BY秋月
「な、なに・・・まさか、ロンギヌスの槍!」
アスカセンサーの捕らえた映像に声を上げる。アスカはそれがまっすぐに自分の乗る弐号機に向かって落ちてくることに気づき、その物体により与えられる圧力に恐怖を感じた。動かない弐号機の中でレバーを必死に動かす。
「い、いや〜、死にたくない、助けて、助けて、ママァ!」
アスカの絶叫が通信画面を通して三機のエヴァ内に響き渡った。
先程まで、二体のエヴァが、弐号機と五号機のいたはずのその場所には長き影を伴った槍が一振りだけ存在していた。残骸すら残さずに二体のエヴァは消滅していた。
シンジはその様子を目を背けることも出来ず凝視していた。
「ア、アスカ、カヲル、くん。」
弱々しい声でそう呼びかけ、目を擦ってみる、何度も目を擦り辺りを見回す。何処にも弐号機の赤い機体は見えなかった。残っているのは白い量産機が八体のみ。シンジは自分の中で何かが壊れていくのが見えた。
「あ、あ、ああああああ・・・・」
シンジの声は最初こそ弱々しかったが、だんだん声量が増していき、すぐに痛々しい絶叫に変わった。その絶叫に呼応するように初号機の両目にうかぶ光が強まる。徐々に強まっていく禍々しい光。
そして初号機に変化が訪れた。初号機の周りの空気が変わっる。その全身から禍々しい気を放ち空に向かい長々と咆吼する。そして目の前に迫っていた量産機の一体に獣のように踊りかかり、右腕をそれに伸ばす。その一撃は易々と量産機のコアを貫いた。全身を弛緩させ崩れ落ちる量産機。
その間にその左側の一体に向け初号機は片手を振り上げ、勢いよく振り下ろす。量産機は急いでATフィールドを展開するが、そのATフィールドごとまるで紙のように切り刻まれ、胴体を引き裂かれ倒れ込む。
残った量産機六体は初号機を包囲して一斉に襲いかかるが、初号機は全方位にATフィールドを展開してそれを阻む。初号機のATフィールドは今までにない輝きを放っていた。量産機もATフィールドを展開し、中和しようとしているが六体がかりでも初号機一体のATフィールドを中和することが出来ないでいる。その間にも初号機のATフィールドは輝きを増し、まるで際限が無いかのように強まっていく。二つの目に宿る禍々しい光を強めながら。
「初号機のシンクロ率が急激に上昇しています。」
「・・・250・・・270・・・290・・・300%突破しました。」
「現在なおも上昇しています。」
「このままではパイロットが危険です。」
その声に続き別のオペレーターからも声があがる。
「初号機から今までにないほどの強力なATフィールドが・・・」
その声を遮るようにその隣のオペレーターの声が飛ぶ、しかし彼も最後まで言葉を発することが出来なかった。
「いえ、そんななまやさしいものじゃありません。こ、これは初号機から翼が・・・」
その言葉と共に発令所の視線がモニターに集まる。そこには量産機六体に取り囲まれながらATフィールドだけで遮る初号機の姿があった。
初号機の背中の一点から白い光が発せられていく。すぐにその光は一点に止まらず放射状に広がり、だんだんと白からオレンジにと色彩を変えていった。それに伴いただまっすぐに広がっていた光線がゆっくりとある形を形作っていく。
初号機の背に折り畳まれた一対の昆虫の翅のような光が浮かび上がり、なおも光の強さを増していく。
初号機がもう一度咆吼すると同時にその光は四方に広がり、六対の翅を形作り、さらにその大きさを増していく。
背に12枚の光り輝く翼を纏った初号機の姿は美しかった、神々しいまでに。先ほどまでの禍々しい雰囲気をなおも発し続けていたがそれすらも含有した、鬼気をはらむような美しさを誇っていた。
初号機のATフィールドに取り付いていた量産機は初号機の背から広げる翼に触れ、蜘蛛の巣にかかった哀れな小虫のようにもがきながら、粉々に砕け散っていく。次々と吹き上げられる爆炎が初号機の姿を新たに彩る。
全身から光を発しながら初号機は暗き空に向かってなおも咆吼し続けていた。その声はどこか悲しそうに聞こえたのは気のせいであっただろうか。
上空では昼間であるにもかかわらず、青空が翳り、空の色を変えていく。惨殺が起こっなわれた場所には相応しからぬ、ぬけるような青から、血に染められたようなどす黒い赤に。
その中で一際黒い円盤が初号機の直情に浮かんでいた・・・黒い月が・・・
初号機の翼はなおも広がり、発令所のモニターをその光だけで満たしていく。
「初号機の翼が成層圏まで達しています。」
「なおも拡大しているもよう。」
「初号機に内部に高エネルギー反応、計測できません。」
発令所ないのモニター、ディスプレイどれもが初号機の咆吼に合わせるようにめまぐるしく変わり、次々と情報を流してくるが、その情報のほとんどは誰にも理解できなかった。
「初号機を中心に気圧が変化しています。」
「衝撃波、来ます!!」
オペレーターの緊迫した声がその場に響く。そして一泊の後に発令所全体を揺るがし、衝撃波が襲いかかった。同時に発令所の下に位置するマギの中枢から三つの火の手が上がる。メルキオール、バルタザール、そしてカスパーの順に爆炎を上げていく。それに答えるようにジオフロント内の各地から炎が生み出され、本部は確実に崩れ落ちていった。
彼女は行き止まりに会うたびにATフィールドを展開して障害物を排除しつつただ一人の存在に向かって進んでいく。
彼女の求める存在に向かって。
彼女にも今何が起こっているのか正確に理解することは出来ていなかったが、彼女にとっての優先順位からすればそれは大したこととは思えなかった。今彼女は自分にとってもっとも大切な者の元に向かおうとしているのだから。
そして彼女は彼が無事でいるという確信があった。しかし、それでも彼女の内なる声は自分を急ぐように駆り立てる。彼女はその声に従った。
少女が施設から出る最後の壁を吹き飛ばしたとき、外からの圧力が少女に容赦なく襲いかかった。
「くっ・・・」
思わず呻き声がその形の良い小さな唇から漏れる。それでも少女はまっすぐに外を見つめ、自分の求める存在を探す。
それはすぐに見つかった。少女に襲いかかる「圧力」の中心に存在している巨人の中に彼の存在を感じる。その悲しみが、絶望が襲いかかる圧力を通して痛いほどに伝わってくる。彼女自身も気づかなかったが、その白い頬には一筋の涙が形作られていた。
「碇君。」
レイは呟くと意識を自分の展開しているATフィールドに向け、己の体を浮かび上がらせた。襲いかかる圧力に抗して初号機に近づくにはかなりの疲労を要した。
やっとの事でたどり着いた初号機はぴくりとも動いていない。まるで活動を停止しているかのように、そうではないことは光り輝くその背の翼から、そしていまだに放ち続ける両の目に宿る禍々しい光が教えている。
少女は初号機に向かって呼びかけた。
「碇君?」
返事は返ってこない。
「碇君?」
なおも呼びかけるが初号機に反応は見られない。
レイは中空を滑り初号機のむき出しになっているコアに近づく。
そっと右腕を伸ばしコアに触れ、囁くように呼びかける、想いの全てを込めて。
「碇君。」
今度はその声に反応したかのようにコアにほんのりとした紅い光が灯る。レイはそれを見るとほんの僅かに表情を崩し、呼びかけを繰り返した。
「碇君。」
「碇君。」
「碇君。」
レイが呼びかけるごとにコアの光は強くなりゆっくりとその光がレイの体をも包み込んでいく。レイは瞼を閉じると光にその身を任せた。
次の瞬間には少女の姿はそこから忽然と消えた。
荒れ狂うジオフロント内には光り輝く翼を広げた初号機だけが取り残されたかのように立ち尽くしていた。
瓦礫と化した本部施設を見下ろすかのように。
「どうも、秋月です。今回の話はかなり辛かったです。情景描写ばかり、会話がほとんどなし。心理描写が少なかったことが唯一の救いでしたね。(笑)」
「これを書いている時に夏の劇場版ではゲンドウが喰われると言う話を聞きました。凄いですね。この作品ではゲンドウは圧死(瓦礫に潰される)でしたが、上をいかれてしまいましたね。でも、初号機とゲンドウの接触って考えにくいのですが、ではリリスに喰われるのか?謎ですね。」
「真相は劇場版を待ちましょう。では新たに来ていただいた人たちを紹介します。」
「まずはエヴァ弐号機、五号機、そして惣流・キョウコ・ツェッペリンさんです。」
「ぐおおおおお」(いきなり吼え始める弐号機、五号機)
「どうも初めまして。」
「次に量産機残り八体です。」
「ぐおおおおお」(やはり吼えるしかできない量産機、僅かに不満そうだ)
「最後にメルキオール、バルタザール、カスパーのマギ、そして赤木ナオコ博士です。」
「・・・・・」
「私まで呼ぶのね。」
「どうも来て頂けてありがたいです。しかし今回は本当に大漁ですね。(笑)」
「一気に死に絶えました。」
「これは何のつもりかしら、秋月君。」(目が笑っていないリツコ)
「な、何のことでしょう。」
「何故、ここに、この二人がいるのか、聞いているんだけど。」
「・・・・」
「さあ、何故でしょうね。」(冷や汗)
「誤魔化しは止めたまえ。」(凄い表情で秋月を睨むゲンドウ)
「何が気に入らないのです?」
「答えたまえ。」(さらにすごむゲンドウ)
「は、はい。では、まずは惣流さんは・・・」
「キョウコで良いわよ。」
「あ、ありがとうございます。キョウコさんは弐号機の魂ですから、今回みごと消滅したということで死んだとして良いのではないですか?そういう訳でここに来ていただきました。」
「ということはユイがここに出ることもあるということだな?」
「・・・・」(興奮するゲンドウとそれを睨む赤木親子)
「え〜と、もちろん、初号機が消滅すれば来て頂くことに・・・」(恐ろしい視線を受けて語尾が消えてくる秋月)
「初号機が消滅すればよいのだな。」(念を押すゲンドウ)
「ええ、もちろん。」
「シンジ!!おまえも死んでも構わん。さっさと自爆しろ!そして私の元にユイを・・・うぐっ・・・」
「この人でなし、結局ユイさんしか見えていないのね。」(ゲンドウに最後までいわせずに殴りつける。その手には何処から持ってきたのか分からないキーボードが握られている。)
「碇所長。」
「赤木博士・・・私は指令だ。」
「どちらでも良いじゃありませんか、どうせもう死んでいるのですから。」
「うっ、問題ない。何だね。」
「私に何か言うことがありませんか?」
「何のことだね。」
「あら、身に覚えがないなんて言わせませんわよ。」(ナオコの表情がだんだん険悪化する)
「うっ、ふ、冬月先生、後を頼みます。」(いきなり逃げ出すゲンドウ)
「待ちなさい。」(追いかける二人)
「いや〜、平和ですね。」
「そうかしら?」
「そうですよ。」
「ところでうちのアスカちゃんをどうするつもりなの?」
「どうするっていちよう幸せにしようと思っていますよ。そう宣言しましたし。」
「あなた、これを読んだ人がそれを信用すると思っているんじゃないでしょうね。」(ジト目で見るキョウコ)
「うっ。」
「それにメールで殺さないって書いたのは誰だったかしら。」
「そ、そう言われても必要なんですよ。」
「本当に。」
「はい。」
「きちんと考えているんでしょうね。」
「はい、とりあえずは・・・」
「とりあえず。」(目が笑っていない)
「い、いえ、きちんと考えていますよ。」
「なら良いわ。」
「では、この辺で。批評、抗議、意見、感想などなんでも構いません。頂ければ僕はとてもありがたいです。届いたメールには必ず返事を書きますから、どうか気楽に送って下さい。では、第七話「決断」でまたお会いしましょう。いえ、お会いできることを願っています。どうか御見捨てになられませんようお願いします。」
管理人(その他)のコメント
アスカ「いやぁ、ママ、ママぁ!!」
カヲル「のっけから混乱しているね。まあ無理もない。弐号機の破壊か・・・・本人は無事なのかね」
アスカ「どーしてここの小説ってこういう悲劇的なのが多いのよ!! BLEADもしかり、12式もしかり!! あの逃げた作者、ホントにアタシの下僕だって言うの!!」
カヲル「最近ではユミちゃんにご執心なのかね」
アスカ「はん、あんな小娘!!」
カヲル「しかし、僕の伍号機も壊されてしまったなぁ・・・・秋月さん。僕の扱いはどうなうって言うんだい?」
アスカ「アタシを助けるためにATフィールドを作るなんて、あんたもなかなか殊勝な心がけね」
カヲル「そりゃまあ、僕だってそこまで鬼畜じゃないからね」
アスカ「さては・・・・」
カヲル「ん?」
アスカ「アンタ、アタシの下僕志願者?」
カヲル「・・・・帰ってもいいかな」
アスカ「な、なんですって!!」
カヲル「いるんだよね、こういう思いこみの激しい人って」
どかばきぐしゃっ!!
アスカ「せっかくちっとはほめてやったって言うのに!!」