偽作「まごころを君に」
第弐話「邂逅」
BY秋月
何処ともしれない暗闇の中で13体のモノリスが不気味に瞬いていた。
「何故、二号機ごときにこのように手こずるのだ。」
「仕方あるまい、こちらのエヴァは単体としてはあちらのものより性能は劣っているのだからな。」
「しかし、それは単体としてのことだ。」
「初号機ならまだしもエヴァ二号機だけであのような状況になるはずがない。」
「考えられんよ。」
「何故、あの一体は動かん。」
「君のところの技術は評価しなおす必要があるのではないかね。」
「な、何を言うか・・・」
・
「焦ることはあるまい。」
苛立ったように言い合う声達を一つのモノリスから発せられた静かな声が鎮める。
「し、しかし、キール議長。」
抗議にも似た声があがるにも関わらずにその声は変わらずに続けられた。
「二号機を破壊する必要はないのだよ。いや、弐号機も手に入ればその方が都合が良い。どちらにせよ。邪魔者はもうすぐ消える・・・後は初号機を我らが手にすれば我々の計画は終了する。今は彼に任せれば良い。」
「しかし、急がなければ・・・碇ゲンドウ、あの男の計画を実行させるわけにはいかんよ。」
「その通り!人類の補完は我々が行わなければならん。」
「あの男に任せるべきではないのだ。」
「我々の手により人類に新たなる道を!」
「すべての人類に死を。」
「そして選ばれたる者だけの楽園を我々は手に入れるのだ。」
「永遠と共にな。」
・
・
・
・
01と描かれたモノリスからの声が終わるとその場には沈黙の幕が下ろされた。
**
弐号機による量産機への攻撃は続いている、四機の量産機の中にはは半壊状態にあるものもあったが未だかわらずに全機が動いている先程まで弐号機に興味を示さなかった後の四機も弐号機を取り囲むように動き出していた。
「弐号機活動限界まで後10秒。」
無感情にオペレーターの声が続く。
「・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・」
「弐号機活動限界です。」
その言葉と共にモニター上の弐号機の動きが止まる。禍々しい光を放っていた四つの目から光が消えていく。轟音と共に弐号機が倒れ伏すのを発令所の人々はただ眺めるしかできなかった。
量産機が動かなくなった弐号機を取り囲むように移動していく。
そこで今まで変化なく立ちつくしていた最後の一機が初めて動き、弐号機を庇うように量産機と弐号機の間に割り込む。しばらく量産機同士がにらみ合っているかのような沈黙が続いた。
やがてその一機を残し、他の量産機はゆっくりと本部の方に進み始めた。
発令所では本部に迫る量産機を誰もが絶望の中見つめていた。
その中でマヤは自分のコンソールに明滅する緊急コールの赤いランプに気づき、機械的に操作する。モニターの一部にゲイジの様子が映し出され、ミサトの声が聞こえてきた。
「聞こえる。初号機の起動と射出の準備お願い。急いで!」
その声にすぐに日向が反応する。
「ミサトさん!無事だったんですね。シンジ君もですか?」
「そうよ!急いで!!」
その間に発令所に慌ただしさが戻ってくる。
「日向君、そちらの状況報告して!」
「はい。現在、量産機八が本部施設に向かって進行中。後10分もせずに到着します。」
「アスカは?」
「弐号機は先程内部電源が切れて停止しました。現在、沈黙中。弐号機の傍らに一体の量産機が残っています。」
「アスカは無事なの。」
「弐号機との通信がとれないために生死は不明です。」
「リツコは?」
「赤木博士は・・・先程から見かけませんが。」
「指令は?」
「碇指令ですか?」
怪訝そうに日向は一段高い指令席の方を見上げたがそこにいるのは苦々しげにモニターを見る冬月の姿だけだった。
「いませんね。何処に行ったんでしょう。こんな時に。」
矢継ぎ早になされるミサトの質問に日向が次々と答えていく。その間にも初号機の起動準備は進んでいく。
「駄目です。シンクロ率上がりません。初号機、起動しません。」
**
真っ暗な広大な空間に甲高い靴音が一つ響きわたっている。まわりの景色は何も見えない。
足音は一つであるがその闇の中には二つの人影がぼんやりと浮かび上がっている。一つは黒づくめの服装に顎髭を蓄えた長身の男性、もう一つは小柄な少女のように見える。長身の影が一定の歩調を守り、ゆっくりと確実な足取りで進んでいく。小柄な人影はそれに遅れずについて行く。
やがて、二人の前に扉が現れる。長身の影がゆっくりと動き、懐から取り出したカードを扉の横のスリットに差し込む。ピッという音の後、震えるような機械音と共にゆっくりとその扉が開いていく。暗闇の中に淡い光が射し込んでくる。それは二人を包む闇を退けるようにその姿を浮かび上がらせた。それは今まで暗闇を歩いてきた二人にも眩しさを与えることがないほどの淡い光であった。扉が開ききったところで不意に前方の光の中から声がかけられた。
「碇指令。」
ゲンドウ無表情に声の方に顔を向ける。
「何故、ここにいる。」
「赤木博士。」
ゲンドウの冷ややかな眼差しの先には薄闇の中に白く浮かび上がる姿があった。リツコがいつものように白衣のポケットに両手を入れて立っていた。
「碇指令、念願の補完計画の発動ですか?あなたの・・・」
リツコは薄く笑い、皮肉げにゲンドウに問いかける。それに対してゲンドウは唇の片方を少し歪めるだけの笑みで答える。
「私のではなく、全ての人類のための補完計画だよ。」
「使えるだけ利用してもう私にはようは無いという訳ね。」
感情を押し殺したようにいうリツコにゲンドウは変わらない様子で躊躇いもなく答える。
「ああ、その通りだ。」
「我々の願いがついに叶うのだ。」
リツコはゲンドウからゲンドウの後ろで無表情に自分を見ているレイに視線を向け、ゆっくりと白衣のポケットから手を抜き出す。
「あなたにとって、私たち親子も道具にしか過ぎなかったわけですか。」
「道具?君たちは良い協力者だったよ。」
ゲンドウの白々しい言い方にリツコはゲンドウを睨み付け、激情に任せて言い放つ。
「よく言うわ。あなたにとって利用できるものは全て道具にしか過ぎないのよ。私も、母さんも、そして自分の息子までもね!」
「あなたをユイさんには返しはしない、私たちと共に死んでもらうわ。」
リツコは冷ややかに言い、掌の中のボタンを押した。
**
「ママ、ママ・・・どうして動いてくれないの!」
「もうあたしを見てくれないの!」
「ねぇ、おねがい、あたしをみて!」
「おねがい、ママ・・・ママァ!!」
弐号機の中ではアスカが弐号機に、いや自分の母親に向かって悲痛な声で訴えている。しかしいっこうに弐号機の四つの目は光が戻る様子を見さなかった。アスカの嗚咽が弐号機の中に満ちる。
不意にプログ内の照明がついた。
「ママ!!」
アスカは希望に満ちた表情で顔を上げる。
「マ・・・マ・・・・ママ?・・・ママ!」
起動しようとしても全く反応のない弐号機に不安が募りアスカは幼い子供が母親に呼びかけるように声をかける。彼女は幼い子供に返っていた。
彼女はまだおさまりきっていなかった嗚咽を再び漏らし始める。
「・・・えっ、えぐ・・・マ・・えっ・・・ママ・・・」
そんな様子アスカに不意に声がかけられる。
「君が、セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーだね。」
「だ、だれ・・・」
弐号機の何も移さないモニターの片隅に一つの小さなモニターが開く。その下にはEVA-05の文字が表示されていた。そこにはアスカにとっては見慣れない顔が映っていた。その顔はまだ幼く自分たちと変わらないぐらいに見えた。銀の髪に赤い瞳を持つ中性的な少年の顔、ただその顔に浮かぶ表情はひどく穏やかで大人びた印象を与える。その少年はアスカの問いには答えずに逆に問いかけてくる。
「何故、泣いているんだい?」
それは優しい問いかけだった。包み込まれるかのように感じられる微笑みと共に問いかけられたアスカは素直な子供のように答えた。普段のアスカを知っているものが聞いたら耳を疑いそうなぐらいに。
「ママが、ママが答えてくれないの。」
「どうして、そう思うんだい?」
「だって、何も答えてくれないじゃない!」
再び問うてきた少年に苛立たしげに答える。
「君はどうして欲しいんだい?」
「あたしを見て欲しいの!ママにあたしを見て欲しいの!」
「彼女は君を見ているよ。」
「本当?」
「本当さ。」
「でも、答えてくれないじゃない。」
「それは死者に求めるものじゃないよ。」
「どうしてよ!ママはここにいるのよ!あたしのすぐ側に!」
「彼女は君の目の前で死んだはずだ。」
「い、いや、いやぁ〜。止めて、思い出させないで。」
「ママはここにいるの!」
「もう何処にも行かないの!」
「あたしと一緒にいるんだから!!」
アスカは少年の言葉を何とか否定しようとするかのように頭を振る。
その様子に初年はそっと溜息をつくとアスカに諭すように語りかける。
「確かにそこには君の母親の魂がいる。」
「彼女は君が望めばいつまでも君と共に生き続けるかもしれない。」
「けれども、僕にはそれが君にとって、そして彼女にとって良いこととは思えない。」
それまで笑顔を絶やさずに淡々と述べてきた少年の表情が一瞬、悲しみをうかべ、そして真剣なものに変わった。
「エヴァは人間にとっては忌むべき存在。」
「エヴァの中に取り込まれた魂は人間の輪廻の輪に戻ることが出来ない。」
「生き続ける限りね。」
「君の母親は確かに生きいている。その中で、でもね、その中にいる限りいつまでも一人なんだ。一人でいれば、傷つけられることはない、でも寂しさを忘れる事も出来ない。」
「君は永遠に彼女と二人で生き続けるつもりなのかい?ヒトであることを捨ててまで。」
「彼女がそれを望んでいると思うのかい?」
その淡々とした口調にアスカは言いしれぬ恐怖を感じる。自然と声に震えが混じる。
「あ、あんた、誰よ。いえ、何なのよ。」
「僕かい、僕はカヲル、渚カヲル。それ以外の何者でもないさ。」
少年は再び微笑みを浮かべ、静かに言った。
****
後書きと秋月による犠牲者達との雑談
「どうも秋月です。第弐話も読んで下さった方、こんな稚拙な小説にお付き合いいただきたいへん感謝しております。感想のメールをいただいた方への返事に第壱話の改訂版を出すと書きましたが、メールを下さった方々の反応がそうは悪くなかったため、第壱話改訂版の最後につけるはずだったゼーレの方々の場面を第弐話の最初に書くことで改訂版を送ることを取りやめました。どうか読者の方々見捨てないでもう少しのご辛抱を。」
「さて、今回の話ですが、これは量産機のダミープラグに【KAWORU】の文字があるという情報から考えたものです。カヲルが復活したとしたら、最初に接触するのはあの続きから見てアスカだろうというひどく単純な発想からです。それでもそれなりに意味はあるつもりです。気になるという方はどうか最後までお付き合い下さい。」
アスカ「それより何よ!この『秋月による犠牲者達との雑談』ってのは!!」
「ア、アスカ君にみんな・・・どうして、ここへ・・・(冷や汗)」
「良いじゃない、犠牲者ってあたし達のことでしょ、お呼びがかかる前に来て上げたんじゃない、感謝して欲しいぐらいね。」
「そ、そんな分けないですよ。」
シンジ「それは僕達は犠牲者にする気は無いという意味にとって良いんですよね。」
「もちろんだよ。」
レイ「本当に。」(じっと作者を見つめる。思わず視線を逸らす秋月。)
「そ〜ら、見なさい。嘘なのね!!(努)だいたい今回のあたしは間違いなくいじめられているわよ。言い訳なんて聞かないわ。」
「ち、違うんだよ。今回の話はアスカ君の補完なんですよ。」
「何処がよ。」
「つ、つまり僕の本編でもアスカ君のイメージって『周りの者を否定して自分を肯定することにより自分を保たせている』といったものでしてね。それで、今回の話はアスカ君が他人も必要だと感じるようになることが補完の第一歩だと考えたんですよ。僕はアスカ君のことも嫌いじゃありませんし。」
カヲル「そうすると僕がこの場面に出たのは。」
「それは上の通り、後は最後までとりあえず内緒。」
「そうすると、私が犠牲者なのね。」
「どうしてさ。綾波、綾波はまだほとんど出て無いじゃないか。そんな悲しいこと言うなよ。」
「碇君。ありがとう。でも、違うの。」
「どういうことなの」(作者隠れるところを探して辺りを見回し、後ろからカヲルに捕まる。)
「どうやら、何か身に覚えがあるようだね。」
「うっ、うう・・・」
「綾波、何なの。」
「ファースト、言いなさい。」
「実は今回登場した私・・・・・・・裸なの。」
「え、え〜。」
「本当なんですか。」
「秋月!本当なの。」
「・・・本当です。」(二人の勢いに後ずさる秋月)
「そんな描写はなかったようだけど。」
「さては自分の文才のなさをひけらかしたくなくて避けたわね。全く、妙な読者サービスを考えるんじゃないわよ。ここは・・・」(秋月を見て不気味な笑いを浮かべる。身の危険を感じた秋月はレイのところへ向かい耳打ちする。訝しげな一同。)
「分かりました。」(おもむろに一同を見回す)
「私は良いから、ここで作者に何かあるとこの作品が夏の劇場版に間に合わなくなるわ。今は許して上げましょう。」
「綾波がそういうなら良いけど・・・本当に良いの?」(心配そうなシンジ)
「うん、良いの。碇君が私のことを心配してくれて嬉しい。それに・・・」(小声で何かをシンジに知らせる)
「ほ、本当に。」
「うん。」(二人で赤くなって見つめ合い、微笑みをうかべる)
「ちょっと、何してんのよ。」(割り込むアスカ)
「レイに何を言ったんだい。」 (秋月を詰問するカヲル、簡単には誤魔化し切れそうにない迫力に秋月は思わずどもる)
「た、たいしたことじゃないですよ。」 (冷や汗)
「本当だろうね?」(顔は笑っているが、目が笑っていない)
「は、はは・・・ただ最後にはチルドレンは全員幸せにするといっただけですよ。」
「それも、本当なんだね。」
「もちろん!!元々ここは君達を呼ぶ予定はなかったんだ。」
「どういうことです。」
「ここではこの小説によって儚くなられた方に出演してもらうはずだったんですよ。第弐話で一人決まっていたのに、少し狂ってしまったために出演申請が出来なかった、という訳なんですよ。」
「誰なんですか(の)(のよ)(だい)。」
「第参話では確実に来てもらうことになるからそれまで待って下さい。(笑)」
「ところで、これってこの調子では本編より長くなるんじゃ・・・」(一瞬の沈黙が辺りをおおう)
「ど、どうしよう。」
「じゃ、じゃあ、あたしはここで・・・」
「僕もこれで。」
「ああ、待って下さいよ・・・アスカ君、カヲル君・・・」
「・・・・」
「じゃあ、終わりますか。(苦笑)」
「そうですね。」
「では、さようなら。シンジ君、レイ君」
「さようなら。」(手を振り返っていく二人、微妙に機嫌がいいのはさっき言ったことが効いているのだろうか?)
「では、読みに来て下さった方本当にありがとうございます。この作品は5話か6話で終わる予定ですのでどうかもうしばらくのお付き合いを頂ければ幸いです。最後に管理人の方々に『乱文ではございますが、作者出来る限りがんばって書いております。どうか御見捨てにならないで下さい。カヲル君には展開が見えると言われてしましましたが、その通りだったでしょうか?シンジ君とレイ君にもコメントに出ていただければ嬉しいです。』」
管理人(その他)のコメント
カヲル「もうしわけないです。秋月さん。この展開は以外だったよ。僕が出てくるとはね」
アスカ「でも、でも、どうしてアタシがあんたなんかにぃ!!」
カヲル「どうしてだろうねぇ。僕にもよく分からないよ。ふうっ」
レイ 「わたし・・・・どうしていつも裸なのかしら」
カヲル「それは全国津々浦々の綾波ファンの方にサービスサービスぅっていうことなんだろうね。ミサトさん風に言うと」
レイ 「裸がサービス・・・・じゃあ、あなたも裸になればいいのね。弐号機パイロットも」
アスカ「な、なんでこのアタシが裸なんかに!!」
カヲル「ざんねんながら、僕の裸は唯一、シンジ君だけのもの>ぐはああっ!!」
どがっしゃあああ!!
アスカ「それをいうかそれを!!」
カヲル「ううっ・・・・」
アスカ「まあ、いいわ。この先・・・・期待して待っているわよ!!」
カヲル「つまり、期待を裏切ったら、ということか・・・汗」
アスカ「(よけいなこというんじゃないわよ!)・・・・ぎろり」
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