BY秋月
外では初号機の起動に躍起になっているようだったが、今の彼にはそれらも無意味なことでしかなかった。彼がシンクロすることを拒んでいる限り初号機が起動することはないことをシンジには分かっていた。
「人類は行きづまっている。進化の袋小路にはまりこんでいるのだ。」
「不要な体を捨て、全ての魂を、今、一つに。」
ゲンドウは厳かな声で巨人に向かってそう言うと前方のレイに呼びかける。
「レイ。」
ゲンドウと同じように巨人をその紅き瞳でじっと見つめていたレイはその声によってゲンドウの方へ向き直る。
「時間がないATフィールドを発生させろ。」
ゲンドウは有無を言わさぬ口調で命令するとそっと目を閉じて右手をゆっくりと前に伸ばす。ゲンドウの手はレイの胸の小さな膨らみの前で止まり、ゆっくりとレイの下腹部の方へ伸ばされていく。
レイはじっとそのゲンドウの動作をその紅い瞳で見つめていたが、ゲンドウの手が自分の肌に触れる前にゆっくりと目を閉じた。
カッキーン
ゲンドウは信じられないものを見たように目を見開き、右手を押さえたままそれを凝視する。そこにはゲンドウの手を拒むようにレイの体の前に発光する八角形の光の壁が現れていた。
「・・・レイ」
呆然として呟いてゲンドウにレイはゆっくりとその瞼を上げた。その下から現れた紅い瞳には確固たる色が浮かんでいた。
「私はあなたの人形じゃない、私はあなたじゃないもの。」
「レイ!」
ゲンドウは再び手を伸ばそうとするが、眼前にある光が強まり、後方に吹き飛ばされる。何とか台の縁から落ちずにすんだが、その衝撃に立ち上がることが出来ない。
「うぐっ・・・」
「ダメ。碇君が呼んでいるもの。」
レイはゲンドウの方を省みることなくきびすを返す。ゲンドウの霞む視界の中、レイの白い背中は空中をゆっくりと遠ざかっていく。
ゲンドウは痛む体に鞭打って自分の血に塗れた腕を伸ばしたが、彼の腕は空しく空を切るのみだった。
人工的な合成音がその場の雰囲気に何の頓着もせずに流れてくる。
発令所では誰もが呆然となっていた。目の前に迫っていた死に神の一つが自ら消えたというのにそれを誰もが信じられなかった。
「どうなったのだね、伊吹君。」
冬月のかすれた声での問いかけに我に返ったマヤは急いでキーボードに向かってその細い指を忙しく走らせる。
「ど、どうやら、カスパーによってプロテクトが解除されたようです。この自爆プログラムが作動した場合、あらかじめ作動するように設定されていたようです。」
「な、何でそんなプログラムが存在するんだよ。」
声を上げたのは日向だった。彼は第17使徒の時に本部を自爆させるつもりでいたのだ。それが自爆を邪魔するようなものが存在したので有れば、彼がしようとしたことは何であったのか。
「それは後よ!!初号機の起動急いで!」
「時間がないのよ。状況報告して!」
騒然とし出した発令所の空気をミサトの声が切り裂き、報告を求める。我に返ったオペレーター達がそれぞれの仕事へと戻っていく。
「量産機、本部まで後5分もありません。」
「初号機、依然変化なし、シンクロ率上がりません。」
最後まで呆然としていたマヤがやっと、自分のコンソールを見るとその上に弐号機の異常が表示されていた。キーボードを幾つかたたきマヤは声を上げた。
「弐号機パイロットが何者かとコンタクトをとっているようです。」
「何ですって、それ間違いないの!」
「間違い有りませんが、相手が不明です。」
「それ、つなげる?」
「はい、やってみます。」
しばらくすると発令所のモニターに”SOUND ONLY”の表示が現れ、二つの不鮮明な声が聞こえてくる。どちらもまだ幼さを含んだ声音であった。
一つは聞き覚えのある少女の声、普段の彼女と比べると格段に精彩を欠いていたがその声を間違うはずがなかった。そしてもう一つの少年とおぼしき声が聞こえてきた。オペレーター達はその声に聞き覚えがあるように思われていちように首を傾げていたが、ミサトの叫び声にどよめきが広がった。多分に恐怖を含んだ声色で。
「この声・・・まさか!フィフス・・・」
「そんな・・・」
「使徒が・・・」
「そんなはずないだろう!使徒は全て殲滅されたはずですよ。葛城さん。」
その叫ぶ声に被さるように一発の銃声が鳴り響いた。
「ユイ、おまえは私を捨てるというのか?」
ゲンドウの正面には白い巨人が十字架に貼り付けられていたが、彼の目はそれを見てはいなかっただろう。
「私は、ただおまえを取り戻したかったのだ・・・この私の手に・・・」
「後少し、後少しでそれは現実となったはずだ。」
「何故だユイ!何故なんだ!!」
「ユイ!!!」
最初淡々としていたゲンドウの言葉は口を動かすたびに熱を帯び、最後には彼の激情をそのまま吐き出したようだった。今まで押さえてきた想い全てを。
「これで全ての希望は潰えた。」
「ユイのいないこの世界など、どうなろうと構わんが、委員会の補完計画だけは実現させるわけにはいかんな。」
「それがユイの望んでいたことでもある。」
ゲンドウはふらつく体を引きずるようにして少し離れたところにあるコンソールまで歩いていく。
彼の瞳にはギラギラと光る狂気が舞い踊っていた。
ゲンドウがキーボードの幾つかをたたくと微かな機械の作動音と共に、彼の立っていた台が下がり、白い巨人を貼り付けた十字架が僅かに振動した。
そして巨人の顔に被せられていた七つの眼の仮面がゆっくりと揺らぎ、巨人の顔から離れた。仮面は巨人の足下に溜まったLCLの中に落ち、大きくその水面を波打たせた。
その外れた仮面の下、巨人の顔にはいまだ目は生まれていなかった。二つの目に当たる部分には大きな穴があいており、のっぺりとした白い顔には強靱な歯を持つ大きな口だけがやたらと目立っている。
そのだんだん離れていく異様な巨人の顔を見上げ、ゲンドウは頬を歪める。笑ったのかもしれない、しかし、それを見ている者がいればそれが笑みに見えたであろうか?
しばらく何の動きも見せなかった巨人がゆっくりと動き始める。白い体表に覆われた筋肉が脈動し、うごめく。
巨人の体が大きく仰け反り、両腕が前に振られる。何かが弾けるような音と共に巨人の両手が貼り付けられていた十字架から自由になる。その掌には引き千切られたような傷が大きく開き、そこから赤い液体が溢れ出し、足下のLCLに次々と波紋を生み出していく。
白い巨人は前にふらついたが、倒れることなく踏み止まった。猫背に丸めた体をゆっくりと一歩踏み出し、僅かに呻る。そして天に向け、獰猛な獣のように吼えた。
その声はその広大な空間を揺らがせながら、延延と響き渡った。
そして、ゆっくりとした崩壊が始まった。セントラルドグマ、そのネルフ本部の最奥部にある広大な空間は獣の咆吼の中に崩れ落ちていった。
その轟音の中で野太い男性の笑い声がかき消されながらも沸き出していた。
レイは今までのことを思い返しながら、ゆっくりと扉を開ける。そこには彼女の部屋があった。もう一つの部屋、彼女が育ったところ。
コンクリートがむき出しの壁、雑然とした空間、それを包む淡い光、無造作におかれた水の入ったビーカー、そしてただ一つおいてある簡素なパイプベッド。
その上に投げ出されたように放り出されている中学校の制服をレイは手に取り、身に付け始めた。
その時、空間を揺るがすような振動と魂が凍るような獣の咆吼が響いてきた。
管理人(その他)のコメント
アスカ「甘い、甘すぎるわリツコは!!」
リツコ「どういう意味よ」
アスカ「死んでから補完しあってどうするって言うのよ!! 人間生きててナンボのもんでしょ!! そんなんで満足するのがそもそも甘いのよ!!」
リツコ「しょうがないでしょ。この小説では私は死んでしまっているんだから。いくら人の科学が優れていても、まだ死人をよみがえらせる技術はないわ。だから、碇司令もユイさんを取り戻そうとあんな鬼畜な計画を・・・」
ゲンドウ「こら。ワタシの計画のどこが鬼畜だというのだ」
リツコ「全部(きっぱり)。中身を知っているワタシは、ミサトのようにはいきませんわよ」
ゲンドウ「うくっ・・・・」
アスカ「そうだ! 生き返る方法、あるじゃない!」
二人 「何(ですって)、本当か(なの)!!」
アスカ「ええ、あるわよ」
ゲンドウ「だったら、ナニを好んで赤木親子と・・・・ユイがよみがえるではないか・・・・」
アスカ「・・・・つくづく鬼畜ね・・・・ほら、ここに、およそ100年前の出来事に関するレポートが・・・ごそごそ」
リツコ「・・・・なんか古くさい本ね。こんなレポート、本部の図書室にあったかしら」
アスカ「これ、副司令の私室にあったの」
ゲンドウ「冬月の・・・・?」
アスカ「ほらここに・・・・『青き光をたたえし宝石の力により、人は世界を手に入れることも、また失われたイノチを取り戻すこともできる』って」
ぼかっ!
ミサト「それは違う世界の話でしょうが!! 何でここにブ○ーウォー○ーが出てくるのよ!!」
カヲル「ん? ラミエル君がどうかしたのかい?」
ミサト「ああ、またややこしいのがでてきた・・・・」
冬月 「こら! 私の私室に勝手に入ったのはだれだ! しかも部屋を荒らしおって・・・・・って、ああっ! 私の愛読書を!!」
ミサト「「不○議の○のナ○ィ○」・・・・それが愛読書かい・・・・」