そしてそれから
第四話 失踪
カヲル「ふう、ようやく着いたか。」
アスカ「先が思いやられるわね。」
ネルフ第一支部(支部とはいっても本部が事実上壊滅状態の今ではほとんど本部といっても差し支えない
のだが)に先ほどようやく到着した一行。だが今度は装甲車で目的地に向かうと聞かされて
4人とも不満を隠せなかった。
目的地はネバダにあるネルフ第2支部だ。かつてはS2機関の搭載実験の失敗で、そして今度は謎の大爆発で
2度に渡り消滅した第二支部は再建の見通しが立っていない。周辺に大きな都市はないので事故による被害は
少なかったが、その反面調査をする拠点もないといえる。そこでいったん第一調査団の残した簡易宿泊施設に
寄って、そこから調査をすればいいだろうというのが青葉の話だった。
アスカ「だいたい何で車で移動しなきゃならないのよ!航空機を使えばいいじゃない。」
リツコ「それができればやっているわ。数日前から爆心地から半径約50キロ圏内に入った航空機は
全て撃墜されているの。」
レイ「使徒なの?」
リツコ「はっきりしてはいないけど多分そうね。だからある程度までは輸送機で近づけるけどそれ以上は
だめってことなのよ。」
シンジ「それで、調査は僕たちだけでするんですか?」
ミサト「いえ、国連から第二調査団が派遣されるわ。あなた達の仕事はその護衛といったところね。」
カヲル「確認しておきますが僕らは使徒としか戦いませんよ。人間同士の戦いが起こっても関与しませんから
そのつもりでいてください。」
ミサト「もちろん。それで結構よ。」
出発は3日後ということでそれぞれネルフ内に部屋を借りた。情報収集をしようと思っていたアスカだったが
マヤが入院、青葉がそのお見舞い。日向、ミサト、リツコは仕事が忙しいということで知り合いで事情を
よく知っていると思われる人はいない。
そこで、シンジの部屋に集まって状況を整理することにした。
シンジ「ふうっ。どうなるのかなぁ。これから。」
カヲル「ま、僕らにしてみれば使徒が現れないに越したことはないんだけどね。楽な仕事で報酬が
たくさんもらえて。」
レイ「そううまくはいかないわよ。きっとなにかあるわ。」
カヲル「もっと話が聞ければいろいろ推測も可能なんだけどね。」
アスカ「考えてたってしょうがないわよ。実際に行ってみればはっきりするでしょ。
どうせならもっと楽しいこと考えなさいよ。」
レイ「例えば?」
アスカは読んでいた雑誌をレイに見せる。ファッションその他の内容だ。
アスカ「お金が入ったらこういうのを買おう、とかよ。たまにはレイも着飾ってみたら?シンジが泣いて
喜ぶかもよ。」
レイ「・・・・・」
アスカ「ま、レイにはちょーっと無理かしらね。ねえシンジ、私にはどんなのが似合うと思う?」
シンジ「僕が選ぶの?」
アスカ「そうよ。」
レイ「碇くん・・・・私にも選んで。」
シンジ「えぇ?レイも?」
レイ「それで・・・何かに合う服を買って欲しいの。私も碇くんに似合う服を贈るから。」
アスカ「なにいってんのよ、レイ。あんたじゃ無理よ。シンジ、お金が入ったらまず私と服を買いに
行くのよ。私もいいのを選んであげるから。」
二人に詰め寄られて困るシンジ。そこにカヲルが助け船を出す。
カヲル「そもそも君たちが普段着ている服はみんなシンジくんに買ってもらったようなものじゃないかい?」
アスカ「それとこれとは別の問題よ。こういうあぶく銭はぱーっと使っちゃう方がいいの。」
本当は「シンジに贈り物をする以上に有意義な使い方なんてないわ」とか言いたいアスカだが流石に
ためらわれる。そんなことお構いなしのレイがはっきり言う。
レイ「碇くんに愛情の籠もった贈り物をする以上にいい使い方なんてないわ。」
アスカ「ちょっとレイ、その愛情の籠もったっていうのは何なのよ?」
レイ「聞いた通りよ。」
にらみ合うレイとアスカ。こうなってはもう止めようもない。そもそも、カヲルが言ったように
現在、シンジたちの生活費はシンジが出しているのだ。4人ともネルフを辞めたときかなりの額の退職金を
もらったのだが使う一方では数年しか持たないだろう。だが、シンジにはゲンドウの遺産があった。
かつて冬月が子供の養育費にしては大きすぎると言ったほどの額だ。利子で十分4人の生活費をまかなえる。
おかげで退職金は個人的な小遣いにして裕福な生活を送っていられた。
だから今更こんなことでと思うシンジだがアスカやレイにしてみれば誕生日やクリスマスといった特別な
日でもないのにシンジに贈り物をする、そして贈りものをもらう滅多にないチャンスなのだ。
これを逃す手はない。そんな二人の気持ちに気づかない鈍いシンジはとばっちりを避けるべくこっそり
カヲルと部屋を出ていってしまった。戦いに熱中していた二人がそれに気づいたのはしばらくしてからのこと
だった。
夜が訪れ周辺が闇に包まれる。アスカは何となく眠れなくてカヲルと二人で本部内を散歩していた。
アスカ「全くまずい食事よね。もっとましなもの出せばいいのに。」
カヲル「一服盛られないだけましさ。」
アスカ「この状況でそんなことをするほどネルフも馬鹿じゃないでしょ。ま、これから先どうなるかは
わからないけど。」
カヲル「まあね。」
しばらく、無言で歩く二人。やがてアスカが話し出す。それはいつもと違って弱々しいものだった。
アスカ「ねえカヲル・・・・・・あたしたち、これからどうなっちゃうのかな。」
カヲル「どうにもならないさ。」
アスカ「そうかな。」
カヲル「そうさ。」
強い口調で断言するカヲル。それを聞いて今まで感じていた不安が緩和されるのをアスカは感じた。
今までエヴァに乗ることがその全てだったアスカにとってシンジたちとの生活は未知のものだった。
だが、その中でアスカは母親が自殺して以来失っていた家族を感じることができた。今までアスカにとっての
家族とは単に戸籍上のものでしかなかったのだ。
最初は疎ましく感じていたレイやカヲルだが今ではアスカにとってかけがえのない仲間であり家族であった。
無論シンジを巡るライバルではあるが、家族としてのカヲルを、何よりその能力と責任感をアスカは
信頼していた。こうして今歩いているのもただの散歩などではなく使徒の襲撃に備えて第一支部の構造を
把握するためのものだということに気づいていた。
アスカ「シンジは大丈夫かな。」
カヲル「心配いらないよ。シンジくんは・・・たぶん君が考えているよりずっと強い。」
歩き続けながら話す二人はいつしか展望室に辿り着いた。ガラス越しに満月が映える。月光に照らされながら、
二人は黙って月を眺めていた。その光景は夢幻のように美しく感じられた。
月を眺めつつ物思いに耽るカヲルとアスカ。アスカはぼんやりととりとめのないことを考えている
だけだったがカヲルの考えていることはきわめて現実的だった。
そもそもカヲルは人をあまり信用していない。シンジたちはその数少ない例外だった。当然ネルフの人間に
至っては全く信用していない。この散歩の目的もアスカが感じたように使徒の襲撃に備えてのものでも
あったが人間との戦いに備えてのものでもある。無論自分から攻撃する気はないが、もし攻撃を受けたなら
手加減する気はなかった。また、人間側が一枚岩でないことも知っている。ネルフにその気がなくても
他の組織が動く可能性もあるのだ。事実、これまでに何度もシンジたちの暗殺、誘拐をもくろむ連中が
第三新東京市にやってきている。もっとも、その全ては自分たちに向けられた悪意を察知したカヲルによって
排除されているのだが。今回のことも人間の組織同士、例えばネルフと他の諜報機関との対立が自分たちを
呼んだ理由でないのかと思ったほどだ。
いずれにせよ油断は禁物だ。そう自分に言い聞かせてカヲルは部屋に戻ろうとした。そのときだった。
激しい衝撃が辺りを襲う。同時に警報が鳴り響く。
カヲル「敵襲?」
アスカ「見て、あれ!」
アスカが指さした方を見ると巨大な物体がこちらに向けて飛んでくるのが見えた。そしてカヲルには
それが輸送機に乗っていたとき襲撃してきた使徒だということが容易に察知できた。この速度なら
後一分足らずで戦いが始まるだろう。
そしてさらにもう一体。こちらは既に本部に入り込んでいるようだ。距離からしてレイが迎え撃つことに
なりそうだ。レイが既に敵を察知して動いているのを感じる。
カヲルはふと疑問を感じた。シンジの気配を感じない。これほどの爆発が起きているならシンジが目覚めない
はずはないのだが・・・・・そこまで考えてあることに気が付いた。先ほどの爆発点はシンジの部屋付近
だったはずだ。まさか、この爆発はシンジを狙ったものではないのか。
カヲル「くっ。」
アスカ「待って!」
走りだそうとするカヲルをアスカが押しとどめる。
アスカ「気持ちは分かるけど今はあれを倒す方が先よ。大丈夫、シンジはきっと無事よ。」
カヲル「・・・・・・・・分かったよ。」
カヲルは使徒の方に向き直ると、ATフィールドを解き放つ。敵は既に十分射程距離内に入っていた。
空中を飛び回る相手と戦うのは不利だ。カヲルも飛行は可能だが、この状況下では空中戦に持ち込んでも
さして有利になるとも思えない。
前回のようにまず翼を切断して飛行を封じ、それからとどめを刺す。それがカヲルの作戦だった。
だが、今回ばかりはカヲルには油断と焦りがあったとしか言えない。それが、使徒の進化を甘く見させた。
カヲルの放ったATフィールドを全く同じ技ではじく使徒。威力はカヲルのものと比べるべくもないほど
劣るがうまく角度をあわせればこれくらいはできる。さらに、口を開く使徒を見てアスカは嫌な予感がした。
アスカ「カヲル!」
言うなりカヲルを突き飛ばし、また、自分も跳ぶ。それとほぼ同時に一条の閃光がカヲルとアスカのいた
空間を薙ぎ払う。
カヲル「高出力のレーザーのようなものか。しかも前の戦いで僕が使った技を学習している。厄介だな。」
アスカ「カヲル、落ち着いて!冷静になりなさいよ。あんたには他にいくらでも手はあるでしょう。」
カヲル「そうだったね。ありがとう。」
右手をかざすカヲル。球状に展開されたATフィールドに炎の輝きが宿る。それを鋭い呼気と共に解き放った。
再びATフィールドを投げつけ撃墜しようとする使徒。だがカヲルはそれを読んでいた。放たれた球は
まるでそれ自身が意志を持っているのように使徒の放ったATフィールドの刃をかわし、使徒を直撃する。
カヲルのATフィールドは使徒のATフィールドを中和した時点で消えたが、中にあった熱エネルギーが
使徒を焼く。苦痛の絶叫をあげる使徒。だが・・・・・
アスカ「だめね。体が大きすぎて一部分焼き払っても死なないわ。」
カヲル「このまま攻撃し続ければそのうち倒せるだろうけど、それじゃあ時間がかかりすぎる。」
アスカ「どうするの?」
カヲル「・・・手はあるさ。ネルフの連中に手の内を見せたくはないけどそうも言ってられないし。アスカ、
防御は頼むよ。」
アスカ「分かったわ。」
精神を集中させるアスカとカヲル。そこに使徒が再び突っ込んできた。先ほどの攻撃ならたとえ直撃されても
数発なら耐えられる。そして、攻撃を仕掛けた瞬間の隙をついてレーザーで仕留める。
そう考えたのが使徒の運の尽きだった。
使徒が目前に迫っているのを見ながらカヲルは動かない。それを見た使徒は牽制のレーザーを断続的に放つ。
大気を焦がしつつ、アスカに迫る閃光。先ほど直撃された床は融解している。食らえばただでは
済まないだろう。だが、アスカは身じろぎさえしない。そして、光線がアスカたちを直撃する直前、
それは大きくねじ曲げられた。同時に力を解き放つカヲル。
外見はなんの変化もなかった。だが、使徒が次に口から吐き出したのはレーザーではなく黒い何かだった。
激しい苦悶の叫びをあげつつ落下する使徒の巨体。使徒は身体の内部からの攻撃に為すすべもなく引き裂かれ
て激しく痙攣し、断末魔の叫びをあげる。既に戦闘能力が残っていないのは明白だったがカヲルの攻撃は
容赦なく続く。あれだけの巨体がバラバラに分解されるのにさほど時間はかからなかった。
カヲル「よけいな時間を食ってしまったね。さあ、急ごう。」
アスカ「うん。」
戦闘の疲れを感じさせない軽やかな動きで走り出す二人。レイのことは気になるが、今はシンジの方が
先だった。
カヲル「シンジくん!」
アスカ「シンジ!」
程なくしてシンジの部屋に辿り着いた二人の見たものは焦げ付き、誰もいない空の部屋だけだった。
続く
後書き
K「今回はカヲルとアスカが活躍する話でしたね。」
アスカ「私の華麗な活躍がまだ不足しているわよ。前回も今回も戦闘はカヲルばっかりじゃないの。」
カヲル「ま、僕の実力からすれば当然だね。」
シンジ「僕は?」
K「次かさらにその次くらいで活躍する予定。」
レイ「私は?」
K「・・・・そのうち。」
レイ「そんなこといって活躍しないまま終わる・・・・なんて可能性は?」
K「う・・・・・なくはないかも。」
レイ「(・・・・・・じー)」
K「わ、わかりました。ちゃんと書きます。」
レイ「そう。よかったわね。」
K「(・・・・・大丈夫かな。)」
管理人(その他)のコメント
アスカ「えらいわ、K!」
カヲル「なにがいったい偉いんだい? 上でも君がいっているとおり、君はあまり活躍していないじゃないか」
アスカ「アタシはともかく、レイを活躍させなかったことよ!」
カヲル「はあ?」
アスカ「アタシはね、自分が損をすることは耐えられても、他人が得をすることには我慢ならないの」
カヲル「・・・・なんたる自己中心主義・・・・他人の成功を妬むタイプだね、君は」
どかっばきっぐしゃっ!
アスカ「それがわかってるんなら、あんたもちょっとはあたしに活躍の場をゆずりなさいよね! なによ、一人だけがんばって!!」
カヲル「そ、それは作者のKさんにいってくれないか・・・・」
アスカ「はっ、そ、それもそうね。K!! そういうことだから、もっとアタシを活躍させなさいよ! さもないとこのマサカリガ・・・・ごそごそ・・・・あれ?」
カヲル「ついさっきは誉めていたくせに・・・・ん、どうしたんだい?」
アスカ「マサカリ、錆びてる・・・・汗」
カヲル「ああ、僕を殴ったまま手入れをせずに放っておいたからだね。よかったよかった。これでばっさり斬られずに済む・・・・って、何振りかぶっているのかな・・・汗」
アスカ「斬ることはできなくても、ことはできるからね〜」
ごめすっ!!
カヲル「ど、鈍器・・・・ばたっ」
続きを読む
前に戻る
トップへ戻る