NEON
GENESIS

EVANGELION
CHILDHOOD’s END


EPISODE:25
      DEAD END



「じゃ日向さん、あと一時間程で松代の方からの解答が出ると思いますんで、こっちの方はよろしくお願いします」
「あぁ、了解」
 日向の返事に軽くほほ笑み、席から立ち上がる伊吹。
 手に持ったファイルには、これから行われる実験の要項が記されている。ポケットの中のDISCには、今回の実験の為に組まれた膨大なまでのプログラムが入っている。
 発令所から出る寸前、何かを思い出したようにクルリと身を翻す。
「あ、それと。MAGIはこれから実験の終了時まで使えませんから、十分注意して下さいね」
 その言葉に日向が軽く頷くのを見ると、満足そうに扉をくぐる。
 今日はこれから忙しいのだ。
 赤木リツコ、先輩の居ない分も自分が埋めねばならないのだから。
 自然と足が早くなる。最後には駆け出しそうな程に・・・

 扉の向こうに彼女が消える。今は二人しか居ない発令所。
 つい先日までは彼の横と後ろに、計七名の人間が居たのに、今は彼を含めて二人しか居ない。
 加持リョウジ、特殊監査部の人間・・・らしい。一番最後に来て、一番最初に居なくなった男。自分の上司と昔、何かあったらしいが・・・どんな男だったのか、あまり印象が残っていない。
 赤木リツコ、NERV技術三課E計画担当者。零号機の自爆以来その姿を見ていない。どこへ行ったのだろう?この忙しい時に?
 研究に対し一本気で冷徹さのある女性という印象が強い。
 葛城ミサト、NERVの作戦部長。自分の直接の上司。彼女は今、一体何をしようとしているのだろうか?最近ずっと彼女の表情につきまとっている影は・・・関係無い。自分は彼女に従うまでだ。そうすると決めたのだから。
 伊吹マヤ、赤木リツコ博士の直属の技術者。今はじきに始まる実験の為、ここには居ない。
 青葉シゲル、諜報・監査・保安部の各部署と、発令所を繋ぐ人物。今は行方不明のフォースチルドレンの探索に忙しい。俺以外に発令所に残っている唯一の人間。
 冬月コウゾウ、NERV副司令。好々爺然とした老紳士だが、その腹の内はようとして不明である。今はこの場に居ない。どうしたんだろうか?
 碇ゲンドウ、NERV総司令。使徒が出たとき以外滅多に姿を表さない。
 そして自分は今・・・松代から送られてくるはずの解答を待っている。参号機のコア消失に関する解答だ。
 MAGIによる解析はその大方がここ数時間ですんでいたが、未だ最終結果は出ていなかった。だがMAGIはこれから始まるNERV全体規模の実験の核となるために、使用不能となるため、松代のMAGIのバックアップを使って現在解析が進められている。
 確か、あと一時間ほどとのことだったが・・・
 ふと、時計を見ようとして、モニターに浮かんでいる文字に目を止める。
 NERVのモニターというモニター総てに浮かんでいる文字を・・・

実験開始まで 01:28:12


 暗闇の中浮かぶモノリス群。
 その中央に立つ銀色の髪の少年は、かつてフィフスチルドレン−−渚カヲルと呼ばれた存在。第十七番目の使徒とNERVに認識され、せん滅されたはずの少年。
「イースター島、南アフリカ、バルセロナ、ハワイ、フロリダ、リオデジャネイロ、インド、インド洋、ノーフォーク島」
「我々の九体総てのEVA、準備は整った」
「あとは、日本の弐号機と・・・」
「君の用意すべき二箇所だな、渚カヲル」
「準備は間に合うのか?」
 微かに光りながら、モノリス群が問いかける。
 芝居がかった調子で少し顔を上げ、微笑む。
「えぇ、彼も快く承知してくれましたよ。あなた方の思いどうりに、ね」
(いや、僕の思惑どうり、かな?)
 そのまま、数時間前のことを思う。真っすぐ自分を見据えた少年のことを・・・



「フィフス?つーことは、EVAのパイロットか?」
 不思議そうな表情で訪ねてくる。そうか、やはり彼は僕のことを知らないのか。
「あぁ、そうだ」
「そやったら、また新しくEVAが作られたっちゅうことか・・・」
 少し考え込むふり、だけのようだ。
「まぁええわ。で、俺に何のようや?」
 そういって軽くぐるりと回りを見回す。
 異常なまでに天井は高くそして広い、だが他に何者も居ない、不思議な部屋。
「こんなとこにわざわざ連れて来たんや、なんか大事な用でもあるんやろ?」
「君に協力をして貰いたいんだ」
 挑戦的なまなざしに、簡潔な言葉だけを返す。多少面食らったようだ。
「協力?何の?」
 ふふ、訳の分からない奴、って顔をしている。
 無理もない。
 この調子だと、これから何をするのか言ったら、どんな顔をするのか少し楽しみではあるね。こんな時に、不謹慎だけど。
「彼らを助けるには、僕一人の手に余るんでね。君の力が必要なんだよ」
「俺の、力ねぇ」
 少し迷っているのかな?
 ・・・言った方がいいかな?でも彼が聞いて来るまでは、言わない方が良いだろう。
「俺には何の力もないけど?俺にどうして欲しいんや?」
 なんだ、そのことを悩んでたのか
「君には力があるさ」
 誰にも負けない、思いという名の力が。
 そして唯一彼女の魂を救える力が。
「それに彼を助けることは、君も望んでいるんじゃないのかい?」
 君が生きることを望み、願うなら
 君が彼の友達ならば
「僕は彼を・・・シンジ君を助けたい」
 今のままでは、自分は死ぬことすら出来ないと知った時の絶望。
 老人達の計画を知った時の・・・言い様の無い感情。
 その二つを表しきったような顔を、その時僕はしてたに違いない。

 NERV内、EVAパイロット専用男子更衣室。事実上シンジ専用の更衣室といっても過言ではない場所。
 戦闘待機を命じられ、既にプラグスーツに着替えはしたが、することがなく一人でぼーっとしているより他に、することはなかった。
トントンッ
 不意に扉を叩く音。
 それに反応して、ビクリと姿勢を正しておそるおそる扉の方を伺う。
『入るわよ』
プシュッ
 返事をする暇すらも与えられずに開けられた扉。
 そこには彼の保護者、葛城ミサトが立っている。
「ミ・ミサトさん・・・」
 呆然とただ彼女の顔を見るしかないシンジ。
 気付いたのだ。彼女の顔に浮かぶ表情に。
 決意した人間だけが持ち得る、その鬼気迫るその顔に。
「シンジくん・・・すこしいい?」
 問うように聞き、返事を待たずに近づいて、隣に腰を降ろす。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・プシュッ
 静寂と沈黙。扉の閉まる音。
「!  ミ・ミサトさん!?」
 扉が閉まると同時に抱きつく彼女に、動揺の声を上げるシンジ。
 ・・・泣いて、いるのだろうか?
 そのままの姿勢でピクリとも動かない。
「・・・ミサトさん?」
「・・・・・・・・・」
「どうしたの?ミサトさん・・・」
 しゃくり上げる訳でもない、涙をただじっと流すでもない。
 何かを恐れるような、さみしいような、心細いような、そんな感じがする。
 だから、シンジには何も出来ない。彼女が何も望んでないと分かるから。ただ、今はこうしていたいだけだと、わかるから。

 数分間、そのままだった気がする。ひょっとすると、もっと長かったかもしれない。
「・・・ゴメン」
「え?」
 そのままの姿勢で、呟くようにそれだけを言った。
「ごめんなさい。怖かったのよ、今離れたらあなたが消えてしまうんじゃないかって。私が消えてしまうんじゃないかって」
 シンジには沈黙で答えるしかない。
 まだ何も言えない。
「今から私の言うことを、良く聞いて。
 良く考えて、そして決めてちょうだい」
 この姿勢では、表情は伺えない。だが声の雰囲気でわかる。
「私達は、選ぶことが出来るわ。真実を探究することも、逃げることもできる。選択権は常に私達自身にあるの、人に強要されるままに従うのも、それに逆らうのも、私達の意志でそうしてるんだもの」
 一旦言葉をきる。シンジが理解するための時間を少しでも与えるために。
「・・・だから、私は行く。自分の選んだ道を。後悔したくないもの、『何故あの時ああしなかったのか』って」
 「ま、後悔のないようにな」
 同じ言葉を聞いたことがあるような気がした。
「加持は、私に道を残してくれた」
 そう、あの時加持さんに・・・
「だから私は、シンジ君に道を示さなきゃいけない」
「・・・・・・・・・?」
 手に何かを渡される感触。鍵?だろうか
「セントラル・ドグマ最下層、あなたが彼を、渚カヲルを追って行った場所。
 そこにあなたのお父さんの仕事、人間の補完計画の総てがある。EVAやレイ、あなたのお母さんのことも、多分そこでわかるわ」
「・・・ミサトさん?」
「四番ロッカーの鍵、これの中にあそこに行くのに必要なものが入ってる」
 盗諜を恐れているのか、小声である。
「このまま口をつぐんで何もしないのも、これを使って真実を知るのも、どっちもあなたの自由よ」
 抱きついていた手を緩める。
「そしてこれが、あたしがシンジ君にしてあげられる、最後のこと」
 身体がゆっくりと離れ、顔が目の前に来る。目が合う。
「忘れないで、あなたの未来はあなた自身が決めるんだってことを」
 その瞬間顔が近づき、頬に唇が触れる感触・・・
 鍵を持つ左手を思わず握りしめる。頬が少し熱い。
 数秒ののち、ゆっくり離れる。もう目線が合うことはない。
「シンジ君・・・もう、後悔しないでね・・・」
 扉に向かい一歩を踏み出す。
 迷いはもうない。足跡は残せた。気掛かりだったことも整理した。・・・道はちゃんとしめせた。
プシュッ
 運命の扉が開く。
「じゃ・・・・・・がんばってね」
 さよならは言わなかった。
 そして過去と決別するために、彼女は前へ歩き出した。

プシュッ
 扉の閉まる音がする。
 置いて行かれたような気がする。
 「あなたの未来はあなた自身が決めるんだってことを」
 選択しなきゃいけない。自分の未来を
 未来は、この左手の中にある。そんな気がした。
 だから立ち上がり、そして・・・・・・・・・・・・・・・・・・きめた。

「MAGIと各地の接続、終わりましたか」
 最終点検の為、声を張り上げる。
「フロリダ、インド。あと10分でつながります」
「その他は総て完了してます」
 彼女の声に応じて、次々と報告が上がってくる。
「わかりました。弐号機の準備は?」
「整っています。何時でも構いません」
「わかりました。でわ実験開始まで、待機していてください」
「了解」
 着々と整っていく実験の準備。
 恐ろしい、とも感じる。
 何のための実験か?疑問に感じることもある。
 司令、いやそれよりも上から来たという命令書。赤木先輩の手によると思われる、実験の要項書。なにもかもが解らなかった。自分の知らないところでなにが起こっているのだろうか?
「ふぅ・・・」
 疲れているのだ。赤木先輩が居ない穴を埋めようと、一人で必死にやってきた。結局自分は、先輩を頼っていたんだとシミジミ感じた。
 実験の為に、ここ数日気を張りとおしなのだから、しかたないか。
「さ、がんばらなきゃね」
 何か口に出して言わないと、思考の闇の中に自分自身すらも消えてしまいそうな気がした。
 ・・・ひとつ、気付いたことがある。
 この実験−−世界各地とMAGIを繋ぎ、各地十ケ所で同時にEVAの起動、制御を行う実験−−がもし成功したら。MAGIとダミーシステムを握る者は、世界を滅ぼす力を持つのだ、と言うことを。
「・・・まさか、ね」

実験開始まで 01:02:45




「そう、十二体のEVAを地球上の十二ケ所に配置。ATフィールドの互いの干渉力を利用し、地球全体を覆う」
 どことも知れない場所。鈴原トウジと渚カヲルの会話は、次の段階へと進んでいる。
「何のためや?」
 人類補完計画の実行に関する詳細。
 改めて受けた説明は、彼にとって意味不明な言葉であった。
「EVAは、敵性体のATフィールドを中和して、物理攻撃の効くようにして戦う兵器だってことはわかっているよね?」
「そのくらいは・・・シンジに聞ぃとる」
「それの応用さ」
 老人達とあの男の望み。
 似て非なる到達点。
「それで世界中を覆うことにより、人と人との間にある、心の壁を無くしてしまうのさ」
「心の壁?」
「人と人とを繋ぐ影の部分を無くし、互いに補完し合う。それが彼らの目的だよ」




「それが補完計画!?」
「そう、人間の中の闇を取り払い、争いをなくし恒久的平和を実現するための手段だと聞かされているわ」
 NERVのロゴが、赤く浮かび上がる。
「冗談じゃないわ!」
 彼女は今憤っている。先程親友より聞き出した「人類補完計画」の主目的、それを知ったのだ。今まで知ることの出来なかったトップシークレットについに触れたのだ。
 困惑が初めにあった。意味が浸透するにつれ、怒りが深くなった。
 こんなことのために今まで子供達に戦わせてきたのか、そう思うと自分が、回りのNERV総ての大人達が、情けなく思えてきた。
「そんな勝手なこと、させるもんですか」
 ゆっくりと自分の親友を見据える。
 対する彼女は、ただつらそうに視線をそらし、うつむき続けるのみ。
「・・・・・・どうする気?ミサト」
 それでも聞かずにはいられない。答えがわかっていても。
「セントラルドグマへ、行くわ」
 司令には聞きたいこともあるしね。個人的に。
「・・・・・・・・・そう」
「・・・あなたも来るのよ、一緒に」
「無理よ」
「知らなかったの?拘禁は既に解かれているのよ」
 告げられても動かなかっただけ。彼の顔を見るのが怖かったから、外に出ようとしなかった。外には出られないと思いたかった。
 彼に拘禁されている。その方が良かった。
「知ってるわ」
「じゃどうして?」
「・・・・・・会えないのよ」
 怖いから
「・・・そう。でも悪いけど、引きずってでも連れていくわ」
 いいきる。
 時には誰かが手をひいて導いてやることも必要なのだと。
「シンジ君にも言ったでしょ。逃げてばかりいちゃ、駄目なんだって」


実験開始まで 00:32:27

 発令所は、じきに始まる実験の為に慌ただしく動いていた。
 例外は松代からの解析待ちの自分と、未だフォースチルドレンが見つからず、長時間の激務にぐったりとなっている青葉二尉だけだ。
「どうです、コーヒーでも煎れましょうか?」
「あ、お願いします。・・・砂糖たっぷり入れて下さい」
「了解」
 彼の表情には疲れの色しか見えない。
「どうぞ」
 コーヒーカップを渡すと少し安堵したように微笑む。
「まだ、見付からないんですか?」
「えぇ本当にぱったり足取りが途絶えてまして・・・」
 言葉を止めて、コーヒーをすする。
「・・・お手上げですね」
「しかしまぁ、こんな慌ただしい時に使徒が来たら、どうするんでしょね?」
「まったくですね。ま、初号機が動かせるみたいですから、何とかなるんじゃないんでしょうかね」
「そうですね・・・おっと、失礼」
 軽口を叩きあっていた時、松代から結果が届いた。
「どれどれ・・・・・・・・・」
 結果に目を通すにつれ、自分の顔があおざめていくのが分かる。
 言葉を止めた俺を、もの問いたげに見る青葉二尉の視線を感じる。
−−コア消失の際、残されたDATA等を統合して導き出された124の結果の内、最も可能性の高いものは「虚数回路による回廊の形成」−−
 ディラックの海
 まさか、使徒!?



 不意に床に落ちていた彼の影が広がる。
 そしてそこから表れたのは、膝まづいた異形の巨人「EVANGELION」
 この高い天井の部屋でさえも、彼女の背には届かない。
「これは君になら使いこなせる」
 紅い瞳で見つめながらその少年は言った。
「いやこの四号機は君にしか使いこなせない」
 アメリカ第二支部と共に失われたはずのそれ、は今ここにある。
 参号機と基本的なフォルムは変わらない。頭部の形状が若干違うがほとんど同じで、いろは参号機がダークブルーだったのに対して、この機体は暗闇の黒を基調としている。
「なんで俺しか使えへんのや」
「この機体が、君専用のフォーマットをされているからさ」
 EVAは乗り手を選ぶ。
「君が乗る為に、このEVAのコアは作られたんだ」
「コア・・・」
「このEVAのコアは参号機と同じ物を使っている。君と同じに使徒に触れた、参号機のね」
「参号機・・・」
 辛そうな顔だ。思い出したんだろう、あの時のことを。
 手が、自然と義足の方にいってる。
「そう、君も感じていたんだろ?参号機の中の『彼女』を」
ビクリ
 何も言葉を返せない。
 気付いたんだろうか?僕の言いたいことに
「まさか、コアの中に・・・」
「そう、コアは彼女を元に、彼女を犠牲に作り・・・」
 最後まで言うことは出来なかった。
 彼の拳が飛んできたからだ。
 だが、決して僕自身を狙ったものではない。僕の広げた左手に、乾いた音をたてて拳がおさまる。
「なんやね・・・それ」
 憤りと悲しみが心の中に渦巻いている。自然と涙が溢れてきた。
「だから、君に協力して欲しいんだ。四号機はそのための力だし、なにより・・・」
 言葉を受けてゆっくりと顔を上げる。
 誰に怒りをぶつけていいか分からない。そんな顔だ。
「彼女の魂を、開放してあげる為でもあるんだ」



 再び闇の中のモノリス群。
「既に彼は四号機で南極上空で待機中ですよ」
 その言葉の効果を確かめるかのように、一旦言葉をきる。
 消滅したはずの四号機、それが存在するというのは以外なる重みをもって、SEELEに受けとめられる。
「本来なら支部ごとお返しした方が良かったんですが、支部の人間達は先に神の元へ行ってしまいましてね。それにパイロットも一人心当たりがありましたから、こちらのほうで勝手にやらせてもらいましたよ」
 こともなげに、悪びれるようすもなく言い放つ。
「では僕も、北極点で時間が来るのを待ちましょう」
 不意に彼の足元に円状の闇が現れる。ゆっくりと沈んでいく渚カヲル。
「では、まってますよ」

 人影の無くなった闇の中。
 残されたモノリス群。
「神の使徒は我らが味方となり」
「約束の時がくる」
「我々は新たなる階梯へいたるのだ」
「神の御元へ」

「もうすぐ約束の時は来る」
 セントラルドグマ最下層。ヘヴンズドアの向こう側、まさに「あの世」と呼ぶにふさわしい場所。
 この場に居るのはいつもと変わらぬ碇ゲンドウ、貫頭衣を着たファーストチルドレン、綾波レイ。
 その他には・・・目の前の巨大な十字架に架けられた物−−加持とミサトがADAMと呼び、フィフスチルドレン渚カヲルがLILITHと呼んだ存在−−がある。
 眼下に広がる奇妙な色の海には、生命の存在が全く感じられない。
 正に死者の世界がそこにある。
「行くぞ、レイ」
「・・・ハイ」
 十字架に架けられた物体に二人が近づこうとした時・・・
「もう止めてください。碇司令」
「・・・・・・葛城君に、赤木博士か。何のようかね」
 拳銃をゲンドウに向かって構えたミサトとその後ろのリツコ。
「お話しがあります」
「よかろう、まだ時間はある」

 随分前から監視の目が無くなっていたことには気付いていた。
 こんな重要施設を歩いているというのに、誰ともすれ違わない。なぜだろう?
 誰も居ないはずはないのだ。単に人の密度が薄いだけなのだ。
「自分が今、何をするべきか。か」
 廊下を歩いている最中、ずっと思い出しながら歩いてきた。
 何気ない言葉の中に学ぶべきことがあることに気付いた。
「僕はただ楽なほうに進んでるだけだった」
 一度認めてみると、なぜか楽になった。
 人間は、自分にその時に出来ることをするしかない。
 その積み重ねが人生なのかもしれない。
「今度は自分で選んだ。そう胸を張って言える」
 例え他人に与えられた選択枝であろうと、選んだのは自分自身なのだ。
 目指す扉が目の前に見える。
 あの中で、やるべきことがまずひとつ。
 まずはそれから。
 ひとつのことを初め無ければ、決して前には進めない。
 だからもう、迷わない。臆することも今はしない。 BR> 今の自分に出来ることをするだけだ。
「・・・・・・!」
 右手に拳銃を持ち、左手に持ったカードをスロットに入れる。
ピピッ プシュッ
 電子音と共に扉の開く音。
「・・・君か、よくこれたな」
 そして予想とは違う、司令室より聞こえてきた声。
「副司令?」
 そこに居たのは副司令、冬月コウゾウその人ただひとりのみ。
 大きな窓からジオフロントを眺めていたのだろうか?窓際に立ち、こちらのほうに顔だけを向けている。
「・・・父さんはどこですか?」
 問い詰めるような勢いで問いかける。決心が空回りしたのだ。
 それには答えずにゆっくりと身体をこちらに向け、歩み寄ってくる冬月。いつもと変わらぬ穏やかな顔。だが眉間には苦悩の皺が微かにあることをシンジには気付けない。
「どこに居るんですか!」
 荒げられる声と彼に向けられる拳銃。引きがねに掛けられた指に少しだけ力がこもる。
 だが目の前の老人は動じることをせず、そのまま歩みを進める。
「もう、ここにはおらんよ」
「え?」
「彼は自分のするべきことの為に、とっくに動き出している。十年前におよび腰となった私とは違い、いつでも前に進もうとする。それがどんな結果を産むのであれ、あの姿勢は見習った方が良かったのかもしれんな」
 苦笑混じりの冬月の言葉。理解出来なかった。彼が何を言っているのかを。
 だけど少し気になる言葉があった
 「十年前」
「十年前、何があったんですか?」
 よもや聞かれるとは思っていなかったのだろうか?驚いたような顔でこちらを見ている。
「君は忘れたのかね?あの時のことを」
「十年前・・・ですか?」
 まさかという思いはあった。聞かずにはいられなかった。
「あぁ、あの時君もあそこに居ただろう」
 十年前、父に関わりあいのある人物がショックを受けた出来事。
 筒状の物の前で手を振る母さん、母さんと誰かが話してる声。
「母さん・・・」
「そう、ユイ君が実験中の事故により、亡くなった時だ」
 確か、あの時あの部屋には自分と父さんの他に、何人か人が居た気がする。
 父さんといつも一緒にいたおじさんは、この人だったんだろうか?
「くっ・・・・・・」
「君には辛い出来事だっただろう」
 思わず目を背ける僕に、穏やかに話しかける。
「私にしても、ショックではあったが、何よりも一番傷ついたのは、多分碇の奴だと思うよ」
「・・・父さんが、ですか?」
「あぁ、あの一件のせいで彼も変わったよ。あんな夢物語を実行に移そうとするくらいだ。あの時も恐らく藁にも縋りたい気持ちだったんだろう」
「夢物語、ですか?」
「そうだ、だが今それは現実のものとなろうとしている」
「!」
 今父さんがやろうとしていることを、この人は知っている?
「父さんは・・・何をするつもりなんですか?」
 ひたと見つめる。この人の瞳の奥は分からない。
「知ってどうするつもりかね?」
「知って・・・それからどうするかを決めます」
 知らなければ、迷うことも決めることも出来やしないのだから。
「そうか」
 ため息と沈黙。
 天井に床に描かれた奇妙な幾何学模様の照らす紅い光のみが、不気味に神秘的に、僕たちの顔を照らし出す。
「私が言葉で言うよりも、君がその目で確かめたほうがよいだろう。人間という名の特異なる種の見つけ出した、悪夢のような真実を・・・付いてきたまえ」
 そう言うと部屋の角に向かって歩き出す。
 慌てて後を追うシンジ。
「ここのエレベーターは、HELLに直通している」
「ヘル?・・・地獄、ですか」
「あの場所はそう呼ぶにふさわしい。そこで君の父親がしようとしていること、君の母親、ユイ君の目指したものを、知るといい」
「母さんの・・・ですか?」
「『この子には明るい未来を見せてやりたいんです』そう言ったはずだよ、彼女は。少なくとも彼女はあれがそうつながると思っていたようだ」
「あの、事故が・・・ですか」
「あの時の実験が、だよ。
 皮肉なことに、彼女の事故によりEVAが完成し、それが彼女の説を裏づける結果となったのだ。なにがどこでどうつながるか、まったくわからんものだ」
「・・・・・・」
「それともうひとつ・・・・・・人に銃を向ける時は、ちゃんと安全装置が外れているか確認したまえ」
「えっ?」
「今のままでは、私に対しては何の脅しにもならんかったよ」
 慌てて右手の拳銃をみる。・・・どれが安全装置なんだかわからない。
チンッ
「来たようだな。まぁこの中でよく調べることだ」
「ハァ・・・」
 何だか情けなくなってきた。
 仕方なしに、そのまま乗り込む・・・
「副司令は、来られないんですか?」
「私は、碇や葛城君の代わりに発令所に居るよ。陣頭指揮を取れる人間がひとりは居ないとな」
「・・・そうですか」
「頑張りたまえ」
「・・・・・・・・・ありがとうございます」
 ゆっくりとエレベーターの扉がしまる。
 後戻りはきかない。
「行ってきます」
 最後に呟いた言葉は、冬月さんに届いたのだろうか?
 確かめる術はない。
 浮遊感、エレベーターは一直線に地獄へと向かう。

 一人残された、冬月。
「見てきなさい、今この世界の真実というものを」
 語るべき相手は既に目の前にはいない。
「SEELEの道化ぶりと、壊れかけた自分の父を」
「所詮人間は人間だ。神などになる必要はない。
 それに、神など初めから存在せんのだから・・・・・・」
 その呟きを聞くものは、誰もいない。
 ただ、闇の中に言葉がすい込まれて行くだけだった。

「初めは、一枚の衛生写真から始まった」
 地獄の底で響くのは、碇ゲンドウの声のみ。
 そこにあるのは、語る者、問う者、自失の者、存在し得ぬ筈の者、総てを知る物。
「君も覚えてるだろう?あの日の一週間前に氷の底から発掘されたアレを」
「・・・・・・ハイ」
 そう覚えている。父が嬉しそうに「大発見だ!」そう言っていたことを。まるで子供みたいな顔で。
 それは過去にこの地に足跡を記した何者かの遺物だった。
 少なくとも、そうだと思われていた。
「私はそれを見たとき、人間の業の深さを思いしったよ」
「?・・・どういう意味です?」
「あれは、人間とこの世界の成り立ちに深く関わる物だ。人はそれに関する記憶を持って産まれることがないゆえに、あれに触れようとする。それが滅びの手段であるとしらないからな」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・パンドラの箱、というのを聞いたことはあるかね?」
「ハイ」
「あれも似たようなものだ。人間が決して触れてはいけない、開いてはいけない、そんな存在なのだよ」
 希望のないパンドラの箱を開けたのは・・・・・・
「君は覚えているかね?あの時誰があれに触れたか」
「・・・よくは覚えていません。でも多分・・・」
「私はその時にはそこに居なかったからね、だが推測は出来る。葛城教授が開けたのではなかったか?」
 「この中には、人類の過去と未来が詰まってるんだ」そういって、父は私にあれを見せた。あの物体を。
 外見はなんて言ったらいいんだろ?卵?ボール?ミサイル?スベスベしてるような外見の割に、表面はザラザラしているらしかった。重そうにも見えたけど、人によっては軽いという人もいた。
 ・・・・・・そういえば、どんな人だったか良く覚えてないんだけど、あれを一目見て「ゼノン・・・本当にあったのか」って言ってた調査員の人が居た気がする。他の人は聞こえてなかったみたいだったけど、あたしは聞いた。
 あれがなんだか知ってるみたいだったけど・・・その人にそれを聞く前に、その人は報告の為に日本に一旦帰っちゃったから、その後は知らない。
 そのあともお父さん達はそれに関しての分析なんかをしようとしてたけど、結局なにも解らずじまいで。日本に移送しようという話がでて、その次の日・・・
 アレは起きた・・・セカンドインパクト
「多分父が起こしたのでしょう・・・」
 アレが起こる前日、父が無線機相手に口論していたのを覚えてる。
 なんだったんだろう?
 今まで、思い出したくなかったから思い出さなかったことが、どんどんでてくる?
「司令は、あの物体がなんだかご存じなのですね」
「あぁ・・・あの時その場にも居たし、その前から存在は知らされていたからな」
 その前から知っていた?・・・まさか
「ゼノン、ですか?」
ピクッ
 反応したのは司令だけじゃなかった。レイも、微かだが反応したように見える。
「やはり、あの時聞いていたか」
ダァン!
 銃声が響き渡り、辺りにこだまする。
バシャァン
 なにかが水面を打つ音。
「なら聞こう。君はゼノンの中身を見たのかね?」
 ふと見ると・・・リツコが居ない。
 碇司令の右手に、いつの間にか硝煙たなびく拳銃が握られている。
「どういうつもりですか!司令!」
 彼の目は、リツコの方を見ようとしない。ただ私に向かって問いかけるまなざしだけがそこにある。
「見たのかね?」
 レイも私のほうを見ている。その瞳からは感情は探れないけど・・・
「インパクト直前の記憶が、私にはありません。見たのかも知れません、見てないかもしれないです。でも、それが一体なんだっていうんですか!?」
「あの時、きみらがあれに触れたがゆえ存在し得ないものが現れ、この世界は『滅ぶ』か『還る』かの二つの未来しか選択できなくなった」
「・・・・・・どういう、意味です?」
「あの中に居たのは、    そのものだ」

 その言葉の意味することに戦慄が走った。
 本能的な衝動!
 彼に向けた銃口から、弾丸が出たのは、その瞬間にして直後!

「オイ、渚」
『なんだい?鈴原くん』
「なんや宙に浮いとるような気がするんやけど・・・?」
『まぁ、君の居るところは南極だからね、大陸がインパクトで蒸発しただけに、立つ瀬がないってとこかな』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10点」
『そ・それはちょっとひどくない?』
 地球の両極で、呑気な会話をする二人。
 そんな会話に関係無く、刻一刻と約束の時はせまっている。
『ともかく君が何をすればいいかは、解ってるね』
「おぉ、わかっとる。とりあえずは・・・従えばええんやろ?」
『そう』
「しかし、なんでこないな回りくどいことすんのや?短刀直入に力押しでいきゃ、お前の一人勝ちとちゃうんか?」
『確かに、そういう手もある。でもそれじゃ駄目なんだ』
「駄目?」
『うん。今はまだ話せない、けどいずれ話すよ』
「・・・・・・わぁった。もう何も聞かん。俺はお前にかけたんやしな」
『・・・・・・ありがとう』
 ありがとう
 こんな風に互いに打算であっても信頼しあえる。
 矛盾を抱えながら有り続けている存在。
 それは脆くはかない心と、決してあきらめない思いを持った存在。
 人間。
 何故、彼らは自分自身をあんなに否定して、他人に憧れるんだろう?
 何故、神と言う名の幻想に憧れるんだろう?

 暗闇の中、モノリスの呟きが響く
「人類の新たな進化・・・それを得るために」

 驚きで目がいっぱいにまで見開かれる。
 彼女の撃った弾丸は、総てレイによりはじかれていた。
 庇う様に彼の前に立ち、ATフィールドを展開したレイによって。
「人類は進化の袋小路に立たされている」
 ゆっくりと銃口が彼女に向けられる。
 目の前で起こった出来事を、心が拒否した。
 分かっているつもりでも、少しずつジリジリと後退せずにはいられなかった。

「今こそ我々は、神に近づくのだ」

 ついに彼女は壁際まで達した。もう逃げる場所はない。
 ふと目を向けると、親友の抜け殻がLCLの海に浮かんでいるのが見えた。
「肉体での進化が終極まで来たのなら、神へ還ればいい」
 無慈悲な銃声が響く

 どうして・・・?
『どうして人間達は、それが「滅び」への道だと、気付かないんだろう?』
「それが人間の性やさかいな」
『え?』
「んな、大声で考えんな。丸聞こえやで」
『あ・・・ゴメン』
「別にえぇって。それよか、あと何分や?」

実験開始まで 00:00:25


 エレベーターが減速を始めた。
「これで、いいはずだ」
 拳銃の安全装置は解除した。
 撃ってようか、そう一瞬考えたが慌てて否定する。
 こんなところでエレベーターが止まったら、冗談じゃすまされない。
「ミサトさん、あれからどうしたんだろう・・・」
 リツコさんも、アスカも・・・綾波も、今何をしてるんだろう?
 父さんは・・・このエレベーターの行き付く先に居るはずだ。
 副司令がHELLと呼んだ・・・その場所で、何をするつもりなんだ?
 父さんがやろうとしてること、母さんの夢見た未来。
 その答えが、この箱の行き付く先にある。
チーン
 最下層に付いたことを示す音がする。
 ゆっくりと扉が開く。その先には・・・

正に地獄がそこにあった。

 生物の気配を微塵も感じさせない場所。
 渚カヲルをこの手で殺した場所。
 忌まわしい、一目見たら忘れられない異形のものが張りつけられてる場所。
 LCLの海に浮かぶリツコさん。
 血を流して倒れてるミサトさん。
 そして、その先に居るのは・・・
「父さん!」
「・・・・・・・・・来たか」

 それが約束の時

「実験開始します」

 人類の未来を決める、その日が始まる・・・



最終話に続く
新世紀エヴァンゲリオンは(C)GAINAXの作品です
あとがき
 EVANGELION CHILDHOOD’s END 25話Bパートをお送りいたしました。
 こんにちわ、BLEADです。やっと書き上がりました。つらい、その上場面がコロコロ変わるし、話が分かりにくい。しかも今回長い割に話が進んでいない。
 ゲンドウとSEELEの思惑の違いは、できる限り分かるように書いた・・・つもりですが、どうでしょうか?
 もっとも謎なのが渚カヲルの思惑。何を考えてるのか、モロバレなようで何も語っていないのがなんとも・・・やっぱ自分の書いたものは、客観的には評価しづらいですね。
 鈴原トウジは、なんか渚と仲いいし。なんでだろ?なんか気が結構あいそうな気がするんですよね。私個人としましては。(友人として、ね)
 ゲンドウと遂に相対することになったシンジ。そして人類補完計画の要とも言える綾波レイ。・・・誰か足りないな・・・惣流君が足りん・・・
 今回は話の展開上出番無かったからなぁ・・・次回は出番たっぷりだけど。
 ・・・前例から行って爆弾が送られてくる確率が高いから・・・蓬○学園の料理研に例の圧力釜発注しとくか、中で核爆弾が爆発しても大丈夫というやつを爆発物処理用に。

 この作品(駄作かも)は副題のごとくチルドレン達(なんか変)の成長の物語という側面と、私の中の「神」という存在に対する付き詰めの果てに存在する作品です。
 正に趣味とアイデンティティの集約です。
 果たして何人の人が読んで下さるか・・・結構心配。



BLEADさんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

アスカ「あ・ま・い・わね!! 爆発物処理用なんて!」

カヲル「おや、どうしたんだい? そんなに憤って」

アスカ「ワタシの出番が全くないことへの憤りよ! 送りつけるなんて生やさしいもんじゃなく、国連軍の全航空機を動員して絨毯爆撃よ! かけらも残さず消滅させてあげるわ!」

カヲル「ま、そういうことは彼方へおいておいて、と。とりあえず上のお話、君はどう思うね? 人類補完計画の真相、残されたエヴァを使った実験。渚カヲル、つまり僕の真意、それに従った鈴原トウジの意志。そしてシンジと父ゲンドウの対決、それらが全て収束する最終話は果たしてどうなるのかと」

アスカ「うーん。勝手に推測すると作者にいらぬ迷惑をかけるから、とりあえずこれだけ言っておくわ。アタシを活躍させないと、今度こそどうなるかわかってるでしょうね!

カヲル「それも十分「迷惑」かけているような・・・「脅迫」・・・・」

アスカ「うるさいっ!!」


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