偽作「まごころを君に」
第八話「終局、そして・・・」

BY秋月







「シンジ、決まったようね。」

「・・・うん・・・そうだね・・・」

「どうするの?」

「・・・僕は・・・今の世界を望むよ・・・」

「この世界では死んだ人はもう帰らないわよ。」

「・・・うん・・・分かっているよ。・・・母さんも、だね。」

「・・・ええ。」

「・・・母さん、逢いたかったんだ、もう一度・・・」

「何時も思っていたんだ・・・母さんってどんな人かなって・・・」

「僕は母さんのことを顔も覚えていなかった・・・」

「ううん、違うね。」

「あの時、僕は母さんがエヴァに取り込まれた時、見ていたんだから。」

「そう、母さんが消えていくのを見て逃げ出したんだ。」

「だから、忘れようとしたんだ、母さんのことを。」

「あのことを思い出すのは辛いから・・・」

「僕自身が辛いから・・・」

「だから、父さんを憎んだ。」

「僕を捨てた・・・父さんを・・・」

「母さんを殺し、僕を捨てたと思いこんで・・・」

「でも・・父さんも辛かったんだね。」

「あの人は、本当は可愛い人なの。」

「ただ、人と接するのが不器用なのよ。」

どことなく笑いを含んだようなユイの声が響いてくる。

「うん、そうだったのかもしれない。」

シンジもゆっくりと穏やかに微笑んだ。

「僕は最後まで分かって上げられなかった。」

「・・・分かろうともしていなかったんだね。」

「でも、今は少し、分かった気がする。」

「あの人が・・・父さんが最後まで望んでいた世界・・・」

「でも、あの世界は・・・悲しいね・・・」

「僕に、楽しいこともあるって教えてくれた人がいたんだ。」

「失うことが怖くて、辛いことが嫌で・・・忘れていたけど・・・」

「楽しいこともあったんだって。思い出させてくれたから。」

「あの世界には辛いことはないけど・・・失うことはないけど・・・」

「何も得られることもないんだね・・・」

「僕は、生きてみたい・・・」

「僕自身が作ってきたこの世界で・・・」

「みんなと作ってきたこの世界を、僕自身を・・・」

「好きになれるかもしれないから・・・」

「・・・好きになってみたいから。」

「そう、良かったわね。」

ユイはシンジを見つめながら柔らかく微笑んだ、満足そうに。

「じゃあ、この世界を保つために後少しがんばらなくっちゃね。」

「シンジ、リリスを還して上げて・・・」

「どうすればいいの?」

「初号機の制御をあなたに任せるわ。」

「後はあなたの思うとうりにしてみなさい。」

「うん、分かったよ。母さん。」



☆☆



シンジは今までと異なった感覚を味わっていた。初号機とシンジ自身の区別が全く付かない。初号機の感覚が全て自身の感覚として認識される。今までのようなフィードバックのようなものではなく、シンジ自身が初号機となったようであった。

成層圏まで広がり、地球を覆うように広がっていた初号機の翅はすでに大きさを変え、今はその輝きにより初号機の体を普段の倍ほどに見せる程度になっていた。しかしその光は減じられることなく、いまだに神々しい輝きを放っている。

辺りの景色がシンジの意識に映る。破壊された本部施設や天井が向け、青空が露出している崩壊しかかったジオフロント内の様子が否応もなく流れ込んでくる。シンジは故意にそれらから意識をずらし、自分の意識に触れるものを探す。
シンジが「それ」を見つける前にシンジの中で「声」が聞こえてきた。
「碇君、あそこ!」

シンジはその声の意識の方向に向き直る。そこには瓦礫の中から這い出してきた白き巨人が地表に突き刺さる巨大な槍に歩み寄る姿があった。

二つの意識がシンジの中で警報を鳴らす。シンジはその警報に従い巨人に向かって跳躍した。
初号機は背中の12枚の翅を煌めかせながら、槍に近づく白き巨人に向かって今までにない速さで迫る。だが、巨人は初号機がその場に着く前に槍をその右腕一本で地表から引き抜いていた。

初号機は槍を抜いたがまだ構えられずにいる巨人の胴に右から回し蹴りを放つ、巨人はその蹴りをまともに受けて左後方に吹っ飛ばされるが、その右腕には槍がしっかりと握られていた。轟音を上げて倒れ込む巨人に初号機は追い打ちをかけるように殴りかかる。
しかし、巨人はその右腕を不安定ながらもふるう。空気を裂く音を上げながらシンジの左肩へと槍が迫り、初号機の周りに展開されているATフィールドを易々と貫き、初号機の背の翅の一つと絡む。接触面から火花が上がるが、やがて槍によって翅が切り裂かれる。
初号機は翅が切り裂かれるまでの僅かな間を使って身をひねり、槍の穂先を何とかかわした。いったん巨人から距離を置く。その間に翅は再生し変わらない輝きを放つ。
また、巨人の方も槍を杖代わりにゆっくりと起き上がった。二体の巨人はそのまましばらく睨み合った。
シンジの中で再び警鐘が鳴り響き、緊迫した二つの声が同時にシンジの中で上がる。

「碇君、駄目、急いで!!」

「シンジ、止めて!!」

その声を掻き消すように白き巨人が咆吼した。シンジは声に急かされるように巨人に向かって走る。その初号機の前で巨人は速やかに変貌していく。巨人の膨れ上がっていた腹部が光り出し、そこから紅く輝くコアが現れる。そして、全身が白く発光しだし、背中から一際輝く光が漏れだす。その光は徐々に初号機の背にあるのと同じような翅を形作っていく。
リリスはゆっくりとシンジの、初号機の方に顔を上げる。その顔には紅く光る二つの目が生まれ、鈍い輝きを放っている。

リリスは初号機に向かってその背の4枚の翅をなびかせながら襲いかかってくる。
突き出された槍の穂先は初号機のATフィールドをも難なく貫き初号機に迫る。その攻撃はなんとか体をひねってかわしたがリリスはそのままの勢いで体当たりしてくる。二体の間でATフィールドが発光し、様々な陰影を投げかける。
リリスの勢いに初号機は押し負け、そのまま空中を運ばれていく。広大なジオフロントの中から外に押しだせれ、第三新東京市の一角に背中から叩き付けられる。
シンジは体を起こし、目を見張った。そこには大きな湖が口を開けていた。かつて自分を守るために一人の少女が作ったその湖は空の色をそのまま湛え、血に染まって見えた。シンジにはそれがその少女の血のように思えた。シンジの顔に憂いが刻まれる。

「碇君。」

心配そうな少女の声が聞こえてくる。シンジはその声に答えて微笑む。

「今度は、僕が守らなくっちゃね。」

「もう、君を死なせないよ。」

「もう、二度と・・・」

「君と共に生きるために・・・」

シンジは迫り来るリリスを睨み付け、自分を鼓舞するように叫ぶ。

「うおおおおお・・・・」

初号機の口からも咆吼が漏れる。リリスの繰り出す槍を右に避け、渾身の力を込めて右腕を突き出す。その拳がリリスの左肩を捕らえるが、リリスはそれに何ら構わず槍を横凪にふるう。初号機は翼をふるわせて上空に飛び上がってかわした。

何度も続く攻防にシンジは焦りを感じだしていた。相手の攻撃はこちらのATフィールドを易々と貫くロンギヌスの槍である限り一撃も受けるわけにはいかないが、こちらの攻撃はリリスに聞いている様子を見せなかった。リリスは初号機の攻撃を何度もその身に浴びながらも槍を軽々と扱い切り込んでくる。
初号機の装甲にすでに目立つ傷が出来始めている。

「このっ・・・」

シンジがもう一度リリスに突っ込もうとしたときに、シンジは自分以外の存在を強く感じた。その気配は今までもすぐ側にあったが、明らかに今までのものよりも身近に感じられた。

「あ、綾波・・・」

呆然としたシンジにその気配が答える。

「碇君、私も手伝う。」

「だ、駄目だよ。綾波・・・」

「私も碇君を守りたいの・・・」

シンジはレイの気配からレイがそれを譲ることがないことを悟るとゆっくりと自分の意志を伝える。

「分かったよ、綾波・・・」

「でも一つだけ約束して・・・」

「何?」

「生きよう・・・二人で・・・。」

「・・・うん。」

シンジはレイの確かな答えを聞いて微笑んだ。彼らは今、体を持っていなかったが、お互いが微笑んでいることが伝わってきていた。二人の意識が初号機の中で絡み合う。
その瞬間、意識が溶け合うような感覚が二人を襲う。シンジはレイを、レイはシンジを庇うように思念をこらす。
それと同時に初号機が変化を始める。その背の12枚の翅がゆっくりと解きほぐされていき初号機の各部の拘束具が軋みを上げる。一つ一つがその内側からの力により引き剥がされていき、アダムの素体が直に現れる。

また、猫背になったアダムの背からゆっくりと何かが盛り上がり始める。ゆっくりと確実にそれらは一つの形を作っていく。
アダムのコア部分が輝きだし、ゆっくりと全身を覆う。その光が背中にまで達し、その姿を完全なものに変える。アダムはゆっくりとその背の「もの」を羽ばたかせ、空中に舞い上がった。それは先程まであった昆虫の翅を思わせる光の筋ではなく、12枚の純白に輝く鳥類を思わせる翼であった。

湖の上で二体の光り輝く巨人が衝突する。アダムからは何かを訴えるかのような咆吼が、リリスからは嘆きが漏れる。シンジ達の中に別の意識が流れ込んでくる。悲しみに満ち溢れた純粋な二つの情念。

「これは?」

シンジは自分の中に問いかける。

「リリスの想い・・・」

「ただ一つ残ったリリスの想い・・・」

「そしてアダムの想い・・・」

ただ、アダムの、そしてリリスの想いだけが伝わってくる。お互いのATフィールド、お互いの想いを叩き付けながらアダムとリリスの攻防は続く。

幾度目にかリリスの繰り出した槍をかわしたアダムは懐に入り、リリスを抱き締める。リリスはその腕から逃れようと暴れるが、シンジはその両腕に精一杯の力を込めて抵抗するリリスを押さえ込む。
アダムの背の純白の翼が一対を残してリリスを包み込み始める。愛しいものを包み込むかのように優しく、しっかりと。
純白の光がゆっくりとアダムとリリスを包み込んでいく。リリスは暴れその右腕の槍を両手に持ち替え自分の腰の辺りにしがみついているアダムに向かって突き降ろす。二股の穂先がアダムの首に突き刺さり、リリス自信のコアにも到達する。シンジ達の意識に鋭い苦痛が生まれ、いくつもの絶叫が上がる。

その中でシンジは・・・レイは・・・ユイは祈った。神にではない、この世界の神が自分たちの想いに答えないことを誰よりも彼らは知っていたから。ただその願いだけを込めて。「奇跡は起こすものよ。」ミサトが何時か言った言葉がシンジの脳裏をよぎる。シンジは想いを強める、その願いだけが力を与えてくれると言わんばかりに・・・
全ての「人間」の安らぎを・・・願いながら・・・それよりも深いところで傍らの存在を助けたいと・・・生きたいと・・・

リリスはアダムの腕の中で、翼の中でだんだんと形を崩していく。もうすでにリリスは抵抗を止めている。その顔には不思議に安らぎを湛えているようにも見えた。
純白の光の中で白い巨人は消えていく、後に何も残さずに。
二体の巨人はその浮力を失い徐々に湖の中に落ちていく。その足が湖の底についたとき、純白の光が一条、闇を切り裂き二体の巨人から上空の黒き月へと延び、地上と月を結ぶ。

その光が消えた後には天空には白く淡い光を投げかける月が、地上には取り残されたように湖の中に一人項垂れたたずむ巨人が存在していた。
ゆっくりと巨人の体を包む光が弱まり、夜の静寂に沈んでいく。

光の消えた湖にただ一度だけ高い水音が響き、湖の中に生まれた波紋は暗い水際へと消えていった。



☆☆



シンジは一人、闇の中に立っていた。しかし今は彼の顔に不安はなかった。何かを決心したような全てが吹っ切れたような表情を浮かべている。
そんなシンジの傍らに女性の人影が朧気に浮かび上がり、優しい口調でシンジを促す。

「シンジ・・・行きなさい。」

「彼女が待っているわ。」

「うん、そうだね。」

「じゃあ、母さん。もう、行くよ。」

「で、でも・・・最後に・・・」

「何?」

「か、顔を・・・顔を、見せてくれるかな?」

「母さんの顔を・・・」

「僕は覚えてないんだ、母さんの顔を・・・」

「だから、最後に・・・せめて・・・」

「いいわよ。」

ユイはその姿をしっかりと浮かび上がらせ、シンジに向かって微笑んだ。

「母さんって、こんな顔をしてたんだね。」

シンジもユイに向けて微笑み返す、その方には一筋の涙が光っていた。ゆっくりと瞼を閉じ、自分に言い聞かせるように、宣言するように呟く。

「もう、忘れないよ。決して・・・」

「母さんのことも・・・父さんのことも・・・」

「アダムやリリスのことも・・・エヴァのことも・・・」

「自分の選んだ道を・・・」

「じゃあ、さようなら、母さん。」

シンジはゆっくりとユイに背を向けて前方にある蒼い光に向けて歩き出した。
それを見つめるユイはもう一度微笑んだ、少し寂しそうに、それでいて嬉しそうに。

「あなた、シンジは生きることを選んだわ。」

ユイは誰にともなく闇の中で呟いた。



☆☆☆☆☆☆☆☆



後書きと秋月の犠牲者達との雑談

「どうも、秋月です。最終決戦アダムvsリリス如何だったでしょうか?」
「分からないと言う人は何処が分からなかったかメールに書いて送って・・・」
どかっ
「い、痛いじゃないですか。不意を付かれたら身代わりもできないんですよ。」
「知らないわよ、そんなこと。」
「そんなことって・・・」
「管理人のカヲル君を見てみなさい、毎回殴られるのにも耐えているじゃない。」
「彼と一緒にしないで下さい。僕はいちようこの作品の作者ですよ。」
「そう、私達を殺した張本人よね。」
「あわ、あわわ・・・じゃ、じゃあ、今回のゲストですが・・・」
「話を逸らせると思っているのかね。前回はよくも身代わりにしてくれたな。」
「た、たまには良いじゃないですか?」
「馬鹿者、お前には失望した。」
「では、どうすれば良いんです。」
「もちろん、早くユイを連れて来るんだ。」
「・・・・」(後ろを指さす秋月)
(壊れかけたブリキのおもちゃのように後ろを向くゲンドウ、そこには・・・)
ばきっ、ばきっ、ばきっ、ばきっ
「(私は何も見なかった)ではゲストはアダムとリリスですが、月からやって来て下さいませんでした。」
「ううむ、やはり無理がありましたか。この部屋での最初の出演拒否です。」
「仕方のない人ですね。本当に。」(溜息)
「そう言われても、名前のない人は出すわけにはいきませんし。」
「ここは初めから破綻をきたしていたのね。」
「では、この辺で。批評、抗議、意見、感想などなんでも構いません。頂ければ僕はとてもありがたいです。届いたメールには必ず返事を書きますから、どうか気楽に送って下さい。では、最終話「四重奏」で。」
「ああ、それと一つ宣伝です。このSSの導入編の企画が実はありました。四部構成でそれぞれチルドレンの一人称で企画していました。時間が無く完成したのが一話だけだったために未公開となったのですが、その完成していた一話をこの度、@isaoさんのページに投稿させていただきました。ご存じの方もいらしゃるでしょうが、

 REI.AYANAMI- Innocent Red Eyes -


です。タイトルは「月の裏側」、よろしかったら見に行って下さい。でも僕のSSより他の方々のSSの方が素晴らしいですから、そちらの方もごらんになった方が良いかもしれませんね。(笑)」


秋月さんへの感想はこ・ち・ら♪   


管理人(その他)のコメント

カヲル「秋月さん〜なんでたまには僕の代わりに殴られてくれないんですかぁ〜(涙)」

アスカ「うるさい、アンタの体格ってアタシの拳になじんでちょうどいいからよ!!」

 どかっばきっ

カヲル「そんなぁ・・・・こんなのって、ジャイアンなみに理不尽だぁ・・・・・」

アスカ「なんですって!! アタシがジャイアンみたいだって言うのアンタは!!」

 げしっげしっげしっ!

カヲル「うきゅうう・・・・ど、どうして今日はこんなに暴力的なんだい?」

アスカ「ママの声がするから上に行こうとしたら、「秋月さんへの感想は・・・・」とかいう障害があって上に行けなかったし、帰ってきてみたらみたでアタシをほっぽりだしてレイとシンジで話を完結させて!! むきいい、このやり場のない怒り、どうにかしないと美容に悪いのよ!!」

 ごすっぐしゃっ!

カヲル「そ、そんな・・・・・理不尽な・・・・・」

アスカ「あー、むかつく。これで最終話がメタクソだったら、秋月、覚えてらっしゃい!!」


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