BY秋月
銃声と日向の叫びどちらが早かったのかは発令所にいる者には分からなかった。それぐらい微妙な差でしかなかったのだ。マヤはその銃声に思わず身を竦め、両手で自分を抱きしめるように掻き抱いた。その肩は僅かに震えている。青葉やその他のオペレター達は緊張に顔を引き締めながらいつでも動けるように油断なく身構える。
その中で日向だけはモニターを食い入るように見つめたまま棒立ちになっている。その視線は一点にだけ注がれていた。
やがてもう一発だけ銃声が響き、少年の叫び声が聞こえてきた。それと同時に日向が発令所の出口に向かって駆け出していた。血相を変えて駆け出す日向に青葉が声をかける。
「お、おい。どうしたんだ。」
その問いに日向は一瞥さえも与えなかった。少年の叫びは今だ続いている。
青葉がもう一度声をかけるよりも前に日向の姿は発令所から消えていた。
日向の行動を呆然と見送るしかなかった人々に新たな知らせが届いた。
「五番ゲートから初号機の射出が確認されました。」
その声にマヤはまだ震えながらも何とかキーボードを操作する。
「そ、そんな・・・」
「どうした。」
「初号機、起動して、いません。」
その声は酷く弱々しかった。
「どうして射出したんだ?」
「ゲイジから直接射出されたようです。葛城三佐だと思われます。」
「馬鹿な!危険すぎるぞ。」
その間に初号機はジオフロント内に射出された。本部に迫る量産機のすぐ前に。リフトが外れるが初号機は動く様子を見せない。そのままリフトにもたれ掛かっている。本部に迫っていた量産機全ての動きが変わり初号機に殺到する。
それでも初号機は動きを見せず、二機に両側から腕を取られ引き倒される。そして、他の量産機も押さえつけられている初号機に群がり始めた。その中の一機が初号機の背中のアンビリカルケーブルに手を伸ばし引きちぎった。
それを見て、珍しく冬月が狼狽した声を漏らした。
「老人達め!ここでサードインパクトを起こすつもりか。」
冬月の語調にそして何よりも不吉な予感を起こさせるサードインパクトという言葉に発令所は再びざわめきに包まれた。
発令所のざわめきの伝わってくるエントリープログの中でシンジの耳に聞き覚えのある二つの声が届いた。何を話しているのかは分からないが、シンジにはどちらの声も聞き覚えのあるように思われた。その声に誘われるように顔を上げたがそれによって目にしたものはその疑問の答えではなかった。シンジの脳髄を一発の鋭い発砲音が打ち据えた。シンジの耳には低い呻き声がやけに大きく聞こえてきた。
そこでシンジは初めて口を開いた。訝しげに小さな声で、震える声で、小さかった声がだんだん甲高くなっていく。
「ミ、サト、さん。」
「ミサトさん、ミサトさん!ミサトさん!!ミサトさん!!!」
シンジはモニターの中のミサトの姿から目を反らせない。シンジが凝視するなかミサトは後ろに身を翻し、シンジに背を見せる。赤いジャケットの背にもどす黒い染みが広がっていた。次の瞬間、一発の銃声と何かが倒れる重い音が聞こえた。そして彼女はコンソールに寄りかかり、なおも叫び続けるシンジの方にゆっくりと振り返り微笑んだ。
「はは、どじ、ちゃったわね。」
その唇からは僅かに紅い筋が滲み出ていた。その顔は痛みのせいか僅かに強張っていたが、その表情は間違いなく笑っていた。少女のような邪気のない笑顔で。
「シンジ君、私って最後まで駄目な保護者だったわね・・・」
少し自嘲気味にそう言うミサトは一度目を伏せ、モニターのシンジを毅然とした眼差しで見つめ、続ける。
「加持の意志は私が受け取ったわ。」
「今度はあなたが加持と私の意志を受け継いで・・・ちょうだい・・・」
ミサトは少し咳き込んだが、すぐに顔を上げ笑顔を作り言った。
「精一杯、生きなさい、未来を勝ち取って、私たちの分までね。死ぬのはそれからでも、遅くはないわよ。」
その言葉と笑顔はシンジには先日の友の言葉を思い出させた。その為、言葉を無くした。彼女は続ける死に往く者の傲慢さ故にか、苦しげな声で最後に言った。
「アスカを、助けて、上げて。」
その言葉は、弱々しく儚げだった。
シンジが最後に見たのは射出ボタンを押し、崩れ落ちるように倒れ込んだミサトの姿だった。
シンジの回想はそこで終わる、パズルの最後のピースを見つけたように何かがシンジの中で形をなす。
シンジの体の所々から何かに捕まれているような感触が伝わってくる。
初号機の二つの目に光が宿り、その瞬間、初号機を取り囲んでいた量産機は一機も残さず弾き飛ばされる。初号機はゆっくりと起きあがった。
「シンクロ率150%を突破。なおも上昇しています。」
「シンクログラフ正常、暴走ではありません。」
発令所に驚きの声が響き渡る。メインモニターには量産機を強力なATフィールドを展開して立ち上がろうとする初号機の姿があった。
初号機はゆっくりと立ち上がり、まだ倒れている量産機を確認すると離れたところに立っている二機のエヴァに向かって走り始めた。
その時、発令所に再び警戒音が響き渡り、コンソールを操作していた青葉が緊迫した口調で叫ぶ。
「本部地下と月から高エネルギー反応です。」
その瞬間に本部は激しい振動に襲われた。オペレター達は早口に報告を続けていく。
「地下の反応はパターンブルーを示しています。」
「間違いありません使徒です。」
「場所が特定できません。」
「地下の方は構わん。」
冬月の断言する。
「し、しかし・・・」
なおも言い募ろうとした青葉の声を冬月の問いが封じる。
「それより月からの反応とはどういうことだ?」
「解析不能、マギは回答を保留しています。」
「衛星からの映像あと60で入ります。」
その間にもつぎつぎに情報は入ってくるが、その正体を掴むのに十分の情報はなかった。どれもが不明を示しているようなものであった。
「衛星からの最大望遠での映像出ます。」
それは月の表面の一部を拡大したものだった。その中心には何か細長い棒のようなものが映っていた。何もない月の表面では本当に小さなものに思われたが、長さはゆうにエヴァの身長よりも長いだろう。そして、それは暗い影の中で朧気に自信で光を放っていた。その細長い輪郭を映した映像は冬月を驚愕させた。思わずかすれた声が冬月の口からこぼれる。
「ま、まさか、ロンギヌスの槍。」
その声にオペレターの視線が冬月に集中するが、冬月はそれに構わずモニターを凝視している。その表情には困惑が容易に読みとれた。
(碇、これもシナリオの内なのか?)
(一体何が起こるというのだ?)
冬月はいくつもの疑問を浮かべながらもモニター内の映像を見つめていた。
いっそうの振動が本部を襲い誰もがモニターから目を離した体勢を立て直した冬月がすぐに目をモニターに戻すが、そこには何も映さない画面だけが残っていた。
「やあ、シンジ君。待っていたよ。」
突然、初号機のエントリープラグ内に通信画面が開いた。
シンジはその画面を見て自分の目を疑った。そこにはかつて、自分が殺した親友の顔があったのだ。そう、数日前にも自分に向けられた笑顔そのままに。
それは聞こえるはずのない声、聞くことが出来なくなったはずの声。
「シンジ君。逢いたかったよ。」
カヲルは本当に嬉しそうにシンジに微笑みかける。その微笑みの下には”EVA-05”の文字がある、しかしシンジはそれに気づかずただ呆然とその画面を見つめることしかできない。カヲルは確かにシンジの操る初号機の手により握り潰されたはずであった。シンジの右手には未だに彼を握り潰したときの生々しい感触が残っていた。
初号機はその両目に光を宿しながらも立ち止まった。
やっと出てきた彼の声は自分でも驚くほどにかすれていた。
「カ、カヲル君、君が何故ここに?」
「いや、君は死んだはずだ!」
「僕がこの手で殺しはずだ!!」
「君があのカヲル君なわけないよ!」
シンジは悲痛な叫び声を上げた。彼の声は震えていた。そんなシンジにカヲルは変わらず穏やかに話しかける。
「いや、シンジ君。僕はカヲルだよ。」
「だけど僕はもう使徒としての運命に縛られていない。ただの渚カヲルさ。」
「シンジ君、君が僕を解放してくれたんだよ。」
「あの時に僕は本当の自由を得たんだ。」
「で、でも、僕は君を殺してしまった。」
「僕が望んだことだよ。」
「それでも、許されるわけないよ。」
「君は間違いなく人間だった。いや、人間よりも人間らしかったのに。」
「僕を好きだって言ってくれたのに!!」
「それなのに、僕は・・・僕よりも君が、君が生き残るべきだったんだ!」
「そんなことはないよ、シンジ君。僕は君に生きて欲しかったんだ。」
「それだけじゃ君が生き残る理由にはならないのかい?」
「で、でも・・・」
「誰も君を責めなかったはずだよ。」
「それでも僕は僕自身が許せないんだ!」
シンジが叫んだ瞬間、大地が振動した。
「どうも、秋月です。第五話如何でしたでしょうか?今回随分反省点があります。まずは完全にペースが崩れていること。この調子では6月中というのは無理かもしれません。何より問題なのは当初の予定では第弐話のタイトルが「再会」でした。それがここに来ている。もちろん当初の2話分の話というわけではないのですが、間違いなくあと二話は増えるでしょう。全8話と言ったところでしょうか?それ以上は増えないでしょう。と思います。いくらなんでもそこまでは。(冷や汗)」
「次に心理描写や会話部分、完全に暴走していますね。誰も分からなかったりするかもしれません。」
「ふっ。無様ね。」
「リ、リツコさん。」
「もっと整理してから書かないからよ。間違いなく幾人かの読者には呆れられたわね。」
「それよりも本当に読者がいるかを疑うべきではないかね。」
「ああ、碇指令まで。」(涙)
「ふんっ。泣いても無駄だ。男の涙など絵にもならんからな。見苦しいだけだ。」
「そんなこと言うなら・・・シンジ君は。」
「大丈夫よ、シンジ君やフィフスは顔が良いから・・・あなたは駄目ね。」
「そ、それはそうですが・・・」
「リツコ君、私はどうかね。」
「い、碇指令。指令が涙を流されるのですか?」(思わず後ろにひく二人)
「そうだ。どうだね。」(あくまで真顔のゲンドウ)
「そ、そうですね・・・髭を剃られては如何でしょう。」
「ぐっ。も、問題ない。」(何かを悩んでいるようなゲンドウ)
「こ、怖いですね、リツコさん。」
「そ、そうね。」
「ここは追求しないでおきましょう。」
「その方が良いかもね。」
「で、では、この辺で。批評、抗議、意見、感想などなんでも構いません。頂ければ僕はとてもありがたいです。届いたメールには必ず返事を書きますから、どうか気楽に送って下さい。では、第六話「破局」でまたお会いしましょう。いえ、お会いできることを願っています。どうか御見捨てになられませんようお願いします。」
管理人(以外)のコメント
ゲンドウ「む、問題ない」
アスカ「・・・・あんただれよ」
シンジ「まさか父さん!!」
アスカ「ええっ!! これがあの髭オヤヂむぐむぐ」
ゲンドウ「仕方なかろう。わたしが泣くためには髭をそらねばならないというのだからな。どうだシンジ。この姿は」
シンジ「そんなこと、そんなこといきなりいわれたってわからないよ!! 父さんはいつもぼくにだまって物事を進めて!!」
ゲンドウ「問題ない。すべては計画どおりだ」
冬月 「おい、碇」
ゲンドウ「これでわたしは、全国数千万女性読者の共感を誘い・・・・」
冬月 「碇よ」
ゲンドウ「アスカやレイを抜いて全国一の人気者となるのだ。む、完璧な計画」
冬月 「だから碇!!」
ゲンドウ「なんだというのだ。冬月よ」
冬月 「髭をそったからといって、おまえに泣く役所がくると確約していないだろうに。はやまりおって」
ゲンドウ「・・・・・・」
冬月 「そんな役はこの先くることはない、とのガイナックスの公式見解だ」
アスカ「・・・・またうそを言う・・・・」