そしてそれから



第10話 それぞれの歩む道


マナを死に至らしめるはずの銃弾は空中で静止していた。シンジがATフィールドで受け止めたのだ。
部屋にいた誰もが呆然とした。まるで時が止まってしまったかのようにさえ感じられる。銃声と同時に室内に
満ちた、シンジの放つ凄烈な気配がこの場を支配していた。誰もが全く動かず、何も話さない。それほど
圧倒的な力だった。
そこにカヲルたちが入ってきて、静止した時が動き出す。

カヲル「全く、一人暮らしの女の子の部屋に無断で侵入したり、銃を撃ったり・・・・常識を疑うね。」
レイ「発砲はともかく無断侵入は私たちも同じでしょ。」
アスカ「マナ、あんた意外に根性あるじゃない。見直したわ。」
兵士「貴様らっ。」

兵士たちが呪縛から解き放たれたようにカヲルたちを排除すべく動く。だが、カヲルたち三人の動きは
それとは比べものにならないほど早かった。5人の兵士が倒れ込むまでに要した時間は10秒ほど
だったろう。

シンジ「ふうっ。」

それと同時にシンジもいつもの状態に戻る。あんなシンジはレイやアスカでも滅多に見たことはなかった。

ムサシ「馬鹿な・・・・・あの睡眠薬を飲んだのなら後数時間は眠り続けるはずなのに・・・・」

呻くムサシに平然とシンジは答える。

シンジ「人間なら、ね。全く効かないというわけじゃないけど寝起きはいい方なんでね。」

あんな事があったというのにシンジの様子ははいつもと変わらない。
だが、もうマナはシンジを偽ることが出来なかった。悲痛な表情でシンジに心を吐露する。

マナ「シンジ!ごめんなさい。ごめんなさい・・・・私・・・私、スパイなの。あなたを騙していたのよ!」
シンジ「マナ・・・・・」
マナ「デート、楽しかったわ。でも苦しかったの。あなたを好きになればなるほど。だって私はあなたの
敵なんですもの。本当ならもっと早く言えばよかったのに、あなたに嫌われたくなくて黙っていたのよ。
弱虫なのよ私。シンジの恋人になる資格なんか無い。」
アスカ「マナ・・・あなた・・・・・・。」
レイ「霧島さん・・・・」

マナはシンジにもらったペンダントを握りしめながら、うつむいて嗚咽していた。マナもまた自分たちと
同じ気持ちだったことをアスカとレイは知った。

マナ「勝手なことばかり言ってごめんなさい。信じてもらえるはず無いけど私はシンジのこと愛してるの。
でも、もう終わりにするわ。自分のしたことの責任をとらなくちゃ・・・・・」
ムサシ「マナ!どこへ行く気だ。死ぬ気か?」
マナ「私が失敗したって分かればきっと司令部も無茶はしないわ。・・・・・さよなら、シンジ。
今までありがとう。」
シンジ「マナ、待って。」

シンジは後ろからマナを抱きしめた。ここで別れたら、もう二度とマナに逢えない気がしていたから。
後悔はしたくなかったから。

シンジ「謝らなきゃいけないのは僕も同じだ。僕だって・・・・」
マナ「え・・・?」

そこにカヲルが割って入った。

カヲル「シンジくん、邪魔して悪いけど敵だよ。全くしつこい連中だね。」

音も立てず身構えるカヲルをシンジは制した。

シンジ「カヲルくん。僕がやる。」

自動小銃を構えた兵士がなだれ込んでくる。

兵士「動くな!おとなしく手を挙げろ。」

シンジはマナをかばうように立ち上がった。

シンジ「どうやって動かずに手を挙げられると言うんだい?」

いつものシンジからは考えられないほど冷酷な声だった。
激怒した兵士が怒声をあげようとしたのをシンジの静かな声が遮った。

シンジ「あいにくだけど僕は今、機嫌が悪い。平和主義者として振る舞うような精神状態じゃなくてね。
・・・・・消えてもらうよ。」

シンジが手をかざして力を使うと兵士たちが次々に倒れていく。マナやムサシには何が起こったのか理解
できなかったが、家に集結していた部隊全てが戦闘不能になったことがカヲルたちには感じられた。

マナ「殺し・・・・・ちゃったの・・・・?」
シンジ「別に皆殺しにしてもよかったんだけど、後が面倒だからね。とりあえず昏睡状態にしただけだし、
命に別状はないけど3日は目が覚めないよ・・・・・・・・・マナ、これが僕なんだよ。さっきマナを狙った
銃弾を止めたのも僕がやったことなんだ!」
マナ「シンジ・・・・・・・」
シンジ「それだけじゃない。僕がその気になれば人類を滅ぼせるくらいの力はあるんだ。だけど隠してた。
怖かったんだよ!マナに嫌われるのが・・・・・拒絶されるのが!僕はマナと違って普通の人間じゃ
ないんだ!」

次第に冷静さを失い、激白するシンジにマナがそっと抱きついた。

マナ「シンジ・・・・・・あなたの力が全く怖くないっていったら嘘になるわ。でもね、あなたが
どんな力を持っていようと何者だろうと関係ないの。殺されたってかまわない。私はあなたのこと
愛してるんだから・・・・・・・・・」
シンジ「マナ・・・・」

マナにそっと手を伸ばす。そこにアスカとレイも手を添えた。

アスカ「シンジ・・・・・あなたも苦しんでたのね。気が付いてあげられなかった・・・・ごめんなさい。
でも苦しんでるのはあなただけじゃないのよ。私も・・・・・私もあなたのことが好きなんだから。」
レイ「私もよ、碇くん。私も碇くんのことが好き。だから、あなたは決して一人ではないのよ。」
シンジ「アスカ・・・・・レイも・・・・ありがとう。」

シンジに抱きつくアスカとレイ。それは時間にすれば短いものだったが、4人にとってはその一瞬は永遠の
ように感じられた。


カヲル「はいはい、めでたくレイとアスカがシンジくんに気持ちを伝えられたところでこれからどうするか
決めようか。」
アスカ「もう。せっかくいい雰囲気だったのにぃ。」

完全にいつもの調子に戻って言うアスカ。そんなアスカの様子にほっとしつつも、シンジはマナに優しく
尋ねた。

シンジ「マナはどうするの。」
マナ「どうって・・・」
カヲル「君が今何をしたいのか、これからどうしたいのかを素直に言えばいいんだよ。」
マナ「私はずっとシンジの側にいたいな・・・」
レイ「軍を辞めることになっても?」
マナ「うん。」
シンジ「なら話は早いね。問題は・・・」

ムサシの方を見るシンジ。

マナ「お願い、シンジ。ムサシは親友なの。酷い事しないで。」
シンジ「分かってる。マナを悲しませるようなことはしないよ。・・・で、ムサシはどうしたいんだい?」
ムサシ「分からない。ただ・・・・・」
アスカ「ただ何よ?」
ムサシ「もう軍には帰りたくない。」
レイ「そう。ならそうすれば。」

マナとムサシの意見が出た。後は行動あるのみだった。

カヲル「じゃ、さっそく行動開始だね。」
アスカ「どうする気よ?」
カヲル「分からないかい?」
アスカ「どーせあんたの事だから基地に殴り込みだとでも言うんでしょ。」
カヲル「失礼な。話し合いだよ。」
シンジ「じゃ、そっちは頼むよ。僕はこっちをやる。」

シンジの口調は軽く、全く特殊部隊を恐れていないのが明らかだった。

マナ「特殊部隊相手に一人でやりあう気?無茶よ。」
シンジ「大丈夫。僕一人で十分なんとかできるよ。」

マナがシンジを気遣ったが、シンジはマナを安心させるように確信を込めて断言した。そして、そのシンジの
反応はシンジの自信が根拠のない強がりではなく、自身の能力と、経験とに裏付けられた確信からくるもの
だということを示していた。

カヲル「アスカとレイはマナたちの護衛を頼むね。」
アスカ「それじゃあたしたちの出番が無いじゃないの。」
レイ「仕方ないわ。霧島さんたちが狙われる可能性もあるもの。」
シンジ「じゃ、アスカ、レイ。マナとムサシをよろしく頼むよ。」
アスカ「いいのー、シンジ?二人を見捨てて逃げちゃうかもしれないわよ、あたし。」

からかうようにアスカはいう。しかし、シンジは優しく微笑み返した。

シンジ「僕はアスカを信じているから。」

それだけ言うとシンジは夜の闇の中に消える。カヲルもまた姿を消す。あのとき以来シンジ同様カヲルも
瞬間移動ができるようになっていた。その姿はまるで闇に溶け込んだようにしか見えなかった。

マナ「消えちゃった?」
アスカ「移動しただけよ。マナ、あんたシンジが心配なんでしょ?」

マナをからかうアスカ。その口調はさっぱりしていて嫌みを感じさせなかった。
マナも先程あれだけ泣いていたのを感じさせない軽い口調で応じる。

マナ「アスカさんこそシンジに付いていきたいんでしょ?」
アスカ「まーね。まだちょっと頼りないしね。」
レイ「あの二人なら心配いらないわ。私たちは防御が担当だし、後のことはあの二人がうまくやってくれる
から、家で待っていましょう。」

レイがうまくまとめて、4人はシンジのマンションに向けて歩き始める。レイの言葉にはシンジとカヲルに
対する深い信頼が込められていた。



カヲル「さて、どうするかな。」

戦自の厚木基地を目前にしてカヲルは考え込んだ。カヲルの能力なら基地を消滅させることなど容易い。
しかし、軍にマナから手を引かせるにはそれではだめだろう。少し考えてから行動に移った。

カヲル「ちょっとこの門を開けてくれないかな。」
軍人「ああ?常識ってものをわきまえろ、小僧。」
カヲル「心外だね。僕みたいな常識人に向かって。」

どっと哄笑がわく。どこの世界にそんな常識があるというのか。哄笑にはカヲルへのあからさまな嘲りが
込められていた。

だが、破られたのは彼らの常識の方だった。カヲルは門の鉄柵をつかむとそれをひょいっとねじ曲げた。
人の腕ほどもある鉄柵を一見華奢なカヲルが軽々とねじ曲げるなど誰が想像できただろう。

カヲル「じゃ、通してもらうよ。」

茫然自失の軍人に微笑みながら声をかける。その声で我に返った連中が憤怒の表情で掴みかかってきた。

「このガキ!」
「やっちまえ。」
カヲル「全く個性のない台詞だね。ま、この場合個性があったからってどうなるものでもないけど。」

こういうときのカヲルの微笑みがいかに危険なものであるか、軍人たちは知らなかった。知っているのは
シンジたちと、カヲルが女性にもてるのを逆恨みして喧嘩を売った一部の命知らずだけである。
だが、どうやら厚木基地の軍人たちもそれに加わることになりそうだ。文字通り目にも止まらぬ早さで
カヲルが動く。この基地に駐留している軍人は全員が厳しい訓練を受けており、実戦経験も豊富だった。
だが、いかなる訓練も経験もカヲルの前では全く無力だった。その場に居合わせた見張りの兵士全員を地に
這わすのに要した時間はわずか20秒程度だった。これは訓練や経験が不足していたのではなくカヲルが
あまりにも強すぎたからだが、軍人たちにとってその事実はなんの慰めにもならなかっただろう。
苦痛の呻きがあちこちからする。数ヶ月は病院のベッドで静養せざるを得ないだろう。
無論カヲルが十分手加減しているからこの程度で済んだのであって、もしカヲルが本気なら今頃全員バラバラ
に引き裂かれている。

「貴様・・・こんな事をしてただで済むと思うなよ。」

苦痛の呻きと共に憎悪を込めて捨て台詞をはく。その瞬間、その兵士はカヲルに睨み付けられ気絶した。
これ以上苦痛と屈辱を感じずに済んだのは彼にとって幸福だったろう。

カヲル「さて、と。」

苦痛にあえぐ兵士たちを完全に無視して走り出すカヲル。人間には不可能な早さで走りつつも全く足音を
たてていない。そして走りながら力を雷と化して解き放つ。それはコンクリートの壁を破壊し、激しい
爆音と共に中にあった配線系統を焼き尽くした。さらに二発ほどたたき込むと、その雷はまるでそれ自身が
意志を持つかのように配線内を伝わり、基地内の主要な制御設備を完全に使用不能にした。

無論普通の電撃ではこうはならないだろう。カヲルがこのために造り上げたものだ。実際に使うのは
初めてだがどうやら予想通りの効果があったようだ。先程の爆音で異変に気が付いたのだろう、兵士たちが
集まってくるのを感じる。

カヲル「じゃ、始めるかな。」

それが基地に駐留していた兵士たちの甚だ不幸な災厄の始まりだった。




同時刻、シンジは闇の中を駆けていた。闇の中、というのは比喩でもなんでもない。実際にシンジが力を
使って闇を作り出し身に纏っているのである。さらに、カヲルに勝るとも劣らぬ早さで動いているため、
特殊訓練を受けた軍人とはいえシンジを視認することは不可能だった。

現に、既に半数の兵士がやられているにも拘わらず、司令部の方では全く目標が捕捉できていない。
位置どころか相手が誰なのかすら分からないと云う有様だった。
戦自にしてみれば目標を確実に捕獲すべく散会していたのが仇になった。彼らは対人戦闘のプロであり、
かつて逃げまどう敵兵を追いつめていって虐殺したこともあった。その自分たちが追われる立場になるとは
考えてもいなかったのだろう。司令部から来る指示は「何とかしろ。」とか、「犯人を捕まえろ。」とか
云ったものばかりだ。具体的なものは一つもなかった。
次々に途絶えていく通信のみが仲間の敗北を伝えてくる。この世界では敗北はそのまま死を意味する。
全兵士が狩られる立場の恐怖を味わっていた。

一方シンジの方では戦自の動きが手に取るように分かった。既に兵士たちが好き勝手に動いているとしか
思えない程統率に欠けている。完全にシンジの思うつぼだった。全員で一斉にかかってくるというなら
別の手を打ったが、相手が兵力を分散させていたので闇に紛れて各個撃破することにしたのだ。案の定
「見えない敵」に対して兵士たちは恐怖と混乱でまともな動きができなかった。こうして戦自のご自慢の
特殊部隊は相手の姿すら見えないまま壊滅の憂き目を見る羽目になった。全員情けない格好でのびている。
全員が病院送りである。

兵士の通信機を無断拝借するとシンジは通信を始めた。

シンジ「やあ。」
「きっきさま、何者だ。こんな事をしてただで済むと思うなよ。」
シンジ「人の心配より自分たちの心配をしたらどうかな。」
「なんだと?どういう意味だ。」

この恐るべき敵が今度は自分たちを攻撃するのではないか?そう考えて今更ながら恐怖に脅える。
何しろ今まで自分たちは安全なところから命令を下すだけだったのだ。

シンジ「ご自慢の特殊部隊とやらは全員情けない格好でのびてしまっているよ。今は夜だからいいけど
朝になったら一般市民に見つかるだろうね。この無様な失敗を知ったら他の部隊の士官たちはどんな反応を
示すか、分からないほど想像力に欠けているわけでもないだろ。ま、戦自の病院だけではベッドが足りそうも
ないけど、せいぜい事実隠蔽につとめるんだね。それじゃ。」

普段からは想像もできないほど辛辣な台詞を言うシンジ。激怒のあまり相手はまともにしゃべることすら
できなかった。ようやく何か云おうとしたが一方的に通信が切られる。シンジの指摘は完全に事実だった。
少しだけ冷静さを取り戻した士官はそれに気が付いた。この上、この無様な敗北を一般人に知られるような
ことにでもなればただでは済まないだろう。慌てて、救援部隊に指示を出す。既にシンジやマナにかまって
いる暇はなかった。

一方シンジは言いたいことを言うとさっさと通信機を壊して家に向かって歩き出した。
特殊部隊の行く末などよりマナのことの方がシンジにとってはよほど重大な関心事だったから。




カヲルの方は多少状況が違った。いくら広いとはいえ建物の内部での戦闘であり、シンジのように機動力を
生かして身を隠し続けることはできない。最初の爆音からさほどしないうちに捕捉された。
最初の攻撃で基地内から人工の明かりは消え、辺りは闇に包まれてはいるが、兵士たちは暗視装置を持って
いたし、カヲルも闇の中でも何不自由なく見えるのであまり関係なかった。
カヲルはシンジよりさらに辛辣だった。何しろカヲルは軍隊を毛嫌いしている。自分たちの能力の軍事利用を
企んで、おとなしく実験台になれ、などというような相手に好意を持てるはずもない。
戦力差は明白で戦闘と云うより大人が子供をいじめているように一方的なものだったがカヲルは罪悪感を
感じたりはしなかった。
戦闘に際して相手を殺したり捕らえて好きにしようと云うのなら自らも同様のリスクを負わなければならない
というのがカヲルの考えだ。軍隊の戦いぶりを知るカヲルにはこの一方的なやられ方は自業自得に思われた。

それに、敵の方から近寄ってきてくれるのはむしろ好都合だった。基地の至る所から自分に向けられた悪意を
感じる。その不快な感覚を早く消せるからだ。もっとも、カヲルにとって敵が自分に向ける悪意は不快である
と同時にある種の安心感も感じさせた。自分に悪意を持つ相手なら戦うのに躊躇いを感じる必要がないからだ。
そして、まさにこの基地にいる兵士たちは躊躇いも罪悪感も感じる必要のない相手だった。

兵士を蹴散らしつつ走るカヲル。その動きはしなやかでネコ科の猛獣を思わせる。だが、その美しさの中に
危険きわまりない力を秘めていた。基地は既に野戦病院と化し、通路に苦痛にあえぐ兵士が山のように
横たわっている。兵士たちも相手がただの子供でないことを悟ったが分かったからと云ってどうにかなる
ものではない。カヲルも、先程シンジが使ったような対人用に造り上げた能力の持ち合わせは豊富だったが、
それを使うまでもなかった。

やがて、カヲルは一つのドアの前に辿り着いた。鍵がかかっていたが気にすることなくノブに手をかけると
それを回す。鈍い音と共にノブは引き千切られた。それを見て軽く眉をしかめたが、即座に次の行動に移る。
数歩下がって軽く助走を付けると跳び蹴りを食らわせた。やかましい破壊音と共にドアが吹き飛び、視界が
開ける。中にはこの基地の責任者とその秘書官とおぼしき人物がいた。二人ともこれ以上はないというくらい
脅えている。それもそのはずで部屋の奥に見えるディスプレイには兵士たちがやられていく様子が逐一映し
出されていたのである。カヲルはこれを見越してここの設備だけは残すように仕組んでいたのだ。

カヲル「貴方がここの責任者ですか。」
司令官「きっ貴様!いったい何のまねだ。」
カヲル「スパイを送りつけてきたでしょう。それで仕返しに来たって訳ですよ。」

それを聞いて司令官は恐怖に顔を引きつらせながら軽機関銃を乱射する。しかし当然だがATフィールドに
守られたカヲルはそんなものを受け付けない。平然と近寄ると銃身を掴んで容易くねじ曲げた。

司令官「わ、私を殺す気か。そんなことをすれば軍が黙ってはいないぞ。」
カヲル「僕にあれだけのことをしておいて楽に死ねると思ったら大間違いですよ。」
司令官「拷問でもする気か。」
カヲル「あいにく僕は中年男性をいたぶって喜ぶような趣味は持ち合わせていませんからね。」
司令官「じゃあ、若い女ならいいのか。ならこいつを好きにしてくれ。」
秘書「そ、そんな。やめてください。」

その女性は確かに美人だったがカヲルはさして感銘を受けた様子を見せなかった。冷然と言い放つ。

カヲル「じゃ、霧島マナともう一人、ムサシとか云いましたか。その二人を好きにさせてもらいましょうか。」
司令官「どうする気だ?」
カヲル「貴方は部下のスパイに敵に捕まったらどんな目に遭わされるかも教えていないのですか。」

司令官にしてみれば敵に捕まったスパイがどうなるかなどと云うことより自分の身の安全の方が遙かに
大切である。即座にうなずいた。

司令官「わかった。好きにしろ。」
カヲル「そうですか。貴方が話が分かる人でよかった。でもね・・・・」

カヲルが執務机に軽く手をおく。少し手が動いたかと思うと重厚なオーク材でできた机がきれいに
6等分されていた。

カヲル「もしこれからもくだらないちょっかいをかけてくるようなら次はあなた達がこうなりますから。」

カヲルの言が正しいことを司令官は認めざるを得なかった。自分の子供よりも若いカヲルに好き勝手に
やられて屈辱は感じるが恐怖がそれに上回った。カヲルの云っていることは単なるはったりなどではなく、
カヲルがその気になれば実際に実行可能である。だからこそ絶大な効果があるのだ。先程から嫌と云うほど
見せつけられたカヲルの戦闘能力が、そしてなによりもカヲル自身の放つ氷の如き威圧感がそれが事実と云う
ことを司令官に告げていた。司令官は悠然と立ち去るカヲルを呆然と見つめることしかできなかった。




アスカ「結局マナは引っ越しかぁ。」
カヲル「気になるのかい?」
アスカ「まあね。」
カヲル「二人とも軍を辞めて新しい人生を送るんだ。いい事じゃないか。」
レイ「そうね。」

そのとき呼び鈴が来客を告げた。

アスカ「はーーい。」
マナ「どうも。隣に越してきた霧島マナです。」
アスカ「あーーーー!あんた・・・・・」
レイ「どうしてここに・・・・・・・・」

呆然とするレイとアスカだが、カヲルは平然とマナに話しかけた。

カヲル「やあ、どうだい?引っ越しの方は。」
マナ「おかげさまで順調です。シンジが手伝ってくれてるし。」
カヲル「それはよかった。」
アスカ「カヲル・・・あんた騙してたわね。」
カヲル「心外だね。ムサシが遠くに引っ越したとは云ったけどマナがどこに引っ越したとは云っていないよ。」

しれっとカヲルがいう。

シンジ「マナー。これはどこに置けばいいの?」
マナ「あ、待っててシンジー。今いくからー。」

シンジの声が聞こえてきてアスカは切れた。

アスカ「待ちなさい、カヲル。」
カヲル「待てと言われて待つ奴はいないよ。」

カヲルを追いかけるアスカ。そして、アスカをからかいつつ逃げるカヲル。レイは展開についていけずに
呆然と立ちすくんでいた。兄妹喧嘩を始めてしまったカヲルとアスカに、そしてレイにマナは微笑みかける。

マナ「とにかく。これからもよろしくお願いします。」




つづく



後書き

アスカ「何なの、このおちは・・・・・・」
レイ「碇くんが・・・・・・・」
マナ「よかった。これでずーっとシンジと一緒にいられるわ。ね、シンジ。」
シンジ「そうだね。よかったよ。」
カヲル「これで一件落着だね。よかったよかった。」
アスカ「全然よくなーい。何でこうなるのよ。」
レイ「作者の陰謀ね、これは。」
アスカ「基地も壊滅させちゃうし。」
K「しょうがないですね。なにしろ、ここのシンジくんはゲンドウ並に手段を選ばない人ですから。」
シンジ「ふーん。そうなんだ。なら・・・・・・」

どかばきぐしゃ

K「ぎゃああああああああああああ。」
アスカ「あーあ。話が進まないわよ、これじゃあ。」
シンジ「問題ない。シナリオ通りだ。」
カヲル「さて、次からはいよいよ最終章だね。」
レイ「一体どんな展開になるのかしら?」
アスカ「それは次回のお楽しみよ。」



Kさんへの感想はこ・ち・ら♪   



管理人(その他)のコメント
アスカ「ちいっ!!」
カヲル「なんだね、その舌打ちは」
アスカ「そのままマナに弾丸が当たっていれば、ライバルが一人減った・・・・とアタシが考えてる、そう思ってない?」
カヲル「・・・そうじゃないのかい?」
アスカ「せっかく・・・・」
カヲル「ん?」
アスカ「せっかく暴れる機会があるって喜んでいたって言うのに! なによアタシとレイがマナのお守りなんかになって、どうしてあんたとシンジだけが活躍しなくちゃいけないのよ!!」
カヲル「い、いやぁ、それはだねぇ」
アスカ「なによっ!(ぎろり)」
カヲル「君が暴れている姿はこのコメントで見慣れているから・・・・だから、たまには僕が活躍してもいいんじゃないか・・・・そう、Kさんもかんがえたんじゃないかなぁ」
アスカ「ほー」
カヲル「だからきみも、活躍の場がほしかったらもうちょっとおしとやかに、だね」
アスカ「ほーそうかそうか、そーいうふーに思っていたのか」
カヲル「・・・はぅ、な、なにをするんだ! たったいまおしとやかにって忠告したばかりじゃないかだからそのマサカリを大上段に振り上げるのはよくないってうぎゃあああああ!!」
アスカ「うるさいっ!! 小説で活躍できなかったぶん、ここでうっぷんをはらしてやるわっ!!」
 どかっばきっぐしゃっ!!
カヲル「きゅぅぅぅぅぅっ」
アスカ「はん、あたしの前ででかい口をたたくからそうなるのよ!」
レイ 「・・・・弱いものいじめね・・・・」




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