アスカ達は想像を絶するものを見ていた。

「な、何なのこれは!?」 

 その目前に繰り広げられているものは膨大な量の情報だった。

「これは・・・・」

 レイが手にとって読み始める。

「『2015年、全世界は滅びに際した。』」

「なによそれ、聞いたことのない話ね。」

 アスカが横から口を出す。しかしレイがそれも意に介さず読み続ける。

「『世界は破滅と絶望に包まれた。しかし・・・・ただ一人の少年の力により

救われた。その少年こそかの伝説のセカンドチルドレン・・・・碇シンジであ

る』・・・・碇シンジぃ!?」

 アスカとレイが顔を見合わせる。

「これってどういうこと?シンジが過去の伝説の人なんて・・・・」

 アスカが顔をしかめて言う。

「そうね、続きを読めばわかるかも。」

 レイが答える。しかし・・・・

ドギュゥーンドムッ

 銃声に驚き振り向くアスカとレイ。しかし・・・・

ドムッ ドムッ
  
 ふたたび鳴り響く鈍い銃声。そして倒れる二人・・・・ 

第八話本物版


「ちょっと、アタシ達を捉えてどうするつもり!?」

 アスカが磁場束縛弾という古風な、しかしそれだけに盲点だった物に捉えら

れながら言う。しかし、もうすでに撃ったらしい人物は消え去っていた。い

や、正しくはもともと人など居なかったのだ、ただ機械によって放たれた物に

引っかかっただけだ。

「無駄よ、これはおそらく自動情報防衛システムなんて代物じゃないの、どう

せ。それよりも呪文の詠唱でもしてこの磁場束縛を解くぐらいはしなさいよ、

喋っていてもどうしようもないじゃない。」

 こんな時にまであくまで冷静なレイ。しかしその束縛は意外にも強く、とて

もではないがすぐには解けそうにはなかった。
 
(こりゃあ、恋の一つもして死にたかったわね。こんなところで死ぬなんて想

いもしなかったわ・・・・まあ多分助かるでしょうけれども)

 レイは、確かに若い身空で恋一つせずに死ぬのはもったいないだろうがとに

かく、そんな呑気な考えでいた。はたして大丈夫なのだろうか・・・・

                 *
 
   アボリオンがカヲルの横にすっと来る。
 
「いいのですか、もしこのことがシンジ殿に知られたら・・・・」
 
  カヲルが妖しく笑って答える。
 
「いいんだよ、シンジ君に知られたとしても。むしろその方が好都合・・・・

いや今のは聞かなかったことにしてくれ。いいね。」
 
 アボリオンはかすかに頷き、承知の意を表す。 
 
「もしもこのことがシンジ君に知られても問題ないさ、なぜなら・・・・いや

これはまだ口にすべきことではないね。わかった、引き続き任務に就いてく

れ。」
 
 カヲルはふたたび妖しく微笑むと、それきり口を開かなかった。 
 
  アボリオンは、腑に落ちぬ顔をしつつも闇の中へ消えていった。
 
「・・・・彼が覚醒すれば、これほど好都合なこともないしね。」
 
  カヲルは、その整った顔を妖しく歪めてぼそりと一人つぶやいた・・・・
 
                  * 
 
 「やったな、あれ以来敵もそうそう不用意に攻めてこなくなったし。」
 
 シゲルが言う。それに対しマコトも珍しく上機嫌そうな顔で答える。 
 
「おかげで俺達、艦長に表彰だもんな。」 
 
  なるほど、この二人がこういったことでは一致するのだった。マコトはマ

コト、シゲルはシゲルでそれぞれ何か表彰を少し過大解釈をしているみたいで

やけにうきうきしている。表彰といったところで所詮は二人っきりになれるわ

けでなし、せいぜいお褒めの言葉ぐらいが関の山だ。
 
  とにかく、正装をして二人とも艦長の元へ急ぐ。しかし、当の艦長ときた

らこの二人は優秀でよくやってくれているわねぐらいしか考えてはいなかっ

た。

所詮男はありもせぬ事態に胸踊らせるのが世の常なのであった。
 
 結果、二人は艦長から勲章を直々に渡されただけで後は激励の言葉を冬月に

貰っただけだった。 しかし、この二人はくじけずよりいっそう気合いを入れ

ていいイメージを残そうときびきびとうごくのであった・・・・
 
 (がんばればまた表彰、いずれは昇格。そうなったら艦長に・・・・)
 
 (敵をしとめてしとめてしとめまくって有能さを見せつけなければ)
 
 ご苦労な二人であった・・・・
 
                 * 
 
 一方シンジは、一心不乱に呪文を詠唱して脱出をしようとしていた。 
 
 (アスカ、アスカ、アスカ、アスカアスカアスカ)
 
  行き先はアスカのいるところ、一心不乱にアスカのことだけをイメージし

て呪文の詠唱をおこなう。そのうちに空間に歪みが生じ、アスカのいるところ

への道が出来るのであろうが今はまだ歪みのゆもでていない。
 
 (アスカにあって、いわなきゃ!!)
 
 (アスカに会って、伝えなきゃ!!)
 
 (会いたい、アスカに一刻も早く・・・・こんなにもアスカが重要だったな

んて、離ればなれになるまで考えもしなかった。)
 
 思い起こせばシンジの物心ついた頃からアスカはそばにいた。シンジの母親

がいなくなった日も、王宮を抜け出して見に行った百年に一度の精霊の祭のと

きも、城の地下倉庫でアレを発見したときも、いつもいつも隣にはアスカがい

た。幼い頃からどこにいってもアスカ、旅行に行ってもアスカ、カヲルを迎え

にいったときもアスカ、いつもいつもアスカはシンジと一緒にいた。 
 
 たまに冷やかされたりもした、その度に否定してきた。けれども今は違う、

ただの幼なじみではないとはっきりシンジはいえる。ずっとそばにいたからこ

そ、喜怒哀楽を分かち合っているからこそ、お互いを一番よく知り合っている

からこそ今までいえなかった、言わなかったことがある。
 
(アスカ・・・・愛してる!!) 
 
  その想いはいよいよ高まっていき、シンジの体からは次第に優しい桜色の

オーラに包まれていく。
 
 ずっと一緒だったからこそ、これからも一緒でいたい。ずっと色々な経験を

共に積んできたからこそ、共にこれからも苦難を分かち合っていきたい。全て

のシンジの意志は今、アスカのことのみに集約されていた。 

(いつも僕の悪いところをぴしゃりと厳しく教えてくれたアスカ、いつもいろ

んな冒険を僕と一緒にしてきたアスカ、いつも僕の悩みを真剣に相談に乗って

くれたアスカ、いつも真剣に僕のことを考えてくれていたアスカ、いつも一緒

にいたアスカ、そして・・・・これからもそうしていきたい!!)
 
 その驚嘆すべき一途な想いが、アスカにも力を及ぼした。 
 
 (何、力が流れ込んでくる!?)
 
  アスカの全身にみなぎる不思議な力、その力で己にかけられた呪縛を一気

に解き放つ!!

 バキィィィンッッ!!
 
「と、解けた。」 
 
 アスカ自身も信じられない様子、しかし錯覚でも何でもなかった。 
 
「いくわよ、レイ!!しっかり身構えて!!」 
 
 そう告げるとアスカは何の詠唱もなしに今度はレイの呪縛まで打ち砕い

た!!アスカの体からもシンジと同じ優しい桜色のオーラが発せられ、不思議

とそれがアスカには心地よかった。

(何だろう・・この感じ、前にも感じたことがある。それもとてもとても身近

な気がする・・・・シンジかな?・・・・暖かい、まるで春の風にくるまれて

いるみたい)
 
 アスカはその感じを頼りに、レイの方へ一瞬で思念を送るとシンジの元へと

かけていった・・・・・・・・
 
                 * 
 
「まだかいな〜、しまいにゃわしらが塩漬けになってまうで。」
 
 トウジがげんなりした顔で言う、塩分の取り過ぎだろう。それに答えるケン

スケの顔色もおかしい、血液中の塩分濃度が上がってきている。
 
「もう少しだ、予定ではあと三分で着くはずなんだ・・・・」 
 
「ほんまかいな〜!?ワシはもう死にそうや、はよしとくれんかのう。」 
 
  しかしその声に首を振るケンスケ。
 
「残念なことに着いてから運ばれる場所までの所用時間は十二時間、半日だ。

もうこの際だから食べるのは我慢しよう・・・・」 
 
 その返事を聴いてげんなりとするトウジ。 
 
 (あ〜、将軍のながなくで・・・・)
 
 さすがにどんな状況におても根っからのいくさびと、将軍であるという自覚

は忘れてはいない・・・・もっとも自覚してどうなるという物でもなかった

が。

「まともな飯喰わして〜な〜!!!」
 
  悲痛の叫びも周囲の魚のせいでかき消される、悲しい奴だ。
 
 とにかくまだ二人の長い旅は続くのだった・・・・
 

火野竜馬さんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

トウジ 「うげーっ、もう塩漬け魚はこりごりやーっ」

ケンスケ「しょうがないだろ、生き抜くためには食えるときに食う! それが戦場の鉄則なんだから!」

トウジ 「関西人は食いもんにはうるさいんや、アカン、ワシはもう帰るわ」

ケンスケ「どこに? おれたちはいま帰るためにこうやってるんだろう?」

トウジ 「うむむっ、がああああっ、ワシはもういややあっ!!」

ケンスケ「あ、暴れるなトウジ!! ば、ばれるだろう!!」

トウジ 「ケンスケのその声でもうバレるんは確定や!!」

ケンスケ「あ、しまった・・・(汗)」


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