第二十一話 運命の歯車3 行方知れずであった皇紀、ユイの出現。そして迫り来るテロ達、MAGIの 急がれる完成と防衛の手は休められることはなかった。 「駄目です!Bブロックはほぼ壊滅状態、これで第三フロアまで制圧されまし た!」 「メインコンピューターへのハッキング!!くっ、なんて速さだ!」 次々と飛び交う状況報告、しかしそのオペレーター達すら数分後には武器を 取り仲間とともに闘いへと赴いていく。そしてメインコンピューターの防衛及 びMAGIへのデータ転送にせわしく十本の指を動かすリツコ、さらには前線 まで自ら行き指示を下しているミサトにかわりトラップの発動や作戦の指示ま でだしている。 「軍は一体何をもたもたしてるの!?このままじゃこのドグマも陥落よ!」 「赤木博士!焦りは禁物です!」 そうさとすユイ自身もかなりの焦りを覚え、既に自身が防衛へと赴こうとす らしていた。が、MAGIの完成を急ぐためその強靭な意志でもって己を縛 り、魔法に関する古今東西のあらん限りのエッセンスをMAGIの頭脳へと送 り込む。 「データ転送、あとどのくらいかかりますか」 「早くても半日、MAGIのハッキングさえ来なければ十時間で」 「そう、こちらもマジックトラップの発動がなければ同じくらいね」 お互い、壮絶な精神力を使いながらの会話である。ふとあった二人の目は、 そんな状況下で何故か笑っていた。 (あの人の妻だというのに・・・私は、一体どうしたのかしらね) 爆発の衝撃が伝わり、事態がよりいっそう緊急であることを示す。 そしてテロリスト達は・・・・ * 「軍部への連絡はいってるのか?」 「いや、結界がうまく作動しているようだ!」 そこにいるのはわずか十三人、だがしかしテロリスト達の総員も十三人。彼 らは(彼女らは)現時点最強のテロリストであった。 「デュラン、右方向から十人!」 「あいよ!」 デュランと呼ばれた男、武器の一つも身につけずに劣化ウラン弾の飛び交う 廊下へと飛び込む。そして電光のような動きで壁に小さなクレーターのような へこみを造りそこに飛び込み、そして徐々に間合いをつめていく。 「隣の部屋から狙ってるよ!!」 デュランは振り向きもせず、ただ今度は床にクレーターを造る。そしてそこ に飛び込むとほぼ同時に壁を貫通して閃光が走る、レーザーだ。 「やばいよ、全方向から狙われてる!」 しかしあわてずに呪文を詠唱する、まだ十代であろう少女。 "力よ 我等が前に降り立ちて壁となれ" その直後、N2爆雷だろうか、ミサイルが魔法により撃ち込まれてくる。 「あまぁい!」 閃光の中、魔法の心得のあるものが張ったであろう結界に対し力任せに刃渡 り三メートルはあろうかという赤い刃の剣で突き破る大男、そして柄で敵を打 ち据え気絶させる。 「ほい、そっちに回すぞ」 無造作にまとめて襟首をつかみ、仲間のところへぶん投げる。 「ほいさ、これでユウは三十人目じゃないか?」 「正確には三十二人目だ、セイホー」 セイホーと呼ばれた男は、腰から短剣をぬき放つと捕虜達のまわりに打ち込 み結界で閉じこめる。 「そろそろ行くか、こんな時あの二人がいれば床ごとぶち抜いて中央突破で きたんだがな・・」 などと物騒なことをいっているのは先程性格にユウのしとめた人数を指摘した 男、実はこの集団の頭脳的役割をこなしていてヴァイエルという。 そんな ヴァイエルの甘い考えをただすかのように、しなだれかかりながら 「いないものはいない、あなたらしくないわね」 などというのはローザ。いずれもひときわ目立つ容姿だが、今はそれを語って いる場ではないので省略しよう。 そして改めてこのフロアを制圧したことを確認して、他のフロアと断絶させ る結界を張る。 「さあ、帝国のお偉いさん方に一泡吹かせるまであとすこしだぞ!」 * 場所はうって変わって戦場、神聖帝国の艦隊のブリッジ。 「・・・・と、いうわけでこの艦に配属されましたライジ軍曹です」 「・・どうも、ただいまマヤ艦長からご紹介に預かりましたライジというもの です、よろしくお願いします」 どうやらライジの昇進と戦艦「クルス」への配置の際の挨拶が行われていた らしい、シゲルとマコトはどこかムスッとした顔でライジを睨み付けていた。 その視線に気づいてか気づかずか、シゲルとマコトの方へと向かってくるラ イジ。思わずとっさに身構える二人、しかしライジはいたって普通に、むしろ 柔らかな物腰でこういった。 「あなた方がかの御高名なゼウスを操る、日向マコト軍師殿と青葉シゲル副艦 長殿ですね、前々からぜひ一度お会いしたいと思っていたのです。さすがとい うか何というか、敵の主力艦隊を打ち砕く様は一度戦場でお目にかかりました よ、神の雷、という兵器だそうですね。」 その口調はまるで、つい三日前まで自身の存在について悩んでいたあの陰気 なライジとは思えないほどにソフトだった。自分たちの宿敵、と自動的に認識 していた二人もこうまで持ち上げられては昨日までの怒りもどこへやら、あっ という間にそれまでの硬い態度を崩して話し始める。 「ああ、あれは正式名称は粒子振動砲といって、実際には超微震動している金 属微粒子を帯状にしてはなって、その振動によって生まれるエネルギーによっ て・・・・」 ついつい軍事開発部を自分でも視察に行くほどのマコト、解説をし始めてし まう。そんなマコトを押しのけてシゲルが質問する。 「いや〜、君の砲こそあの機体でよくぞ艦隊を三十も沈めたもんだ。うん、大 したものだよ。あれだけ沈める、何か秘訣みたいなものはあるのかい?」 するとその質問には答えず、ただ微笑みだけを返し逆に二人に質問をするラ イジ。 「日向軍師殿は何故バンダナを身につけていらっしゃるのですか?それに青葉 副艦長殿も、腕につけているそれは何なのですか?」 するともうすっかり打ち解けた感じで 「マコト、でいいさ。かたっ苦しいのは苦手なんだよ、特に同年代の奴から敬 語を使われると逆にこっちが神経使っちゃうからな」 「俺も同じく。・・で、質問の答えだけどな・・・・実はこれ、ブレイカーっ ていって俺がこの歳でここまで上り詰めた原動力なのさ。でも詳しいことは秘 密だ、お互い戦場で戦うもの同士の秘密なのさ」 「こっちはこの下には、実は秘密が隠されていてシゲルとまあ大体同じかな」 しかし、ついさっきまで敵意を抱いていた相手をこうもあっさりと打ち解け させるライジは一体何者なのだろうか?謎は深まり、そしてここに運命の歯車 がまた一つまわった・・・・ * 「ケンスケ、そろそろワシは行くで」 トウジがバトルスーツを身にまとい、昨晩完成させたばかりの紅の機体、炎 を象徴するかのようなフォルムの「ファイガッド」のコクピットの中へ身を翻 す。 「トウジ、敵の特徴はいつも十三人で行動していて、しかも全員特殊な能力が あるらしい!気をつけろよ〜!」 ケンスケが大声で最後に確認をすますと、機体から離れて飛び立つ姿に手を ぶんぶんと振った。 「トウジ・・・・」 心配そうにその遠のく機体を見つめるヒカリ。しかしその表情とは違い拳は 堅く握られ、胸にあてられていた。 (あの人は絶対に勝って、勝って帰ってくる!私との約束、一度も破ったこと ないもの) そう心の中でつぶやき、そして屋敷に戻る。 「私ができることはおいしい料理を作って毎日待つことだけ、トウジを信じて 待つわ。いつまでも。」 そうつぶやくと地下へと向かい、日課になった魔導の修練を積みに行く。 トウジの役に少しでもたてたら、との思いから始めてみた魔導の修行だが意 外にも才能があったのか、この一年間でヒカリの魔力は相当なものとなってい た。いまだ基礎の段階ではあるがこの調子だと魔法の収得に移るまで、そう時 間はかからないかも知れない。 (トウジと一緒に戦場には行けなくても、トウジの傷を癒す魔法が使えればい い) そう思い治癒系統の魔力を使役するのを得意とし、わずかながらも魔法は収 得している。我流だけに効率は悪いが、その威力と即効性は抜群のものがあっ た。 まあここで延々とヒカリの魔法修行のことについて語る気はない、ケンスケ の方へと話題を変えよう。 ケンスケはというと、せわしく何かを作っているようでコンピューターを駆 使しながらやたらがちゃがちゃと金属音が聞こえてくる。 (機体のパワーアップのためだ、機体の運動性とパワーを考慮すればここをこ うして・・・・) どうやら彼は何でもこなす軍師らしい、まったくもって忙しいものである。 しばらくするとまた軍部とオンラインで何かを交渉したり、いろいろと動き 始める。 この二人の待ち人、トウジが帰ってきたときには運命が動き出すであろう。 (必ずまた将軍になったる、まっとれヒカリ、ケンスケ!) ここでもまた一つ、運命の歯車がまわっていた。 * 「残すブロック、直上のYブロックのみです!」 そして報告をしてすぐに武器を取り、その男も闘いに参加する。 「もう十分、もう十分あれば・・・・」 「くっ、ここまで来ておしまいなんて私は嫌よ!」 既にトラップも尽き、再び下まで降りてきたミサト。そして即席トラップを 作ってデータ転送を待つリツコ。ユイは既に喋る余裕すらない。 「人手もくそもなくなったわね。ここは私達三人とMAGIのみ、そろそろや ばいわ」 いよいよ爆発により天井まで抜けて、遂にテロリスト達が降り立った。 「悪いな、お偉いさん方をぜひ一度泡を食わせてやろうと思っていたんでね」 デュランが先頭に立ち切っ先をMAGIにむける。 「こいつがぶち壊れれば、さぞネルフ帝国皇帝ゲンドウ殿は悔しがるだろう な。さあ、観念して投降しな!」 「くっ・・」 「ここまで、か・・・」 しかしリツコとミサトが武器を捨て、手を挙げて投降したのに対しユイは一 歩たりとも下がらない。ユウが衝撃波を繰り出し直撃させるが、シールドのよ うなものではじかれる。 「まさか・・A・Tフィールドか!?」 「そうか、あなたが東方の三賢者の碇ユイ皇紀ですね。ならば・・・」 セイホーが短剣を打ち込み、A・Tフィールドを無効化してさらに影に向 かってもう一本短剣を繰り出す。しかし、とっさに飛び込んできたミサトの腕 で防がれ、ミサトはその場に呪縛される。 (影縛り!?でもミサトがあそこにいる以上はユイ様は大丈夫、なら ば・・・・) リツコがいきなりのけぞり、それと同時に右足がデュランの顎に直撃する。 「っ、畜生!!セイホー、影縛りを!」 リツコを取り押さえ、真っ赤になった顎をさすりさすり叫ぶ。短剣が数瞬後 に飛んできて、リツコの影に突き刺さる。 「甘いわね!」 ユイがミサトの赤いジャケットの内ポケットに手をつっこみ、何かを上空へ と投げる。次の瞬間には閃光で当たりは包まれ、その直後ミサトが右腕の血を 利用してセイホーの目つぶしに使う。 「やられるわけにはいかないのよっ!!」 そしてわずかの隙をつき、ユウの手刀がミサトの首筋を打ちつける。呪縛か ら解き放たれたリツコが点滅するモニターを見、キーボードに飛びつく。 「これで完成よっ!」 リターンキーがその指により押されると、接続されていたコードがはずれて ゆき三体の体が動き出す。一瞬遅れてキーボードを破壊するが、しかし時既に 遅し。 「しまったあ!!」 そして振りかざされるカスパーのしなやかな腕、それに伴い空間が歪み、 デュランのかたわらの女が吹き飛ばされる。 「カイラ!くっ、ひとまず引き上げるか・・・ラミリア、空間転移だ!!」 「はい!!」 たちまちテロリスト達の体が薄れてゆき、消滅する。そしてようやく漏らし た安堵の吐息、リツコはもうくたくただった。 「よくやってくれたわ、赤木博士。それに・・・・葛城さんもね」 治癒魔法を唱え、ミサトを起こすユイ。そしてそれにゆっくりとした足どり でMAGI達が近づき・・・・ 「我等MAGI、マスターへの忠誠を誓いましょう」 運命の歯車が、遂に全て動き出そうとしていた・・・・
あとがき:05 カヲル「こんにちわ、こんばんわの人もおはようの人もいるかな?」 シンジ「なんだか最近僕らの出番がないもので、あとがきに回されちゃいまし た」 カヲル「いよいよプロローグが終わるって、作者さんは言っていたけど本当に これでプロローグ終了かな?」 アスカ「伏線だらけでオリジナルキャラだらけ、おまけにメインのはずのアタ シ達がでてないんじゃあ読む人少ないわよ、この二十一話」 レイ「脇役の人たちが活躍するお話だったわね、運命の歯車は」 シンジ「え?てことは、次は僕たちの番?」 カヲル「いや、残念ながら次で運命の歯車編は終了してその次にようやく僕ら の出番だそうだよ」 レイ「まったく何が書きたいのかわからなくなってるわね、この作者は・・」 アスカ「それじゃあ次の話なんかとばして二十三話から見るのよ!」 シンジ「アスカ、それはちょっと無茶苦茶なんじゃ・・・」次回予告 民衆達の声、それはいつも上までは届かない。全てを見届ける為だ けにいる民衆達、そんな彼らの力が集まり、今まさに爆発しようとしていた。 次回第二十二話、「運命の歯車・完結編」 お楽しみにっ!
管理人(その他)のコメント
リツコ「おーっほっほっほ!! どこが一回だけの泡沫主役よ!! 今回も見事に活躍したわよ!!」
アスカ「・・・・あとがきできっぱりと「脇役」って書かれているくせに」
カヲル「しかもユイさんががんばってるところさっさと降伏なんかして・・・・」
アスカ「ついでに言えばその「おーっほっほ」も脇役というか悪役の笑いね」
リツコ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カヲル「ふっ、勝ったな」
アスカ「・・・・どこか空しいわね・・・・それにしても・・・・こんかい、何人名前出てきた?」
カヲル「ふっ、君が分からないのに、僕が分かるわけがないだろう」
アスカ「いばるなぁ!!」
げしげしげし!!
アスカ「管理人なら管理人らしく、しっかり見ておくのよ!!