そして、それから 

第五話 適格者


使徒の斬撃がうなりをあげてレイを襲う。それをATフィールドでかろうじて防ぎ、綾波レイは大きく跳び
すさった。あのときレイは部屋にいたが、爆発が起こるなり部屋を飛び出し、そしてこの使徒と対峙するはめ
になった。以来こうして防戦一方の戦いが続いている。外見はまるでサキエルとシャムシエルのあいのこの
ようであり能力もだいたいそんなところだった。遠距離ではビーム、中距離では光の鞭、近距離では光の槍
とうまく使い分けている上、鞭が4本に増えている。通路という限定された空間ではかなり分が悪い相手
だった。先ほどから何とか懐に入ろうとしては鞭に阻まれている。爆発以来シンジの気配が感じられないのも
原因の一つではあるのだが。あの冷静なレイにしては珍しいことだが彼女はかなり焦っていたのだ。



同じころ、カヲルもまた焦っていた。シンジの部屋で爆発があり本人の姿が見えない。何かあったと考える
のが自然だろう。ともすればパニックに陥りそうなカヲルを押しとどめたのはアスカだった。

アスカ「カヲル、落ち着いて!ここは私に任せて、レイの救援急いで。」
カヲル「しかし・・・・・」
アスカ「早くしないとレイが危ないわ。」

さらに何か言いかけたカヲルだが、アスカの様子を見て止めた。アスカは先程から血が出そうなほど強く唇を
噛みしめていた。アスカもシンジの失踪という事態に困惑していたのだ。だがここで自分までもが冷静さを
欠いたなら事態はさらに悪化する。それを知っているからアスカは必死で冷静になろうとしていた。
そしてそれがカヲルには痛いほどよく分かった。

カヲル「分かった。こっちは任せるよ。僕はレイの救援に向かう。」
アスカ「頼むわ。」

駆け出すカヲル。それを見届けるとアスカは早速シンジの部屋を調べだした。



耳障りな音と共にレイが鞭をはじく。もう何度繰り返されたのかも分からない攻防だが、心理的には立場が
逆転していた。レイはついさっきからカヲルがこちらに向かってくるのを感じている。相手も同様だろう。
カヲルが来て挟み撃ちすればかなり有利だ。それまでは後1分足らずでしかない。使徒の攻撃を余裕を持って
防ぎつつ、レイは機会を待った。

カヲル「レイ!」

カヲルが使徒の背後を突いて現れた。まさにその瞬間、使徒はレイに向かって猛然とダッシュする。
レイの動きを鞭で牽制しつつ同時に槍を繰り出す。味方が現れ油断した瞬間を衝いた、見事な攻撃だった。
が、レイはこの攻撃を読んでいた。槍を左手に展開したATフィールドで払いのけ、右手に展開した
ATフィールドを剣と化してすれ違いざまに相手の胴を薙いだ。苦痛の絶叫が響きわたる。
が、使徒は緑色の体液を吹き出しつつも立ち止まらずそのまま逃走を開始する。

カヲル「逃がさないよ!」

それを見逃すほどカヲルは甘くない。槍を作り出して投げつける。それが使徒の体を直撃する寸前、
使徒の体が虚空に消えた。

レイ「消えた!?」
カヲル「いや、あらかじめ通路に穴を開けて逃げ道を確保していたんだ。」

追撃を掛けたいところだが迂闊に深追いすれば何があるか分からない。とりあえずアスカのところに
戻ることにした。


関係者がだいたい全員発令所に集まってきた。その間にアスカはレイとカヲルに使徒の話を聞いていた。
ミサトが苛立った声を上げる。

ミサト「どういうことよ、これは。」
カヲル「こちらがそれを聞きたいですね。」
アスカ「とにかく!シンジが無事なのは間違いないわ。部屋には血痕が全くなかったし、何者かがシンジを
連れ去った後部屋を爆破したと考えるのが自然ね。」
カヲル「それはおかしくないかい。シンジくんの誘拐が目的なら目立たないようにするはずだよ。
わざわざ部屋を爆破する事はない。」
アスカ「確かに部屋を爆破すれば多くの人に気づかれるわ。でもそれが必ずしも逃走に不利なわけでは
ないわ。」
レイ「どういうこと?」
アスカ「仮にシンジを誘拐したのがネルフだとすれば、私たちを現場に引きつけておいてその間にシンジを
連れて逃げるつもりだったとも考えられるわ。使徒の襲撃もずいぶんとタイミングが良かったし、
あらかじめ逃走経路が確立していたというのもうなずけるしね。」
カヲル「なるほど。人工的に作った使徒の実戦データをとり、しかも僕たちに対する切り札として
シンジくんを手に入れる。一石二鳥という訳か。ネルフがやりそうなことだ。・・・・・どうやらネルフ
の人間は思っていたよりずっと命知らずのようだね。」

カヲルの瞳が氷の冷気を帯びる。レイもいつでも攻撃を掛けられるように身構える。
その様子を見て慌てるミサトたち。

ミサト「ちょ、ちょっと、アスカ。私たちはそんな事してないわよ。」
アスカ「どうせ監視カメラか何かを仕掛けていたんでしょ。それを見ればはっきりするわよ。」
レイ「それもそうね。」
リツコ「仕掛けていたのは事実だけどあなた達の喧嘩で壊れてしまったわ。」

一瞬、発令所が静まり返る。ごまかすように大声を出すアスカ。

アスカ「まあ、たまにはこういうこともあるわね。」
カヲル「アスカにとっては日常茶飯事じゃないかい。」
アスカ「う、うるさいわね。」
レイ「ネルフ内部に手引きしたものがいるとも考えられるわ。」
リツコ「まさか!ただ単にあの爆発を起こしたのは使徒でシンジくんはそれを避けて逃げただけではないの?」
カヲル「それならシンジくんがもう現れてもいいころだよ。」
アスカ「カヲル、この施設内にシンジがいないのは確認したんでしょ?」
カヲル「ああ、少なくとも僕が探知できる範囲内にシンジくんはいない。まあ、シンジくんの意識がないなら
その限りではないけどね。」
アスカ「この非常時に眠りこけてるシンジじゃないでしょ。かといってあっさり殺されるわけもない。
となるとやはり・・・・」
レイ「碇くんは何者かに誘拐されたと考えるべきね。何か心当たりは?」
ミサト「さあ・・・そんなことをするような機関なんていわれても・・・・。」
カヲル「心当たりがありすぎてどれだか分からないってところか。」

事実を指摘されて返答に窮するミサト。確かにカヲルたちの力を狙っている組織は多い。一応シンジたちには
手を出さないこととなっているが裏ではいろいろ策謀が張り巡らされているのをミサトは知っていた。

カヲル「ま、そいつらは自分たちの甘さを身をもって知ることになるさ。」
リツコ「どういうこと?」
カヲル「いったとおりさ。」
リツコ「先の戦いで見せたあの能力は何?それになぜアスカがATフィールドを張れるの?」
カヲル「そんな質問に答える義務はないね。」

発令所に険悪な雰囲気が立ちこめる。

ミサト「カヲルくん!」
カヲル「ま、一言だけ言うならATフィールド及びS2機関で発生したエネルギーの制御法ってとこかな。」
リツコ「まさか!そんなことができるというの?」
アスカ「あたしの方はエヴァとのシンクロの後遺症とでも言ったとこかな。あんまりいい表現じゃないけど。」
ミサト「後遺症?」
アスカ「実際にエヴァに乗って使徒と戦った人間にどういう変化が現れるか、というのは全く未知のこと
なのよ。私たちが初めてなんだから。私の場合はこうなった。ただそれだけの事よ。」



アスカがこの能力に気づいたのは戦いが終わって少ししてからだった。最初は嬉しかった。自分は他の人には
ない、優れた力があると思ったからだ。だが、次第に怖くなった。シンジと遠く離れてしまったような、
そんな気がしたのだ。シンジたちと一緒に暮らすようになり、ヒカリたちも町に戻ってきた。
アスカは今、幸せだったのだ。だが、この力は今の幸せを壊してしまうのではないのだろうか。
忘れて久しかった孤独感に苛まれ眠れない日々が続いた。

そんなある日のこと、シンジとカヲルがアスカの部屋にやってきた。

シンジ「アスカ、入るよ。」
アスカ「いや!こないで。あっちに行って!」

ドア越しに叫ぶアスカ。本当はシンジが来てくれて嬉しいのにそういえない。そんな自分に自己嫌悪する
という悪循環に陥っていた。

シンジは何時までもこうしていても埒があかないので、部屋にはいることにした。内側から鍵がかかって
いたがカヲルがそれをたたき壊す。

アスカ「こないで!」

入ってきたシンジを見るなり叫ぶと、アスカは自分でも気づかないうちにATフィールドを解き放っていた。
自分のしたことに気づき青ざめるアスカ。だが、シンジはそれをたやすく受け止めた。

アスカ「ATフィールド!?」
シンジ「無理矢理入ったのは悪かったけどいきなり攻撃することはないんじゃない?」

平然と言うシンジ。口調からしてシンジがたいして気にしていないのは明らかだった。

アスカ「何であんたがATフィールドを張れるのよ。」
シンジ「自分だってできるじゃないか。」
カヲル「そうだよ。別に気にするほどのことでもないだろう。」
アスカ「気にするほどのことじゃないって・・・・・あんたこれがどういうことか分かってるの?」
カヲル「もちろん。それともなにか不都合でも起きたのかい?」
アスカ「あのねぇ・・・・ATフィールドが張れるなんて普通じゃないのよ。人間じゃないのよ、もう。」

だが、カヲルはそれを強く否定した。

カヲル「君は間違いなく人だよ。僕と違ってね。」

その一言でカヲルが使徒だという事実を再認識するアスカ。

シンジ「いいんじゃないのかな。別に人でも使徒でも大して違いはないんだし。」

そのシンジの気楽な様子を見てアスカは悩んでいたのがばかばかしくなってきた。

アスカ「気楽でいいわねぇ、シンジは。」
シンジ「昔の僕ならアスカみたいに悩んだと思うよ。でも、今はカヲルくんやレイ、それにアスカが
いてくれるしね。」
アスカ「シンジは・・・・・・私のそばにいてくれるの?」
シンジ「もちろんだよ、アスカ。」
アスカ「・・・・・・・ありがとう、シンジ。」

アスカ「(あのときシンジは私を助けてくれたわ。・・・だから今度は私がシンジを助ける番よ!)ミサト、
心当たりのある機関に片っ端から問い合わせて。」
ミサト「素直に応えてくれると思ってるの。」
レイ「答えないなら力ずくで聞き出すまでよ。」

平然と言うレイ。ただの脅しというだけではなく本気で言っているのが見て取れた。

ミサト「分かったわ。でもあんまり期待はしないでよ。」
アスカ「カヲル、あんたはどうするの?」
カヲル「僕は爆心地に向かうよ。」
レイ「爆心地に?」
カヲル「あそこにはきっと何かある。ま、勘だけどね。」
レイ「そう、気をつけてね。」
カヲル「そちらこそ、たぶん再び襲撃があると思うよ。気をつけるんだよ。」



こうしてカヲルたちがシンジ救出に向けて動き出したころ、当のシンジは暗闇を不思議な声に導かれるままに
ただひたすら歩き続けていた。自分の位置すら掴めない空間だったが、不思議と不安は感じなかった。
アスカたちのことは気になってはいたが、それ以上に自分を呼ぶ声が気になる。遠い昔に聞いたような、
懐かしい声。どこで聞いたのだろうか、思い出せない。

やがて、出口が見えた。着いたところは砂漠だった。
星の位置からしてずいぶん時間が経っているようだ。場所もかなり移動している。戻るのは一苦労だろう。
だが、今は自分を呼ぶ声の源を探すのが先だ。前方にクレーターが見える。どうやら声はその中心から
聞こえてくるようだ。

シンジはふとあることに気が付いた。ここはミサトの言っていたネバダの爆心地ではないのだろうか。
第一支部からここまでは数百キロは離れているはずなのに。警戒しながら進んだシンジは、やがて声の
発生源に辿り着いた。


槍「ようこそ、適格者。」

星明かりに照らされた、それは紛れもなくかつての戦いで月の世界へと消えたはずのロンギヌスの槍だった。





続く



後書き

K「今回はレイが戦闘で活躍しましたが・・・・・・どう?」
レイ「ほんの少しね。それにやっぱりアスカとカヲルが目立っているわ。なぜなの?」
シンジ「僕なんか台詞が全然ないよ。」
K「レイの性格だとあまりしゃべらないんじゃないかって思って。」
レイ「そう・・・・・ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ。」
K「はううー。」
レイ「次こそは私を活躍させるのよ。そして碇くんと・・・・・(ぽっ)」
アスカ「何赤くなってるのよ。」
カヲル「ま、レイには悪いけど次はシンジくんが活躍する話だそうだよ。」
シンジ「そうだといいけどなあ。」



Kさんへの感想はこ・ち・ら♪   



管理人(その他)のコメント
レイ 「ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ・・・・・」
カヲル「何を独り言をつぶやいているんだね?」
レイ 「びんたびんた・・・・これは、なに?」
カヲル「それはだね」
アスカ「却下! いい加減誰でも知っていることをいちいち解説するんじゃないわよ!!」
カヲル「ちっ、また邪魔者が現れたか」
アスカ「なんですって!!」
カヲル「あーあ、君のATフィールドはぼくに対してはものすごく強く見えるよ」
アスカ「はあ?」
カヲル「心の壁をつくってぼくに相対しているんだね」
レイ 「この人は、傲慢だから」
アスカ「あんた、なに人の性格疑われるようなことを真顔でしれっと言うのよ!!」
レイ 「私、うそは嫌いだから」
アスカ「ぬあんですってえええ!」
カヲル「おやまあ、逃げた作者の小説ではあんなに仲がよかったのに、ここでは喧嘩か」
アスカ「うるさいわね!! あんたはさっさと管理人の仕事でもやってなさい! アタシたちは無料サービスできているんですからね!」
レイ 「お金・・・・生活する上で必要なもの・・・・私にはないもの・・・・」
カヲル「アスカ君から恐喝でもしてみればいいじゃないか」
レイ 「恐喝?」
カヲル「おかねちょーだい、っておねだりすることだよ」
レイ 「そうなの」
アスカ「ちがうわいっ!!」
レイ 「・・・・お金、ちょうだい」
アスカ「いやっ!!」
レイ 「そう・・・・ビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタビンタ」
アスカ「はうーっ」
カヲル「なんだ、びんたびんたの意味、知ってるじゃないか」




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