであり、
「いっただきます」
 そう言ったのは、カヲルであった。
 席はミサトの隣にカヲル、ミサトの正面にアスカ、カヲルの正面にシンジ、つまり 、アスカとシンジ、ミサトとカヲルが隣り合わせであった。
 そうして食卓は喧騒の楽章に突入することになる。だが、料理のできばえにくらべ て、箸の動きはあまりにお粗末であった。箸をつかむより、ビールの缶をつかむこと が多い人。食卓の上を忙しく動き回るが、その割には戦果が少なく、食い散らかすと いう表現がぴったりの人。悠然と自らのテリトリーを守っているようにみえるが、実 際は他の人の箸の動きに圧倒されて、食卓の隅に追いやられ、給仕を強制されている 人。そして、料理よりもシンジの方が気になる人、である。
 さて、シンジの方が気になる人であるが・・・・、さっそくシンジに話しかけてい た。
「シンジ君、このかきあげ、美味しいよ」
「そんな・・・・、カヲル君の料理の腕前が良かったからだよ」
「シンジ君の教え方が上手だったからだよ」
「カヲル君・・・・」
「シンジ君・・・・」
「あんたたちぃ!」
 男二人で、なんで盛り上がるのよ!
「このサラダも美味しいよ。玉ねぎにこんな食べ方があるなんて知らなかった」
「えっと・・・・、玉ねぎを薄切りにして、水にさらしてからサラダにすると美味し いんだ。」
「本当にそうだね。このドレッシングは特製?」
「う、うん」
「へぇ、本当に、流石だねぇ」
「そ、そんな、カヲル君・・・・」
「シンジ君・・・・」
「こらぁ!」
 ちょっとは、あたしの話をきけぇ!
「このかきたま汁も・・・・」
 カヲルは、器を持ってずずっと汁を吸った。
「やっぱり、だしが最高だね。煮干からだしを取るとやっぱり違うね。最高だよ、シ ンジ君」
「カヲル君・・・・」
「だぁかぁらぁ、いちゃつくなっていってるでしょうが!」
 アスカはかなり大きな声で叫んでいるが、一緒に料理をつくった連帯感は非常に強 いものらしい。アスカを完全に無視して、二人だけの世界をつくっている。
「で、何と言っても、このすしが最高だね。本当に美味しいよ。シンジ君」
「あ、ありがとう、カヲル君」
 カヲルは、言葉では答えず、ただ、にっこりと笑った。
「カヲル君・・・・」
「シンジ君・・・・」
「いいかげんにしろぉ!」
               <つづく>


次回予告
ついに切れたアスカは実力行使に及ぶ
そして、ミサトは仮面を脱ぎ捨てる
やがて、アスカも・・・・
はたして、シンジの運命は?
そして、未だ登場しない
エヴァ人気NO1の少女は?

次回
新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第五話<混への序曲>

次回は、さぁびす、さぁびすぅ


秋良つかささんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「破棄・破棄・抹消よ、この話は!」

カヲル「やあ、一体なにを怒っているのかな?」

アスカ「(ぎろり)・・・・何でもないわよ」

カヲル「やれやれ、つまはじきにされたひがみか・・・・」

アスカ「ぬあんですってええええ!!」

カヲル「おっと、今日は殴られないようにシンジ君を呼んでいるんだ。これ以上悪行をバラされたくなかったら・・・・」

アスカ「うぐっ・・・・」

シンジ「や、カヲル君。・・・あれ、アスカもいたんだ」

アスカ「(なによ、そのアスカ「も」、っていうのは!!」

カヲル「で、実はね、シンジ君」

シンジ「え? そ、そうなの、カヲル君」

アスカ「・・・・・・・(また仲間外れにして・・・・・)むきいいっ!!」


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