新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第一話<フィフスチル ドレン>


「・・・・」
「どうしたんですか? 先輩。司令室を出てからずっと黙ったままですよ」
 そう心配そうに聞いてきたのは、短く刈った黒髪と美しい黒瞳の童顔の女性。伊吹 マヤである。
「あっ、何でもないのよ」
 と、答えたのは、赤木リツコ。東方の三賢者の一人と言われた、故赤木ナオコ博士 の一人娘にして、ネルフの研究開発部門の総責任者である。金色に染めた髪と泣きほ くろが艶っぽい三十才、独身。整った顔立ちと肩書きに、見合い等の縁談にまつわる 話は数多い。しかし、リツコは相手に会おうともせず、すべての話を断っている、と いう噂である。意中の人がいるという噂もあるが、定かではない。そのため、恋多き 女性と言われる作戦本部長葛城ミサトと並んで噂話の恰好の対象となっている。だが 、リツコ自身はそれらすべての噂を冷淡に受け流し、自らの職務を全うしていた。
 そのリツコが、マヤに心配されるほど珍しくぼんやりしていたのは、先ほどの司令 への定期報告における会話に原因があった。
 あれは、いったい何だったのかしら・・・・?


 先程、リツコは司令室に行っていた。
 インターホンで来訪を告げる。
「入りたまえ」
 低く落ちついた声がした。同時に、左右に扉が開く。
「失礼します」
 そう言って、司令室に一歩踏み出す。その瞬間、めまいのようなものに襲われた。 まるでエレベーターが動き出す時のような感じ。それは、司令室に入ろうとすると、 いつも感じるものだった。原因としては、碇ゲンドウ司令に会うという心理的圧迫と 、黄昏の色である紫を基調とした司令室の薄暗い雰囲気による心理的影響が主要因で あると、リツコは考えていた。
 まっすぐ執務机の前までいき、報告書を取り出して広げる。ゲンドウは、いつも通 り顔の下半分を隠すかのようにして机に頬杖をついていた。
 その時、右隣に人が立っているような気がした。
 思わず首を巡らせて確認をする。だが、誰もいない。
 そうよね。この司令室に出入りする人は、司令と副司令、それと私くらいなもの。 冬月副司令がセントラルドグマに行っている以上、ここには私と司令しかいないはず ・・・・。ちょっと疲れてるのかしら?
「報告を聞こう」
 ゲンドウの声で、リツコは我にかえった。
「はい。ハーモニクス試験の結果は良好です。ファースト、サード共に問題ありませ ん。ただ、セカンドには最近、深層心理での揺らぎが見うけられます。引き続き、カ ウンセリングを続けたいと思います」
「ダミープラグは?」
「まだ、時間がかかりそうです。システム2−6とプロジェクトA−Vの遅れが響い ています」
「それについては、委員会にも報告してある。間もなく状況は改善されるだろう。と ころで、補完計画についてだが・・・・」
 ゲンドウはリツコの右隣に人がいるかのような視線を向けると、ニヤリと笑った。
 司令?
「システム1001を起動しておいてくれ」
「わかりました」
 1001と、いうと、MAGIが中心になるシステムプログラム・・・・。ちょっ と忙しくなるかしら。でも、いつものことね・・・・
「他に報告するべき事はあるかね?」
「いえ、以上です。では、失礼してよろしいでしょうか?」
「ああ」
 そして、リツコはゲンドウに背を向けて扉に向けて歩き出した。だが、その時、ゲ ンドウの独り言が聞こえてきた。
「そうだ。本当にやり直すのだよ」
 え?
「彼女がこの部屋をでていったら、君は消える。ここに存在してはいけなくなるのだ からな。一つの可能性に過ぎないと言うわけだ。では、さらばだ」
 え? 何? どういうこと?
 司令、誰と話しているの?
「司令、何か、おっしゃいました?」
 リツコは既に扉を開けていたが、振り向いてゲンドウに訊ねた。
「いや、何でもない」
 ゲンドウは表情を変えずに言った。
「君は早急にシステムの準備をしてくれ」
 それは、どのような質問をも拒絶する冷たい返事であった。
「はい」
 でも、変な言葉だった・・・・司令が言われた言葉は・・・・。
 しかし、リツコは何も言わず、司令室から出ていった。
 そして、部署に戻る途中、偶然、マヤと出会い、これからの研究開発方針を話しな がら歩いていたのだった。しかし、先程のゲンドウの言葉が気になり、ついついリツ コは上の空になってしまう。
「先輩・・・・、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よ・・・・。あっ、そうそう、マヤ、システム1001を準備しておいて」
「わかりました」
「じゃぁ、忙しくなるけど、明日もお願いね」
「はい」
 嬉しそうにマヤは答えた。


 こうして、この日は過ぎ去っていった。
 そして翌日・・・・
 システム1001の起動、ハーモニクスの試験、ダミープラグの調整、対使徒用の 戦術の分析・・・・、いつもの通りに時間が流れていった。すくなくとも、一五時ま では。そしてそれは、リツコのうろたえた叫び声から始まった。
「LCLに異常発生? こ、これは、まさか、クンニーチュアン!? どういうこと ? MAGIの判断は?」
「MAGIの判断は賛成2、保留1。赤木博士の意見を肯定しています」
 オペレーターの一人が答える。
「原因は?」
「不明です。ですが、先ほど、かすかな震動を感知しています・・・・。しかし、変 です。その震動はMAGIのみが感知し、その他の計測機器、サブコンピューターは 感知していません」
「で?」
 リツコは、その先を促した。
「MAGIはその震動が原因となっている可能性を指摘しています」
「その因果関係の過程は?」
「不明です・・・・」
 そう・・・・
 それだけ聞くと、リツコは唇に指をあてて考え始めた。
 おそらく、その震動が原因だというのは、消去法の結果。事象の変化をもたらした ものが、通常の原因であるとは考えられない以上、あらゆる可能性を吟味するするこ とが必要。そして、可能性として残ったのが先ほどの震動ということか・・・・。他 の計測機器に記録されていない以上、MAGIの作動ミスということも考えられるけ ど、もし、作動ミスでなかったとしたら? そうだったとしたら、何故、MAGIの みに記録された? では、MAGIとその他の計測機器、サブコンピューターの違い は? 世代が異なるとか、人格移植であるとか、そういったソフト的な違いはあるけ ど、ハード的には同じこと。と、すると・・・・? まさか? 意味論の問題? M AGIのみに記録されることに意味があるとしたら・・・・、MAGIの目的が・・ ・・である以上、補完計画になんらかの関係が・・・・。そうすると、世界の構造自 体にも・・・・
「先輩! どうします? 非常事態警報を発令しますか?」
「マヤ・・・・」
 しかし、リツコはそれしか答えなかった。性格には、思考がまとまらず、それしか 答えられなかったというのが正しい。リツコは眉を寄せてさらに考え込んだ。
 ダメだわ。仮定の話が多すぎる。推論を先に進めようにも、可能性がありすぎる。 どうしたら? 今、手元にある事実は・・・・だけ。ということは、実験、観察等、 実証が必要ということか・・・・?
 リツコの眉間のしわがとれた。
「マヤ、これはチャンスかもしれないわ」
「チャンス、ですか?」
「そうよ。特異状況下に置ける精神行動分析の絶好のサンプルになるわ」
「サンプルですか?」
「不服?」
「いえ、そう言う訳では、ありませんけど」
「それに・・・・それだけではなくて」
「え?」
「まぁ、いいわ。マヤ、あなたには後で話すわ。推論を手伝ってもらわないといけな いから・・・・」
「は、はい」
「今はわからなくていいのよ。じゃあ、マヤ、諜報部に連絡」
 リツコは連絡内容をマヤにつげた。
「え? 先輩、それは・・・・」
「必要なことなのよ。どうしても」
「でも」
「マヤ、人間、綺麗なだけじゃ生きていけないのよ」
「・・・・先輩の言うことですから、連絡しますし、理解もします。でも、納得はで きません。」
「じゃあ、理解して連絡してちょうだい」
「わかりました」
 それだけを言って、マヤは諜報部に連絡をとった。
「なお、ここで起こった過去二十分の記録は部外秘とします。じゃ、マヤ、あとでわ たしの部屋に来てちょうだい」」
 それだけいうと、リツコは白衣をひるがえして、実験室を出ていった。ある想いを いだきながら。
 碇司令、あなたの考えていること、見届けさせていただきます。


「ミサト」
 リツコは、赤いジャケットをはおった黒髪の女性を呼び止めた。
「あ、リツコ。なぁにぃ?」
 ミサトと呼ばれた女性は、金髪の女性の方に向き直った。言うまでもなくネルフ作 戦本部長葛城ミサトである。
「あなた、今日のこれからの予定は?」
「べぇっつにぃ。今日は特になにもないわ。これから帰るつもりよ。シンちゃんとア スカといっしょに。シンちゃんとアスカの試験、終わったんでしょ?」
「ええ、今さっき。じゃ、一つお願いしていいかしら?」
「いいわよ。どんなお願い? いっしょに飲もう! とか?」
 まったく、この女は・・・・、それしか考えてないのか・・・・。一瞬、リツコの こめかみが動いた。だが、いつものことであると思いなおして、先を続けた。
「急で悪いんだけど、今日、フィフスチルドレンが到着したの」
「えぇっ? ちょっと待って。だって、フォースチルドレンは? どうしてサードか らフィフスに順番がいきなりとぶの? それに実戦で稼動できるエヴァはまだ三体し かないし、アスカもシンちゃんもレイも別に落ち度はないわよ」
「そんなことはわかっているわ」
「じゃぁ・・・・」
「これは、そういった次元の話ではないのよ」
「ふぅーん・・・・」
 ミサト、不満そうね。別にあやしんでもいいわ。でも、残念だけど、それ以上話す わけにはいかないの。
「それで、はやくこの環境に慣れてもらうために・・・・。ミサト、フィフスチルド レンを連れて、今日はミサトの家にいっしょに泊めてほしいの」
「えぇ!?」
「というわけで、これがお願い」
「そんなこと、急に言われても・・・・。ねぇ、それは作戦部への正式な要請?」
「そう受け取ってもらったほうがいいわね」
「そう・・・・。でも、何でそんな要請するの?」
「それについてはノーコメント。ただ、どうしても必要なの」
「作戦部の部長にも言えないこと?」
「そう」
「それってリツコ、虫が良すぎない?」
「わかってるわ。でも、これが最初じゃないでしょ」
 ミサトとリツコはしばらく睨み合った。しかし、最初に目を逸らしたのはミサトだ った。
「まぁ、しょうがないかぁ」
 頭をかきながらミサトは続けた。
「いいわ。御飯は人数多いほうが楽しいしぃ。だ・け・ど」
 ミサトはリツコをにらんだ。
「リツコ、貸しとくわよ」
「いいわ。今度飲みに行きましょう」
 よかった。これで、何らかの確認ができるはず。あとは、フィフスチルドレンを紹 介することね。
「じゃぁ、紹介するわ。彼よ」
 リツコが指し示した先には、少年が立っていた。
                         <つづく>


次回予告
シンジとアスカの前に現れた一人の少年
フィフスチルドレン
危ういバランスを保つ二人に
彼の出現は何をもたらすのか?

次回
新世紀エヴァンゲリオン
「選ばれた1001番目の世界」
第二話<錯綜する想い>

次回もさぁびす、さぁびすぅ!


秋良つかささんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「あ、あ、あのリツコが主人公!!(汗)」

ミサト「明日はが降るわね」

カヲル「ロンギヌスの槍・・・・」

アスカ「お約束のボケをかますんじゃないわよ!!」

 すぱーん!!

トウジ「おお、ワシら関西人だけに使うことが許される伝説の奥義、スリッパツッコミをやっとる!! 惣流、ただものやないな!」

アスカ「う、る、さ、いっ!!」

 ばきっ!!

トウジ「・・・・女が「ぐー」で殴るなや・・・・がくっ」

カヲル「はいはい、脇役はあっちで倒れていてくれないか。ああ、遅くなったけど秋良さん。分譲住宅への入居、ありがとう。僕は待っていたよ」

アスカ「アンタ、結構シビアね・・・・」


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