新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第二話<錯綜する想い>
「彼の名は渚カヲル」
「あらぁぁ」
ミサトは思わず声をあげた。
なかなか、かぁっこいいじゃない。いや、かなりかっこいい男の子じゃなぁい?
渋い銀色の髪に、くすんだ赤い瞳。それに白い肌。この配色は、まるで綾波レイみた
い。でもなによりいいのは、おちついた物腰のなかに妖艶さを隠し持っているかのよ
うな雰囲気。たまんないわ。
「渚カヲルです。よろしくミサトさん」
カヲルはミサトに微笑んだ。
いいわぁ、その笑顔。本当にいいわぁ。期待どおぉり。あら、そう言えば、この子
、あたしのことを「ミサトさん」って呼んだわねぇ。結構やるじゃない。
「あらぁ? いきなり名前を呼ぶなんて、さりげなく、けっこう大胆ね?」
「ミサト、あんた、何言ってるの?」
リツコはため息をつきながら言う。
「リツコさんから聞いていたんです。ミサトさんは名字よりも名前を呼んだほうが喜
ぶって」
「あ、そうなのぉ」
へぇ、リツコがそんなことを言うこともあるのねぇ。ちょっと意外だけど、まっ、
リツコも物事がわかってきたってことかしらぁ? でも、アスカとシンちゃんがどん
な顔をするか楽しみねぇ。特に男嫌いだって言っているアスカが、どんな反応をする
か楽しみぃ。早く来ないかな。
「あっ、なぁいすタイミング。アスカぁ、シンちゃぁん、こっちよぉ。ちょっといら
っしゃぁい」
「あっ、ミサトさん・・・・」
「ミサト、一体何?」
駆け寄ってきたシンジとアスカはすでに制服に着替えて、帰る準備を整えていた。
「紹介するわね・・・・」
ミサトはカヲルを紹介しようとした。だが、その前にカヲルが口をひらいていた。
「よろしく、フィフスチルドレン、渚カヲルです。君は、碇シンジ君、こちらは、二
号機パイロットの人だね」
カヲルは手を差し出しながら、にっこりと笑った。
その笑みに、一瞬以上見とれながら手を差し出されたシンジは戸惑った。
え? どうして? どうして僕の名前を知っているのかな?
だが、シンジは、カヲルがリツコさんかミサトさんに聞いたのであろうと勝手に解
釈した。
「は、はぁ・・・・。よろしく・・・・・碇シンジです」
シンジは差し出されたカヲルの手を握る。
しかし、
「あんたねぇ、どうして、シンジが名前で、あたしは、二号機のパイロットなの?」
名前で呼ばれなかったアスカは、カヲルにくってかかった。
それに、フィフスチルドレンですってぇ? 世界に冠たる天才、この私惣流・アス
カ・ラングレーの他に、エヴァの操縦者の資格を持っている人がまだ四人もいるのぉ
? その内、二人は優等生とバカシンジだけど。
「ちゃんと知っているよ、惣流・アスカ・ラングレーさんだろ」
「えっ?」
「よろしく」
ニッコリ笑って、カヲルはアスカの手を握った。アスカもその笑みに一瞬以上、見
とれてしまう。
だが、
「ちょっとぉ、勝手に人の手、握らないでよ」
そう言って、カヲルの手を振り払った。
「ハハ、ごめん、ごめん」
なによ、こいつ。あたしともあろう者が、見とれてしまったじゃない。でも、人間
は外見だけじゃない。実力もきちんと備わってないとダメなんだから。そう、あたし
みたいに。こいつ、外見はまぁ合格だけど、実力あるんでしょうね!? フィフスチ
ルドレンに選ばれるくらいだから、少しはあるんでしょうけど。でも、バカシンジみ
たいなチルドレンもいることだし、ちゃんとあたしの目で確認しないと、なんとも言
えないか?。でも、こいつ、何かやだな。
しかし、カヲルはそんなアスカの思いに気づいた様子もなく、明るくシンジに話し
かけていた。
「ところで、シンジ君。あっ、シンジ君って呼んでいいかい?」
「うん、いいよ。え、えっと、渚君」
「シンジ君・・・・」
カヲルはものすごく残念そうに呟いた。
「?」
え? どうして、カヲル君、落ち込んだ顔をしたのかな。僕、なんか傷つけるよう
なこと言ったかな?
シンジは不安になる。
「・・・・僕のことはカヲル君て名前で呼んでほしいな」
「えっ?」
そんなことで落ち込んだの? でも、名前で呼ぶなんて、なんか、ちょっと、恥ず
かしいな。それに・・・・まだ会ったばかりだし・・・・
悩んでいると、カヲルが捨てられた子犬のような目をしているのがシンジの目に入
った。
そ、そんな目でみないでよ。僕が渚君を傷つけている感じがするから・・・・。だ
から、えっと、名前で呼べばいいの・・・・かな・・・・?
「あっ、えっと、いいよ。そうするよ。えっと・・・・、か、カヲル君」
カヲルは名前で呼ばれたとたんに、にっこりと笑った。シンジは鼓動が高鳴るのを
感じた。
ど、どうしたんだろう僕は・・・・。こんな初対面な男の人に・・・・。
「うーん、いいねぇ、名前で呼ばれるのは・・・・」
だが、カヲルはシンジの思いも知らぬげに喜んでいた。
「あんた、ばかぁ? 西洋ではファーストネームで呼びあうのは当たり前のことじゃ
ない。そんなことで感動しないでよ!」
なんで、たかがそんなことで感動する奴がフィフスチルドレンなの? 本当に実力
あるんでしょうねぇ? バカシンジみたいに何の訓練もなくエヴァに乗ったような奴
だったら、許さないんだから。でも、まぁ、どんなに実力があってもあたしにはかな
わないでしょうけど。なんてったって、あたしは愛天・・・・なんだから。
カヲルはアスカの方に向き直った。
「そうだけど、アスカさん。ここは日本だし、それに、初対面の人に馬鹿は失礼だよ
」
それだけ言うと、カヲルはアスカを無視するかのように背を向けた。
「う・・・・」
アスカはカヲルの静かな物腰にとまどってしまった。
なによ、この男は。やりにくいわねぇ。
カヲルは、もう一度シンジに話しかけた。
「シンジ君・・・・」
それだけ言ってカヲルはシンジの両手を取る。その両手を自らの手で包み込むよう
にして、胸の辺りまで持ち上げた。
「お願いがあるんだけどな・・・・」
カヲル君の瞳って綺麗だな。それに、どこかで見たことがあるような気がする・・
・・。赤みがかった神秘的な瞳。そうか、綾波の瞳に似ているんだ・・・・。
「な、何?」
あら、シンちゃん、赤くなってる・・・・。めずらしいわね。シンちゃんが表情を
表に出すなんて・・・・。
シンジぃ、あんたねぇ、なんで、男に手を握られただけで赤くなるの? あたしと
キスしたときも赤くならなかったじゃない。それなのに、どうして? どうしてぇ?
「僕と・・・・」
カヲルは徐々にシンジに近寄っていく。
シンジはそれに押されたようにジリジリと後ろにさがる。
カヲルはシンジの目を見つめた。シンジは、あわてて目をそらす。
「!」
アスカの眉がつりあがる。
シンジぃ、あんた、あんた、あんたねぇ・・・・。それに、渚カヲル、あんた、い
ったい、何するつもり?
「友達になってくれないかい?」
ほっ
えっ? 今のあたし? 何、安心したような声をしてんのよ? こんなバカシンジ
のこと心配する必要まったくないはずなのに・・・・
一方のシンジはあいかわらず目を逸らしたまま、
「え? あっと・・・・」
と、意味不明の音声を発した。
友達? ど、どういうこと? 初めて会ったばかりなのに・・・・。お互いにまだ
何も知らないのに・・・・。
「ダメなのかい?」
カヲルは心配そうな表情と声で聞いた。
「そ、そんなことないよ」
シンジは条件反射的にそう答えた。
「じゃぁ? 友達になってくれる?」
カヲルは、またもや花が咲いたかのような明るい笑みを浮かべて言った。
その笑みに心奪われて、シンジはまたもや言葉に詰まった。が、何とか、
「う、うん。いいよ。」
と言った。
でも・・・・、本当に僕なんかで良いのかな? でも、そう言わないと、また、カ
ヲル君を傷つけてしまいそうだし・・・・。
シンジが考えていると、
「ありがとう、シンジ君」
カヲルはシンジに抱き付いていた。
「うっ、わぁっ・・・・」
ちょ、ちょっと、そんなこといきなりされたら・・・・。それに、み、ミサトさん
やリツコさん、アスカも見ているし・・・・。は、はずかしいよ。
「ちょっとぉ、あんたたち、男同士で何やってんのよ!?」
こぶしを握りしめてアスカが叫ぶ。
ちょっとカヲル、シンジから離れなさいよ。シンジもシンジよ。ちょっとは抵抗し
なさいよ。
「別に、友情を確かめあっているだけだよ。それに、西洋では、抱擁することは同性
でもあたり前のことじゃなかった?」
しかし、カヲルはあくまで冷静にアスカの言葉を受け流す。
「な、なんですってぇ・・・・。こ、ここは日本よ!」
「ふーん・・・・」
カヲルは興味深げにアスカを見た。
「なによぉ・・・・」
あたし、あんた嫌いだわ。特にその目が。すべてを見すかしたようなその目が。あ
んた、何様のつもりぃ? そうか、わかった。あんたの目、ファーストの目にそっく
り。色といい、雰囲気といい、あのいけすかないファーストチルドレンに。
「アスカさん、わかったよ」
カヲルはシンジから体を離した。
「・・・・」
なぁにが、「わかったよ」ですってぇ? あんたに何がわかったて言うのよ。何が
わかるって言うのよ? あたしの何がわかるって言うのよ。ファーストと同じで、世
界のすべてがわかっているかの言葉。そんな優等生の言葉、大っ嫌い。
「あら、アスカ、何、怒ってんの?」
「別に怒ってなんかない!」
勢いよく髪を揺らしてアスカは振り向くと、ミサトに言葉をたたきつける。
「ほんとうぉ?」
そうかなぁ? 確かに今日のアスカはちょっと変なんだけど。まぁ、シンちゃんが
絡んでいるからしかたないかぁ。しっかし、しんちゃんもカヲル君のアタックはまん
ざらでもないみたいね。アスカ大ピぃンチ。でも、今日はうちでお泊まりだから・・
・・一晩中・・・・、うぅっ、楽しい世界が待っているかもしれない。
「そうよ!」
髪を揺らしてアスカが叫ぶ。
そう、あたしがバカシンジや優等生とかのことで、怒ったり悩んだりするはずない
でしょ。特にひ弱で内罰的で実力もないバカシンジのことで!
「そう、なら、いいわ。じゃ、三人とも、さっそく行くわよ」
まぁ、それに、アスカがどうしても素直にならないとしたら、あたしには・・・・
があるし・・・・。
「え? 行くってどこにいくの?」
それに、三人ともって、どういうこと? まさか、このカヲルって奴と一緒に帰る
ってことじゃないでしょうねぇ。
「あれ? アスカ達には言ってなかったけぇ? 今日はカヲル君がうちにお泊まりに
くるのよ」
「え?」
「なんですってぇ?」
<つづく>
次回予告
ミサトの爆弾発言と
あまりに素直なカヲルの言動に
シンジは戸惑い
アスカは焦る
カヲルを含めた四人は何処へ向かうのか?
次回
新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第三話<カヲルとシンジ、そして>
次回も、さぁびす、さぁびすぅ
管理人(その他)のコメント
カヲル「ふるふるふるふるふるっ」
アスカ「・・・・何感涙にむせび泣いてるの?」
カヲル「こ、こんなうれしいことはないっ! ぼ、僕がシンジ君と抱擁までしてっ!」
アスカ「・・・・西洋では抱擁はスキンシップの一つ、とか言ったのはアンタでしょうが」
カヲル「その意味で使えば、だろう? 僕のシンジ君への抱擁は愛情の印なのさ」
アスカ「・・・・アタシをだましたって訳?」
カヲル「友情はいずれ愛情へと変わる。そういうことさ」
アスカ「それを騙したって言うのよ!」
げしいいいいっ!!
カヲル「ううっ・・・・シンジ君の暖かみが手の中に感じられるよ・・・・がくっ」
アスカ「アンタ、つくづく変態ね」
カヲル「ぴくぴくぴく・・・・」
続きを読む
前に戻る
店の入り口へ