そして、それから
第弐話 動き始める運命
授業も終わり部活もないシンジたちは家に帰ろうとしていた。
そこに校内放送で呼び出しがかかる。
「1−A 碇シンジくん。惣流アスカさん。綾波レイさん。2−A渚カヲルくん。おりましたら
至急職員室までおいでください。繰り返します。・・・・・・・」
シンジ「あれ、呼び出しだ。何でだろ。」
アスカ「あんたなんかやったの?」
レイ「今朝のことじゃないの。」
カヲル「だといいけどね。」
アスカ「なによー。なんか他に心当たりでもあるわけ?」
カヲル「いいや。単なる勘さ。」
シンジ「とりあえず行ってみようよ。」
職員室に着いたシンジたちはそこで意外な人物と会うことになった。
アスカ「ミサト!」
シンジ「ミサトさん!」
全員に軽い緊張が走る。カヲルとレイは冷たい目でミサトを見ていた。
ミサト「久しぶりね、みんな。どう、元気だった?」
応接室に移動した一同。開口一番カヲルは身も蓋もないことを言う。
カヲル「久しぶりですね、葛城三佐・・・いや、今は一佐でしたか。もっとも、
僕は会いたくもなかったんですが。」
今ではカヲルの身長は約185p、シンジも178pは優にある。自分より確実に頭一つぶんは高いカヲルに
何とも言えない威圧感を感じつつもミサトは何とか愛想笑いを浮かべた。
ミサト「まあ、そう言わないでよ。せっかく久しぶりにあったんだし。」
シンジ「で、いったい何のようなんですか?」
ミサト「実はみんなにアメリカに来て欲しいのよ。」
アスカ「アメリカでなにをさせようってのよ?」
レイ「言わなくてもだいたい予想はつくわ。使徒がらみのトラブルがあったんでしょ。」
アスカ「使徒?」
レイ「或いはエヴァの、ね。どちらにしろ同じようなものよ。」
カヲル「そう、どちらにしろ厄介だってことさ。ま、そんなことを引き受けなければならない義務は
ないね。」
シンジはなにやら考え込んでいるようだ。3人の非友好的な視線を浴びてミサトはこの貧乏くじを引いたのを
思い切り後悔していた。そもそもこうなることは予想できていたのだが。
そう、あのときもこうだったのだから・・・・・
とりあえず戦いが終わったあの日。
エヴァがなくなった今、ほとんど無敵ともいえる力を持つレイとカヲルをどうするかでもめていた。
シンジ「で、カヲルくんたちをどうする気なんですか?」
リツコ「とりあえず、ネルフの研究所に所属してもらうことになるわね。」
カヲル「僕たちをどうするかじゃなくて僕たちがどうするかの間違いでしょう。エヴァを全機失った時点で
もはやリリンは僕たちに強制する力を失っているのですからね。さらに付け加えるなら研究所には
実験体として所属してもらうということですよね。」
カヲルは口調こそ丁寧だがその視線は氷のように冷たく、話す内容にも容赦がなかった。
その冷たい視線に睨め付けられ戦慄するリツコ。
ミサト「そうでもしないと国連は納得しないわ。あなたたちの力は危険すぎるのよ!」
カヲル「勘違いしないでください。僕はあくまでシンジ君個人の味方であってリリンという種全体の
味方ではありません。」
アスカ「どういうことよ?」
カヲル「どちらも僕には等価値ってことさ。人として生活するのも、使徒としてサードインパクトを
起こすのもね。」
その意味を悟って本部全体に緊張が張りつめる。
ミサト「レイはどうなの?」
レイ「私も嫌。そんな生活に意味はないもの。」
アスカ「じゃあサードインパクトを起こしても良いって言うの?あんた、一体何のために戦ってきたのよ。」
レイ「あなた、サードインパクトを防ぐために戦っていたの?」
言葉に詰まるアスカ。確かにアスカにとっての戦いとは自分の存在意義の証明だった。
さらに続けるレイ。
レイ「それにもしカヲルがその気になったらもはや止める手はないわ。・・・私ではカヲルに勝てないもの。」
ミサト「シンジくん、あなたはどうなの!サードインパクトが起きれば今までの苦労が水の泡に
なってしまうのよ。」
先ほどから考え込んでいるシンジに尋ねるミサト。しかしシンジはミサトの問いには答えず、
カヲルに尋ねた。
シンジ「カヲルくんは別にサードインパクトを起こさなくても良いんだよね?」
カヲル「人類の方が共存を望むなら、だけどね。」
シンジ「なら話は早い。なかったことにしよう。」
マヤ「なかったことって?」
シンジ「事実の隠蔽はネルフの得意分野でしょ。」
リツコ「そんなことできると思っているの?シンジくん。不可能よ!」
シンジ「もしだめだったら人類はカヲルくん相手に存亡をかけて勝ち目のない戦いを挑むことになるんだよ!
相手が別に戦う気はないって言っているのに自分たちから戦いを仕掛けて、それで滅ぼされちゃったら
馬鹿みたいじゃないか。」
ミサト「カヲルくんが戦いを仕掛けてこないという保証はないのよ。たとえあなたがカヲルくんを
信じていても他の人はそうはいかないわ。みんな使徒を恐れているのよ。」
シンジ「そんなの関係ないよ!僕は既に一度カヲルくんを殺しているんだ。もう・・・・・
もうあんなの嫌なんだよ!」
カヲル「シンジくん・・・・」
いつもとは違う、強い決意を秘めたシンジの言葉に僅かに驚いた表情になるカヲル。シンジに向かって
優しく微笑むと、今度は打って代わって冷たい眼差しでミサトを見る。
カヲル「で、どうするんです?どうしても力ずくで、というなら僕も実力で応じますけど。何しろ僕は使徒。
人類の敵ですから、やっぱりそれらしく振る舞わなくてはね。」
レイ「私もそうするわ。」
リツコ「レ、レイ!」
レイ「今の私には碇くんしかないもの。」
結局、シンジの提案どうり事実を隠蔽することにした。当然のごとく事情を知るものからは猛反発があったが
他に有効な手段は何一つなかった。そしてカヲルとレイの戸籍を偽造して、レイはユイの娘でシンジの妹と
いうことに、カヲルはアスカの兄ということになったのだった。
あのときのようにシンジが助け船を出してくれることを期待して、シンジを見るミサト。
シンジ「で、アメリカで何があったんですか?」
ミサト「ネバダで謎の大爆発があったのよ。」
シンジ「この前の新聞に載っていた奴ですか。原因は何だったんですか?」
ミサト「大質量隕石の落下によるものということよ。」
4人とも胡散臭そうな目でミサトを見た。
シンジ「また隕石ですか。よっぽど隕石に好かれているんですね。」
カヲル「その隕石落下と僕たちがアメリカに行くのとどういう関係があるんです?
勝手に調査なりなんなりすればいいでしょう。くだらない嘘で事実を隠蔽するのは勝手ですが
僕たちを巻き込まないでください。」
ミサト「これはあなた達にも関係のあることなのよ。派遣された第一調査団は全員死亡。
その際ATフィールド反応が確認されているわ。」
レイ「使徒なの?」
ミサト「それは分からないわ。ただ、言えるのは何かが始まりつつあるってことよ。」
シンジ「いずれにせよ、考える時間が必要ですね。みんなで話し合って決めますから
また後で連絡します。」
ミサト「いい返事を期待しているわ。」
とりあえずマンションに戻ってきたシンジたちはリビングルームでお茶を飲みつつ先ほどの話について
考えていた。
アスカ「で、どうすんのよ?」
沈黙を破ったのはやはりアスカだった。
シンジ「カヲルくん、どう思う?」
カヲル「考えられる可能性は3つほどあるね。まず第一に再び造ったエヴァによる事故が起きて、
造ったエヴァが暴走して止められないので僕たちに止めさせようとしている。
第二に爆発やATフィールドの話は僕らをおびき出すための方便で本当は僕らの抹殺が目的。
そして第三に・・・・・」
全員が沈黙する。それは最も考えたくない可能性。
カヲルの後をシンジが続ける。
シンジ「使徒が本当に復活した。」
その場を重苦しい沈黙が支配した。
アスカ「とにかく!ミサトたちが何を考えてるのかは分からないけど、そんなのにつきあう気はないわ。
そうでしょう?」
重苦しい雰囲気を変えようと努めて明るい声を出すアスカ。
レイ「そうね。私も関わりたくないわ。」
レイもアスカに賛成する。だが、シンジは強い決意を秘めて言った。
シンジ「僕はアメリカに行くよ。」
アスカ「ええっ?」
レイ「碇くん?」
カヲル「じゃあレイとアスカは残ればいい。僕はシンジくんと一緒に行くよ。全費用ネルフ持ちで
アメリカ旅行ができると考えればそんなに悪くない。」
話の意外な展開に焦るアスカとレイ。
アスカ「ちょっと待ちなさいよ。だいたい何でいくわけ?シンジ。」
レイ「そうよ。自分から進んで危険に飛び込んでいくことはないわ。」
シンジ「・・・・・うまく言えないんだ。ただ・・・・・・」
アスカ「ただなによ?」
シンジ「そうした方がいいような気がする。」
レイ「気がするって・・・・そんな理由で?」
シンジ「ミサトさんが言っていたように何かが起こっている。セカンドインパクトから始まった一連の事件が
ようやく終わろうとしているのかもしれない。」
アスカ「始まりの終わりってわけ?」
カヲル「或いは終わりの始まり、だね。」
沈黙が四人を包む。
シンジ「いずれにしろ、決着をつけたいんだ。」
カヲル「いいんじゃないかい。別に4人でなければだめというわけでもないだろうし。」
レイ「だめ。あなたと碇くんを二人でアメリカに行かせるなんて危険だわ。私も碇くんとアメリカに行く。」
アスカ「そうね。しょうがないからあたしも付いていってあげるわ。」
シンジ「別に無理しなくても・・・・」
アスカ「うるさいわね、付いていってあげるって言うのになんか文句あるの。」
シンジ「別に文句がある訳じゃ・・・・・」
アスカ「じゃ、何だって言うのよ。」
レイ「碇くんをいじめないで。」
アスカ「レイは黙ってて。今は私とシンジが話しているのよ。」
レイ「黙る必要はないわ。」
シンジ「ちょっと、ふたりともやめなよ。」
レイ」「碇くん安心して。碇くんは私が守るわ。」
恒例の喧嘩が始まってしまいカヲルは溜息をついた。
カヲル「やれやれ。結局こうなるのか。」
続く
後書き
K「またやってしまった・・・・・」
アスカ「なーにうじうじ悩んでいるのよ。」
レイ「気にすることないわ。この人はいつもこうだもの。」
シンジ「じゃあまた僕たちだけで話を進めようよ。」
カヲル「次からはアメリカ旅行だね。本当なら僕とシンジくんの二人だけのはずだったのに・・・。」
アスカ「そんな展開になるわけないでしょ。ヒロインを出さなくてどうするのよ。」
レイ「そうよ。」
シンジ「次はどうなるんだろう。」
カヲル「もちろん、僕が大活躍するのさ。次回「カヲル一行日記」僕とシンジくんの二人きりのアメリカ旅行
を乞うご期待。」
アスカ「あんたは黙ってて。だいたいそんなクレームを付けられそうな事は止めときなさいよ。」
カヲル「兄に向かってあんまりな台詞だね。」
アスカ「それも納得できないわ。何でそうなっちゃうのよ。」
K「あぁ、すいません高嶋さん。こんな事を書いてしまって・・・・」
アスカ「なら書かなきゃいいでしょ。」
レイ「碇くん、あの二人は放っておいて二人だけで旅行の用意をしましょ。」
シンジ「う、うん。」
アスカ「こらぁ、なにやってるのよ。二人とも。勝手に話を進めないで。」
カヲル「シンジくん、何を着ていこうか。」
シンジ「うーん。新しい服を買いに行こうかなぁ。」
アスカ「む、むっきいいいいぃぃぃ!あたしを無視するなあああああ。」
管理人(その他)のコメント
カヲル「あっめりかぁ♪」
アスカ「・・・・なによ、そののーてんぱっぱらぱーな発言は」
カヲル「だって、アメリカに行くんだろ? アメリカと言えば英語!!」
アスカ「・・・・今のはどう見ても、日本人の喋るあやしい英語もどきね」
カヲル「しょうがないじゃないか。僕は日本人なんだから」
アスカ「使徒属人もどき科・日本原産」
カヲル「・・・・ひどい言い方・・・・涙」
アスカ「どーでもいいけどね。やっぱりレイ、なんか積極的よ」
カヲル「どーでもいいならほっておけばいいじゃないか」
アスカ「アンタ、なんで最近そう突き放すのよ」
カヲル「さびしいのかい?」
アスカ「なんか原作からキャラが壊れてきているわよ」
カヲル「そう言うこともあるさ。ふっ」
アスカ「またわけのわからんことを・・・・」